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act.25_黎明

「ララ、ソーナ、僕とパーティを組んでくれないか?」


俺は2人の反応をうかがう。

ララはうんうん頷いてうれしそうにしている。これはOKってことだな! ソーナは……微妙だな。不満そうに顎を上げて、一重の四角い目を伏せている。


「奴隷とパーティを組んで冒険者ギルドの討伐依頼をこなせっていうの? それって、まるでわたしが、奴隷のあんたと仲良くしてるみたいじゃない」


こ、こないだ手を繋いで町中をデートしたばっかりじゃんよ。女はほんとに気分屋だな……。


「べつにソーナがリーダーになってもいいんだ。僕は出発までの空いた時間にいくらかでもお金が稼げれば良いんだからね。ソーナがリーダーになれば、僕はお付きの奴隷、荷物持ちにでも見えるんじゃないか? 戦うための奴隷に思われてもいいんだしね」


「まぁ、それなら……。でも私はまだ子供に見られるから、なるんならララがリーダーになった方が良いんじゃない?」


「わたし?」


ララは笑顔のまま頭を傾げる。


「あなたたちがそうして欲しいっていうなら、私は構わないけど。ただ、ソーナは雇い主の娘なんだから、カトーにはひと言伝えておいてね。その方が、誰かに見られたときも、気を悪くしないでしょ」


む、ララにしては繊細な気配りだな。よし、そこはうまく伝わるようにしておこう。

俺はソーナにも直接伝えるようにいって、商隊のほかのメンバーにもそれとなく伝えると約束する。


「よし、パーティはこれでOKかな。それで、受ける依頼は無理のない討伐依頼。気が早いけど、取り分は、ララが半分、僕とソーナが残りを半分ずつで良いかな?」


そういうと急にソーナが身を乗り出して、目をひん剥いて怒り出す。


「はぁ? 回復魔術が使えて、平民のわたしが、なにもできない奴隷のあんたと同じ報酬なの? それって、なんだかおかしいんじゃない? 自分をどれだけ評価しているのか知らないけど、あんたなんて、そこらで拾った棍棒を持ってるだけのチンピラじゃない。冒険者に登録できたこともおかしな話だけど、そのうえ、このわたしとパーティを組んで同じ報酬を受け取るなんて、どう考えてもおかしいでしょ?」


むむ。ソーナは不満か。

でもさ、正直言って、俺、ソーナと戦ったら負ける気がしないんだよな。そりゃあ平民と奴隷、っていう身分差はあるけど。

このあいだの盗賊撃退イベントでも、ソーナは馬車に引きこもったままだったけど、俺はいろいろと立ち回って、戦闘もこなしたしな。それに、いざとなれば爆発の魔術も使える。後衛で回復魔術要員として待機するソーナに比べたら、実際は、俺の方が仕事が多い。

あんまり妥協を重ねすぎて、報酬が少なくなってしまったら、いつになっても奴隷扱いで、いざというときに身動きがとれないかもしれない。


何かいい案はないかな、と、ララに視線を送ると、うんうん頷きながら口を開く。


「じゃあ、すなおに3等分にしましょうよ? だれが上とかなくて、すっきりするじゃない?」


「……でも、それじゃあララが損してる気がする……」


ソーナは意図したことと違う風向きに、言葉をよどませる。


「いいのよ。わたしもいい気晴らしになって助かるし、お金も入るんだもの。なんの不満もないのよ。カナエの訓練の成果が確かめられて、私の剣術の上達にもつながるし」


「そう……、ララがいいっていうならいいけど……」


ソーナは乗り出していた上半身を、もとの椅子に戻す。よし! 決まりだな!


「じゃあパーティ名なんだが、これは僕が考えておいた。名付けて、『マッスル・マーチャンターズ』!! どうだ!」


「「……」」


ララは笑ってるが頷いてはいない。ソーナは微動だにせず細めた目で外の景色を見ている。あ、テーブルに肘を突いて顎を載せた。退屈のポーズだ。


「『マッスル・マーチャンターズ』」


「……」


「……」


「決まりな」


「ちょっと待った。どこにマッスルの要素があるのよ? うら若い女性2人と、ガリの子供奴隷のパーティなのよ? もっと別にあるでしょう?」


「強そうで舐められないから、いいと思ったんだが……。うーむ。なにか代わりの案はあるの?」


「私はいいとおもうわ」


ララは早々に抜ける。

ソーナはそれを聞いて口を半開きにして、焦った顔になる。フフフ、どうだ、ララはいつだって俺の味方なんだ! もちろん俺もララの味方だ。つまりこのテーブルは初めから2:1なのだ!


「ララも賛成、ということで、基本的には賛成多数で決定だが……、もしも、仮に、奇跡的に、まぁ、10中8,9ないとは思うけど、ソーナにもいいアイデアがあるんだとしたら、聞くだけ聞かないこともないけど、どうする?」


「む、むかつく言い方して……。どこにもマッスルないくせに……」


「んん? マッスルの代わりに、なにかある? 時間おしてるんで、早めに」


「デュクシ……」


「デュクシ・マーチャンターズ? それはさすがにな」


「ちがうわよ! ……もう、じゃあ、それで!」


よし! パーティ名も決まった!

いいね、こうやってものごとがてきぱきと決まっていくのは。いいよいいよ!


