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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
86/276

act.84_模擬戦のゆくえ

翌日からはカトー、ソーナ、ハスドルバルを中心に、パラポネア通過のための補給に奔走した。


俺も荷物持ちとしてそこそこ駆り出されたが、市場と宿泊地とが離れているので、重い荷物はすべて鳥トカゲが運んだ。鎧竜の方がいっぺんにたくさん運べると思うが、商店街は路地にあるため入り込むことができない場所があるらしい。それに、町の人間は見慣れない鎧竜を怖れる人もいるという。その辺のことはトゥオン、ヴーイの飼育親子鷹が教えてくれた。


町中で鎧竜に対してつばを吐く連中もいて、かなり憤慨している。トゥオンはわりと割り切って駄獣に接しているが、ヴーイなどは息子のようにかわいがっている。その駄獣につばを吐きかけられたのだから、怒って当然だろう。

それでもまぁ殴りかかったりはしないから、人と獣の最低限の境はわきまえているらしい。


2ヶ月近く一緒に旅をしてきた駄獣だから侮辱されたら俺だって腹が立つ。2人ほどじゃないけどな。だから、ぐっと耐えたヴーイの怒りは俺にはよくわかった。そのいざこざのあとに、一緒に駄獣の餌やりをしてやると、うれしそうに髪の毛をぐちゃぐちゃにしてきた。

糞の処理をしたあとだったからちょっと臭かったが、まぁ、いいか。ろくに風呂も入ってない身体だからな!


荒野を抜けていくのに必要なのは食料もそうだが、一番は水だ。パラポネア周辺は土壌も汚染されていて、涌き水があっても利用することはできない。だから、荷車も鎧竜もこれまでに比べて担ぐ荷物は水の割合が増えている。なにやら大きい動物の皮でできた袋で、密閉性は高いが、ごわごわして重い。鎧竜にそのまま担がせると、鱗と擦れて怪我をするらしく、専用の鞍みたいなものを装備させてやるという。

まぁ水の準備というのはかなりたいへんだ。井戸から袋に水を入れる作業は俺も手伝ったが、それだけで半日を費やした。そのままパラポネアにもっていく水かと思ったら、その日にいれたものはあくまで密閉性と、鞍の具合を確かめるためで、出発までに1回使い果たすんだという。できるだけ新鮮なものをもっていきたい気持ちはわかるが、言うは易しってやつだな。


傭兵の連中は武具の手入れに忙しくしている。

あ、サイネアとタービィ、ディナクはなにやら悪い遊びにいそしんでいて、たまに宿屋ですれ違うと、にやにやと勝ち誇った顔で俺のことを見てくる。まぁ、あいつらは俺のこと童貞だと思っているらしいが、身体はチェリーでも心は百戦錬磨だからな。俺としてはぜんぜん腹が立たないどころか、かえってディナクの心の動きみたいのがよくわかって、生暖かい気持ちになる。


そんなこんなが4日も続くと、補給作業も落ち着いてくる。そこからは出発までのちょっとした商いと、日程の調整が主立ってくる。


注文した食料の届くのが1日ずれたとかで、カトーとソーナはぴりぴりとした空気を放っている。ねじ込んでいって半日でも早く受け取ろうと考えているというので、俺は同行を申し出た。


……


……


よく晴れた日だ。相変わらず日射しが強く、今日は空気に湿り気もあってかなり蒸し暑い。

町中を人を躱しながら歩いているだけで、すこし汗ばんでくる。風に砂が混ざっていて、汗をぬぐうとざらつく。


ソーナはシルクを着流したような、いわゆるサリースタイルだ。白地に黒の刺繍が入っていて、両縁は濃い緑色のバックラムを縫い付けている。なかなかエレガントで若干人目を引いている。サリーの下にも白いシャツを着ているが、それが下着に見えて、俺はちょっと目のやり場に困る。


なにしろソーナの父親、カトーが同行している。っていうか、カトーがボスだから、俺がカトーに同行している。カトーの横には例によってオッスが控えているから、俺は用心棒というよりも、ソーナの側付きに見えるだろう。あ、カトーは実際にそう思っているだろうが……。


