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act.24_初報酬と今後のこと

のだが……


正直これほどきつい仕事とは思わなかった。

なにがきついって、見張りは、外を見張ることに集中しなきゃならないことだ! そんなことになるなんて思いもしなかったぜ!

なにしろ、無駄話はだめ、トイレは同じ部屋にある桶で、持ち場の交替もだめ、15の刻までじっとしてろ、って感じで、他になにもできない。

城塔の内部に入り込んだときは構造やら建築技術やらでおもしろかったんだが、上部の空間へ来てからは、矢狭間からじっと外を見ているだけ。戦時でもないので、遠くのトールゲートから馬車や旅人・農民がえっちらおっちら歩いているだけ。

同じ場所で見張りをしている3人の兵士は、文句も言わずに外をじっと見ている。

そりゃあおまえらはそうやって過ごす時間が好きなのかもしれないけどさ……、俺は転生して日がないから、経験したいことがいっぱいあってな……。


仕方がないので夜やろうと思っていた魔素の循環をすることにする。まぁこれはこれで重要なルーティンだ。


そして俺は、城塔の矢狭間に直立して、外を見張っているように装いながら、魔素の循環をひたすらやった。

初めの頃は狭い管の中をむりやり圧をかけて流していた感じがしたが、そのうちにわりとスムーズになる。身体がぽかぽかしてきて、効率はまだまだみたいだが、この傾向はいいね。


これでウィタ騎士みたいに身体が輝いていたりしたら、兵士に見咎められるが、手足を見た感じそんなことはない。で、俺は調子に乗って、身動きしないまま、目を見開いて魔素循環をさせる。

考えてみれば、俺のウィタはどのくらい保存されているんだろうか。尼僧ヨアンナの話では、魔素を吸収・備蓄する存在、ウィタは個人個人で保存されている量が違うとのことだった。俺も魔素を循環できるということは、それなりに保存されているんだろう。しかし、魔術を行使するたびに体内のウィタから魔素が消費されるとしたら、失われた魔素はどこから補給されるんだろうな? 空気中? 体内で生成?

ああ、ムンド村へいって、もっとヨアンナの話が聞きたい……。


……。


いつのまにか魔素循環による発熱が治まっている。

体内の回路調整って、こんなに劇的に違ってくるものなんだな。これなら、あっという間に魔素を手先で練ることができそうだ。

まぁ寝て覚めたら、また効率が悪くなっているかもしれない。どこまで極められるか見物だ、ってことをヨアンナも言っていた。


ちょうど銅鑼が鳴り、昼食の時間になる。

遠くから飯を炊く良い匂いが漂ってきて、しばらくしてから、城塔の下の方から給仕の使用人が上がってくる。深底鍋にスープのようなものをいれている。俺をいれて4人の見張りは、班長らしき男の指示で順に昼食をとる。俺が3番目で、最後が班長だ。うん、なかなか好感が持てるな、班長。


飯の内容は雑穀の雑炊だ。あ、これ商隊で移動中によく食べたやつに似ている。卵が入ってる分、ちょっとましだな。

塩っ気の薄いその飯を俺は胃袋に流し込む。これを味わってくって時間をつぶすくらいなら、魔素の循環をやっていた方がましだ。


俺がさっさと飯を食って、班長に順番を譲ると、班長のやつは意外そうに間を置いてから、笑顔で頷いた。

どうも見張りとしてやってくる冒険者は、ここでゆっくりと飯を食べて、この仕事のストレスをちょっとでも軽減させるんだろう。気持ちはわかる。


そくざに矢狭間で仁王立ちになる俺。あたりまえだが城外に異変はない。魔素の循環を始める。

循環させる魔素を増やしてみるか。


大量の魔素を、すなわち流れを太くし、それから、すばやく巡らせる。


こころのなかでイメージしながらそれを感覚しようとする。


……


…………


………………。


ん。徐々に力強くなってきている気がする。魔素は身体全体から湧いてくる感じだ。やはり体内で生成しているんだろうか。


そしてふたたび体温が上昇してくる。額に汗が浮かぶ。トイレを我慢しているみたいだな……っあ!