ソーナ情報で今日中にすることはないとわかり、俺たちはさっそく冒険者ギルドへ行くことにする。

商隊が出発するまで20日間。3日に1回くらい依頼をこなせたとしたら、6回はいける計算だ。前にギルドで見た討伐依頼では、一番安いものがオオグチで2万シルトだったな。オオグチをこの3人で倒すのは危険な気がするが、ララに相談しながら決めたらいいだろう。それにあの依頼は衛門督のものだった。衛門督は公的な機関だから、値段は安めになっている。これが一般の依頼だったら、何割か高くなるってことだ。

そう考えると、オオグチよりもお手軽な相手がオオグチなみの報酬で討伐依頼が出されることだってあるだろう。その場合、報酬2万で6回こなせるとかしたら、12万、3で割って4万が俺の取り分になる。ぎりで5万に届かないが、それだけあれば自身の買い受けにもめどが立つ。とりあえずは、そういう仕事が狙い目かな。


とか考えているうちに冒険者ギルドの前に来る。相変わらず目頭から頬まで傷のある禿げが入り口で周りをうかがってる。乱暴そうなひげ面の男が、ひょろ、チビ、デブの3人を従えて、ガハハといかにもな笑い方をしながら、後ろから追いついてきて……俺たちを胡散臭そうに見る。

よしよし、相変わらず異世界の冒険者ギルドしているな! さい先いいぞ!


俺は晴れ上がった日差しの下で、にんまりと笑う。

ひげ面がそれを見て怪訝な顔をしたあとに、不機嫌そうにつばを吐く。おお、いいね! 絡んでくるかな?!


「きにくわねぇな……。ガキが連れ立って何のようだ?」


ひげ面は腰に下げた剣の鞘をぽんぽんと叩きながら凄んでみせる。片目を怒らせて顔をゆがめ、歯を見せて息を吐く。なかなかの体躯をしているから、この通りすがりの5メートルほどの距離だと、やつの身体で景色が遮られて影になる。


「なにって、冒険者の依頼を受けに来たんだ。文句でもあるのか?」


俺は平然と答える。

ちょっと笑顔になっているかもしれない。


「あにき、こいつ笑ってやがるぜ? あたま弱いんじゃないですかね?」


ひょろが髭に注進する。


「ちげぇねぇ、このあたりはガキがくるところじゃねぇのに、ぜんぜんわかってない顔してやがる」


チビが追従し、デブは状況がよくわかってないのかひょっとこみたいな顔したまま突っ立ってる。


「なにか用かしら?」


と、ララがにこにこしたまま俺と髭の間に入り、同じくシースをつけたハチェットを持ち出して、ぽんぽんと刃を手に当てる。180を超えるコリー族が毛を靡かせながら立ちふさがると、かなりの迫力だ。

しかし、髭面は一瞬だけ動きを止めただけで、怯むことなく顔をしかめる。言ってておかしいが、実際にそうなんだから仕方がない。髭面は怯むことなく顔をしかめる。うん。なかなかの男だ。


「おめぇらは冒険者なのか?」


「そうよ。私は雇われて離れていたけど、冒険者として経験を積んでいる。このカナエも、冒険者としてすでに依頼をこなしているわ」


「……そこの嬢ちゃんは?」


「この子は回復魔術が使える」


「な、なに……?」


髭面は驚いて、ソーナに対して値踏みする視線を投げる。ひょろ、ちび、デブも「回復……。しかもかわいい……」「めったにいないのに……」「うちに欲しい……」と、言葉を交わす。うんうん、あげないけど、いいだろう? よくわかってるな!


「そんなわけで、俺たちは冒険者としてそれなりだぜ? なにか問題があるのか?」


俺は雰囲気を察して話を進めてやる。さぁ、喧嘩するか? しないか? と、意気込んでいたが、意外にも髭面は肩の力を抜いて、人のいい表情を浮かべる。


「そうだったか。すまなかったな。実は冒険者を名乗って勝手に依頼を受けたり、不当な報酬を要求したりして、ギルドの名を貶める事件が多くてな。おまえたちは違ったみたいだ。気を悪くしないでくれ……」


「お、おう」


なにか変な薬でも効いてきたのか? 髭面は急にまともになって俺に握手を求める。あ、これがワナかななんておもいつつも、流れでそれを受けるが、手を握りつぶしたりもせずに名乗るだけだ。


「俺はガイ。このひょろっこいのがウーピン、チビはアー・キンって名前で、デブはヨアヒムだ。4人でレザーズ・エッジっていうパーティを組んでいる。おまえさん方との出会いはいまいちだったが……、よろしくな」


そう言って申し訳なさそうに笑う。山賊スマイルとしか言いようがないが、いいやつ、なのか? いや、いいやつんだんだろう。信じられる笑顔だ。

俺は頷いて、登録はこれからだが『マッスル・マーチャント』だと名乗った。いい名前だな、と、ガイはかみしめるように何度も頷き、俺たちに道を譲る。

とかいって背後から襲いかかってくるのかと思ったりしたが、そんなことはなかった。俺が振り返ると、ガイはもう一度手を振って、それからひょろたちの肩に手を載せて笑いながら立ち去っていく。


なんなん? あれなんなん?


俺は何となく肩すかしを食って、戸惑いながら冒険者ギルドに入ってく。俺たちを見ていたらしい顔傷の禿げも笑顔を浮かべながらスイングドアを押さえて、「さ、入んな」と、促したりする。ララが礼を言いながらすたすた入っていく。「どうも」と、ソーナも続く。仕方がないから俺も後をついていく。


受付には前と同じ、アンナ・マリアと乳児を背負ったおばちゃんが並んでいる。この子、ほんと寝付きがいいよな、とか思いながら、ぐっすり眠った子を眺めたりしながら、依頼書の張られた壁へ向かう。あ、俺とララはもう冒険者登録しているが、ソーナはまだだったので、いったん別れて、受付に並んだ。


「どの依頼がいいか、たとえば討伐対象の名前で、ララなら判断できそう?」


「そうねぇ……」


ララは顎に手を当て端から確かめていく。



          to be continued !! ★★ →

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