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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
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act.86_アイラインかく語りき

ウーは俺から目を離さずに、アイラインに囁く。アイラインはうんうん頷きながら、ときどきヨアンナとソーナの話に口を挟みたそうにする。本当に頭空っぽだなぁ、このおっさん。


「あー、錬士ウーはこう言ってる。少年カナエにどれぐらいの可能性があるのか見たい、と。まったく才能のない人間に指南することは教えているほうも悲しくなってしまうからだそうだ。で、見極めのために、1回剣を交えてみたいとのことだ。……どうする? 実力に大きな開きがあったら怪我もするだろう。それなりに覚悟してもらう必要があるが?」


「……望むところです」


まぁ、仕方ないよな。全力で挑んで、認めてもらうしかない。


「相手はウィタ騎士よ? 普通の戦い方だけではない。準備はいいの、カナエ?」


ララが心配して俺の意思を確認する。


「もちろん、と、言いたいところだけど、武器をひとつだけ調達したいと思っています。それからでもいいでしょうか?」


「ほほう、なにか試してみたい武器があるのかね? それにしても、初めて扱う武器でウーに挑むというのは得策とはいいがたい気もするが?」


「欲しいのはショートソードです。扱ったことはあります」


「ショートソード? ショートソードでウーの長剣と戦うのか? ふぅむ……」


アイラインが小首を傾げ、ウーは、くっと顎を上げる。侮られたと思われたら、それは本意じゃない。


「メイスよりも適正がある気がしています。このまま棍棒で戦うよりも、ウー様との戦いに力を発揮できるはずです」


「ナレが小剣を使うことには、ワレも賛成でおじゃる。なにか目星はついておるのか?」


ヨアンナは俺の話を耳に挟んで、ソーナとの水草談義から戻ってくる。俺が小剣適正をもっていることは、ヨアンナも先刻承知だ。なにしろ初めにそのことを俺に伝えたのは、先祖の姿を書き写してくれたこの人なのだから。

俺が何かを為すにしても、因果のある武器を扱うことにはヨアンナも賛成らしい。まぁ、そのほうがよりカルマチックだよな! カルマチック! そんな言葉があるか知らんが。


「目星はまったくありません」


「……」


にっこり笑って、ヨアンナ沈黙。


アイラインが話を引き継ぐ。


「……あー、武器屋でも行くつもりかね?」


「そうなります」


「ヨーステンは武器の商いは規制されているのではなかったか?」


「そうでしたか。まぁ、お金もありません」


「……」


アイライン、沈黙。


「小剣くらいなら、予備の武器として荷車にあるけど?」


ソーナが話を継いでくれる。そしてナイスな提案だ。さすがだよ! 改めてヒロインとして認めてあげよう!

俺は身を乗り出して最高の笑顔を送る。


「本当?! それは渡りに船だなぁ……。見てみたいなぁ……?」


「いいけど、ふつーの小剣だよ? さび付いてたりはしないけど、刃物を研ぐ練習にされたり、荷車の補修に使われちゃったりもするやつだから、特別なところは何にもない。それでもいいの?」


「いいんだよ。それで十分だ」


「そう。じゃ、ただであげるよ。お金を取るほどものじゃないし。そのかわり、その、負けるんじゃないわよ」


ソーナはちょっと口ごもりながら提案する。


「ナレは運がいいのう。小剣といえども、奴隷が武器を望んで、その直後にただで手に入ることなどそうはない。なにか定められたものがあるのでおじゃろうな」


「強いカルマのなせる技でしょう。当然の結果ともいえる」


ヨアンナの言葉にアイラインが深く頷く。

うーむ。まぁ、最近そんなことは良くいわれるけど、実際にはそれほど都合よく作用していない気もしているんだよね。未だに奴隷だし、案内役のテニスには相変わらず会えないし、ファーストミッションもこなせていない。行く先々で負傷して、いまひとつ何かを成し遂げた気もしていない。


こうしたいと思ったことが最終的にうまくいくことは多い気がするが、それだって別に俺の利益に繋がっているわけでもない。それはひょっとしたら、どこかで糞女神の望みが叶えられているとか解釈できなくもないが、どうだかな。


カルマの強さって、はたしてどのように作用しているのか。

ヨアンナやアイラインにだって、強い運命があると見れば、あるだろうし。ひょっとしたら、このおっさんにも強いカルマ、運命があって、いまこの目の前にいるんじゃないの? そのくらいなら俺にもカルマを感じられるかもしれない。


ちょっと面倒くさいことになる可能性もあるが、アイラインの生い立ちでも聞いてみるか。

たしか王都アヴスの北、マウナス山の麓の町、サイデンクルの出身だとか前に言っていたな……。


再び水草談義が盛り上がっているのを後目に、俺はアイラインにタッチしてこちらを向かせる。ウーが耳打ちするときみたいに、直接的じゃないと、このおっさんは永遠に気がつかなさそうだ。


「アイラインさん、前にあなたの出身は王都北のサイデンクルだと伺いましたが、その町からどんな経過を経てウィタ騎士となられたのでしょうか? これも何かの機会、ぜひ教えてください」


