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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
96/276

act.94_マーチャンターズvsオオグチ

オオグチの剛毛をたたき切ったところを狙い、俺はもういちど懐に飛び込む。オオグチは前脚を振り上げて、はね飛ばそうとする。高速で振るわれる鉄骨と同じで、すさまじい風切り音を発しながら、そいつが襲いかかってくる。


俺はその攻撃をオッスの長剣に見立てる。これだけ速度を出していたなら、そうは軌道を変えられない。

ぎりぎりまで見極めてから身体の位置を変えて軌道から逃れる。すぐ背後を、微妙なカーブを描きながら脚が通り過ぎる。


避けた、と思った瞬間に、借り物の服の裾が脚から伸びた毛にひっかかり、危うく吹き飛ばされそうになる。ちょっとカジュアルな服でパッチワークみたいにしてつくられていた服だったから、毛の引っかかった布地だけが引き裂かれて難を逃れる。

体勢を崩されたが1回転して勢いを殺し、眼前になった傷口へショートソードを突き入れる。


ショートソードの刃先はコンクリートにでもさしこんでいるみたいに、沈んでいかない。

身体をつっぱりにして、思い切り差し込むが、15センチほど切り裂いたところで、悪寒を感じて背後へ逃れる。さっきまで俺ががんばっていたところに工事車両のレッカーみたいな足先が振り下ろされて、衝撃で土煙が上がった。

あぶねえ……、避けなかったらぺちゃんこだった。だが、剣を抜くことができなかった。


オオグチの口元あたりに差し込まれた剣の柄を睨みつつ、俺は武器をシャーリーに持ち替える。


後方へ退くとすぐにララが交替して接近していく。2本の脚で振り払おうとするのを巧みにかわしつつ、隙があれば振るわれた脚にハチェットの刃を叩きつける。

さすが熟練した傭兵だけあって、無理に飛び込んだりせずに相手の脅威を削っていくことを狙っている。足先にきれいに決まることがあって、黒い鶴嘴のような爪が3本はね飛ぶ。

痛みがあるのかどうかわからないが、その攻撃を受けてオオグチが恐竜のように雄叫びを上げる。


「ギュゥオオオオオオン!」


効いてる、のか? ララが後退し俺はふたたびやつの懐を狙う。さきほど突き刺したショートソードは、そのまま口元に残っている。脚の軌道を見定めながら、距離を詰めていく。

雄叫びを上げたあとのオオグチは、伸び上がった巨体を地面に激しく衝突させ瓦礫を吹き飛ばす。

俺は慌てて地面に伏せて、破砕された木片をやり過ごす。が、オオグチは衝撃が収まる前に前肢を激しく振り回し、あたりの木々、成木ぐらいの大きさをした幹をもなぎ倒す。とんでもないパワーで、なぎ倒された木は根元から土煙を噴き上げて横倒しになる。


手がつけられないな……、俺は伏せた姿勢のまま、暴れるオオグチを観察する。怒ってる?


土埃の中に胴体のあたりが垣間見える。俺たちを狙っているというよりも当たり散らしている感じで、周りの自然をぐちゃぐちゃに荒らしている。あそこに飛び込むよりもヨアンナの術の完成を待つか? しっかし、こうしてみるとまるで重機が暴走してるみたいなむちゃくちゃさだ。オッスのやつはこれを倒したのか……。ほとんど単独だったよな。いまさらながらすごすぎる……。


隙を見て後ろを振り返ってみる。

ヨアンナは目をつぶってウィタ回路を激しく熾している。両手を広げて周囲に問いかけるように口を動かしているが、なにをしゃべっているのかはわからない。

周囲にただようウィタのオーラは驚異的だ。王都でウィタ騎士たちが纏っていたものの倍はあるだろう。そのプラズマめいた揺らめきから、とてつもないエネルギーを感じる。なぜそう思うんだろう? ……あれは歪みだ、いまにも内側から破裂しそうな、空間をねじ曲げる歪み。

これまでそこまではっきりと感じられなかったが、この世界の魔術とは、歪みをエネルギーにして発動すると考えていいだろう……。


ヨアンナがゆっくりと顔を下ろす。額から汗が流れている。


スパークするウィタのオーラを背負った姿は、まるで雷の神、いや、女神だ。あれで、百傑百柱にも載らない、無名の尼僧なのか?

ヨアンナの目を見る。微かに頷いた気がする。


俺は向き直って、ララに声をかける。


「ララ! オオグチから離れて!」


視界の端でララの黒い影が土煙の中から飛び出てくるのがわかる。


「いいのね?!」


「うん、巻き込まれないように気をつけて!」


ララはオオグチから目を離さないまま、徐々に後方へ退いていく。俺ももう少し距離をとろうと、後ずさる。激怒して子細かまわず暴れ回っているオオグチは、俺たちの動きに気がついていない。


「準備はいいよ、ヨアンナ!」


俺が大声で声をかけると、背後から鳥肌の立つ気配が漂ってくる。ちゃんと正面を見張っているから見ることはないが、腹の筋肉に思わず力が入ってしまうような、不安になる力だ。間違いなく、ヨアンナがウィタのエネルギーを収斂させている。


くる、っと思った瞬間に、空気が突風になってヨアンナのほうへ吹き込んでいく。ビシバシと顔に木片が当たり、とっさに片手で目をガードする。


次の瞬間、本当に一瞬のことだ、辺りが暗くなったと同時に、まばゆい光線がオオグチへと駆け抜けていく!


