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act.32_ウァセルフ大聖堂

ウァセルフ大聖堂はライフストリーム教会の総本山にあたる、と、ジュリー様が教えてくれた。

聖堂は天然の岩塊の上に立てられていて、V字にくり抜かれた細い山道が入り口へと続いている。当然、その参道の入り口には兵士が詰めていて、中へ入る人間を確かめている。

列に並び身元確認を待ちながら、ジュリー様が俺の横に横に来て言う。弟のように思っているんなら、そのうち火傷するんだぜ?


へぇ、と俺は感心しながら前方ななめ上にそびえている聖堂を眺めるが、ふと、列の中に見知った顔があることに気がついた。

あいつ、冒険者ギルドで会ったデブ……、ガイっていったか? 冒険者ギルド前で肩すかしイベントを食らわせてくれた、髭の奴らじゃんか。

こんなところで、奇遇……、なわけないか。

なにか俺たちに関連してるんだろうな。言わねーだろうけど。


「おおーい、ガイ! ガイじゃないか!」


俺は突然大きな声を出して、髭のおっさんを呼ぶ。

ガイは振り返って、迷わずに俺を見る。一瞬だけ嫌そうな表情を浮かべるが、俺が完全に表情を見ていることがわかると、無理矢理な笑顔を浮かべてこっちに手を振ってくる。


「おおぅ、カナエじゃねーか。奇遇だな。いや、ほんと……」


馬鹿言ってんじゃねーよ。とはいえ、なんでここにいるのか知っているわけではない。お供の3人もどこにいるのかわからない。ここは調子を合わせるか。三文芝居で面倒くさいが。


「貴族街まで仕事かい? いい仕事だったら、僕にも噛ませてくれよ!」


「んん。いや、ぜんぜん儲からんし、危険でな。……、ほら、他の奴らも置いてきたくらいだ」


いやー、絶対どこかにいるだろ。


「なーんだ。それはたいへんだな。俺はほら、仲間と見学にきたんだよ!」


「……見学か。そりゃあ優雅だな! そこにいるのは貴族様に見えるが、その方たちも仲間なのか?」


「そうだよ! 普段は冒険者なんだ!」


「お、おう……そうなんだ……」


ソーナとモウラが俺の肩をつんつんとつつく。


「「……さすがにそれは……」」


「いいんだよ、適当で。どうせ何事か事情を知っていてここにいるんだから」


「そうとは限らないでしょ。わざわざ怪しまれるようなことしない方がいいんじゃない?」


「そのとおりです。周りの目もある」


言いながらモウラは慎重にあたりに目を配っている。真剣な顔のモウラに俺は思わず見とれそうになるが、うしろからソーナちゃんにおもいきりつねられる。い、いでででで……。


「なに見てんのよ。状況考えなさいよ」


いや、なんか、黒い肌に目が引きつけられちゃうんだよ……。だがまぁ気を取り直して……。


「まぁ、がんばれよ!?」


「おう、おまえもな」


と、適当な挨拶でガイにさよならする。やつはなんとなく列を離れて、人混みに紛れていく。大聖堂に入るんじゃなかったのかよ。ますます怪しいな。

どこかで子分と合流して、何か作戦を練るとかかな。いや、まぁ、何の関係もないかもしれんが。


すぐに俺たちが検分を受ける順になり、ジュリー様は小箱から文書を出してそれを門番に見せる。門番は文書を詳しくみたあとに、使いの者を聖堂へ向かわせて、しばらく待つように伝えてくる。

俺たちは二〇〇人くらいの参拝客やら僧職の姿やらの中に立って、注意深く周囲に目を配る。この人混みの中で護衛をするというのは、なんとも神経が疲れる。

だが、先ほど感じたような監視の視線は感じられず、ガイと子分も姿を現さない。油断はできないが、これといって危険はないようだ。


やがて使いの者が戻って、俺たちは中へ入ることが許される。

再び大聖堂へと進み始める。今度は登山道のような坂道だ。


いかにも掘削して整備した急坂を登りながら、山肌のそこかしこに目を配る。崩れ落ちた石柱や、ずっとむかしに石像であっただろう破片などが、灌木に紛れて転がっている。えらく歴史の深そうな場所ではある。