おっさん2人は「こいつなんでここにいるんだ?」って感じで、初めに怪訝な視線を投げていらい、俺の存在が視界に映っていないような態度を貫いている。なかなか失礼な態度だが、元貴族としては奴隷の姿をいちいち目にとめたりはしないのかもな。


カトーのやつは例によってチキュウでいうカンドゥーラのような服を着ている。ただ、全くの白色ではなくて、刺繍が3列ストライプに入っていて、その文様はブドウに似たツタ植物だ。獣が1頭、その実を食んでいる。なかなかきざったらしい洒落たやつだ。

オッスはいつもと変わらない。無骨な防具と汚れた肌着。いまはどこかで買ってきたらしいマンガ肉を食っている。問題はその肉の調理方法で、どんな熟成方法だか知らないが腐敗臭が漂っている。


さっきからオッスのやつが、その臭い肉をいかにもうまそうに噛みきって咀嚼している。よく食えるな、あんな肉。


鉄の胃袋と言われる俺だが、この異世界の連中はそんな自慢ができないくらい胃袋の達者なやつばっかりだ。俺だって皿に盛られていれば、イナゴの佃煮だろうとカエルの蒲焼だろうと文句を言わずに掻き込む自信はあるが、このキャラバンの連中ときたら旅の途中で見かけたトカゲを棒で突き刺して焼いて食べる。寄生虫なんて全く気にしていない。腹を下したという話も聞かない。


しかし自然界に微生物が少ないだとかそういう話ではない。実際俺はこの世界に来た時、というか隊商に拾われた直後に、風邪かなんかをもらって何日か寝込んだ。聞けばあの菌は相当厄介な奴らしくて、俺が病気になる以前も隊商の連中が何人か、高熱を出して寝込んだと言う。

つまり 流行病といった、ウイルスや微生物による健康被害というのは普通に発生している。熱く湿った地勢で、水に浸した防具の類を放置すると、たちまちカビが生えて菌糸に覆われたりもする。


つまり何が言いたいかと言うと、その辺を歩き回っているトカゲの体内や爪の先に、人間に害をなす微生物がついているというのは 普通に考えられる事であって、そんな食材を生焼きで口にするっていうのは、旅の知識として当然避けるべきである、ってことだ。キャラバンの連中がそうしないのはそれなりに経験を積んでいる、つまりそのトカゲをそんなようにしてこれまでも喰ってきたんだろう。

ちょろちょろ歩くトカゲを捕まえて食べるのは、ブルーなんだ。なんの問題もない。そう、考えているわけだ。それがこの世界の常識なんだ。


それはもう鉄の胃袋なんてもんじゃないな。それこそ異世界流に、ミスリルの胃袋だ。


長々と余談を話したが、つまり何かって言うと、俺の目の前でオッスのやつが糸の引いた肉を歯で噛みきって食べている。ちょっと腐敗臭が漂ってきたりもする。さっきからずっとだ。


とはいえ、さすがにあんなものを食べるのは 一般的ではないらしく、ときどき風に臭いが運ばれてくるのか、カトーのやつも鼻をひくつかせて 眉間にしわを寄せる。

あ、ソーナは サリーで口元を覆って顔を背けて臭いから逃げている。まあとんでもないゲテモンを喰っているというのは、現地人にしても同じ感覚のようだ。俺はいくらか安心する。


……


……


そんな恐ろしいものを喰っている様子に目を白黒させているうちに、目的の商館に着いた。

入り口に侍っている用心棒風の男に声をかけて、そいつに案内される形で俺たちは建屋の中に入る。


まだ昼食までしばらくある時間帯だから、照明がなくても建屋の中は明るい。何かのお香を焚いているらしくて、視界がわずかにぼやけ鼻腔には気持ちの安らぐ心地よい香りが感じられてくる。相当な商家のようだ。


使用人に知らされて商館の主人らしき男が出てくる。なかなかの偉丈夫で、顔には刃物で切られた傷が、額の右から左に赤黒く走っている。身長は2メートルはあるだろう。巨人族なのかどうかわからないが、ウドの大木って言うんじゃなくて、筋肉隆々としたアスリート体型だ。