「ううむ。私の生い立ちか。そういった話はうまいこと話す自信がないのだが……」


「ざっくりとでも、ぜひに。話がまずいのは私も同じですから、気にはなりません」


「そう、か……」


アイラインは目を細めて、あたりへ何となく視線を投げる。


料理屋の店先では野良犬が柱に粗相をしている。おっさんの目がきらりと光る。犬はじゅうぶんに出し終わると、その場にしゃがみ込んで臭いを嗅ぐ。くん、っとおっさんの顎があがり、自分で臭いを嗅いでいるかのように鼻腔を広げる。ふぅーっと深く息を吐く。


おっさんはテーブル席のほうへ視線を変える。そこでは束子のような髭をした男が2人、身を寄せ合って睦まじくしている。片方がもう片方の野太い手を取って、甲をさする。触られたほうは、はっとした表情を浮かべて、相手の目を覗き込む。触ったやつが、くしゃっと痘痕の顔をほころばせて、いたずらっ子みたいに笑ってみせる。いや、2人とも50くらいの樽型体型なんだけど。


先に手を出した方がおもむろに手を伸ばして、もう一方の尻をなで始める。

おそらくはその感覚に思いを馳せたのだろう、アイラインが、よいしょ、とばかりに半身を持ち上げる。そして……


ブッ、っと、尻のあたりで音を鳴らす。


ヨアンナとソーナが自然な動きで料理屋の亭主のほうへ向けて立ち去る。ララが驚いた顔をしてアイラインを見つめ、しばらくして白目になる。ウーはたぶん嗅覚とか敏感じゃない。平気な顔をしている。たぶん……、目の輝きが失われているが。


ほどなく、呪われたガスが俺の周囲に漂ってきたらしかった。


……あ、く、くせぇ……。なに食べたんだよ……。

話を振った手前、席を離れづらいじゃねーか……。


俺は目の奥がチカチカしてきて、身体からもがれるように意識が遠のいていく。あ……、ここまでか、と、昔の景色が甦ったりする。


「俺が生まれたのは、前に話した通り、マウナス山を間近にみられる寒村でな。当時はサイデンクルといえば、町でなく村だったよ。農家の4男だった……」


とどめとばかりに退屈そうな話を語り始めるアイライン。やはり話をせがんだのは墓穴だったか……。


「で……


が……


そして……


そのとき……教士の……、おい? 少年よ聞いているか? 眠たそうだが?」


「あ……、ああ、いえ……、聞いていましたよ?」


「ならいいが。ここまでが私がいかにして教士フルヌイ様と出会ったかといういきさつであった。まことに、いま思い返しても運命の導きとしか思えぬ」


「たしかに、そうですよね……」


俺は気を取り直して相槌を打つ。どうやらアイラインの話は、サイデンクルかどこかで師匠となる教士フルヌイとやらに出会ったところまで進んだらしい。うむ。危うく死にかけたが、まぁ、おもしろいのはここからともいえよう。


「そのときすでに私は13の歳となっていた。当時の教会の範士たちは、私を目のまえにして、すでに歳をとりすぎているから、ウィタ騎士として成長することは難しいと判断した。が、我が師フルヌイ様はあきらめずに説得された。私が村へ帰っても、牛の餌やりくらいしか仕事がないとわかっていらっしゃったのだ。それではやがて盗賊の類いになるであろうと、言葉にされて範士様たちに訴えもした。やがて、そう、激論の末に私のウィタ騎士練習生アリンとしての道を歩き始めたのだ」


アリン、っていうのが練習生の名称か。アリンコって覚えるか。俺がウァセルフ大聖堂で会った、ロシャーナが連れていた子供たちがそのアリンってことだな。

それにしても、13才でアリンになるのは相当難しいようだ。俺だって11才だが、ウィタ騎士を目指すのは難しいって、前に言われた気がする。それをアイラインは13才で始めたのだ。師匠のフルヌイというのは人格者らしい。


「苦労してアリンとなったが、範士様たちのおっしゃったことは正しかったのだ。アリンとなったあとも、仲間のあいだではまったくの落第生でな。悔しかったものだ、年下に慰められながら、それでいて毎日力の差を見せつけられるのは。だが、そういう悔しさの極まった夜には必ず故郷の貧しさが目頭に浮かんだ。両親と兄弟たちは夢を持つこともなく、僅かな耕地にしがみつきながら牧畜を続けているのだとな。サイデンクルといえば、当時は貧しい土地で、生業といえば牧畜しかなかったのだ」


「それがこうして一地方を任されるほどのウィタ騎士となった。何かきっかけはあったのですか?」


「うむ。それはフルヌイ師が亡くなったことだ」


ふむ……。故人だったか。


「いつも期待してくれていた人が亡くなって、私は考えた。このままウィタ騎士を目指す資格が、自分にあるかどうかとね。そのときだよ、本当に騎士になりたいと思うようになったのは。人間というものは不思議なものだな。頼りになる存在がいる間は、自分の心を進むべき方向へ全力で向けることができない。

いまではね、この身体にフルヌイ師の教えと魂が宿っていると思っている。師が最後に弟子にしたこの私には、不出来ではあるが、師のカルマを受け継いでいるとね。そう思うと私は前に進めるんだよ。そしてライフストリームの教えを伝えていく、活力がわく。カナエのような迷える存在を、導いていこうと強く感じることができる」


「なるほど……そうでしたか」


おっさん、わりと苦労人なんだな。この人の剣はなかなか重かろう。


ま、ともかく。小剣をもらって、ウーと戦ってみますかね。



          to be continued !! ★★ →

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