シアフィスの森⑥
突然薄暗い森の木々の中から毛布をかぶった何かが飛び出してきたのだ。
荷馬車を操っていた一人が悲鳴に近い声を上げて握って手綱で思いっきり馬を走らせそうとした瞬間隣に座っていた小柄な青年が静止させ、自分が手綱を握った。
「待って!」
「なっなにすんだよサミュ、でっでたじゃないか、はっ早く逃げなきゃ俺らとり殺されちまうぞ」
ガタガタ震え出したサムとタールに対してサミュがじっと森の木の向こうから走ってくる主に視線を集中させた。その間もマル―シャは声をだし続けている。
「待って、この声は」
そう言ってサミュは声のする木々の向こうをじっと目を凝らして見ていると、
そこに現れたのはなんとラールシア国王女マル―シャだった。
「えっ? ええっ! どっどうしてこんな場所にマル―シャス様が、うわ~やっぱり化け物がいるんじゃねえのか、、だいたいこんな所に王女様がいるわけねえよ! それにでた~ラッランシェルド指揮官までいるじゃねえか、絶対俺達なにかに化かされてんだよ、おっおいはっ早く馬を走らせようぜ」
震えながら、手綱を握っているサミュに向かっていうサムだったが、サミュはランドをみた途端固まってしまったようだ。
サムが手綱を奪って馬を走らせようとした時、マル―シャが焦って叫んだ。
「ああ~待って待って、本物よ。私よ、10日前にモビレの砦で話したでしょ。あなたたちはドンバの港に荷物の補給に行くって言っていたじゃない」
マル―シャが慌てて荷馬車に近づいたマル―シャの言葉におびえながらもサムが答えた。
「たっ確かに話しました。あ…じゃっ…じゃあ本当にほっ本物なんですか?」
「本物よ、よかったわあ、もう雪がドンドン空から落ちてきて寒いしお腹すいたし、また野宿かあって思ったわよ。まあ、あなたたちに出会っても野宿だろうけど、何か食べ物積んでいるでしょ。もう今日は何も食べていないのよ」
そう言って笑顔で近づいてくるマル―シャに恐怖は消えたが今度はマル―シャの後ろに立っているランドに視線が向き今度は緊張で三人は固まってしまっていた。
「おい!、お前たちは確か配送の任務に就いていた訓練兵だな。どこから来たんだ」
ランドの問いかけに、三人はあわてて荷馬車から転がり落ちるようにおりるとランドの前で横一列に整列し、サミュが答えた。
「はい、僕達はドンバの港で食材や必要な生活用品を買い足した後、ルーザの港に積み荷の半分を降ろして、今度は主に食材なんですけど荷台に詰め込んでロゴンドの砦に向かったんですが、なぜか昼前についたら砦全体がバタバタしてまして理由を聞こうとしたら、モビレの砦にすぐにそのまま運べって言われてしまいまして、すぐに出発したんですが、途中に荷台の車輪が壊れてしまって修理に手間取ってしまい、到着が遅れてまだここにいる状況です」
そう答えたサミュに対してランドは頷くと、荷台にのぼり積み荷の一つの木箱の蓋を開いて中を確認している様子だった。
「おい、テントはあるのか?」
「はい、バルジ国から最新式で二人用簡易テントの試作品の二点が積んであります。何でも防水だそうです」
サムがそういうと、慌てて荷馬車に飛び乗ると、一番奥にあった木箱の中を開けてテント二つを取り出し、ランドに見せた。
ランドはそれを広げると、今も振り続けている雪を弾いているのを確認し頷いた。
それから食料と鍋や水などが入った水の瓶樽を抱えて馬車からおりてきた。
「おまえら、手伝え」
そういうと、テント用の布を広げテントとしてではなく雪除けように周辺の木の枝に結び付けた。
そして雪除けを作ると、森の中に入っていきまだ雪で湿っていない枝などを集めてきて、その下で火をつけたき火を始めた。
その上に鍋をのせ温かい湯をカップに入れマル―シャに渡した。
「みんなが通りかかってくれて助かったわ。凍死するんじゃないかって不安だったのよ。昨晩はあんなに暖かかかったのに、本当に変な場所よね。そんなに距離が離れているわけでもないのにこんなにも急激に気温が変化するなんて」
