act.26_再び南門へ
登録番号 6762 モンスター退治 対象はロングアームの群れ 雇い主 荘園主ドボルザック 報酬10万シルト 期限あり 面接あり
登録番号 6782 モンスター退治 対象はオオグチ 雇い主 西門衛門督 アダラト 報酬2万シルト 期限無し 面接あり
登録番号 6798 モンスター退治 対象は百足 雇い主 荘園主シンガー 報酬2万シルト 期限あり 面接あり
登録番号 6842 盗賊退治 対象は盗賊団『湿原の狐火』 東門衛門督 ラトレイ 報酬20万シルト 期限あり 面接あり
登録番号 6880 辻斬り退治 対象は百傑百柱83位『即斬のフェーン』 雇い主 荘園主ハークネス 報酬50万シルト 期限あり 面接あり
ふむ。まぁ昨日の今日じゃ、あんまりかわらないな。上の2つなんて、そのまま残っている依頼だ。新しく掲示された依頼のうち、百足退治はなかなか有望なんじゃないかな。民間の依頼でこの金額ということは、それほどの難敵ではないはずだ。下の2つは……、なんていうか無理目な気がする。てか、百傑百柱ってひさしぶりに聞いた(見た)な……。王都のどこぞにもあるとかいう、自動的に各分野の百傑を表示するモノリスだ。いずれ見てみたいと思うが、たしか、これに名前が載るようになればテニスちゃんと会えるんだったな。しかし、いまは関係ない。この『即漸のフェーン』とかいうのもいかにも無理目な相手だ。金額的にもあり得ないだろう。
同様に盗賊団退治も厳しい。
衛門督の仕事で20万シルトだなんて、民間では2倍くらいか? すごい金額だ。かなり手強いだろう。
となると、はやり百足……。
そう思いながら討伐以外を見てみると、ちょっといいやつを見つけた。
登録番号 8533 護衛 雇い主 南門衛門督 ダキシャラ 報酬8千シルト 期限あり 面接あり
昨日会った南門衛門督、ダキシャラの仕事だ。
印象のいいおっさんだったし、値段もそこそこ。護衛というのは今日の狙い目じゃないが、まぁ悪くない。強敵に命を狙われている保護対象だったら、もっと高くなる、様な気がするし、そのくらいはダキシャラの情報が期待できる。ダキシャラにしたって、目のいい俺と、回復役のソーナ、武力のララがいれば、護衛としては文句ないだろう。
そう思ってララに声をかける。
「ねぇ、ララ。この南門衛門得の仕事はどうかな? 討伐じゃないけど、悪くない気がするんだけど……」
「そう、どれどれ……」
俺が指をおいた依頼票をララが確認する。
「護衛任務ね……。街から離れない仕事なら受けられるわ。あとは期間が問題ね。私たちは商隊が出発するまでの短い時間しか自由じゃないから、その間に余裕を持って終わるんなら、いいかもしれない」
「出発するのが20日後だからって、10日間とか外出するのは無理よ」
登録の終わったソーナが、冒険者カードを指先でいじりながら顔を出す。
「この衛門督のダキシャラってひとは、昨日も会って印象が良かったんだよ。冒険者を嵌めてもうけを得ようとするような人物じゃない。僕としても、宿の近い南門の長と繋がっておくのは悪くない考えだと思う。商隊が砂漠の街から王都へ入ってくるときも、南門を通るでしょう? どうだろう」
「ま、そういうことなら、このダキシャラさんの話しだいね。内容に無理がなければ、受けてもいいわよ」
「わたしも異存はないわ」
ソーナとララが了解する。
「よし、じゃあ決まりだ」
俺はダキシャラの依頼した護衛依頼の票を抜き取る。
受付のアンナ・マリアは俺の顔を見て、おや?と、片目を上げたが、それ以上の反応もなく依頼票を受け取る。
「雇い主は南門の……、なんだい、またダキシャラの仕事かい。馬が合うんだね。そういうのは大事にしな! 面会の期限は今日の正午だよ。それとこの依頼は3名のパーティを組むことになる。おまえさんが参加するんならあとは2人だが……」
「いや、その心配はない。実はここにいる2人とパーティを組むことになったんだ」
アンナ・マリアの言葉を遮って、俺は後ろの2人を迎える。
「冒険者パーティとしても登録しておきたい。いまできるかな?」
