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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
80/276

act.78_植物の術式



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ヨーステンが近づいてくるにつれて、散居村のように農家が増えてきた。栽培されているのは相変わらずの謎麦だが、このあたりは品種がかなり異なる。収穫の時期も違っているのか、すでに刈り取った耕地もあれば、その隣ではいよいよ穂が実るステージになっていたりする。播種の時期が違うのか、そもそも多種の麦を栽培しているのかはわからないが、たぶん、後者じゃないかな。


一度、街道へ穂を垂らしている1本を毟ってみた。鎧竜に跨がったまま引っこ抜いたから、根まで採取することはできなかったが、なかなかのサンプルだ。

王都周辺で栽培されていた麦に比べて、この辺りのものは赤みがかっている。実はやや小さく、結実数がおおい。まるで粟みたいな結実数だが、穂の形は鳥の羽先のようで、あきらかに麦の特徴をしている。ぴんぴんと伸びたのぎ、いわゆるひげだな、がいかにも元気そうで豊に実っている。そしてなんということか、条数、あー、条数というのは穂先を断面でみたときならんでいる実の数のことだが、これが12条ある。


12条、だ。


チキュウのものはせいぜい2条から8条で、それも8条となると収穫量が減ってしまう。それが、この異世界では12条の麦がたわわに実っている。ストローも結実した実の重さに耐えられるように太くしなやか。おまけに、このストローは恐ろしく長い。まるで水稲みたいだ。メートルで言えば2.5メートルはあるな。成人男性よりも高いから、端から見るとサトウキビみたいだ。だがコレは麦だ。姿形が見まごうことのない特徴を持っている。コレが現実……。


とはいえ。とはいえ、すべての物質は無から生み出されることはない。

これだけの植物体を作り上げるには、土壌から大量の養分を吸い上げなければならないはずだ。単年であればそれでもいいが、毎年となるとどうか。土壌から養分がなくなってしまうはずだ。

それを防ぐには、毎年大量の肥料を土地にまくしかない。そうしなければ収支が合わなくなり、土地は痩せ、本来豊に実るはずの品種ですら、ろくに結実しなくなる。


だから、この景色には俺の見落としている何かがある。


2.5メートル、12条の化け物みたいな麦がたわわに結実し、なだらかな起伏に沿って延々と風に揺れている。まさに黄金の海。すべての平地に植わっているわけではないが、ヨーステンが近づくにつれて、耕地が増えてくる。恐ろしく豊かな土地、無限の収穫を約束している土地。


なにを見落としているんだろうか。

魔術? それとも特殊な、まかれているようには見えない、奇跡のような肥料?


その答えはハスドルバルもヨアンナも知らない。


「魔素によるものかもしれぬでおじゃるな」


しばらく考えたあとにヨアンナが言う。初めは俺の話を黙って聞いて笑顔を浮かべていたが、養分の収支の話しになると、興味を引かれたのか真剣な表情に変わっている。「地下を流れる河から養分が染み渡ってくるのではないか」と、考えを言うが、俺はそれを否定する。基本的には、水は地中を沈んでいき、粘土層に阻まれて海へと流れ落ちる。だから、土地の表面に染み渡ってくることはありえない。

そのつぎにヨアンナが挙げたのは魔素だ。


魔素。


これまで何となく話に聞いて不可思議な何かってことで、会話の上でも便利よく使ってきたが、魔素ってなんなんだろうな。


魔素について聞いてきたことは以下の通りだ。

1,体内の回路に廻らせることで、周囲から魔素が集まり魔術のエネルギー、つまりウィタになる。

2,周囲から魔素を集めると濃度が希薄になり、つぎに執り行われる魔術は威力が弱くなる。

3,2人の人間が同時に魔素を集めようとすると、お互いに効率が悪くなる。

4,魔素は減少している。ウィタも減少している。1万年前の帝国が何かやらかしたからかもしれない。


あ、それと、ウィタ騎士の何人かはウィタを常にまとって行動している。これは魔素そのものの話というよりも、ウィタの性質としてそのようなことが可能だという話だ。


畑の作物に魔素が作用しているとなると、この謎麦にもウィタ回路があるということか。なるほど、その考えはちょっとおもしろい。前に聞いた話だと、程度の差こそあれ生物全般にウィタ回路が残っているのだという。

植物にもウィタ回路があるとすれば、たしかに魔素を集めて自身の成長に利用するということも、可能性としてはありだろう。それはつまり、植物がとりおこなう魔術だ。自身の成長を促す魔術。


ひょっとすると、この世界の生き物はあらゆるレベルにおいて魔術に近いかたちで魔素を利用して生きているのではないか?


