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act.27_俺vs南門兵士 其の1

「護衛の対象は隣国アスファ聖王国からくる使節団だ。侯爵の代理人とその家族だと聞いている。本来であれば隣国の使節団は我々王国の兵士が警護するが、今回の訪問は非公式なもので、冒険者をまじえた6人で警護する。外交文書などを携えたものではないから、盗難などは大きな脅威ではない。あくまで対象の身の安全を図るものだ。使節の目的については我々は考えなくていい。

明日の朝にこの南門に到着する使節団を、目的地のウァセルフ大聖堂までおくり、滞在中および二日後の復路は同じくこの南門までの警護となる。契約期間は3日間になる。その間、使節団を警護し無事に城門まで送るのが依頼内容だ。ここまで何か質問は?」


「身を守る対象は何人だ?」


「2人だ。侯爵の代理人、第6息女ユーリンデ様と、側付きの女、名前はモウラといったか。2人を無傷で帰すことが最低条件だ」


「お2人は武芸のたしなみは……」


俺が訊くとダキシャラは肩をすくめてみせる。


「ま、最低限の護身術くらいだろうな。さすがに無手で異国に乗り込んでくるとは思えないが、剣を下げてはいまい。ああ、魔術は使えると思った方がいいだろう。だが、戦闘用のなにかだとは期待できない。というか期待するな」


「ふむ……」


俺たちはそれぞれ考えに沈み、無言になる。

ダキシャラはしばらくそれを見守ったが、やがて、なにも質問がないと思ったのか、「よし!」と、手を打った。


「どうする? 決めるのはおまえたちだ」


ララとソーナ、2人の顔を見ると、それぞれ温度の違いはあるが、異存はないようだ。俺は向き直ってダキシャラと目を合わせる。


「わかった。引き受けることにする」


「そうか! それはよかった。刻限も近づいているし、俺としてもこれ以上冒険者の選定に時間をとられたくなかったんでな。それで、南門守衛府からはこの3人をつけることにする……、おい! チェス、エルムト、デルトガルを呼べ!」


ダキシャラが執務室から声を上げると、廊下から「はっ!」と返事が上がる。やがて遠くから靴音が響いてきて、3人の兵士が入ってくる。2人が中肉中背の男で、30代だろうか、熟練した動きをしている。もう1人は魔術師なんだろう、丈の短いマントを羽織った若い女だ。


「よし。ちょうど3対3だな。この3人が冒険者ギルドから紹介された護衛のサポートだ。おまえたち3人と組んで、アスファ聖王国からの客人を警護することになった。短い期間だが、連携して仕事をきっちり完遂しろ」


「「「はっ!」」」


3人は声をそろえて切れのいい返事をする。それから順に名乗って自己紹介をする。ロングソードの男がデルトガルで、短剣とダガーが斥候のエルムト、魔術師がチェスだという。

俺たちもそれぞれ名乗り、いちおう、得意の戦い方も話す。俺はしょうがないから斥候兼前衛のメイサーだと説明した。


「こんな子供がメイスを? 重さでバランス崩すんじゃ……。斥候というのはわかるけど……」


チェスは説明を受けて戸惑った表情を浮かべる。


「なんだ、俺の選定眼に疑問でもあるのか?」


それを見咎めてダキシャラがチェスに難癖をつける。まぁ、なんだ。チェスさんの疑いもわからないではない。俺、棒きれもった浮浪者みたいなこどもだもんな……。だが、マジになったらすごいんだぜ?


「そ、そういうわけではないですが……。しかし、子供が2人もいるパーティですと、なにか害意をもった相手がいたら、舐められるのでは?」


「ふむ……」


ダキシャラは顎に手をやって、チェスをじろじろと見る。チェスは緊張して棒立ちになり、身体をこわばらせている。ずいぶん、恐れられているんだな。気にくわないやつに制裁でも加えるんだろうか。


「ま、おまえのいうことにも一理ある。子供2人が護衛として侍ってたら、害意のないやつでも狙ってやろうかと考え始めることがあるかもしれん。それを跳ね返すだけの力が、こいつらにあるっていうのが、俺が承認した理由でもあるんだがな。それだけじゃだめかね?」


