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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
82/276

act.80_不死者の影

考えてみたら新しい町を1人で歩くのって初めてだな。

アヴスのときはソーナがいたし、カレ村のときはヨアンナがいた。あ、ムンドのときはどうだったっけ? 初めララがいてくれたが、途中から1人だったな。じゃ、2回目だ……。


兵士、というよりも私設兵団といったところだろうか。装備がまちまちだが、いちおう指示体系のあるらしい兵士たちが城壁の上、門の周囲を警備している。主な装備は小剣と長弓だまぁ、城壁の警備なんだから長距離用の武器を装備するのは当然か。門扉の前に立っている兵士だけはポールアックスを手にしているが、正直言って動きが遅そうな印象を受ける。

儀仗兵のような、様式の部分もあるんじゃないかな。小都市といえども。


城壁はところどころ傷んでいて、煉瓦積みが崩壊しているところもある。破損して強度や通路としての幅がなくなっている箇所には、木材で狩りの足場を組んでいる。城壁の上を巡回している兵士は、丸太の足場を器用に進んでいくが、いろいろと事故の多そうな職場だ。


現に目のまえでもトラブルが起きている。

兵士が4、5人集まって、町へ入ろうとしている2人を問い詰めている。端から見ると弱い物いじめだが、町の安全を確保する上では、ああしたトールゲートをスムーズに通過できるようなスキルも必要かもしれない。逆説的にな。


俺はトラブルを避けて道を変えようと右に曲がる。去り際に横目で2人の旅人を視界に入れる……、あ、れ? あのフード付きマントをかぶった背の高い2人、アイラインとウーじゃないか? どうしてあいつらがここにいる?


注意を引かないように歩幅を変えずに歩くが、ちらりとみた気配を相手は敏感に感じ取っていたらしい。


「……ウ、ヴン! おーい! 少年よ?!」


あー、気づかれたか。まずったな。かなり距離もあるし、視界に入れたのは一瞬だったから大丈夫かと思ったが。まぁあいつらはこういう敏感さもあって、ウィタ騎士なんぞになっているんだろうが。

さて、どうするか。


この間、0.5秒、って感じで俺は立ち止まらずに去ろうとするが、その背にもう一度声がかけられる。


「兵士さん、あそこに歩いている少年は我々の関係者だ。彼ならば我々がウィタ騎士であることを証言できるだろう。ぜひ、呼んできてくれないか?」


とか聞こえてくる。くそ、おっさん、ずいぶん詳しく兵士に話してやがるな。無関係を装うのは難しいか……。


立ち止まり、振り返る。


背の高いおっさんが、兵士に取り囲まれながら、俺のほうへ元気よく手を振っている。その耳元で、同じく背の高い竜族のウーが、なにか入れ知恵を注ぎ続けている。ちらちら俺のほうをみながら、こう叫べばうまくいきますよ、的なことを教え込んでいることだろう。

しゃーねーな……。兵士たちも全員で俺のほうへ注意を向けているし、このまましらを切って立ち去るのも、かえってトラブルの元になるかもしれない。


俺はがっくりと肩を落としてから、しょうがない態で彼らに歩み寄る。


「ほら、な? 知っている少年だといっただろう」


アイラインが得意げに兵士たちに勝利宣言している。面倒くせぇおっさんだな。これで兵士に目をつけられたら、俺のほうがこまるじゃないか、ったく。


手の届くところまで近づき、俺は両手を腰に当てる。


「で、何かトラブルなんですか?」


「ウ、ヴン。久しいな、カナエ。なにも告げずにカレ村を出発してしまい、寂しく思っていたぞ?」


「はぁ、それはすいません。なにしろ、奴隷の身なのでなかなか思うように行動できないんですよ。それでついつい無礼になってしまいました」


「ふむ。ではあるが、その礼を失したことも、このトラブルを解決してくれれば、回復といったところだ。我々は教会からの指示でこの先のパラポネアまで行きたいのだが、補給のため立ち寄ったところ、ウィタ騎士だとなかなか信じてもらえなくてね」


