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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
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act.92_ジョブツ川対岸にて

目が覚めたとき……、なんてことはなく、俺は別に気を失わなかった。俺様って特別頑丈にできているからな。小学生のとき、炎天下で校長先生の話が1時間くらい続いたときも俺だけは身じろぎ1つしなかった。周りの女子とひょろい男子が保健室へ運ばれていくのをうらやましく思ったものだ。


それはともかく、すやすやと穏やかな息をするディナクの隣で、しばらく休んでいた。酸欠で気分が悪い。


やがて離れたところから俺たちを呼ぶ声が聞こえた。奴隷と雑役のことでも、ちゃんと心配して探しに来てくれたらしい。ちょっとうれしい。だれの声だろうか、比較的近くで男の低い声。少し離れて女の高い声だ。


「おお~い! いるかぁ?!」


男の声が近づいてくる。なかなか返事をする気力が湧かなかったが、通り過ぎられても困る。


「ここだぁ! 2人ともいる。無事だよ!」


「カナエか?! 無事なんだな? ひゃあ……よくもまぁ……。おおい! ここにいたぞ! 2人とも無事みたいだ!」


男の声が後ろ向きに発せられて、同じく捜索しているらしい皆に無事を伝える。

やがて土手の裏、盛んに繁った藪のなかから、傭兵のラウノが姿を現す。モヒカンみたいなツーブロックの髪型で、長槍の使い手だ。身長はこの世界では低い方で、165くらいだろう。まぁ、いまはなんでもいい、俺はようやくやってきた救いの手に、安心していよいよ眠くなってしまう。


ふぅふぅいいながらラウノが藪をかき分けて近づいてくる。

俺たちが倒れ込んでいる側まで来て、「ええぇ……おまえら、2人とも全裸じゃねぇか……。なにやってたんだよ……」


とかなんとか冗談とも本当に驚いているともつかない声を漏らす。

そうだよ、全裸だよ。しょうがないだろ。なけなしの一張羅を川に流されたんだからな……。


「よく無事だったじゃん。俺たちは君らの死体でも見つかればまだましだと思ってたんだけどさ……」


「あいにく悪運が強くてね……。キャラバンはどうしているんですか?」


「ここから1キロほど上流で休憩しているぜぇ? 濡れた荷物もあるし、かなり体力を消耗したから、今日はあそこで寝るんじゃないかな?」


「河原で……?」


「いや、自然にできた高い土手があってさぁ、その上か後背に設営する感じになるだろうなぁ」


まぁそうだよな。河原でキャンプなんて旅慣れたものがすることじゃない。増水とかなくても、川霧でなにもかもびしょびしょだ。


「歩けるかよ、カナエくーん?」


「僕はなんとか歩けます。でも、ディナクはまだ意識を取り戻してない。できれば運んでやってください」


「ひゃあ、こいつも生きてるの。ディナクが始めにロープを離したんだよなあ? なぜそんなことをしたんだか……。ああ、うしろからキミたちのことを見てたんだよ、ちょうど僕の順番だったからね。この子が流されたときは、もうダメだと思って僕は助けにいけなかった。それを君は……。本当に尊敬するよぉ、まったく」


「見てたんですか」


それは話が早い。ディナクには後日、こっぴどく叱ってもらわないとな……。


ディナクを背負って、ラウノは俺をキャラバンまで案内する。途中でレオナが合流してきて、俺たちと一緒に歩き始める。レオナのやつ、カレ村で置いてきぼりにされて以来、俺にあまり話しかけてこなかったが、心配してくれたらしい。感謝しないとな……。


