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act.41_俺vs『レザーズ・エッジ』 其の3

「おめぇにもわかんねぇんだな。不思議なもんだ。だがこれははっきりと感じられる。おまえと俺は仇同士さ。ずっとまえからそう予定されている。明日の太陽を拝めるのはどっちかだけだ」


「毛むくじゃらのおっさんと運命が繋がっているなんて、俺は考えたくもないよ」


そう言いながらも俺はガイのいっていることから耳を離せない。

この威力偵察を事前に計画したとき、これほどむちゃな突撃を考えていただろうか?

俺は痛む身体を意識しながら、なぜこんなことになっているのかと、ちょっと疑問に思う。

俺らしいやり方か、俺らしくない事態になっているか、いまひとつ判然としない。


「へ、てめぇえは見かけ通りの年齢じゃねぇな? そのなりで何年生きてるんだ? ひょっとして俺よりも年上じゃないのか? それこそ、ホウシンのズーハオのように、何百年も生きているような?」


「何百年も生きてたら、もうちょっと計画を練って、お前らを襲うさ」


「へっ、……そうだなぁ」


ガイは左手の拳からだらだらと血を流しながら、右手に持ち替えたエストックを構える。

わかってるよ、わかってる。俺を殺したいいんだな。

いるよ、そういうやつ。ニッポンでもそういう目つきで俺を付け狙う助教がいたよ。アホみたいな論文を学会誌に出すから何回もリジェクトしてやったんだよな。途中で俺がリジェクトしてると何でかばれちゃって。そいつが同じ目をしていた。

やることは一緒だな。

俺を狙ってくるやつと、振り払うための意思力、だ。

疑問に思うことよりも、目のまえの為すべき事をやったほうが、人生の道は切り開かれる。


それに俺は楽しんでもいる。

予想していたとはいえ、こんなに自由自在に身体を動かせることにだ。


使い慣れた棍棒の柄を強く握る。

シャーリーの無骨な肌。俺の掌にがっちりと馴染んで、いつでも会心の一撃が放てそうだ。

俺は不敵な笑いを浮かべてガイを見る。舌なめずりをしてやる。

腰を深く沈め、前傾姿勢になる。

シャーリーと一体になった気分がして、ますます楽しくなってくる。ドーパミン、どばどばでてるな。


ガイが笑う。

無造作に前進してくる。ブルドーザーみたいだ。だが、直線的ではない。おそらくはおっさんの冒険者としての経験を全力でぶつけてくるだろう。

俺には武芸など全くない。しかし、ここに至っても恐怖を感じてない。


楽しい。

楽しいのだ。

このエストックをもった男を倒すことが。


エストックが高速で振られる。

白熱が瞬いて、視界の端を焼く。

一振り、二振り、5,8,10,……


ふたたび木片や布きれが辺りに飛び散り、その中を筋肉の塊が突進してくる!


この筋肉っ! 俺は散らばった板材から1メートルぐらいの破片を光の中心に投げ込む。

板材は空中で3回角度を変えてから、粉々になって辺りに飛び散る。


駆けだしていた俺はエストックと板材が衝突した角度を目に焼き付けている。

そして……、エストックを狙って、シャーリーを構える。


ここだっ、とタイミングを計ったときに、ガイの体勢が僅かに変化する。

閃光の軌道が捉えられなくなり、俺はなにかに囁かれるようにして頭を傾げる。


ツピュ!


頬の横を閃光が通り過ぎる。耳たぶの辺りが熱くなり、後ろ髪の何本かがはるか後ろに引っ張られる感覚。

俺はそれがなんなのかすぐにはぴんとこない。

また囁かれるようにして、胴の辺りを僅かに曲げて空間を作る。

そこへ再び光の束のような光線が走っていく。

ちりちりと脇腹の皮膚が熱を感じて焼ける。遅れて微かな風圧が過ぎ去っていく。


突きだこれは! 俺は合点がいき背筋に寒気がはしる。


攻めに行くタイミングを失って剣風を避けて後退する。が、その動きを察知されてガイがはなつ光の軌道が、俺を包み込むようなお椀型に変化する。

じりじりと後退し、踵が宿屋の壁面に当たる。そこからお椀の縁をどうにかかいくぐって横へ移動すると、ドドドッと、壁面にこぶし大の穴が開く。


血が床にこぼれ落ちて、一発食らったかと焦るが、傷口は先ほどの脇腹だった。

俺は脇をぬぐって、その傷が思ったほど浅くないと理解する。緊張で痛みを感じていないだけだ。


そしてまたガイの剣風が包み込むように周囲に広がっていく。

ちょっとやけくそ美味にシャーリーを振るって、ガイのエストックを狙ってみる、が、何の手応えもないまま、かえってやつの閃光が俺の眼前を通り過ぎていく。

仰け反って避けたものの、頬に一筋の熱い線が走る。びりびりと肉の奥までその痛みが沈んでくる……。やべぇ、このままぬるりとあたまが真っ二つに……。

そんな想像が頭をよぎる。俺はなんとなく斬られた頬の辺りをベロで確かめることもできない。

もちろんあたまは両断されたりしていない。口内も破れていない。しかし、ちくしょう、またしてもけっこう深い。


階段の辺りまで押し戻されて、俺は手すりの木片を、もう一度光の渦に投げ込む。木片はピンポン球みたいに角度を変えてあらぬ方向へ飛ばされる。立ち上った繊維の中から、目をランランと輝かせた丸顔のガイが前進してくる。


もう一つ、と、木片を投げる。ミキサーに放り込まれたみたいに、バシッ、と、弾けて消える。

どうすんだ? これ。


……


……


あ、ジュリー様からあずかった小剣があったな。

俺は悟られないようにしながら、膝を曲げて腰に帯剣された質量を確かめる。ある、たしかにささっている。マントの中に斜めに下げているから、あるいはガイは気がついてないかもしれない。いや、どうかな、それは甘すぎる期待か?

