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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
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act.93_オオグチ再び

ジョブツ川渡河以来、キャラバンは悪運が続いている。


渡河をして2日目、ヨーステンを越えて以来の戦闘が起きた。相手は熊みたいな体格をした巨大なオオカミだ。昼間から獣に追跡されていることをオッスが感知していて、一同は警戒してキャンプを張った。その夜にオオカミによる急襲があった。

追跡を止めさせるために悪臭を放つハーブを詰めた袋を投げたりしてきたが、結果的に効果はなかった。連中はそうとう腹を空かせているらしく、かなりしつこく追ってきたことになる。


始めに襲われたのは、見張りについていた竜族のリュリュだった。

藪の中から跳ね出てきた1匹に腕を噛まれ、かなり深い傷を負う。竜族は声帯が発達してないから大きな声は出せず、群でてきた他のオオカミとの戦闘で、宿営地の近くまで寄られて、ようやく他の皆が気づくことになった。こういうときのために呼び笛を携帯していたのだが、初めの攻撃で破損したのだという。


皆はオオカミの吠え声で襲撃をしり、それぞれの寝床近くで戦うことになる。


噛まれたリュリュは丈夫な鱗があったとはいえ、かなり無残に肉を裂かれた。それから、各所の戦闘の中で、オッシアンとラウノがそれぞれ傷を負い、飼育夫のトゥオン、雑役のヤルミルも程度の差こそあれ怪我をした。

1番重傷となったのはヤルミルで、かわいそうなことに顔面を噛まれて片目を失明してしまった。刃物などですっぱり切れた傷ならばソーナの回復魔術で治せるのだが、欠損部分については難しく、血を止めるのにも時間がかかってしまったのだという。


本人は気丈に振る舞ってはいるが、片目を失ったのはやはり辛いだろうな……。


オオカミに襲われどうにか撃退したつぎの日あたりからは、おなじく雑役のビルギッタが不調を訴え始める。

いまではすっかりハスドルバルの内縁の妻みたいになっている彼女だが、微熱が続き、腹のあたりに鈍い痛みがあるとかで、荷車からなかなか出てこられない。ビルギッタは調理を任されていたから、これはしばらく交替で担うことになり、毎日なんだかなぞの創作料理を食わされている。分量とか大丈夫なんだろうかと、傭兵も雑役もしきりに噂をする。


ハスドルバルと仲のいい俺は、彼の妻ともいえるビルギッタを見舞って、荷車まで行った。

俺に医術の知識は乏しいが、素人目でもかなり深刻な症状だ。荷台のベットに横たわるビルギッタは蒼白で息づかいが荒い。もともと痩せた体格だったから、この体調不良は彼女の体力をかなり削っているだろう。

そしてなにより、痛みを訴えている腹部だ。腫れあがり、ボコリとこぶし大の瘤ができている。これは、なんていうか、癌、なんじゃないか? 俺はそれを見た衝撃ですこし固まってしまう。


いまは寝ている、というハスドルバルの疲れた声に励ましのことなを投げてから辞去したが、かなり気が重い。思い違いならいいが、いや、思い違いであって欲しいが、俺にはどうしようもない。回復魔術もその原理を考えれば、むしろ悪化するきがする……。

何か新鮮な果物でも探してみようと考えながらその場を離れた。


そして幾日が過ぎ、あれは2日前のこと。

荒れた疎林帯を進んでいるときに、キャラバンは魔獣の襲撃を受けた。3頭のでかいオオグチだ。


まえにムンド村あたりで戦ったやつの、1,5倍はあるだろう。生殖をしないというから、雌雄の別はないだろうが、前のやつが若い個体であったら、こんどのやつは間違いなく成獣だ。それもこの辺り一帯の名主ぐらいの、だ。


……


……


そいつに襲われたとき、初めに気がついたのは俺と鳥トカゲたちだ。


俺はビルギッタにあげるための果実でもないかと、疎林の梢あたりに視線を投げていた。すると、俺たちの進路に沿って左手に続いている、なだらかな丘のあたりに何かが横切った。

遠くを鳥か何かが飛んでいるのかと、初めはたいして注意を引かれなかった。なにしろ地響きや物音のない土地で、風も吹いていない。五感に感じられないまま巨大な魔獣近づいているなどと、考えられるはずもない。


だが、オオグチはすさまじい悪臭を放つ動物だ。カトーを乗せて道案内をしていた鳥トカゲが、その敏感な嗅覚で臭いを感じ取った。棒立ちになり、御者の意思を無視して丘のほうへ視線を向ける。そして、殿にいた、荷車を引く他の鳥トカゲも、同じく立ち止まり臭いをかぎ始める。


俺はそれら動物の反応を見て、即座に、もう一度梢のあたりを注視する。感覚を張り巡らし、動くものの気配を探る。さっきは視力でもって気づきがあったが、視力では心許ない。すべての神経を集中して、何が起きているのかと探った。


ぞわっと、鳥肌が立つ。産毛になにやら風ともつかない空気の動きを感じて、意識が冴えていく。

と、ふたたび、視界の先で黒い何かの背が走る。


いる……。2頭、……3頭。あれは、オオグチだ。


泥や木片、動物の死骸などを巻き込んだ、濃い紫の体毛、鉄筋のように細く強い足、そいつには見覚えがあった。

前に遭遇したとき、隊商には万全な状態の傭兵が何人もいた。今回も実力でいえば前と変わらないが……、3頭ではどうか?