「カナエ、あんた……、なにか着なさいよ……」


あ、全裸だったか。なんか忘れてしまうね。

俺はレオナからケープを借りて羽織る。ディナクはラウノからマントをもらって、ぐるぐると身体に巻く。まだ起きねーよ、こいつ。歩けばいいのに。

なんかでも、あれだな。レオナの臭いがする。ほつれが目立つけど、ちゃんと洗ってるし、いい匂いだ。あったかいなりぃ……。


とか思いつつ俺たちはとぼとぼ歩いて、ようやくキャラバンに合流する。

俺とディナクの姿を見ると指を差したり歓声を上げたりして喜んでくれる。人の輪の中に胸をなで下ろすソーナが見える。かなり心配をかけたらしいな。


「あの急流の中でロープを離して助けに行くなんて……、ディナクのことが大切なのね。私、誤解してたみたい」


いや、誤解じゃないが。まぁ、あえて訂正する必要もないか。


「まぁね。こいつもこれで俺たちと歳だけは近いわけだから、うん、ぜんぜん価値観は違うんだけど、まぁ、生きていた方が気持ち的には若干ましだからね……」


「そんなこといって、危ないときには命がけで助けたんじゃない。カナエ、あなたって口は悪いけど、根はいい人だよね」


「え……、そ、そうなのかな」


俺は本気で考え込んでしまう。そんなこと言われたことない気がするが、あるいは純粋な少女の視点から見たら俺の類い希な本性が見えてくるのかもしれない。なるほどな、これは確かに考え込んでしまう事例だ。


俺が目して離さずにいると、ソーナの後ろからヨアンナが近づいてくる。俺の姿を確かめて、ちょっとだけ目に輝きが宿る。頬が緩む。無事だとわかって喜んでくれたらしい。うむ、これは素直にうれしい。


「カナエ、無事であったか。ナレのことだから大丈夫であろうとは思ったが、いささか心配したでおじゃる。聞けば、ディナクのやつを助けようとしてともに流されたというではないか。ナレとやつとは犬猿の仲であったろうに、それを迷いなく、しかもあの急流のなかを手を伸ばすとは、さすがにカルマが深いのう。ワレは感心したぞ」


「見捨てたら夢見が悪いですからね」


「夢見、とな? ふむ、ナレはときどき奇妙な表現をするのう……」


いいながらも、ヨアンナは俺の行動を誇るかのように、少し大きな声で褒めそやす。


「泳ぎも達者であったでおじゃるか。ナレの拾われたというジャスランの森のあたりには、水場といえば小川と沼地ぐらいじゃろうに。まことに不思議なものよ」


「人というものは必死になるといつもならぬ力を発揮するものですよ。僕自身、河のなかでどうやってディナクを引っ張って河岸までたどり着いたか、思い出せそうもありません」


「そういうものかのう。いや、しかし、感心した。一時はナレに導かれたこの旅も、この地でおわるのかと思ったでおじゃるぞ。心配させおって」


「すいません」


いいつつヨアンナは笑顔を浮かべている。

ちょっと聖母感あるね。

と、その笑顔が我慢ならないような嬉々としたものを湛えつつ、すぐ近くまで寄ってくる。俺はつねならぬことにちょっとキョドってしまうが、ヨアンナが両手を広げて俺を抱きしめたので、そんなことはどうでもいいような高揚感でいっぱいになる。


「ちょ、ちょとぉ……」


ヨアンナの背後からソーナの抗議が聞こえてくるが、師匠は俺をぎゅっと抱いてすぐには離さない。ま、まじか。こんなサプライズが待っていただなんて……。ディナクを助けてよかった。


しばらく抱きしめてから、ヨアンナは俺の両腕を掴んだまま身体を離す。


「これからのちも、そのようなナレでいてくれよ? そうであれば、ワレの旅も大きな意味が生まれるというもの。騎士殿たちも、いずれはナレの下で力を添えてくれるやもしれぬ」


ウィタ騎士が俺の下で働く? あれだけ忌避感を放っておきながら、そんなことになりますかね……。彼らは自分が目のまえで見ていることよりも、教義を信頼するという、かなり融通の利かない人たちだ。まぁ、そのくらいでないと教会の武力として盗用されることもないのだろう。

ああ、それに、俺の事情もある。多少よい行いをしたところで、俺は不死者の手足である使徒であって、相変わらずテニスの指示に拘ってるんですよね。ウィタ騎士たちの態度は、真理からいえば正しい。


輝く瞳で俺のことを見つめながら、ヨアンナはたぶん、俺の中に迷いとある種の恥とを見て取ったに違いない。それでもヨアンナは俺の行いに対する敬意みたいなものを揺るがさない。尼僧としての経験がそうさせるのと、やはりヨアンナが芯の強い人だからなんだろう。


こういう人はニホンにはいなかった。


わいわいと皆に褒められているうちにディナクが目を覚ます。ごほごほいいながら、肺に残った最後の水分をはき出して、発作的に起き上がる。こいつ大丈夫か、ってかんじで皆が無言で見守る。