大人が5人くらいどうにか並べる歩道には、よくわからない材質の石材が敷き詰められている。砂岩を整形したような、滑らかでかつフィット感のある表面をしている。

昔、チキュウに住んでいた頃に、中国の万里の長城へ行ったことがあるが、そこに使われていた石材がちょうどこんな感じだった。雨で濡れた斜面でも、スニーカーのゴムが滑らないのだ。色合いは違うのだが、城壁に使われている材料にも似ているな。やはりコンクリートかねぇ。


1時間くらい歩いただろうか。壮麗な装飾が施された白亜の門が見えてきた。装飾は植物と動物とで施されていて、神だと一目でわかる人物はみあたらない。ライフストリーム教会はホシつまり星そのものをご神体と考えているのだから、ここに人間的な神様はいないのだろう。

軽装の鎧にサーコートを着た門兵が身じろぎもせずに登山道を見張っている。俺たちにはまったく無反応だ。良く訓練されているというか、非人間的ではあるな。こいつらももしかしたら、ウィタ騎士の訓練生みたいなものなんだろうか。錬士の下に位置づけられるとか……。まぁ、奴隷市場で出くわした2人のウィタ騎士、ザキチュナとメリィラみたいに、水色の魔素をオーラみたいに立ち上らせていたりはしない。そんなんがごろごろいたら、この世界に戦力バランスみたいのなんて成り立たないものな。


聖堂内に入ってからはジュリー様とモウラが先立って、受付担当らしき聖職者と打ち合わせを始めた。聖堂内に入りしばらくしてから、どこからともなく現れた男だ。歳は40くらいだろうか。痩せていて穏やかな顔をしている。ちょっと病的に見えるが、狂信的な色は見えない。ジュリー様の目的が何であれ、聖堂内に敵対勢力はいない気がする。


俺たちは奥にある休憩室に導かれる。


「ここでしばらくおくつろぎください。後ほど、ご宿泊していただく部屋に案内いたします。……ジュリー様はこちらへ」


ジュリー様はモウラと、そのあとに俺たちに頷いて、男と一緒に部屋を出て行く。使者としての仕事があるのだろう。

ジュリー様がでていくとモウラはもはや何の関心もない、とばかりに出窓の桟に腰をかけて外を眺め始める。南門の兵士たちはそれぞれ床に陣取って、仮眠の姿勢を取り始める。ある程度時間がかかると覚悟しているのだろう。てけ。この時間はだれも護衛してないがいいのだろうか?


「聖堂内でジュリー様に危険はないのか?」


「ウァセルフ大聖堂内でジュリー様が命を狙われるなど……あろうはずもない」


モウラは即座に否定してつばでも吐きそうな勢いだ。不敬だとか、そんな感じだな。ちょっと失言だったらしい。まぁ、教会の意思に反して聖堂内でもめごとなんて起こしたら、ウィタ騎士が襲ってくるんだろうし、なかなか覚悟がいるよな。うむ、不可能ではなく、覚悟の問題なんだ。


「ライフストリーム教会が信用できるという常識はよくわかるが、命を捨てて誰かを殺そうと思えば、たいていのことはできてしまう。僕はこの仕事をきっちりと遂げたいからね。すこし、散歩でもしてこようかな」


「ユーリンデ様を追うの?」


「そういうこと」


モウラは厳しい目で俺を睨むが、やがて視線をそらせた。勝手にしろ、といったところだ。


「私も行く」


「私も行くわよ」


ソーナとララは同行してくれる。3人ぞろぞろと歩いていたらちょっと不審かもしれないが、まぁいいよな。戦う気はないんだから。

俺たちは頷いて部屋を出る。チェスが眠たげにこちらをみていたが、着いていく気はないらしい。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

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それにしてもこの聖堂をつくっている石材の不思議さといったらない。遠くからみると大理石に見えるんだが、近寄ると緑の筋が複雑に巡っている。よく堆積岩などで、火山噴火などによって堆積した層が、ふたつの時代を分けるかたちで入り込むことがある。しかし、この石材は違う。地層というより異質な物質が網の目のように構造をもっていて、そこに白色の石材を溶かし込んだみたいだ。見た目の質感はぜんぜん違うが、鉄筋コンクリートの鉄筋を複雑に編んでつくった感じだ。


