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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
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act.49_ミスリルオーアロード

ソーナは傷んだテーブルの上に、コップに結露した水滴を使って簡単な地図を描く。


「ここがいま私たちがいるブトゥーリン王国の王都アヴスね」


そう言って自分の目のまえに大粒の水滴を1滴垂らす。「そこから南にムンド村……」いいながら小指の長さほど離れたところに1滴。ふむ、と俺はその距離を移動するのにだいたい10日ほどかかるのを思い出す。補給を含めれば半月になる。


「さらに南にカレ村、ここも20日。私たちが通い慣れたムーン砂漠へ繋がるルートは、カレ村よりも内陸寄りへ行くから、もう、いつもとは違う道を通ることになる」


商隊の通い慣れた交易路は、王都アヴスから砂漠の街ムンへつながる2ヶ月の道だと聞いた。これは香料のムースクを交易するルートだからムースクロードといったところか。そのルートは王都のすぐ南にあるムンド村から、早速分岐してしまうらしい。俺が転生したジャスランの森はこのムースクロード沿いにあるから、今回は近づくことがない。ムンド村を過ぎれば、完全に未知の領域ってことだ。未知の領域に商隊の仲間だけで踏み込んでいくんだな……、ちょっと心細い気がする。


俺はムンド村の尼僧ヨアンナを思い浮かべる。ソーナに似たところのある妖精族の女性だが、会うのは20日ぶりくらいだな。長いような短いような時間だ。もし話を聞ける時間があれば、この交易路のことも訊いてみたい。


「カレ村までがブトゥーリン王国の領域で、ここからしばらくは空白地帯になる。交易路としてはかなり治安の悪い地帯ね。で、約30日ほど西南にすすんで、ここ、川沿いにあるヨーステンの街に出る。ヨーステンは自治領といえば聞こえはいいけど、まぁ、無法者の街……」


「あら、わりと秩序はあるわよ。そういうところのほうが、掟の拘束力が強いから、ね」


そういってララが弁護する。ここはソーナのいうことの方がなんとなく説得力がある。ララの言っているのは、来訪者が見るからに強そうだと、町の人もまともに扱う、ってレベルの話じゃないかな。王権の及ばない土地って、それこそ百傑百柱個人の武みたいな、力がすべてな場所じゃないかね……。


「ヨーステンでどうにか補給をして、こんどは難所のパラポネア遺跡の礫砂漠を抜ける。ここは小さなオアシスを経由しながら移動して、60日ってとこかな」


「うまくいけば、ね」


ララが遠い目をする。なにやら思いを馳せている。めまぐるしいね、なんか。

しかし、どれだけ難所なんだろうな。俺には想像するしかないが、礫砂漠と言うことであれば地勢は想像できる。水のない暑い土地を60日か。たしかに難所だ。


「パラポネアを抜けるとドザの監視所に出る。ここだけはウーナンダ義寧国の西端になっていて、短い期間で入出国を繰り返すことになる。なにか紛争が起きていたら、巻き込まれて足止めされるかもね。なにしろブトゥーリン王国とは戦争中だから。……で、ドザの監視所からさらに南、マルム村、カーム集落を経由して港町ピリクカカン。道は比較的整備されているけど、それぞれ距離はけっこうあって、全部で60日。そこからは船を調達して一気に南下して、都市国家カイアクマリに到着する。船路は40日ってところね」


「ええっと、ムンド村まで15日くらい、カレ村が20日、ヨーステンまで30日、パラポネアまで60日、ドザ、マルム、カーム、ピリクカカンで60日? 船路が40日でも、225日だよ? 1年は、ああー……」


やばい、1年が何日だか知らなかった……。


「ドザを抜けるのに30日はかかる。そこからピリクカカンまで60日よ。だから、単純に足すと255日だけど、補給につかう日数を足したら、335日でも足りないくらいね。天気で足止めされることもいくらだってあるんだから」