俺はあのオオグチという魔獣にはなにか畏怖を感じてしまい、必要以上に恐怖を感じている気がする。異世界に来て初めて遭遇した、想像を超える生命体だからか?


ともかく、倒さなければこの先はないわけだ。


「左、丘の上にオオグチが3頭いるっ! 近いぞっ!」


俺は鋭くでかい声を上げて、皆に警告する。鳥トカゲが停止して、あたりの気配を探っていた傭兵たちは、俺の視線のさきを観察して、すぐに武器を取る。

よし、みな落ち着いている。武器を取り落とすようなやつはいない。いまやオオグチは3頭ともその巨体を衆目に晒して、ピキピキと枝葉をへし折りながら猛然と近づいてくる。


ああ、やはりこの生物は苦手だ。この迷いのなさ、身を隠そうともしない単純さ、見ていて気持ちが悪い。脳があるのかどうかわからないが、チキュウの生き物とは根本的に違う。

オオグチはただ他の生物を食い尽くすために存在している。喰って糞にするために昼夜を問わず走り回っている。抵抗されるとか、どう近づけば有利だとかを考えない。獲物を見つけたなら、近づいて喰う、それだけだ。まさに呪われた生き物、魔獣だ。


ウーとの模擬戦ではあれほど頼りに思えた小剣が、オオグチを見ていると何とも心許ない。俺はいつのまにか武器をシャーリーに持ち替えている。すくなくともシャーリーなら、オオグチを倒せないまでも対抗はできる。なんども握り絞めて滑らかになった柄の感触を確かめながら、俺は横に並び立つ面々を把握する。


右隣には離れたところから駆けつけてきたララがいる。奥にも誰かいるが、わからない。

左にはヨアンナが鎧竜から降りてくる。

よし、2人ともどういう戦いをするのか知っている。これは、条件的に完璧に近い。俺は心強さをもらって少し落ち着いた。


「3頭もいるわね」


ララが確認するように俺たちにいう。


「闇雲に攻撃すると、あぶなさそうだね」


「なにかいい作戦があるかのう?」


ヨアンナはどこか楽しそうだ。

俺がそれを指摘すると、自分でも意外そうに思ったらしく、呆けたような表情を浮かべる。自分のなかのほそい記憶、脈絡をさぐって虚ろに俺を見たあとに、少し笑ってから前を見る。


「アリン……、ウィタ騎士の練習生であったとき、魔獣の類いを討伐することは、ワレの重要な修行であったのじゃ。多くの血が流れたが、心が湧いた記憶もある。それがどこかで甦ったようでおじゃるな」


武者震いみたいなものか。さすが師匠、頼りになりそうだ。


「……ともかく、3頭いっぺんに引き寄せてしまったら、どうしようもなさそうだ。1頭ずつ、誘い込んで、分断するのがいいと思います」


「で、あるな。奴らはウィタの輝きに引き寄せられる。ワレら3人で前方左へ移動しつつ、ナレはウィタを廻らせるがよい」


「ウィタに反応……、そうなのですか?」


「いくらか因縁もあるでの、多少のことは知っておる。ワレがウィタを廻らせると、3頭とも来てしまう可能性が高い。ここは任せるでおじゃるぞ?」


俺は頷いて左前方へ進み出す。そうしながら周囲の魔素へ呼びかけるようにして、身体のウィタ回路を強く熾していく。

もう完全にヨアンナを信用しているから、黙って実行だ。ワンと言えといわれれば鳴くし、500円出せと言われれば出す。それが愛というものだ。わかったか。


で、ウィタを廻らせると、もう、ほとんど自動的にいった通りになるじゃん、ってかんじでオオグチのうちの1頭が俺たちのほうへ向き直り、近づいてくる。ワシャワシャと忙しそうに6本の脚を操り、木々を押し倒しながら、みるみる近づいてくる。