近づいて撫でてみるが、平滑でつやすらある。研磨の技術も並大抵ではない。この異世界にポリッシャーみたいな道具があるんだろうか。いままであちこちを歩いてきて、電力を使っているのをみたことがない。となると、そんな道具があるとして、動力は何なのか。いや、まてよ……。


「高熱で表面を溶かすんだと聞いたことがあるわ」


ララが横に立って教えてくれる。


「なるほど……、石材の表面を高熱で溶かして、平滑にするのか……。それにしては恐ろしく均質だね。すごい技術だ」


「かつてはこの石材が教会の貴重な資金源になっていた時代もあるのよ。いまでは失われてしまった術式だけど」


「術式? 魔術で燃やしていたということ?」


「ええ。おそらくは、風と火の魔術をうまくコントロールして、高温の炎を当てていたのね」


「う~む。そうだとしてもこの均質さは信じられないレベルだ……」


俺は中庭を囲う廊下の壁面、天井が高く暗がりに消えていく石材の表面を、あちこちとなで回す。どこも均質で多少の膨らみはあるが、トガリや空隙がない。


「というか、なんであんたは壁ばっかり見てんのよ……」


ソーナちゃんがあきれ顔で俺を見る。しょうがないだろ、このすごさがわかってしまうんだから。

ララは失われた術式といっているが、このレベルの技術が、はたして影も形もなく姿を消すものかね。どこかに伝承されている気もする。みつけたい、その技術を目の当たりにしたい。ライフストリーム教会のどこかに、聖堂が建造された頃の文書だとか、残ってるんじゃないか? 俺はそういった図書があるものなのかララに訊くが、わからない、と首を振る。そりゃそうか。ララは物知りだけど、商隊の傭兵だもんな。


だれか教会の関係者でもいないかと見回すが、誰もいない。日の光を浴びてさんさんと輝いて見える中庭の植物と、それを囲う白亜の回廊、いわゆるアーケードってやつだ、それから向かいの屋根の上には、背後に高い拝殿のような建物が連なっている。キリスト教の聖堂は平面で見たときに十字架の形をしているというが、この聖堂はもちろんそんな形をしていない。全体を眺めるかじっくりと歩いてみてみないとわからないが、建物としては五稜郭みたいな星形要塞の形をしているんじゃないか。星形のそれぞれの頂点から回廊が延びていて、あるいは塔が、あるいは拝殿が配置されている、といった。

俺たちがいるのはそのうちの拝殿からさらに伸びた回廊の先にある、ちいさな庭だ。この庭を囲んで来客用の休憩室がある、ってところだ。


だからこのあたりに聖職者はあまりいないのだろう。

俺は庭を横切って、拝殿へ続く回廊を進む。回廊もまたキリスト教の聖堂でいう鐘楼のような構造をしてて、アーケードと身廊を備えている。床には多少の落ち葉が揺れているが、掃き清められていて清潔だ。よくもまぁこれだけの広さの建物を掃除できるな。俺はそう思いながら100メートルはあろう回廊の先を眺める。距離があるから、回廊はだんだんと狭まって光のあふれる出口が最後に控えているみたいに見える。こういう効果もあるいは計算されたものだろうか……。と、その光り輝く出口に人影が現れる。ん? あれはいわゆる小人族ってやつか? 人影の背丈が妙に小さい。


前方から来る人影にソーナも気がついて、歩みを遅くする。みつかったらやばいんじゃないかと、考えていたのだろう。

まぁ、心配なら俺の後ろに隠れていろよ。そういうつもりで後ろを振り返りウィンクをする。ソーナちゃんは疑わしそうに目を細めるが、俺の背後というポジションで落ち着いたらしい。ララはいつもどおりにこにこして、俺の半歩後ろを歩く。


前方の人影は2人3人……と増えていく。

8人目が光の中から現れて、その後ろからは、これで打ち止め、って感じに肩の丸い成人人族の姿が現れる。白いローブを着ていて、いかにも引率の先生じみて見える。


ということは……。



          to be continued !! ★★ →

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