と、ソーナはあきれた顔をして言う。


「だ、だよね」


1年は335日か。知らないんだからしょうがないじゃん。


ソーナの垂らした水滴の地図は点と線でしかないが、王都からムンド村までの距離から、ある程度ミスリルオーアロードの広大さが想像できる。ソーナの胸元の1滴から、道ははるかテーブルの反対、さらに西へ座席1個分くらい離れている。ゴールのカイアクマリは俺の懐に位置している。


遠い、遠いな。

たぶん、この星の赤道をまたいでいる。


これはなんて言うか、何人無事に帰れるかわかったもんじゃない、ってくらいのハードさじゃないか? しかも、ひょっとして、復路はミスリル鉱石を馬車に積んで帰るとか? それって現実的かねぇ。チキュウのシルクロードの交易で鉱石積んで帰るとか、あり得ないと思うんだよね。コショウとかそれこそシルクならわかるけど。いや、軽そうだからさ。しかし、鉱石では……


「まさか交易品はミスリル鉱石なの? それって、すごく重くてかさばると思うんだけど?」


「ミスリルだから重くはないわね。でも、まぁ、カイアクマリかピリクカカンで精製することになるのは間違いない。かつては精製するための技術が現地になくて、重い鉱石のまま各地に運んでいたのよ。そのせいでミスリルオーアロードは、死の交易路なんて呼ばれた時代もあるの」


と、ララが教えてくれる。


「精製してミスリルの地金にしたとして、もうけが出るほど持って帰れるのかな?」


「あたりまえじゃない。しばらく途絶えていた交易路だけど、ミスリル地金の高騰がひどいから、かならずもうけは出るわよ」


ソーナがちょっと怒って力説する。たぶん、カトーの計画に難癖をつけられたのが気に入らないのだろう。気持ちはわかるが……。


「いっておくけど、あんたは奴隷なんだから、選択権はないわよ? ララはどうする? あなたは契約を結んで同行する傭兵なんだから、嫌なら断れる。自信がなければ、それか、儲からないと思うなら王都にとどまることもできるのよ?」


「私は行くわ。カナエとソーナと、皆が行くんですもの。残る理由がないわね」


「そ、そう。じゃあよろしくね。あんたも、いまからしっかり働くのよ」


「う、うん」


よく考えてみれば、俺は糞女神からカトーに剣術を認められるというミッションを言い渡されているのだし、そのためにオッスと模擬戦をする約束もしている。嫌も応もないな。ここでカトーから離れてしまったら、テニスちゃんたちに討伐されるんだから。たぶんだけど。


それに、俺にはあいかわらず、自分を喰わすことができるようなジョブがない。あ、冒険者ならひょっとしたらやっていけるのかもしれないが、ララもソーナもいないなかで、衣食住のぶん金を稼げる気が微塵もしない。稼げても続かないな、すぐに怪我をしておしまいだ。ということで、身についた職がない。よって、しょせん、ソーナの言う通り、奴隷としてついていくしか道はない。

なんだ、悩むことなんてなかったな!


……


……


やるんなら成功させなければならない。むしろ、ミスリルオーアロードを辿る途中で、5万シルト稼いで自分を買い受けるくらいの気概じゃないとな。オッスもぎったんぎったんにしてやろう。そうそう、フンコロガシが大好きなディナクのやつもいたっけな? まぁ、王都でドジ踏んで死んでなければだが。あいつにソーナを任せるわけにも行かない。

行かない理由よりも、行く理由のほうが遙かに多い。

よし、決まりだ。覚悟を決めよう。


「わかった。僕も行こう」


「だから、選択権はないって言ってるでしょ」


「わかってる。様式の問題だよ。かっこいいでしょう? ちゃんと決意を述べた方が」


「ちゃんとわかってるの? けっこう危険なのよ? 全員が無事に帰るなんて望めないかもしれない」


ソーナは声音をトーンダウンさせて、俺を量る視線を向ける。ちょっと縋るようなところがある。強気で必要であることを訴えながらも、皆が協力してくれるかどうか不安に思っていたに違いないな。そりゃあ、そうだろう。危険な交易行についていかなくても、この街で生活していけるメンバーはたくさんいる。ララなんてその代表と言ってもいい。あ、俺は無理だけど。


「カトーの商隊に必要な交易なんでしょ? 裏の事情を教えてくれたらもっとうれしいけど、そこは仕方ない。ひろって世話してくれた恩もあるし、いろいろな街を見られるチャンスだから、僕は異論ないよ」


「そう……。ありがとう」


よし、ソーナちゃんの赤面お礼、久しぶりだな。

最近、ほかの女ばっかりかまっていたから、そろそろソーナちゃんの方を向かないといけない。いや~、モテる男はつらい。全方向忖度だぜ!