「はぁ……」


チェスは不満そうだ。

すると、おなじく棒立ちになっていたデルトガルが口を挟む。


「我々とこの冒険者パーティとで模擬戦を行えないでしょうか? お互いの実力がわかり、警護の任務にどれだけ通用するか、理解が深まると愚考いたします」


「愚考ねぇ……」


ダキシャラは笑顔になってデルトガルを一瞥する。それから俺たちの方を見て、「とはいっても、このコリー族のねぇチャンは、試してみなくても戦えるってわかるだろ? で、ソーナは回復術士だ。となると、試される対象が少年しかいない。少年だけおまえさんたちと戦うことになってしまうが……?」


「別に構いませんよ」


俺は即答した。はっきりいってこの場にいる兵士たちの立ち居振る舞いを見ていて、攻撃を受けてしまう気がしない。これもある種の超感覚なのかね。お互いの実力差みたいのが肌で感じられる。

ダキシャラと警戒し合った中で戦ったら、正直どういう結果になるかやってみないとわからないが、デルトガルとエルムトなら問題ない。人間との戦闘経験をもっと積んでみたいってのもあるからな。


「おお、そうかね。ではやってみるか、模擬戦。少年に対して、おまえらが順に当たってみろ」


え? 魔術師もか? それはどうなんだろうな……。


と、俺が躊躇しているなかで話がどんどん進んでいく。皆で外に出ると、ダキシャラが大声で兵士たちを集める。守衛府の裏に広場があり、城門と守衛府の建物とにはさまれて、市民の目からは隠されている。ここなら兵士たちが集まっていても、サボっているとはわからないだろう。

衛門督の声に引き寄せられて兵士がどんどん集まる。50人くらいいるんじゃないか? これ? ララはあいかわらずにこにこしているが、ソーナは俺に近づいてきて、「ねぇ、これ、だいじょうぶなの?」と余裕のない顔で冷や汗をかいている。


木製の柵をいくらか引きずってきたりして、闘技場のような広場を確保する。その一角にダキシャラが陣取って、木箱の上に座る。なにやら賭札のようなものを握っていて、とりまとめの部下に硬貨を渡したりしている。っていうか完全に賭け事じゃねーか。


俺は思ってもみないうちに大事になっていくのを横目に、身体の感覚を確認して、ストレッチなどをしてみる。うむ。問題ない。これだけ騒々しくなった中心に立っていても、身体が硬くなったりしていない。さすが俺だな! シャーリーを振るい、重さを確認する。ヒュッ! と小気味よい音が鳴る。


「少年! 準備はいいか? 死なない程度の怪我なら、うちの兵士が全力で回復させるから心配するな!?」


おう、死んだらまぁ、しょうがないな。そんときはアケネーだ。俺はシャーリーを掲げて了解の意を伝える。


最初に相手するのはデルトガルだ。長剣を模した木剣を握り、ぶんぶん振り回している。てか、頭に当たったら、脳漿ぶちまけるんじゃね? あれ。


「カナエ君といったか。君も冒険者なら、覚悟はできているんだろうな」


「ええ、まぁ……」


殺るき満々な気がするが……。勝った気になるのはちょっとはやいんじゃないの?


「まったく、衛門督様はどういうつもりで、こんな子供を……」


いいながらデルトガルは無造作に近づいてくる。


「では、第一戦、開始だ!」


ダキシャラの合図でデルトガルは木剣を片腕で一周させて、正面に構える。そのまま一礼し、構えた。

俺はシャーリーを正中にして返礼する。それから身体を小刻みに跳ねさせて、リズムをとっていく。


デルトガルはタイミングをうかがいながらじりじりと前進し、俺は反撃する姿勢を調整してすこし左にずれていく。が、なんていうか、いつでも切り込んでいけそうな気もしていて、正直、戸惑ってもいる。ダキシャラがわりとしっかりと部下の面倒をみている感じだから、そう簡単にはいかないんだろうが……。

デルトガルの太い腕がぐりんと筋肉を動かして、木剣の角度が変わる。む、くるか。


デルトガルの右足が地面を深く捕らえ……、沈み込む!

