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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
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act.61_ムンド村のヨアンナ

キャラバンは静かに南下していく。俺は王都へやってきたときに見た景色を、逆の順で眺めていった。


家畜小屋に製材所、延々と続く麦畑。栄えている家もあるし、貧しくすさんだ地域もある。それらの土地に陽が昇り、正午を過ぎると陰っていった。よくもまぁというくらいに果てしなく農耕地が続いている。

小川や窪地といった農耕に適さない場所はあまさずに家畜が放たれている。このぐらい徹底的に食料生産に使われているのは、考えてみれば当然のことだ。王都のあの人口を養っているんだからな。


王都へ入ったときに、どうやってこれだけの人口を養っているのかと不思議に思ったのが、こうして景色に目をこらしていることで、いろいろと符合していく。現に、俺たちがこうやって街道を進む道すがら、王都へ食料を運んでいく荷車に何度もすれ違った。それらの荷車は商人たちが担っているときもあったし、農民の代表らしき男たちが担っているときもあった。

前者は農村からの買い受け、後者は納税あるいは、貴族の経営する荘園からの物資だろう。


そうそう、王国の税は、ニッポンの租庸調、つまり主食となる麦、労働と反物、特産物、これら3つのかたちで徴収されるんだという。俺はそれをハスドルバルのおっさんに聞いた。


おっさんとはこの数日、仲良く話す間柄になっている。まえに隊商に加わっているときには縁遠かったが、今回のキャラバンでは何かと話すチャンスが回ってきた。これはトアが繋いでくれた縁とも言える。

ハスドルバルはトアを後継者として育てるつもりでいたらしい。それで、彼の親父から預かるつもりで雇い入れた。それが王都を出立してすぐに死んでしまったので、おっさんの落胆はかなりのものだった。


盗賊砦跡を出発した次の日などは、体調が悪いとかで、食事にも顔を見せなかった。俺はトアの亡骸の前で消沈していたハスドルバルを見ていたから、何かの縁だと思っておっさんに食べ物をいれた皿を持っていってやった。

2台ある荷車のうちのより小さい方、カトーとハスドルバルに客人のナスィールが寝床にしている荷車だ、の幌を開けると、荷車の隅で放心しているおっさんを発見した。そのときになにを話したか、細かいことまでは覚えていないが、とにかくおっさんに、トアの親父には俺も一緒に行くからと肩を掴んで言ってやったのを覚えている。ハスドルバルのおっさんは口をぼんやりと開けたまま、目に涙を浮かべて俺の話を聞いていた。


その翌日の朝、おっさんは小川から水を運ぶ俺を手伝いながら、前夜のことに礼を言った。


そんなこんなで、この丸めがねをかけた小太りの中年男はいろいろと教えてくれている。たぶん、俺にトアの姿を重ねているのだろう。なんだかやつの分まで俺ががんばらねばならないような気もしているこの頃だ。


それはともかく。


王国の税は租庸調で収めることになっているが、これは王国で鋳造される金、銀、銅のシルト硬貨で収めることが許されている。つまり、商人のたぐいは耕地を持たないので麦を収めることはできないが、かわりに王国硬貨を収めることで義務を果たしたことになる。特産物、労働力の供出においても同じだ。

王権はそれらの税で国の流通を整備し、また、外敵に武力で備える。もちろん、多分に建前であって、有力貴族の動向や、王家そのものの利益、権力維持などにおおくの財が費やされている。領地経営の安定化、辺境の制圧、諸外国との折衝、さまざまなシーンで謹製の硬貨がものをいう。

カトーやソーナのオロール家はそうした財の独占における貴族同士の争いの中で、妖精族の血を家に入れたと言うことが大きな疵となった。だから、オロール家の主筋が、カトーの妻を謀殺しカトーとソーナを放逐したのも、ある意味、当然のことなんだと。


ハスドルバルは少し遠い目をして言う。

砦を離れて5日目の昼で、俺たちは鎧竜に跨がっている。初めは気持ち悪くて仕方がなかったこいつの乗り心地も、旅が5日目ともなると、暇に任せてみなが乗るようになっている。どうしても慣れないやつもいるが、俺やソーナといった若い人間、それになぜかこのハスドルバルは高い適性を発揮している。