「うぐ、む……」


わずかな気の緩みで制御があまくなり、魔素が漏れ出すのがわかる。立ち眩みみたいな感覚だ。もったいねぇ、せっかくここまで溜めたのに。

集中だ、集中。

俺は再び、回路を太くさせ、素早く、なめらかに練っていく。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



定刻の銅鑼が鳴るころにはふらふらに疲れていた。


俺がよろめきながら持ち場から離れると、班長が慌てて身体を支える。


「おい、大丈夫か坊主? おまえ、微動だにしないで見張っていたが、そんなやつは初めてだ。寝てんのかと思ったが、外をガン見してたしな。ものすごく疲れただろう?」


「うん? ああ、まぁすごく疲れたよ……」


他の兵士たちもそれを聞いて頷く。こんな冒険者は初めてだ、とか、まじめにやってくれてうれしくなった、とかポジティブな感想が漏れる。


「衛門督から聞いたが、おまえ、銀貨の文字を読んだんだってな。すごい視力じゃないか」


あ、ばれてたか。


「集中力もあるし、また次も頼むぞ」


そういって、班長は何事か書き付けた木札を俺に渡す。たぶん、勤務報告だな。

俺はそれを持って、城塔を下り、ダキシャラのいる執務室へ行く。


執務室へ行くと、ダキシャラはちょうどどこからか戻ってきたところで、防具を外しながら俺の差し出した木札を受け取った。


「まじめに見張りしたみたいだな。正直、おまえの様な少年には、じっと外を見張るなんて向いてないと思ったが、なかなかやるじゃないか」


「はじめてなんで、むしろ緊張しましたよ」


「うん? そういえば汗をかいているな。ほんとに珍しいやつだ。ふつうは眠くなるんだが。ま、それはともかく、ご苦労だった。これは仕事を完了したという証書だ。受け取れ」


ダキシャラはそういいながらA4くらいの紙を俺に手渡す。

よし、これで俺は冒険者として初めて仕事をこなしたことになる。何とも感慨深いな。


「消耗したみたいだが、次もまた頼むぞ!」


そういってダキシャラは手を差し出す。こいつ、ナイスガイだな。俺みたいな小僧相手に、ちゃんと顔を立ててきやがる。

俺はダキシャラの手をしっかりと握って、お世話になりました、と頭を下げた。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



うきうきとしながら冒険者ギルドへ戻った。

スイングドアを撥ねのけて受付へ直行する。アンナ・マリアはまだ勤務していて、隣の赤子を負ぶったおばさんは交替している。代わりに座っているのは秘書みたいな妖精族だ。ちくしょう、やっぱりいるんじゃねーか。しかし、まぁいまはいい。