ディナクはぽかーんとあらぬ方を見つめていたが、やがて周りを見渡してから疑問そうに自分の手足を見る。


「なにが、あったんだっけ? あれ、俺、裸……」


ヨアンナとソーナ、レオナをみて、だんだんと顔を赤くする。いや、俺もケープ羽織ってるだけだけど、あえて気にしないことのしてるんだけど、お前がそんなに恥ずかしがらないでくれ。


「お前、ロープから手を離して、ジョブツ川でおぼれたんだぞ? カナエが助けに行ってくれなければ間違いなく死んでいた。感謝するんだな」


ラウノが言い、そのとなりでレオナがうんうん頷いている。


「え、俺、河でおぼれてた……? あ、ああ! たしかに、そんなような……、カナエが助けた? ほんとかよ……」


ディナクは俺をじっと見てから、少し恥じ入る。


宙ぶらりんになった空気を感じ取ったのだろう。ヨアンナが手を叩き、「さあさあ、せっかく助かったのに、濡れたまま裸でいてはよからぬ病気を招くでおじゃるぞ? 火にでも当たって、あたたまるがよい。皆も、この件は無事に済んだのじゃ、それぞれの持ち場に戻るがいい」と、キャンプの設営を促す。

客人であるヨアンナの言葉だが、すでに日が暮れ始めている。おおう、と、低く響く声を漏らして、皆散っていく。

残ったのは俺とディナク、ソーナにヨアンナだ。あ、そういえばこういうときにいつも全力で心配してくれるララがいないな?


「ララはどうしたの?」


「彼女は先行して街道の安全を確かめてるの。川を渡ってすぐに出発したから、あなたたちがおぼれたことは知らない」


「1人で?」


「いえ、タービィと一緒よ。1人で行かせたりするわけないじゃない」


まぁ、そうか。初めての土地だしな。しかし、タービィか。かえって危険、いや、あいつならララも気安いのか? うーむ、微妙だ。


「なに顔をしかめてるの。まさか嫉妬してるの? ララとタービィの仲がいいから」


「い、いや。そんなことはないけど……。ほら、戦力的にとかいろいろね」


「コリー族の2人なんだから十分すぎるでしょ」


あきれたようにソーナが言う。


「……それよりも、あんたたち、仲良く衣服をなくしちゃったけど、その上着をいつまでも借りているわけにもいかないんじゃない? どうするつもり?」


「どうって……、どうしょうもない」


にまぁ、と、ソーナは意地の悪そうな笑顔になる。


「じゃあ、ドザあたりにつくまで、裸のままでいるってことね……。風邪をひかないといいわねぇ」


「まぁそう意地の悪いことをいうものでないぞ、ソーナよ。もしなにも布地すらないのであれば、ほれ、ワレのマントを裁断して服に仕立てるがよい。この辺りの季候であれば、マントはなくても過ごせるでおじゃるからな」


「いいんですか?! ヨアンナ師匠のお召し物をいただけるなんて、行幸でなくてなんと言えばいいんだろう! いやぁ、いいことをすると、いいことが返ってくるんだなぁ!」


俺が喜ぶとソーナは慌てて俺たちの間に入る。


「ちょっと、そんなことしなくても、襤褸の服くらいならいくらかあるわよ! それを着たらいいでしょ!」


「なんじゃ、替えの服はあったのか。ではそれを着るとよいな」


ヨアンナはソーナの顔を見てうっすら笑う。果たして初めからマントを譲ってくれるつもりだったんだろうか。

それにしても最近、ヨアンナが俺に親しくすると、ソーナちゃんの警戒心が半端ないな。だれが見てもこれは俺に対する独占欲だぜ。やれやれ、モテる男は罪深いなぁ……。


……


……


そんなこんなで、俺たちはキャラバンが持ち歩いていた襤褸に着替えて、しばらくたき火で身体を温めた。ディナクがなぜロープを離したのか、ソーナもヨアンナも咎めて聞いたが、やつはしらを切った。カナエは見ていたんじゃない? という問いに、俺はディナクの顔を悪い顔でじっと見てから、覚えてないな、と答えてやる。やつの安心した顔……。


これはでかい貸しだからな。ほとんど、一生奴隷となってもらうくらいの。


……こうしてキャラバンは大きな損失を出さずに、大河、ジョブツ川を渡った。



          to be continued !! ★★ →

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