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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
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act.68_カネヤリ

グレートカッティングを抜けると、地形は徐々に山地になっていった。ララがいうにはこの辺りから西へは山を越えて海がある。東へ行くと、無辺の山脈が連なっているという。


わざわざ強大な魔術で切り通しを造った理由も頷ける。あの台地を越えて山岳地へ入り込むには、切り通しがなければどれだけ迂回すればいいかわかったものではない。切り通しを抜けられるからこそ、その先の村、台地の上の領地へと進めるのだ。


俺が思うに、台地の上にはなにかしら交易につかえる物もあるだろう。そうでなければただの植民地だからな。ただ植民するだけでは国に利益は少ない。国が善意で領民のためにそこまでコストを払うとは思えない。コストにはそれに見合ったリターンが必要だ。交易品はミスリルオーアだろうか? それとも青絹のような特産品? ふむ……。


景色が山岳になってきて、季候も変わってきている。

グレートカッティングを抜ける前は、荒れ地こそ混ざっているとはいえ耕作に比較的適した温暖な気候だった。秋に南下しているわけだから、キャラバンは暖気を求めて移動するように寒さから逃げている。それでも高地へ来ると、そのような緯度の下げにかかわりなく肌寒い。

植生は過疎の低木林で、木々は風に煽られて斜めに伸びている。人間よりも背の高い樹はまれで、ほとんどは腰高さに繁っている。赤い実などが散見されるが、果たして食べるのに適しているだろうか? 気温が下がると、急に食料の調達などが心配になってしまう。

寒さに抗するためにより大きいエネルギー、食べ物を必要としているからだろうか。


俺はローブ1枚重ねて着始めているキャラバンの面々を後ろから眺める。だれも不平は漏らさないが、夜になると息が白いこともある。百メートル高度を上げると気温が1度下がることを考えれば、このあたりは王都周辺の麦畑とは10度ほど低い。

カレ村の人々はなにを食べて生活してるんだろうか。


……


……


最近、ディナクのやつが再び俺の視界に入ってきている。

なんていうか、用もないのにソーナに近づいていくのだ。ソーナは基本、荷車の中で生活しているから、俺にたまに話しかけては来るものの、雑役の手伝いだとかはしない。傭兵が狩りで怪我をしたときとかに、回復魔術で癒やすのが交易行での仕事の大半だ。

だから、ディナクのやつがソーナに会える時間は限られている。ディナクはその瞬間を逃さない。


ひょっとしてあいつ、ムンド村でソーナが許嫁を断ったことを、自分の為だと思ってないか? 100%俺のためなんだけどな。ディナクのデの字もソーナは口にしてないからして。


そんな俺の前で、ディナクは今日もソーナと接触を図っている。


俺が炊事用の薪集めを手伝っていると、食事の準備ができたかと荷車から出てきたソーナにディナクが近づいていくのが見える。脈がないのはわかっているが、やつが事実を認識していないことが、もう俺の気に障る。ディナクとソーナがいつも一緒にいたら、他の人たちも誤解して、まるで公認であるかのように思ってしまうではないか。

人の恋路というものは、そうした僅かな隙間に雨水が沁みたりして亀裂が広がっていくものだ。


俺はまぁ大人だし、嫉妬とかそういう感情はコントロールできるわけだが、それにしてもディナクのやつは目に余る。ここは大人として、ちょっと警告をするくらいはすべきかもしれんな。

うん、それが大人として当然の行為だと思う。疑問の余地なく理路整然としている。


2人が接触する瞬間に分け入ろうと、俺は走ってディナクの後を追う。


ディナクの近づく足音と、俺が後を追う足音とが同じくらいに聞こえてきたときに、ソーナが気がついて振り向く。始めにディナクのやつに親しみ、じゃなくて愛想笑いを含んだ適当な薄笑いを向けて、それから俺に親愛の籠もった最高の笑顔を向ける、うん、そう見える、間違いない。