「で、僕に証言して欲しいということですか。じゃ、兵士さん。この2人はまちがいなくウィタ騎士ですよ。……これでいいですね? では僕はこれで……」


「あ、ちょっとまちたまえ?」


「なんですか? もう用は済んだでしょう?」


「いや、まぁ、そうなのか……?」


アイラインが周囲を確認するが、兵士たちはたいして警戒を解いていない。むしろ怪しい人間が3人になって、ますます問題に感じている気がする。


「奴隷に証言をもらってもな……。このあたりは大国の間諜も多いし、おいそれとは信じられん」


「あんたがたがウィタ騎士様だと証明する物が、こっちは欲しいですな」


「その後ろの竜族の女も、黙ってないでちゃんと証言して欲しいね」


兵士たちは口々に疑惑を漏らす。

てか、結局のところ2人がウィタ騎士だと確かに証明することなどできない。つまり、この兵士さんたちが要求しているのは、もっと別のものだ。ふつうならそれが何かわかるはずだが、さてはこの2人、あまり他国を歩いたことがないらしい。


俺はウーを手でこまねいて、しゃがみ込んだ彼女の耳元で、「賄賂を要求してますよ?」と、教えてやる。

ウーは黄色く縦長の瞳孔をさらに細くして、やっと気がついた、と言わんばかりに納得した表情を見せる。

すぐにアイラインの耳元に口を寄せてその旨を囁く。てか、変わんねーな、この2人。


アイラインが美麗字句を並べながらカレ村からの”土産袋”を渡すと、5人の兵士はそれを受け取り、ようやくほっとした表情を見せる。じつはこいつらはこいつらで、晩の飲み代と刃傷沙汰を天秤にかけていたらしい。揉めている相手はそれぞれ手練れを感じさせるから、それも気持ちはわかるね。


兵士たちが囲みを解いて、手を振ったりしながらそれぞれ持ち場に去って行く。アイラインとウーはそれを見送ってから、「人心の荒廃というのもよく考えてみなければならんな」などと箴言めいたことを口にする。

こいつらほんとに旅慣れていないみたいだな。門番に1人の知り合いもいない町に入り込むなんて、金以外に手はないだろうに。


ま、それにしてもだ。


「それで、パラポネアに行くとかいっていましたね? どういった用事なんですか?」


俺が訊くと、アイラインはウーの目を見る。応えるべきかどうか教えて欲しいみたいだ。だが、今回はウーの方で考え込んでいる。俺とここであったことで、ウィタの導きなんかを感じているのかもしれない。それとも別の何かがあるのか。


ウーが答えないのでアイラインは珍しく自分で思案する。どうした? と、俺が首を傾げると、意を決したのか口を開く。


「実はパラポネアの遺跡あたりで、不死者をみたという報告があってね。1番近くにいた我々に、調査の指示が出ているんだ」


「ほほぅ……」


不死者の目撃報告か。使徒疑惑のある俺を追ってきたんじゃないのか? いや、まだ安心はできないな。

アイラインは人を騙してうまいこと立ち回るような性格ではないが、ウーならそのぐらいのことはするだろう。不死人の調査とかいいつつ、パラポネアについたあたりで、俺のことを後ろからばっさりやるつもりかもしれない。


「パラポネアですか。僕たちのキャラバンが向かう先と同じですね。もっとも、僕たちの目的地はそのずっと先ですが」


「ああ、言ってたな。カイアクマリまで行くんだったよな。我々はあくまでパラポネアの調査だ。そこでなにもないか、それとも戦闘になるかはわからないが」


「戦闘?」


「当然だろう? 不死者は命の流れをかき乱す存在。我々ウィタ騎士は、目撃が報告されたらそこへ赴き、もしも本当にいたとしたら、戦ってこれを滅ぼす。それは我々の根本的なな使命だ」