あれだ、デブがほら、なにかいいように作用してるんだろう。脂肪がその、衝撃を吸収するとかさ。


「おっさんはどこの出身なの?」


俺が騎乗で訊く。俺を乗せた鎧竜が脚を振りだし背の高さが大きく沈む。ハスドルバルの顔がはるか頭上に残り、俺の顔はずっと下になる。


「俺はな、こう見えて生粋のアヴスっ子なんだよ。うまれてから24までは王都を出たことがなかった」


ハスドルバルの乗った鎧竜が脚を踏みだし、俺の乗ったやつは前脚に重心を移動させていっきに背を伸ばす。俺がぐんぐん上昇して、ハスドルバルがあっという間に沈んでいく。


「そうなんだ。僕はまた、もともと行商して暮らす商人の出なのかと思ったよ。旅に必要なことをいろいろとよく知っているし、カトーにも信用されているもんだから」


「まぁ、御年46だからな。いろいろと経験したのさ」


おっさんが天に昇り、俺が地に沈む。


「いちばんやばかったことって、どんなときだったの?」


「そうさな、密輸の嫌疑で、ウィタ騎士の取り調べを受けたときかな。あれは生きた心地がしなかった」


おっさんが地に沈み、俺が昇り龍のごとく上昇する。

おっさんの鎧竜が歩きながらフンをだす。ぼとぼとと落ちたそれを、後続の鎧竜が気にせず踏み進む。隊の最後尾を走っている荷車は相当臭いだろう。他の鎧竜も遠慮なく、どばどば排泄してるからな……。


「王都のあたりで、いちばん羽振りがいい商人って、どういうやつらなの? やっぱり王族だったりするの?」


「いやいや、それはゴッザムトだよ。公爵家だな」


「ゴッザムト? 青絹でバルバステラと争っている?」


「おお、よく知ってるな。青絹交易はもうかるからな。相手がアスファ聖王国でも、ゴッザムトは遠慮なしさ。そういう家だからな」


「王子に知り合いがいるんだが、それほど教養を感じさせなかったけどね」


「教養じゃ、ないのさ」


ハスドルバルは鎧竜が身を振ったのに巻き込まれて、遠心力に顔をしかめる。


「商売の才能とはずるさだよ。ずるさと機敏さだな。正義を振りかざしても、金はもうからんのさ」


「そういうもんかな」


「そうさ。そういうもんだ」


「じゃあ、こんかいの交易でミスリル鉱を選んだのもそういう機敏さとずるさが理由なんですかね?」


「もちろんだ。カトーはミスリルが不足すると予想したんだよ。戦争がより深刻になって、貴族の子弟が続々戦場に行くようになるとね」


「あー、ウーナンダ義寧国、だったっけ」


俺はブトゥーリン王国の敵国のことを思い出す。奴隷として売られていた騎士らしき男たちのこと。わりかし教養を感じた、彼らの隊長のこと。


「他にどこがある。あいつらは内陸の田舎者だが、足腰はその分強いんだよ。王は軽く考えているのかもしれないが、カトーは苦戦すると見ている。そうすると、近いうちに武具が大量に必要になるって寸法だな」


「なるほどね……」


俺たちはえっちらおっちら運ばれていく。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



きっちり10日目にムンド村が見えてきた。


前回と同じく、俺たちは逆茂木の塀を前に足止めをされる。誰何され、警備の兵が持ち物を調べていく。

その間にカトーが警備兵の長となにやら言葉を交わし、布に包まれた箱状のものを渡す。前回はあきらかに香料のムースクだったが、今回は何だろう。王都の流行品かもしれないな。


すぐに滞在の許可をもらって、俺たちは跳ね橋を渡って村に入る。


村内はあいかわらずの辺鄙さだ。轍と獣の糞でぼこぼこになった道、木材の腐った貧しい建屋、中心にある、そこだけ財をつぎ込まれた集会所と教会。尼僧のヨアンナは元気にしているだろうか。ヨアンナだけが懐かしく、会いたい気持ちが湧いてくる。あの眉のないいかにも勤勉そうな妖精族の顔、つんと尖ったバスト、カソックの中でそこだけぷりぷりと豊かさを感じさせるヒップのライン……

ああ、会いたくて仕方がない。

あ、もちろん、いろいろ教えて欲しい。前の授業の続きを。保険体育の授業だっけな!