俺はダキシャラから受け取った証紙をアンナ・マリアに渡す。


「おや? あんたかい。まじめにやったみたいだね」


アンナ・マリアは少しだけ物腰を柔らかくして証紙を受け取る。内容を確認し、印をつけてから棚にあった募集用紙と紐付ける。いったん奥へもどり、報酬金をもってくる。


「報酬の2千シルトから、1割5分の経費を抜くよ。あんたの取り分は1700シルトだ」


「うん。まちがいない」


「はいよ。……おつかれさん。今日はゆっくり寝るんだね」


「ああ、身体がこわばって、筋肉痛になりそうだよ。じゃあまた、アンナ・マリアさん」


アンナ・マリアはちょっと赤面して、俺を追っ払う。はい、ツンデレ確定。


俺は受け取った金を左手に握りしめてギルドをでる。筋肉ダルマは絡んでこないし、謎の暗殺集団に囲まれたりもしない。ちょっと日が陰った王都の空があるだけだ。

腹、減ったな! ララとなんか食べに行こうか。



木賃宿へ帰ると、待合ではララとソーナが話していた。

商隊の次のスケジュールが決まって、段取りを話していたのだという。


「カナエ、ちょうど良いところに来たわね。またムーン砂漠へ香料を買いに行くことになったのよ」


「へぇ、そっか。いつくらいに出発するの?」


俺は同じテーブルの椅子に座り、話に参加することにする。ララがいるからなのか、ソーナの言いぐさは上から目線だ。


「20日後ぐらいかな。荷馬車の修理と、消耗品の買い付け、往路での交易品、いろいろたいへんになるわよ。ま、あんたには荷物運びくらいしかできることないけど」


「荷運びならだれでもできるだろ。それよりももうちょっと足しになることしないか?」


「足し?」


ソーナが聞きとがめて、首を傾ける。


「実は……」


俺は今朝からの出来事を2人に話す。それから、報酬として受け取った1700シルトと冒険者カードを出してみせる。


「あら、冒険者に登録したのね……、あれ?」


そう言ってララは冒険者カードの1点をみつめる。なにを見てるんだ? 俺もつられてそこを見るが……、あ、やばい。出身地がジャスランの森になってるじゃねーか。これじゃ、どこぞの没落貴族の生き残りっていう設定はもう無理だな……。


「出身がジャスランの森になってるわね。それ以前の記憶を失ってるからかしら」


おおう、まだいけるな。


「たぶん……。僕にはよくわからないよ」


「本当にかわいそうに。自分が生まれた場所もわからないなんて」


「どうかしら。カナエは何か隠しているような気がするし、ララが思っているみたいに貴族だったのかどうか怪しい感じもする。本当は森の中で生まれた平民の子なんじゃない? そのほうが自然な理解だと思うけど」


「平民の子はカナエのような物腰をしらないわよ。この年齢の人族で、そこまで社会経験を積むなんて無理なんだから」


「まぁそれはそうだけど……」


この話題はこの辺にしとこうよ、お二人さん。なんにしてもこれからは不用意に冒険者登録カードを見せないようにしないとな。


「それで、今日は南門で見張りの手伝いをして報酬を受け取ったんだ。それが、これ、1700シルトなんだけど、実際のところ、僕か僕自身をカトーから買い受けようとしたら、いくらくらいお金を集めたら良いんだろう?」


「カナエ、商隊を抜けたいの?」


ララはびっくりして訊く。


「ああ、いや、そうじゃないんだ。みんなと同じように、商隊のメンバーとして加わりたいんだ。そのほうが、給料も出るし、自由な行動ができていろいろ……、行ってみたいところとかあるしね」


「そう。まぁそれはそうかもねぇ……」


ララは思案げに顎のあたりをさする。コリー族でも何か考えるときはこういう仕草をするんだな。


「はっきりいって、それはお父さんの気分次第ね。あんたに手放したくないような価値があるとは思わないけど、雑用として1人奴隷が必要だと思ってたら、もうけが出るくらいじゃなきゃ売却しないでしょ。その場合は5万シルトくらいは用意した方が良いんじゃない?」


「私もそう思うわ。人族の若くて健康な男の子だったら、競りで買ってもそのくらいはするでしょ」


「5万シルトか……。大きな街に滞在していられる時間を考えたら、やっぱり討伐依頼とかに参加しないときつそうだな」


「カナエが討伐依頼? よしなさい、危険よ。私だって、単独で討伐依頼なんて、よほどのことがない限り受けたくないわ。山道で足をくじいたら、もう生きて帰れるかわからないんだもの。危険すぎる」


「じゃあ、やっぱり、始めに思ったとおりの結論になる」


「つまり?」


聞いているだけだったソーナが面を上げて俺に訊く。


「ララ、ソーナ、僕とパーティを組んでくれないか?」



          to be continued !! ★★ →

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