俺はその考えに鳥肌が立つ。


「ふーむ……。さすがはヨアンナ先生です。しばらくそのアイデアに虜になりそうです」


「ほ、それはよかった。ナレの行き先に影響を及ぼせるとは、ワレの願うところそのものであるからな」


は、は、は、と、俺は曖昧に笑ってみせるが、その実は魔素を利用するあらゆる生物、という考えに思考を巡らせている。


だとすると、俺をこの世界に転生させた女神って、それこそどういう思惑があるんだろうな。この魔素の満ちた世界、それが減衰しているにしろおそらくは特異な環境のホシだ、それを何かに利用したい? 女神がどこからどこまでを統べる存在なのか俺には予測もできないが、物質的なものが「神」の存在の助けになる? 神は個にして全、つまり、あらゆる一つであり、その全体でもあるはずだ。物質的なものは求めないはず。


やはり、あの女神を名乗った存在は神ではないのか? しかし、手のひらの先でみせたあの御技……。


あの、女神と会った空間に見えた、床のひっかき傷。

俺は再びその景色が気になってくる。あの傷を見た記憶はだんだんと不鮮明になってきている。そもそもが普通でない状態だったし、体感的には自分が死んだ直後に起こったことだ。加えて前進を激しい痛みが走っていて、目のまえにまぶしく輝く糞女神がいた。本当に俺は、床面の傷を目撃したんだろうか?


「う~ん」


俺が悩んでいると、ヨアンナが隣を歩く鎧竜の上から小石を投げてきた。大腿のあたりに軽くぶつかって、我に返る。


「悩むのもよいが、前を見でおじゃる。ヨーステンのトールゲートについたぞよ」


いわれて前方を見ると、逆茂木、待機所、跳ね橋といった、いかにもな関所が設置されている。

似たようなキャラバンが何隊か足止めされていて、隊員が暇そうにたばこを吸ったりしている。駄獣はさまざまで、鎧竜はもちろん、鳥トカゲ、それから巨大なカピバラみたいなやつもいる。なかなか力が強そうだが、駄獣としては鎧竜が最大だな。


俺たちのキャラバンは成獣の鎧竜が20頭もいるから、それらと比べてもだいぶ規模が大きい。カトーのキャラバンはなかなかの大勢力である。


隊列からカトーが離れ兵士が駐留している建物に入っていく。

ブトゥーリン王国の関所では土産の小箱をもっていたが、今回は小袋に硬貨らしきものを入れている。にこにこ現金払いでいくらしいな。あの袋に入ってる硬貨は、ブトゥーリン王国のシルト硬貨だろうか? まぁ、多分そうだろう。このヨーステンは都市国家。いまのところどこの王国にも属していない。まぁ、都市国家といえども、議会制民主主義ってわけではないだろうが……。


建物に入ったカトーは、すぐに兵士と一緒に出てくる。それからルーティンになった荷物検査が始まる。傭兵も商人もすなおに荷物を開示してみせて、なにももってないですよアッピールをする。てか、本当にやばそうな物は持っていない。


兵士は気むずかしそうなやつで、ときどき、密輸するならこのへんに隠すかな? って思うらしい箇所を丹念に調べる。けっこうな荷物があるから、兵士は7人がかりだ。荷物のほとんどない俺は、マントの中を荒々しくまさぐられたあとは、ぼんやりと待っているだけだ。


荷物チェックはだいたい2時間ほどかかった。

かなり厳しいチェックだといえよう。


やがて検査が終わると、跳ね橋が号令とともに下ろされる。木材が軋んで、ぐらんぐらん揺れながら足下に道を作る。兵士がでてきて、堀の両端から伸びた端を結束し、補強する。それから通行を促す指示が出る。カトーとオッスがキャラバンの指示をして、俺たちはヨーステンの町へ入ってく。


ヨーステンは五芒星のような形状だろうか、高い石垣を組んだ要塞都市だ。奴隷市が盛んだと聞くが、町の外にはそれらしき市は開かれていない。

だが高い城壁の上からは、盛んに交わし合う商売だが号令だかの人の声と、馬車や騎獣のものものしい気配が響いている。通過してきたむらむらとは違う、多くの人間が放つ独特の気配だ。


王都アヴスを出発して73日、異世界に転生してから、数えて88日経っている。



          to be continued !! ★★ →

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