俺たちは例のぬかるみに案内されて、ここで寝ろと指示される。

だが、前回は隊商で荷車がたくさんあったが、今回はキャラバンだ。きほん野宿というか、地面に毛布を引いて寝るだけだから、下がぬかるみだとちょっとまずい。そこでカトーが掛け合って、駄獣と飼育係はここに留まるが、他のものについてはここで寝てもいいし、どこかで宿を借りてもいいということになった。

宿を借りると言うことは、金を払ってどこぞへ泊まれってことだな……。てか、かなり扱いが悪い。

このぬかるみを前にして、ここで寝ろってのも相当だが、嫌なら金払えってのもなぁ……。


俺は懐に入れた持ち金をマントの中で数える。

シルト銀貨が4枚と、大銅貨、銅貨、白銅貨、ぜんぶで5千シルトはあったはずだ。紙だ鉛筆だ保存食だと買っているうちにだいぶ減っちまったな。俺の買い受けが5万シルトで、持ち金が5千シルト。ここで宿を取ったら、どれだけぼられるか。うーむ……。


ここはやはりヨアンナを頼ろう。

俺はそう決めて教会へ行く。


教会はちょうど礼拝の時間だった。昼食後の、チキュウで言うと13時半頃になるだろうか。村の信者が三々五々あつまってきて、例のスプラッシュ像、ライフストリームをあらわしている彫刻に祈り、またその日の仕事に帰って行く。

俺は彼らの祈りの様式を観察する。


信者たちは老若男女、微妙な違いで祈りを捧げる。


年寄りは男女同じで、立ったまま、両手を斜め下に下げ、目をつぶる。ヨアンナの手から聖食、パンの欠片を口に含まされ、それを嚥下する。噛まずに飲み込んでいるな。そしてゆっくりと両手を胸に当て、礼。頭を下げて立ち去る。余生を大事に、って感じだ。


若い男は跪く。それだけ迷いが多いと言うことかね。自分の職業で使っている道具、たとえば斧とか、機織りなら、緯糸を通すやつな、それとか、鍬、金槌、もちろん武器のやつもいる、いろいろだ。それらを両手のひらで持ち、下げた頭の額あたりに掲げる。そこへヨアンナが水をかける。信者が立ち上がり、こんどは同じく口に聖食を含ませられる。礼をして立ち去る。お仕事がんばってね。


若い女、これは男バージョンと似ている。違いは聖食が商売道具の上に置かれることだ。理由は何だろうな。聖職者と女の口が接触することを避ける? それとも、商売道具を神聖なものにして、道を違わないようにする? そんなところかもしれない。ちょっと、差別的ではあるが、まぁ、異世界の片田舎のことだ。さもありなんだな。敬虔に生きてね、はい次の方。


子供たち、こいつらは集団で礼拝する。簡易バージョンみたいなもんだな。跪き、胸に手をあてたところを、順番にパンを放り込まれる。座ったまま一礼して、わいわい言いながら立ち去る。ヨアンナが笑顔でそれを見送る。元気でよろしいって感じだ。


俺はそのあいだずっとヨアンナのことを見ていた。相変わらず美しいお人だな! だが、ちょっと痩せたようにみえる。遠目に顔色も優れない。何か病気したのかもしれない。


礼拝が終わり村人たちが立ち去った頃に、俺は最後の信者とばかりにライフストリーム像の前に傅く。見た目は子供だが中身は29才だ、とうぜん成人男性の礼をとる。シャーリーを掲げ、聖水が振られるのを感じる。シャーリーを下ろし、立ち上がり、うつむく。唇にパンが触れる。俺は茶目っ気を出して、それをぱくっと一飲みする。ちょっとだけヨアンナの指をぱくつく。


「なんとも信仰の薄い子供でおじゃるな!」


目を開けると、ヨアンナのうれしそうな顔がある。一目でわかる。ヨアンナ、何か病気だな……。



          to be continued !! ★★ →

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