ビジュ!


ドッブゥゥオオオンンン!


爆風が俺の頬をかすめていく。礫が全身に降り注ぎ、炎と蒸気が外へ外へと拡散していく。あまりの高温に一瞬で焼かれた対象は一部を気化されて爆散する。衝撃波によろめきながら、俺は身を低くしてそれに耐える。グウゥゥ、という、ララが同じく耐えている声がする。


……


……


至る所に炎の赤い舌を燃やしながら、煙と蒸気とが晴れていく。そのなかに大きな生き物がうごめいている気配はない。オオグチの黒い剛毛が見え、青黒い体液が飛び散っているのがわかってくる。


煙が晴れるとそこにはどうに大穴を空けたオオグチが、ひっくり返って半ば土に埋もれていた。天にあがった脚の1本がぴくぴくと動いてはいるが、どう見ても活動を停止させている。死んでいる、といってもいいだろう。


やがて悪臭があたりに漂い、爆発の影響が霧散していく。ララが鼻を押さえながら、ちょっと涙目になって俺に近づいてくる。


「生きてるかな?」


「さあ……、気配は感じないわね。でも、あたりが燃えているから、ちょっとわかりにくい……」


俺とララは並び立ってしばらく気配を探ったが、土埃が消え去って見えてきたのは、どうの真ん中に大穴を空けてひっくり返っているオオグチの姿だった。

あいかわらずとんでもない威力の魔術だ。そりゃあ1対1では使えないかもしれないが、それにしたって……。


ヨアンナは体内の魔素を使い果たしたからなのか、しばらく青白い顔で荒い息をついていたが、次第に回復して平静になった。俺とララがオオグチに近づいて、完全に死んでいるのを確かめる。それから、残りの2匹がどうなったか確かめるため、ララを残してキャラバンのほうへ戻る。ララにはヨアンナについていてもらう。

「大丈夫?」と後ろから声が聞こえてきたのを、振り返らずに手を振って答える。


……


……


キャラバンのほうにはウィタ騎士やオッスとカトーの最強コンビがいるはずだし、傭兵たちは皆手練れだ。むしろ俺たちの方が苦戦したはずだろう。そう思って、のしのしと用心もなく踏み込んでいく。

が、すぐに様子が変だと気づいて、慎重な足取りになる。騒ぎが大きすぎるし、至る所で悲鳴ともつかないするどい会話が交わされている。いや、悲鳴じゃないな、これは……、感嘆か?


足をくじくかしたらしいオッシアンを見つけて、俺は駆け寄って話を訊く。


「状況は? まだ戦ってるようだけど?!」


「……やあ、カナエか。無事のようだが、そっちの1匹はかたづけたのかい?」


俺は経緯を説明して、ララとヨアンナは息を整えていることを伝える。


「ヨアンナ師はさすがだな……。まったく、ライフストリーム教会の関係者ときたら、1つの国の軍隊みたいに強い。教会がそういう素質のある人間を集めて、平和のために力を使っているのを考えると、僕のような人間ですら、手伝った方がいいような気がしてくる。不思議だね……」


「そういう言い方をすると言うことは、こっちへ行った2匹は、ウィタ騎士が相手しているんですか?」


俺はぴんときてオッシアンに訊く。


「ああ。こっちに来た2匹のうち、1匹はオースンとカトー隊長が。もう1匹は、初めは僕たち傭兵が相手をしていたが、ほら、僕みたいに前のオオカミとの戦いで負傷したものもいるしね、手間取っているうちに彼らが助太刀を申し出たんだよ。それで体勢を立て直したんだが、実際にはウィタ騎士2人の独壇場さ……」


あいつらが対応したか。ということは、またしても2人の本気の戦いぶりを見逃した?


「じゃあ、全部やっつけて、いまは後片付けかなんか?」


「いや、さすがにまだだ。あの少し窪地になったところに追い詰めて、とどめを刺すところじゃないかな……?」


いいながらオッシアンが右手を指さす。

灌木に隠れた先から振動と叫び声が漏れている。他の場所からも怒号のような声が聞こえているから、戦闘がどこで行われているか判断がつきにくかったが、なるほど、窪地でやってるのか。


俺はオッシアンに特に問題ないことを確かめてから、引き寄せられるように窪地に近づいた。

灌木あたりまで来ると、その先で戦いが起きていることが瞭然だ。オオグチが暴れているのか、先ほどの戦いと同じように土煙や砂埃、砂塵に木片が舞っている。小指の先ほどの礫が鋭く跳ねて、頬を薄く切る。


枝をかき分けてひらけた場所へ出る。

始めに目に飛び込んできたのは、カトーが傭兵たちに指示を出して、窪地の中心を指さす姿だ。指示を受けて弓矢を射るのは狩人経験のあるヤルミルとたまたま弓を手に取ったらしいラウノだ。ヤルミルの放った矢は蠢いている黒い動物へ向かって吸い込まれていき、見えなくなる。ラウノが放ったもう1本は……、オオグチの細く剛い腕に払われて散る。

あの剛毛に対して矢がどのくらい効いたかわからないが、蠢く身体の中心が反応して射手のほうへ向き直る。

ヤルミルとラウノが、慌てて窪地の縁から飛び退って、後方へ逃れる。


ドズンッ


さっきまで2人のいたあたりに重い衝撃が走って、台地に新たな傷が生まれる。砂礫が舞い土の臭いがあたりに立ちこめる。



          to be continued !! ★★ →

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