くそ……、相変わらずのど迫力だ。


「退くでないぞ。ワレらの後ろには荷駄隊がおる」


「わかってます」


そうだ、そこにはソーナがいる。ハスドルバルのおっさんと、病人のビルギッタもいる。あと、死んでもいいナスィールもいる。


「それとのう……」


「え、なにか?」


ヨアンナがちょっと言葉を濁すので、俺はぎりぎりのタイミングで、彼女のほうをみる。黒縁の目と尖った耳、少し伸びたブロンドの髪がゆれている。


「このようなところで無理をするなよ? まだ交易の目的地にすら着いておらんし、ナレはなんら自らの意思で行動しておらぬ。まだまだこれからであるからして」


ふふっふ。ヨアンナ先生からご心配の言葉をいただいた。俺の身を気遣ってくれるとは、初めてじゃない? いままでかなり乱暴な扱いだったからな、うれしいぜっ。


「もちろんです。……好意と受け取ってよいのでしょうか?」


「好意じゃと? ふふふ……ナレは本当に得体が知れぬでおじゃる」


ヨアンナはウィンクをして何かの棒を構える。ぬ、あの武器のようなものは初めて見るな。金属? の、棒の先端にダイア型の錘がついている。宝石とかじゃなくて、棒とおなじ金属の塊だ。あれで……、なぐるのかな。あ、両端に錘がついている。殴るんだろうなぁ……、怖いなぁ。


俺は緊張のあまり現実逃避に近い感想を抱くが、オオグチはすでに至近距離まで来ている。

舐めたことを言っていても、ここで死ぬ可能性もある。油断は禁物だ。


俺とララを前衛にして、オオグチを囲むように展開する。ララはいざというときに俺を助けられるように、ぎりぎりの距離から離れない。ヨアンナと同じく心配してくれているんだろうけど、オオグチのリーチを考えると、ちょっと邪魔かもしれない。


オオグチがもう完全に俺のことをロックオンしているから、俺はウィタ回路を霧散させて、魔素を解放する。すぐに後ろのヨアンナが魔素を集めるのがわかる。

これで、どこかの時点でオオグチのターゲットはヨアンナに移るはずだ。できればその前に倒したい。


オオグチが遠慮なく前進してくる。

目のまえの若木が倒されて、鋼の脚に踏み折られる。バキバキとしめった音を響かせて、木の幹が折れ曲がる。冗談みたいなかぎ爪のついた足先が地面に深く沈み込む。


黒い2本の前脚を振り上げて、とんでもない悪臭をはき出す。

口の中は腐った動物やらの残渣が切れ切れになっている。赤黒い舌がコンベアのようにうねっている。


あまりの悪臭に息を止めたくなるが、呼吸をしないまま戦える相手ではない。肺を守るように小さく息を吸い、ショートソードを構える。自分の役割は、ヨアンナが必殺の魔術を発動するまでの時間稼ぎと挑発だ。


先に手を出したのはララだった。


「ウゥヲン!」


気合いの声を上げながら両手に持ったハチェットを掲げて走る。オオグチは立ち上げた前脚の1本を横に凪ぎながら前進を止めない。

とんでもない質量が俺たちの真ん中へ躍り込むように駆けてくる!


オオグチの前脚が空間を切り取るように水平に走る。ララは跳躍してそれを躱し、やや勢いを削がれつつも、体重の乗った1撃を足の付け根に打ち込む。


ガチッ!


強く硬いものが激しくぶつかる音がする。オオグチの外殻が深々と凹み、ララは反動で両手を打ち上げられながら眼前に着地する。オオグチが一息に飲み込もうとどでかい口を開いて猛然と口を開く。


「!!」


ララが喰われてしまう悪寒で全身の毛が逆立つ。有効な何かを繰り出せるもくろみもなく、武器を構えて駆けだしてしまう。地面に腐葉土が溜まっていて、多少とも脚が沈み込むのがもどかしい。


オオグチの顔面がララの着地点を食い破ったのと、ララがそいつの鼻先を武器の背で打ちながら背後へ飛んだのは、ほとんど同時に起きたように見えた。足先でも喰われたタイミングに見えて、俺は逆上しながらオオグチの剛毛に小剣をたたき込む。


ガギギッ!


繊維の束を断ち切ったような、重い衝撃が上半身全体に走る。武器を取り落としてしまいそうな抵抗に、俺は慌てて飛び退る。ララが離脱した方へ身体を寄せて、無事を確かめる。


「怪我はない?!」


「大丈夫、何とか躱したわ」


ララは右脚の先へ俺の視線を促す。そこにはつま先の革を削り取られたブーツがある。よく脱げなかったな……、じゃなくてよくあのタイミングで逃げられたな。さすがコリー犬、半端ない反応だ。


よかった、と声をかけつつ、俺は再びヨアンナを背にしてララと間隔を空ける。


さっき俺が攻撃した箇所は金ブラシみたいな黒い毛が何本か散った。それほど長い毛ではないから、その箇所からは赤黒い肌が見えている。あそこに剣を刺したら、傷みぐらいはあるだろうか?


試してみようと思いながら、オオグチとの距離を詰める。やつは泥をはね飛ばしながら起き上がり、口角からぼろぼろと土を落としている。鼻が曲がるとはこのことだな……。



          to be continued !! ★★ →

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