それにしても……、この街に帰ってくるのは早くて2年後か。俺は13才になっている。まぁ、なんだな。南門兵士とか、冒険者ギルドのアンナ・マリアとか、限られた人としか繋がりをもてなかったけど、そこは僅か10日ぐらいの滞在だったわけだから、しかたないか。せめて、町娘の何人かと再開の約束でもして、恋路に分け入っていきたかったが……、ふむ。まだ数日はあるか。


「じゃあ、早速なんだけど、カナエとララに揃えてもらいたい物資があるの」


あ、そうですか。


「うん、何でも言ってよ」


「ありがと。ここにリストがあるんで、一式ね。あ、これは途中の村々で売却する交易品だから、私も一緒に行って品質を確かめるから」


「そういったものは目利きの人に選んでもらった方がいいんじゃないの?」


俺は気になって訊く。水とかパンだって、日持ちのことを考えたら、自分で選ぶのはなんだか不安だ。


「私はこれでも商売のことについて、ちょっとは勉強してるんだから。その辺は私に任せなさい」


おお、これはたのもしい。俺はリストの品目に目を通す。そこで、あれ? と、思い出したことがある。文字、読めないじゃん。これもそろそろどうにかしないといけないな……。

仕方がないので、いちばん数量が大きいものを指さす。


「これとか、どんな品目? けっこうな量を仕入れるみたいだけど」


「ん? これは、バックラムね。樹脂で固めた麻布。南の国では鎧のつなぎとか、服の襟とか、樽の縁とか、いろいろつかうのよ。ブトゥーリン王国の主要な輸出品のひとつになってる。まぁ、本当に目利きが必要なのは宝石やガラスの装飾品、タペストリーなんだけど」


「なるほど」


バックラムか。シルクロードで西洋世界から東洋世界へ輸出されていた品目とかぶるところがある。これはけっこう、俺の理解の助けになるな。


「いつ市場へ行くの? 明日早速いって、買いあさってくる感じ?」


「いきなり店先に行っても置いてないわよ。大店の商人に会って、倉庫にどれくらいあって、その品質がどれくらいか、ここはお互いに勝負所でもあるんだけど、そのあたりを探り合って契約する。品物のうけとりは後日に荷車で回収して回るから、そのときに品質もわかるって寸法ね」


「信用が大事なんだな」


「そう。だから、目利きの修行がっていうのは大事は大事だけど、いつも取引している大店で買えば、そうそうおかしなものは掴まされないんだけどね」


ソーナはそう言って茶目っ気たっぷりに笑う。俺とララが同行をあっさり申し出たこともあってか、気が軽くなったらしい。そうなるとこのハーフ妖精族の悪魔っ子は、たしかに小ずるいかわいさがある。てか、チキュウで言えば小学生から中学生くらいなんだけど、29の俺がまじまじ見てしまうくらい、人目を引く。女性的魅力ってんじゃないよ、これは。

神様に愛された特別製の存在。目鼻立ちの精緻なバランス、生気のあふれているところ、そんな感じだ。


「というわけで、明日は大店の商人に会いに行くわよ」


「じゃあ、今日は打ち上げと明日の元気のために、おいしいものをたくさん食べないとね?!」


待ちかねてララが食事の開始を促す。そうそう、ここの料理もしばらくお預けだからな。

俺は品書きの札を眺めて、ちょっと多めに注文することに決める。


それから、出発する前にいくつかやっておかなきゃならんこともあるな、と、内心でいろいろと計画を始める。



          to be continued !! ★★ →

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