「え、なんなの? カナエ?」


ほら、やっぱり。ソーナが最初に話しかけたのは俺のほうだ。


「やあ、ソーナ。君の歩いている姿が見えたから、思わず駆けてきてしまった」


「……はぁ? はぁ、そう」


はぁはぁいっちゃって、緊張している。無理もない。俺ほどのイケメンが、息を切らせて駆け寄ってきたんだからな。女子大時代なら相手は失神している。


「おまえ、なにしにきたんだよ。カナエ」


ディナクはむちゃくちゃ鬱陶しそうにいう。本当に腹が立つな。ディナクは反物質で構成されているんじゃないか? それくらい俺とはそりが合わない。ちょっと声を聞いただけでいらいらする。キャラバンの中ではナスィール以上に、こいつとなれ合うことができない。


「あのな、お前がソーナにつきまとってるから、ちょっと忠告にきたんだよ」


ばばーん。どうだ、この圧倒的な剛直球。みろ、ディナクのやつを。目を見開いてたじたじしている。ん? なぜかソーナちゃんが眼を伏せて恥ずかしげにしている。

ここはあれだろ、ソーナちゃん。両手を胸の前で合わせて、俺をあこがれの眼で見つめる。うん、だいたいそんな感じで良いよ……。


「な、なに言ってるんだお前は? 奴隷のくせにずうずうしいやつ……」


「そ、そうよ。誤解されるようなこといわないでよ……」


ふ。ソーナちゃん。照れちゃって、かわいいな。

ここは俺がびしっと言っておくよ。


「あのさぁ、ディナクさんさぁ、人の恋路に奴隷とか貴族とか、そういうのはないんだよ? 若い2人が燃え上がったら、身分なんて見えなくなるの。ディナクはお子様だからそういうのまだわからないかな? 俺とソーナはもう、2人で階段上り始めてるのね」


がーん、ってかんじで俺とソーナを交互にみるディナク。


「え? 上ってないけど……」


耳から入った音声が脳に伝わり、眼孔に光りを取り戻すディナク。


「こ、こいつ……適当なことを。い、いや、そうだ、身分だとか、そのくらいは俺だって知ってる。俺だって雑役だが、元貴族のソーナと……、あ、いや、そういうことじゃなくて、たとえばっていう話だけど、その……」


「え? え? ちょっと、急にそんなこと言われても……、こまる」


はっはっはっ! ディナクのやつ、玉砕だな!


「もっとよく知り合おうよ。そういうのはそのずっと後だよ」


……。


「そ、そうだよな。俺、ソーナのこともっとよく知りたいよ。せっかくこうして一緒に旅をしてるんだしな。なんていうか、仕事ばっかりじゃ、もったいないなって、さ。このあいだのグレートカッティングとかをみていて思ったんだよ」


「あの峡谷、素敵だったわね。私も思わず見とれちゃった。どんな人がつくったんだろうって……」


「うんうん! 人族か妖精族か、それとももっと別の人間だったのかなぁ。どこかにそういう時代のことを書いた本とかがのこってるのかな」


「そうね、そういう本があれば、わたし、一年中でも読んでいられそう」


「僕もだよ」


ははは……、って笑い会う2人。ははは……って、表情を凍らせる俺。


「さっき、あの切り通しでみたような石をみたんだけど、ちょっと行ってみない?」


「え~本当に? みたいみたい」


などといいながら連れだって歩き出す2人。ははは、って見守る俺。


ディナクの少し後ろからついていくソーナが、後ろを振り返り、俺にあっかんべーをする。

え、俺なんかしましたかね……。


……ちくしょう。そっちがその気なら、俺だって考えるさ。

いらいらして足下に出た小石を蹴る。


ガッっという音とともに俺のつま先に電撃じみた痛みが走る。


くそ、これ、岩石の先端じゃねーか。くそ、くそ……。


けんけんしながらつま先をさするが、容易に痛みが引かない。骨折れたんじゃねーか、これ。

ディナクのやつめぇ~。許さん。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



しばらく高低差のある道を抜けると、広い台地に出た。

植生は変わらないが、あたりには湖が星の数ほどもあって、羽虫が無限に飛び交っている。口を開けて歩いたら何匹も飛び込んでくるほどだ。


オッスやララ、タービィ、3人のコリー族は長い毛もあって、それほど羽虫を気にしていない。たまに首を振って、痒いところにひっついたのを追い払うぐらいだ。それに比べて、竜族のリュリュは睫毛すらもないから、眼を赤く腫らして、ひっきりなしに顔を打ち払っている。かわいそうにな。だいぶ辛そうだ。