温かいお湯と干し肉とパンを食べながら目の前のたき火の前に座って同じく温かい白湯を飲んでいる三人に向かって言った。
「そうだわ、いつもグレナはリュックの底に紅茶の茶葉を入れてたはず、ねえ、食材の中に砂糖あるかしら」
「はっはい確か仕入れていたはずです」
サミュが立ち上がると、積み荷の方に走って行った。そして砂糖の袋を持って戻ってきた。
マル―シャは残っている鍋の湯の中に紅茶の茶葉をいれ、カップに砂糖を少し入れ、紅茶を全員に注いだ。
「あ~疲れがとれるわね。疲れている時は甘い飲み物は最高ね」
マル―シャは紅茶のおかわりをすると、満足そうに微笑んだ。
その間にも森の中までは風は吹き込んではこないが時折バサッと雪の塊が頭上のテントに落ちる音が聞こえた。
五人は食事が終わると三人の兵士とマル―シャは楽しそうに笑い合いながら雑談をしばし楽しんだ。
その間にも雪は降り続け、時折頭上に貯まった雪の塊が枝に雪除けにしていたテントの布の上に落ちてくる音が頭上や木々の周囲でふぶいている吹雪の音が響いていた。
その後テントを道のわきの少し平たんになっている場所に設置し直すと、少し狭いがランドとマル―シャ、後の三人という組み合わせでテントの中で仮眠をとることにした。
よく朝早朝、マル―シャが目を覚ますと、ランドはもう既に起きて姿が見えなかった。
テント地面がフカフカの土の上に設置したこともあり、下に敷いた布は雪でかなり湿っていたはずなのに全く冷たくならず、毛布も余分にあった事もあってしっかりと睡眠をとることができた。
マル―シャがテントから這い出して来ると、テントの前で下を向いて横一列に整列して頭をさげている三人がいた。ランドは馬たちの状態を確認している様子だった。
「あらみんな早いわね、よく眠れた?」
「マル―シャス様、ランシェルド指揮官から聞きました。僕達知らなかったですから…その…王妃様のこと…僕たち兵士がもっと強かったら、フィスノダ国の奴らを早くやっつけることができていたら王妃様が亡くなることもなかったかもしれないのに、昨夜はへらへらして笑ったりしてすみませんでした」
三人のうちの一人のタールが言った後三人同時に頭を大きく下げた。
それを聞いたマル―シャが首を振りながら三人に言った。
「昨夜は楽しかったわ。お母様は涙で死を惜しまれるより、笑って懐かしんでくれる方がうれしいと思うわ。私一人じゃ笑えなかったもの。みんなありがとう」
「そんな俺達…」
「本当よ、あなたたちも毎日移動ばかりで大変でしょ。兵士のみんなはよく頑張っているわよ。あなたたちだってそうよ、戦場の第一線で戦っていなくてもこうして何日も行ったり来たり荷物を運ぶ作業だって命がけじゃない。野党だって相手にしないといけないし、自然だって牙を向いてくる。みんな戦っているのよ。それにね心のどこかで覚悟はしていたわ。戦争中なんだもの。いつ誰の命が奪われるか分からない。私も多くの命をうばっているんだもの。きっと天の神様のばちが当たったのかもしれないわ。女だてらに兵士になるなんてね。誰かを責める資格も憎む資格も私にはすでにないしね」
「いいえ、マル―シャス様は決して悪くありません。悪いのはフツ王です。理不尽に戦争をしかけてラールシアだけじゃなくてフィスノダ国の人達も不幸にしているんですから」
そう言ったのはサミュだった。
「そうね、誰かが終わらせなきゃいけないのよ。お互い頑張りましょうね。この大地で生きる全ての命の為に」
「「「はい!」」」
三人はそう返事するともう一度頭をさげ、出発の準備に取り掛かった。
やがて五人がモビレの砦に到着したのはその日にお昼過ぎだった。
シアフィスの森を抜けると、一面白銀の世界が広がっていたが空は雲一つない快晴の空が広がっていた。
アルーシャが到着した頃にはすでにスーリア王妃の死は仲間達に報告が届いていたようで皆一様に暗い様子でアルーシャとランドを出迎えた。