アンナ・マリアは身を乗り出して、ララとソーナを見る。ララの装備をじろじろと見て、ソーナについてはさっき登録するときに見たのか、一瞥して鼻を鳴らすだけだ。
「女2人に、子供のあんたか。妙ちくりんな組み合わせだね。だけどま、パーティの強さは相性だ。あんたがそれでいくんなら、私に否応はないさね。じゃあ、あんたら3人で登録しておくよ。パーティ名はなんだい?」
「『マッスル・マーチャンターズ』」
「……」
アンナ・マリアはなにも言わずににやにやと笑う。登録についてはちゃんとやってくれているようだ。
渡された登録用紙にサインした俺たちはその用紙をアンナ・マリアに返す。アンナ・マリアはそれに勢いよく印を押し、押しつけたまま魔素を練る。てか、この人も魔術使えるんだな……。
「……じゃあ、王都アブス第12冒険者ギルドに、新しいパーティの誕生だ。『マッスル・マーチャンターズ』あたしの名前で承認するよ! 犬死にしないようにがんばんな!」
印を離すと、用紙の表面に電子回路のような光が走り、上半分に書かれた紋章に集まっていく。す、すげぇな、オーバーテク……。
緑のその光は1点に集まり、輝きを増し、俺たちとアンナ・マリアを下から怪しく照らす。
と、光が用紙から飛び出し、空中で踊りながら3つに分散し……、俺たちの懐へ一直線に走る。
俺は避けるいとまもなくその光を胸に受ける。
う、っと衝撃を予感して顔をしかめるが、なんのダメージもない。
目を開けると、緑の光は消えてあたりには平静が戻っている。アンナ・マリアはずるがしそうに俺を見ながら、指で胸のあたりを指してみせる。
それが冒険者カードのことだとわかって、俺は光の走ったあたり、冒険者カードを取り出してみる。
カードには新しい文字が刻まれている。
『【マッスル・マーチャンターズ】カナエ・オオラギ 人族 AGE10 ジャスランの森』
ふむ。
パーティ名が新しく記されたか。まぁそれだけなんだけど。俺は【マッスル・マーチャンターズ】の文字列に指を当てる。すると、カードの文字列が少しだけ上へ移動し、空いたスペースに3人の名前がポップアップする。
メンバー
『カナエ・オオラギ』
『ララ・バララ』
『ソーナ・オロール』
おお、こんな機能があったのか。いそいで他の項目にも指を合わせてみるが、何の動きもない。下位項目がでてくるのはここだけか。それにしても、どういう仕組みになっているのか。とんでもない機能だよな? だれも疑問に思ってないのか?
ララとソーナを見てみるが、同じようにパーティの記載を確認しただけで、すぐに冒険者カードから目を離す。俺が見つめているから「どうした?」って感じで首を傾げるが、それ以上なにもないらしい。仕方がないから小さく頷いて再びアンナ・マリアと顔を見合わす。
「ちゃんと追記されたね。じゃあ、今回の依頼はあんたら『マッスル・マーチャンターズ』に任せるよ……」
いいながら前回と同じように依頼票と台帳を付き合わせて、俺たちのパーティ名を指定の箇所に記載する。
俺たちはその作業を見届けて冒険者ギルドを後にした。
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「ん、む? またおまえがきたか!」
ダキシャラは俺を見ると破顔して笑う。俺もこんなに早くこいつの顔を再び見ることになるとは思ってなかったよ! てか、昨日仕事が終わってからちゃんと家に帰ってるんだろうか? ダキシャラの灰色の髪の毛が脂と埃ですこしぱさついている。仮眠して何日間か当直になるのかもしれない。だとすると今日はかなりお疲れのところかな。
「南門衛門督ダキシャラ殿、昨日以来おせわになっています」
俺が頭を下げるとダキシャラは、シャシャシャッ! とあいかわらずの悪魔じみた笑い方をして相好を崩す。
「ま、そう固くなるなよ。俺もおまえらもそんなに違いはない。この薄汚れた街をうろうろして、正義という名のなまくらをかざして小悪党を追いかけ回すのがせいぜいさ……。でだ、冒険者ギルドからここへきたということは、今回の護衛依頼はおまえと、うしろの2人が受けるということでいいのか?」