「あー、そうでしたね……」


「不死者は長の命を保って、他の純粋な命の流れに悪影響を及ぼす。彼らの欲望のまま、生き物の意思、運命というものをねじ曲げていく。邪悪な存在だよ」


「まぁ、ね。僕にはそんな大きな話はわかりません」


「ウ、ヴン……? 少年には少し難しかったかな? 利発な子だからいつかきっと君も、我々と同じ道を歩くと感じているのだが」


「僕は文化人類学の道に進むつもりですよ」


「文……人類学? なにかね、それは? 剣術の流派?」


「うん、まぁ、そんな感じ……」


がっかりして立ち去ろうと、歩き始める。もう問題は解決したし、ここにいる必要はないな。

が、意味がわからないんだが、ウィタ騎士の2人が俺の後をついてくる。まるで助さん格さんだ。


「なんでついてくるんですか?」


「うむ。せっかく会ったんだ。これも何かの縁ではないか? 同じ宿に泊まろうかと思ってね」


「……今回はわりといい宿に泊まってますよ? お金はありますか?」


「ははは、少年はウィタ騎士が金に困っていると思っているのか? 我々は教会の意思を実現するために命を投げ出すことを厭わないが、その代わりに、衣食住で悩むことがないように配慮されている。そうしたことに鍛えた技を使うことが、時間の無駄でしかないからね」


「はぁ。でも部屋空いているかなぁ。キャラバンの皆が同じ旅館に泊まってますからね」


「なぁに、空きがなかったら近くの宿を探すさ。とりあえずは、ウィタの導きのままに、君の後をついていくということだよ」


「はぁ……」


このおっさん、俺のことが好きすぎる気がする。と同時に、やっぱり、俺が使徒だということが、ロシャーナ様から通達されたのかな。だとしたら、パラポネアで討伐されるのは俺かもしれない。なぜパラポネアなのかは方便なのか予定なのかわからないが、やっかいな同伴者に見つかった気がしてならない。


気分良さそうに辺りを見回しながらついてくる2人のウィタ騎士に、俺はなんだか腹の収まりが悪い。やはり、カネヤリと2人が戦ったときのことをヨアンナに訊いておかなければならないな。2人がどんな戦い方をするのか知らないまま一緒にいるのは、俺にとってリスクでしかない。


ヨアンナは、宿の3階だっただろうか? ひょっとしたらヨーステンの教会へ、なんて考えているかもしれない。もうすっかり夜になっているから、さすがに戻っているか? 行き違いにはなりたくないな……。


いろいろ考え歩いているうちに、宿泊先の旅館についてしまった。途中でヨアンナに会うことはなかった、気がする。会ったとしても道の真ん中で2人の戦い方について訊くわけにも行かないか。


「ここがカトーのキャラバンが宿泊している旅館だよ。カレ村で分散して民泊したのとはかなり違うでしょう?」


「ほほう、なかなか立派な建物だね。なぁ?」


アイラインはウーに同意を促す。

ウーもフードの中でうんうんと頷いて、久しぶりのベッドなのか、心なし楽しそうに見える。そうだそうだ、2人は20日間以上野宿だったはずだ。俺たちと同じように街道を通ってきたんなら。


すぐに中に入り、受付で空室状況を確認する。染み顔のおっさんは眠そうに目をしばたかせながら台帳をめくる。てか、空室状況ぐらい迷うほどの部屋数じゃないだろ、と思いつつ見守る。

残念ながら部屋は空いていて、2人は目配せをしあって喜ぶ。ツインの部屋を取るあたり、実はできてるんじゃないのかと思うが、あまりそういう雰囲気を感じさせないな。

そんなことよりも、いまはベッドで眠れることがうれしい、とかなのか。


「久しぶりの宿ですか?」


俺が訊くと、2人とも嬉々として頷く。


「うむ。もうしばらく、落ち葉のベッドであった。私くらいの年になると、野宿は節々が痛んでたまらんよ」


なるほど。それはまぁ気持ちがわかる。俺も、移動のあとのベッドはたまらなく気持ちが安らぐ。宿の中なら不意の襲撃もたいていないからな。


「では、今日はお疲れでしょうし、寝るだけですね。おやすみなさい」


話をまとめて立ち去ろうとするが、その俺の肩をアイラインのでかい手が掴む。


「まぁ待ち給え。こうして会ったのも縁じゃないか。今夜は我々が奢るから、一緒に食事をしよう。なんなら、連れの尼僧殿も呼んではどうかね? お互いの身の上や、これからのことなどを話そうじゃないか」


アイラインは目も口も笑っている。ウーも笑顔でうんうん頷いている。だがなんていうか、胡散臭い。ここまでの流れ、かなり強引だもんな。

ちくしょう、やっかいなやつらに絡まれたな……。



          to be continued !! ★★ →

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