だが、いまはそれに縋ってみるか。


俺は身を翻してガイとの距離を調整する。やつはすぐに追ってくるが、シャーリーを構えると慎重にすり足になる。

いまの動作の中で、斬られていない方の脇腹がかすかに小剣の握りに触れた。まちがいない、マントの下、左手のしたにあの赤い鞘に収まったショートソードがある。

ジュリー様が祖母に渡されたとかいう剣だ。おそらくは何かの危機に追い詰められたとき、身を汚される前に自害する為のものだろう。それをあっさり俺に預けたジュリー様も相当だな……。


しかしいまはそれが状況を打開する鍵になるかもしれない。

シャーリーとの二刀流でいくか? それとも……。


俺はにじり寄って、ふたたびエストックを狙うそぶりを見せる。さっき同じ戦法をとったばかりだから、ガイのやつもそうは油断していないだろう。どうくるか。

横への移動を加速させ、追ってくる閃光を避けながら俺は壁を蹴る。スライディングをして剣風の射程に入り込み、切っ先を紙一重で避ける。そこへやつの腕の動きが僅かに変化して……、閃光!

半身を後ろにしてかろうじて躱す。もう、い、っぱつっ! シャーリーで何とか軌道を逸らす!

棍棒とエストックとが激しく衝突して、両者の腕の動きとは違うベクトルで弾かれる。


い、ま、だぁぁぁぁ!


俺は下げた半身からすばやく小剣を抜いて、ガイの胸の辺りに突き出す。その場で振るってもぜんぜん届かないから、身体ごと胸に突き刺さろうとするかのように突入させる!


ガイの左膝が丸太のように突き出される、俺は思わず、膝頭に小剣を突き立て、背後へ1回転する。

あさいっあさいっあさいっ! ガイは一瞬の静止から回し蹴りの姿勢をとる。こりゃまた、丸太が崖を転がってくるような……っ。

大質量が頭頂をかすめて、やつの足蹴りが過ぎていく。

俺は曲げた両足をバネにして、やつの左腕の付け根に、下から小剣を突き上げる。


くらえぇぇぇ!


白銀の刀身が防具の抵抗を感じさせないまま、ガイの胸に吸い込まれていく。

そして、やつの背の見えないところから貫通し、切っ先が天井へ突き伸ばされる。


やっ、あがっっ!


その瞬間、俺は側頭部に激しい衝撃を……っ……


……


……


どぉ、どこだここはっ! と必死で目を開いて、立ち上がる。


暗い! 目をやられたか?!

いや、何か光ってる。あれは、なんだ?!

ガイの閃光か?

ちがう、ちがうっ、何か遠い。

やつはどこにいる? どこだっ!


俺は慌てて周囲に視線を走らせる。

背後、家が並んでいる、人の気配はない。じゃあ正面かっ!

と、めまぐるしく確認するが、ガイの巨躯は見えない。


これは、これは……、つ、ぐあ……、宿の外まで蹴り出されているっ?!

五感が広い空間を感じ取って、鳥肌が立つ。


俺が見た明かりは星明かりだ。宿屋は、正面。入り口がさらに破壊されて、てか、俺が蹴り出されて粉々になってる。


やばい、広い空間にでてしまった。ガイは、やつはどこにいる?

俺は暗闇に目をこらして、気配を探る。

いない、いない、いない……。

ちきしょう、気絶してたのか? どこへ行った?!


そのとき、破壊された宿屋の入り口からのそりと人影が現れる。


……ガイだ。

首を傾げて棒立ちになっている。

なんか、左肩辺りから吹き上げてる。


木くずみたいのがぱらぱらとやつの背後に落ちている。

絶え間なく。


ガイの顔は逆光で見えないが、何となく目の辺りに輝きを感じる。その光はどこかグローリー・オブ・パヒュートの輝きを感じさせる。混じりけのない光だ。


ガイが停止する。

ゆっくりと膝をつく。

エストックが滑り落ち、前のめりに倒れる。突き出た小剣の根元から、間欠的に血しぶきが吹き上がっている。


お、おい。ガイのやつ大丈夫か?

そう思って近づくが、途中で、そんな発想がおかしいことに気がついて足が止まる。

それでもよろよろとふらつきながら、ガイのそばまで進んでいくのをとめられない。これでワナなら一発で潰されるな、とか思いつつ、やつのあたまの辺りにしゃがみ込む。


目が開いたまま汚れた地面に顔を沈めている。

死んでる、と、一目でわかる。びくびくと脚が動くが、その反応はしめられた魚を感じさせた。

人を殺したか、と、遠いところのように感じる。

人を殺した、と、頭上から囁かれたように感じて、立ち上がり、見上げてしまう。


3つの月が緑色に光っている。

妖しく揺れて見えるのは動揺のせいなのか、脳しんとうのせいなのか、それとも……



          to be continued !! ★★ →

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