「はい。僕たちはパーティを組んでいまして、名前は【マッスル・マーチャンターズ】といいます。右のコリー族がララでリーダーを勤めています。左は妖精族……のソーナです」
俺は何気なく種族名で紹介してしまったが、すぐにまずったとおもった。
ソーナはハーフであることを気にしているから、この紹介は気分が悪いだろう。妖精族、といってしまったのも、俺の勝手だ。後で謝らないとな。振り返り、すまん、と、ソーナに頭を下げる。ソーナは目を皿にして睨むが、それほど怒ってはない。しかたがない、といったところか。
ダキシャラはそんな様子を眺めていたが、ま、気をつけるんだな、と、訳を知ったように忠告してくる。俺から見ればソーナは妖精族そのものだが、ダキシャラには彼女が人族と妖精族のハーフだとわかるんだろうか? わかるんだろうな。
俺にはこの世界の人々の、骨格的な類型というのがまだわからない。前の世界では、そりゃ、日本人顔と大陸系の顔の類型について見分けることができた。そういうのは、たとえばイギリス人に日本人と韓国人の見分けがつくかと訊くようなものだ。その人がどちらかの国に長年住んでいたなら、ある程度の類型を見て取ることができるが、そうでなければわからない。
俺にはソーナは妖精顔、というかふつうの人族と異なることがわかるが、そこにどこか人族的な要素が多く含まれている、といった微妙なことはわからない。ダキシャラにはそれがわかるんだろう。
「ともかく……、ま、おまえさんたちなら、この依頼を任せられそうだ。少年の戦闘能力はどうかしらんが、観察力とまじめさには信頼が置ける。そこのララさんとやらは、みるからに戦いができそうだ。かなりの戦闘経験があるんだろう? それで、ソーナちゃんとやらは、なにができるんだ?」
「私は回復魔術ができます」
ソーナはいいながら、何かを証明しようとするかのように魔素を練る。
なにを始めるのかと、訝しんでソーナとダキシャラを交互に見るが、ダキシャラもおもしろそうに眺めているだけだ。
ソーナは胸のあたりで何かを抱えるように両腕を広げ、順に印を組んでいく……。
やがて体内で練られた魔素が腕の周囲に粒子を散らせ、ほのかに赤い光の粒子は何かの形を象っていく。
あ。あれが腕でなぞっていた印なのだろう。粒子は紋章の形に整列し、ソーナの前に光のフィルターをつくる。
やがて魔術が完成して、紋章のフィルターは皆の前にまばゆく輝いた。
魔術。何度見ても不思議な現象だ。
このように指先・腕先を動かしたなら、自然界に干渉できる、それも直接的にではなく、エントロピーの増大だとか物質の性質を劇的に変化させるかたちでだ。それは前の世界の、プログラミングにおけるソースコードに似ている。所定の動作を呼び出すコードだ。
しかし、それが現実世界で効力を発揮するとなると、なにがそれを実行させているんだ? ライフストリーム? ホシってやつか? それとも俺を送り出した得体の知れない神なのか?
魔素の輝きに照らされて、どこか近寄りがたい表情になっているソーナを見ながら、俺はこの世界の不可解な点について考える。
「おう。たいしたもんだ。その子も少年の所属している商隊の、回復役なんだろ? 商隊の回復役にしては、惜しいくらいの素質だな。いや、そういういいかたは良くないか。商隊の傭兵の方が俺たちよりも実戦経験が多いのかもしれんしな。だが、その子くらいにウィタを保った魔術師ならば、王都の常駐兵としても遜色がない。合格だ、合格」
ソーナはダキシャラの承認をもらうと、展開した魔素を徐々に戻して腕を降ろす。「わかったのならいいわ」と、少し照れくさそうに呟く。
「よくわかった。では、今回の護衛任務はおまえたち【マッスル・マーチャンターズ】に任せるとしよう。詳細を話す。この情報は依頼を請け負った冒険者にだけ伝えられるもので、守秘義務がある。もし、ここで俺が話したことが、どこかで漏れ伝わったとしたら、おまえたちが第一に疑われることになる。ほんとうにおまえたちが漏らしたと確認されたら、王国より処罰されるから、くれぐれも気をつけろよ?」
俺たちが頷くのを見てダキシャラが続ける。
to be continued !! ★★ →