人族はまぁその中間だろうか。たまに目に飛び込んでくるやつもいるが、睫毛が弾く。これは痒いけど、眼を腫らすほどではない。それよりも首元や頭上に舞う奴らが鬱陶しくてしょうがない。こんなとき、チキュウの殺虫剤が欲しくなるな。


忌避剤の代わりだろうか、飼育係の2人は柑橘系の果汁を身に振りかけて、虫対策としている。みていると、完全ではないが、一応の効果はあるみたいだ。

俺は声をかけて少し分けてもらった。想像の通り柑橘系の果実から留出りゅうしゅつさせた物で、まぁ精油だわな、それに交易品に物ある椿油で薄めている。柚に若干のハッカ臭がある感じで、清涼感もあって、なかなか良い感じだ。


俺も身体に振りかけてしばらく歩いたが、なにもしてないときに比べればだいぶ違う。完全じゃ、ないけどな。


……


……


そいつは俺たちが昼食を食べているときに飛来してきた。


そういうモンスターがいると知っている人間がいて、なるべく臭いが散らないように、たき火の煙が立ち上らないように気をつけていた。

それでも僅かな臭いと、音とが上空に伝わっていたらしい。


初めに気がついたのはコリー族の傭兵タービィだった。大麦の襖をふやかしてもらう順番を待ちながら、たき火の周りに座っているときだった。

タービィはちょうど俺の向かいに座っていて、彼の気づきを一部始終見ることができた。

コリー族特有の大きな耳をぴくりと動かして、手に持った皿をそのままに「おや?」って感じで空を見上げる。反射的に鼻をひくつかせて、違和感を感じた方角へ感覚器を集中させる。和んでいた眼が見開かれて、眉間にしわが寄っていく……


「なにかくるぞ」


と、口に出したときには、毛を逆立てながら、皿を落として武器に手を伸ばしている。全身の毛を逆立てるから、身体が一回り大きくなったように見える。

俺はつられてタービィのみている方角へ超感覚を向ける。が、すぐに遮断した。


キィィィィィィンンンン、というするどい風切り音が響いていて、聴覚が揺さぶられるような衝撃があったからだ。なんっていうか、小型のジェット機でも飛んでいるような……


ララが、どこからか躍り出てきた戦闘狂のオッスが空を見上げる。レオナ、サイネア、リュリュ、感覚が鋭い順に、何かの襲来を感知する。

俺も肉眼でそいつを捉える。ロケット? みたいな……。いや、羽をすぼめた巨大な鳥だ! 音速の半分くらいで飛んでるのか、すぐにそいつの全容が見えてくる。


「カネヤリだ。やつの羽は鉄と同じ硬さがある。羽先はするどく、木々も切り倒す。気をつけろ」


タービィが俺たちに警告する。


カネヤリといわれた怪物はもう直前に迫ってる。あ、2羽いやがるな。


より近くまで接近したやつが、上体を起こして、羽ばたく!


ッドゥ!


すさまじい突風が巻き起こって、視界がむちゃくちゃになる。誰かがバランスを崩して地面に伏せる。


ギョォォォォオオオ!!


な、なんだ、鳴き声? か?

そいつが巨大な鉄釘のような嘴を開いて、何ともえげつない叫びを上げる。

ほんの一瞬、ホバリングして俺たちを威嚇する。


でかい、でかいな。

翼を広げると6メートル、体長も6メートルほどだ。銀色で光沢があり、日の光をぎらぎら照り返している。四角い巨大な金釘型のあたまに、眼が等間隔に6つついている。

全身に返り血を浴びていて、腐った肉片がついている。おぞましいとしかいいようがない。


絡まった肉片の中には、獣の皮に混じって人間らしき皮膚も混ざっている。


カネヤリの1体目が俺たちの後方へ目をつける。ターゲットを決めた、って感じだな。

俺はそいつの視線を追って振り返る。30メートルほど離れたところには、ソーナたちの乗っている荷車がある。


まさか、あれか?


おどろいて正面に向かい直すと、カネヤリは反動をつけて身体をすぼめようとしている。


まずいまずいまずい! どうやって止める?!



          to be continued !! ★★ →

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