その若旦那はカトーの姿を目に留めると大声で歓迎の言葉を述べる。


「カトー・オロールじゃないか! よく来てくれたな。言ってくれれば俺の方から出向いたのに、わざわざこんな町外れまで出向いてくれるだなんて、なんという喜びだろうか」


などなど、 全然信用できない挨拶を丁寧に並べ立てて、カトーに近寄りハグをする。それからソーナのことに気がついて「今日は娘さんも一緒か!」と、 大声を上げて、それからソーナの容姿をまた飾った言葉で褒め称える。


「なんと美しい少女だ。いずれは位の高い貴族の目に留まって正室に迎え入れられるんじゃないか。いや実はもう声がかかっているだろう? そうでなければ俺がこの家の側室に迎えたいぐらいだ、いやお前が気にするんなら正室にしたっていいんだ、いまのやつをどうにかしてな! どうだちょっと考えてみないか?」


などと一方的なことを言いやがる。

俺はそいつとソーナの間に体を滑り込ませて 奴隷らしい卑屈な笑顔でちょっとやり過ぎだと教えてやった。するとそいつは自分とソーナの間に生温い風でも吹いたかと感じたかのように、顎を引いて俺から距離をとる。

まあ一目で奴隷と分かったんだろうな。いいとこのボンボンは奴隷と一緒の空気さえ吸わないらしい。


グーダスとそいつは名乗る。まぁあれだ、じゃんけんは弱そうだな。それから、俺とオッスを完全に無視して、カトーの肩に手を回して室内へと誘う。オッスはいいかげん肉を食い終わっていて、その様子を腕を組んで見守る。ぞんざいな扱いだが、別に気にしないらしい。


なかなか堂に入っているので、俺もまねして腕を組んで無言でいる。グーダスはさすがに俺たちのことをちょっと見て、なにやら居心地悪そうに顔をしかめる。それから先ほどの使用人を呼びつけて、俺たちに何か食べ物を出すように指示をする。


ふむ。威厳ある態度というものは、相手から相応の対応を引き出すことができるんだな。俺は微動だにしないオッスとならんで、同じく難しい顔で、居心地の悪そうな使用人を見つめる。

だが、皿に盛られた果物が並べられると、オッスも俺も我先に手を伸ばしてそれを食した。そいつはまるっきり洋なしだが、色は橙色で、見た目で言えばどこかマンゴーを感じさせる。うまいからどうでもいいけどね。


すぐに皿が空になるが、使用人もグーダスも、カトーもソーナも戻ってこない。俺たちはショッピングモールで時間を潰す父親と小学生の息子みたいに、ひたすら退屈して待っている。


……


……


オッスのやつが欠伸してから眠たげに俺を見る。


「……模擬戦はあと2回だったな?」


「ええ? そうですね」


なぜいきなりそんな話をするのか、俺はわからずにオッスの言葉を待つ。


「いまここでやらないか? 2回目を」


「いや、さすがにそれはどうですかね……」


暇だから、っていわないけど、明らかに暇つぶしだな。ぜんぜん心構えもないし、さすがにそれには応じられんよ。しっかし、こいつ、俺のことを舐めきってるな……。


「さっさと続きをやらないと、お前が夜盗にでもやられて死ぬか、カトーに売られるかする気がして、なんだかすっきりしないのだ。なるべく早くな?」


「はぁ……」


部屋の奥では何か厳しい言葉と、猫なで声とが交互に聞こえてくる。

だいたい事情はわかるが、ソーナはこんな交渉をこの先ずっとはやりたいっていうんだから、俺にはわからんな。


「ではこうしよう、パラポネアで、あと2回分の模擬戦をいっきにやろうや? そうすればつぎの町までにすべてが終わる。俺もすっきりする。決まりだな? 準備をしておけ」


え? え? なに言ってるのこのおっさん。前の模擬戦からたいして時間も経ってないのに、もうやりたくて仕方ないのかよ。


「……性急すぎやしませんか?」


「パラポネアはかつて、偉大な帝国の末裔とウィタ騎士とが死力を尽くして戦った地だ。きさまも、どうせすぐ死ぬだろうが、そんな土地で俺と勝負できることを土産にしたらいい。すぐ近くに迫った死出の旅のな」


こいつ……。人を馬鹿にしていると、いずれ痛い眼に会うぜ。

俺は覚悟を決めて、応じることにする。



          to be continued !! ★★ →

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