と、一気に跳躍して距離を詰めてきた!


デルトガルは俺の全身を射程に捕らえて、袈裟斬りに木剣を振り下ろす。

小刻みなジャンプから両足で地面を捕らえて、俺はシャーリーでその攻撃をいなす。風圧をまといながら振り下ろされた木剣はシャーリーの肌をこすりながら、足下へ逸れていく。身体を止めないように素早くバックステップし、ふたたびデルトガルの攻撃範囲からでるとともに、姿勢を低くしながら脇へ回り込もうと走る。


デルトガルは再び得物を高く掲げて、俺を正面に捕らえようと姿勢をずれしていく……、だが、俺のほうが遙かに早い。駆ける勢いのままデルトガルの脇を抜け、背後からシャーリーで脇腹を突いた。


反動で加速しながら俺は前転して振り返る。デルトガルは仰け反りながらも振り返り、木剣を構え直すが、疲れた側の腕は中途半端な位置で止まった。意外とダメージがあったらしいな!


「「おお~!」」


取り囲んだ兵士たちから歓声が上がる。


「なかなかやるじゃねぇか!」


「デル、油断してるんじゃないよ!」


「いや、チビがすばしっこいんだよ、あれじゃ捕らえるのが難しい」


「しかし、ガキだぜ? さすがにな……」


「油断だ、油断。ったく、なさけねぇ」


デルトガルは顔をしかめながらしびれた腕を上げて、両手で木剣を構え直す。

まだやるのか。


「さすがに舐めすぎた。つぎは油断しないっ」


デルトガルの目が鋭さを増して、慎重に脚を裁きながら距離を詰めていく。


次は俺から行くか。

何度も練習を重ねて、すばやく濃くなることができるようになった魔素を左手に集めていく。


「む、魔術を使うか……」


ダキシャラが城外から声を漏らす。デルトガルは俺の動きに気がつくが、口を真一門に結んだままリズムを崩さない。

すっと大きく踏み込んで、両腕の筋肉に力をみなぎらせる。たちまち俺を射程に入れて、木剣を再び振るいはじめた!


右から左への素早い漸撃!

身体を木剣の走り出す方向へ潜り込ませて、軌道から逃れる。デルトガルは俺を視界で捕らえて、素早く木剣を翻させる。

自分の脇に引き寄せながら返しの一撃を放ってくるが、俺は再び小さい身体を背後へ回り込ませ……、おおう、あぶねぇ!

デルトガルは木剣の攻撃を途中で殺し、装甲をつけた靴で背後を蹴り上げてきた。

が、俺はその攻撃も身体を捻り1回転させ躱すことに成功する。その回転力をシャーリーに載せて、がら空きとなったデルトガルの胴へ打ち付けた。


バカンッ!


乾いた打撃音があたりに響く。

デルトガルは身を仰け反らして、地面に沈む。痙攣しながら痛みに耐えて、顔をゆがませている。死には、しないだろう。

まずは1勝だ。


周囲からは怨嗟の声ともつかないため息が漏れる。デルトガルのおっさんに賭けてたみなさん、ご愁傷様、だ。

デルトガルが立ち上がれないのを見届けて、ダキシャラは無言で手を上げて部下に運ばせて退場させる。その挙げた手を合図にエルムトが人垣をかき分けて進んでくる。


「おいおい、デルのおっさん、負けちまったのかよ……」


運ばれていく姿にしばらく目をやってから、エルムトは俺のほうをみる。目つきが鋭く鼻の尖った、顔色の悪い青年? だ。


「油断できねぇみたいだな」


「第2ラウンドといきましょうか」


エルムトは両手に短い木剣を手にして俺に笑いかけてくる。


「こんなガキ相手に模擬戦かよ……、かったるいぜ」


言いながら、広場へ身をさらす。物音1つ鳴らさない、なめらかな所作だ。斥候だけあって、俺とかぶっているところがあるね。本職の動き、とくと見分しようか……。 



          to be continued !! ★★ →

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