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act.22_冒険者ギルド

木賃宿に帰った。

ソーナのことはララが送っていくことになり、俺は1人残る。

泊まるところまで送り届けるのが紳士かな、とも思ったが、暗いし俺が年少すぎるからということで、ララが行ってくれることになった。

ちょっと情けないが、まぁ仕方ない。


俺は一日飲み食いして満腹だったし、ベッドの上で魔素の回路を練ったあとは、ララの帰りを待たずにいつの間にか寝てしまっていた。


朝起きると、湿ったまま毛羽だった毛布を抱き枕みたいにしていて、俺はなんだか自分が汚れてしまった気持ちになる。いや、毛布からは血しぶきの跡も消えてないし、文字通り汚れてしまったんだが、なんていうか、魂的にな……。


ララも隣でぐっすり寝ている。隣っていっても、同じベッドじゃないんだぜ!


ララを起こさないようにそっと部屋を抜け、階下の待合に行く。受付の爺さん以外だれもいない。爺さんは受付で居眠りしていたが、俺に気がつくと手元のナイフを取り出して、紫色の舌でベロリと舐める。

あ~、わざわざそんなことしなくても良いよ?


「ヒヒ、昨夜はお楽しみでしたね」


なにが?

俺はこいつはヤバイやつだと直感的に感じて、曖昧に返事をして視線を逸らす。


外は晴れている。宿の前ではハゲワシみたいな場違いにでかい鳥が屍肉をあさっている。なんの死骸だろう。いちおう住人がそこらを歩いていて、子供から年寄りまでふつうに出歩いているが、ハゲワシに注意を払うやつはいない。

まぁ、なんだ。カピバラみたいな獣の死骸だろう……。気にしたら負けだ。


今日は冒険者ギルドへ行くつもりだ。

この世界の冒険者ギルドはドヤ街、つまりその辺に屯している労働希望者を、仲介業者が声かけてさらっていく場所、そんなイメージだ。

各街の冒険者ギルドが連絡をとっているとしたら、かなりの規模の組織となるが、そんな高級なことをしているかどうか。

ともかく、行ってみるしかない。


ララはまだ寝ているし、ソーナは来ていない。

ということは1人で行くことになるのかな。それかララを起こすか。

昨夜ソーナを送ってもらって、そのあとに食事へ行ったみたいだから、朝早くに起こすのは気がひける。

しょうがない、奴隷の少年、身1つで行ってみるか。


俺は覚悟を決めて宿屋の亭主に訊いてみることにする。


「爺さん、最寄りの冒険者ギルドがどこにあるか教えてもらえるか?」


「はぁ? 某賢者KILLど? お客さん、ふざけちゃいけないよ。どこの賢者を殺すのよ?」


「いや、そうじゃなくて、冒険者ギルド」


「棒犬ジャーギルド? あんたの名前かね?」


「殺すぞ。冒険者ギルドだ」


「ああ、それなら知っています。宿を出て北へ3つ街区を進んで、飯場の角を右、そこから突き当たりの雑貨屋まであるいて、道路を渡った先に八百屋があります。八百屋の裏に金物屋があるんですが、冒険者ギルドは金物屋を正面から見て西側に3軒並んだところですじゃ」


「おう。サンキューな」


分かり合えてよかった。

俺は宿を出て、教えてもらったとおりに道を進んでいく。


異世界に来てから1人で出歩くのはこれで2回目だ。前は初めて転生したとき、森の中をさまよって以来だ。

一応、奴隷の身分ではあるが、焼き印とかされてないし、いうなればカトーの気分1つの立場ではある。身分証とかあるならば、それをどうにかできれば自由民になれる気がする。

というか、こうやって町中を歩いていて、前から来た兵士なりに誰何されたとする。相手の兵士はどうやって俺を奴隷だと判別するんだろうな。無理じゃないか?

俺が奴隷だっていうのは言葉上のことでしかない。


ま、金を稼げない以上、その境遇をもうしばらく続けるしかない。これからいく冒険者ギルドで、その辺のめどが立ったなら、商隊から勝手に抜け出してもいいのかもしれない。もちろん、ララに黙って抜け出す気なんかないけどね。ひどい扱いをされているわけでもないし。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



飯場の角を曲がるところまでは問題なかった。

だが、角を曲がり突き当たったのは公衆浴場で、宿屋の爺がいった雑貨屋じゃない。その公衆浴場がいびつな形をしていて、さらに隣接する住宅と壁を共有しているから、道路を挟んだ八百屋がどこにあるのかわからない。


俺は広大な公衆浴場を一周して、まわりに八百屋がないことを確かめた。

くそ爺ぃ……。適当なこと言いやがって。


仕方がないので、道行く人に訊いてみることにする。

道行く人は妙に体格の太ましい、ひげ面のおっさんがおおい。妙だな、みんな四角いランドセルみたいなバッグを背負っていて、そわそわしながら浴場へ入っていく。たまにガリでなよった男と連れ立っていたりもする。どうもこのあたりは俺みたいな純真な少年がうろついて良い場所じゃないらしい。

臭いとか吸い込まないように俺はなるべく浴場に近づかないようにしながら、教えてくれそうな相手を探す。


が、そうこうしているうちに、街区を1つ挟んで八百屋があることに気がつく。

さてはあれが爺のいっていたやつだな、と、俺はそこからまた教わった道順を辿っていくことにする。


そこからは奇跡のようにうまくいった。

1時間もしないうちに俺の眼前には『第12 アヴス冒険者ギルド』と看板の掛けられた建物が構えている。


正真正銘の冒険者ギルドだ。


建屋の前では傷跡のあるはげ頭の筋肉が、胡散臭そうに俺を眺めている。

乱暴そうなひげ面の男が、ひょろ、チビ、デブの3人を従えて、ガハハといかにもな笑い方をしながら、中へ入っていく。

紳士然とした背の高く隙のない男が、俺を値踏みしたあとに、同じく中へ入ってく。あれは仕事を依頼に来た貴族の執事だな。わかりやすい。


完璧。

なにもかもがイメージ通りだ。これぞ冒険者ギルドの中の冒険者ギルド、俺の見たかった異世界と寸分の違いもない。

俺が感激に浸っている間にも、年若いハーレムパーティとか露出の多い少女と照れまくる白髪の少年とかが連れだってギルドを訪れる。


ここだけ冗談みたいに、異世界してるな……。

俺はなんだか怖くなるが、そうもいっていられない。ここまで来たら行くしかない。

賽は投げられた。カバも投げられた。ゾウも投げられた。ままよ、ぱぱよ。


俺は当然のように備え付けられたスイングドアを大きく開け、中へ入る。


う……、なんか臭いな。すえた臭いだ。鉄の臭いも混じってる。

中はホールになっていて、明けた天井から採光しているが、ランプをつけても薄暗い。ぼろいファーニチャーをがたがたさせながら、さっき入っていった面々が顔を突き合わせている。だれもこっちを見てないな。まったく興味がない感じだ。髭のパーティーもぜんぜん絡んでこない。

現実とはこういうものか。


俺はちょっと失望しながら受付へ行く。

受付に並んでいるのは、痩せたおばさんと、太ったおばさんだ。太った方は背中に赤ん坊をしょっていて、髪型がちょっと乱れている。おつかれさま、といいたくなる。痩せた方は、いままで生きてきて良いことなんて1つもなかった、ってかんじの暗い顔をしている。なにか病気かもしれないな。


それだけだ。エルフの美女とか、ギルド長だろ的な頬に傷のある筋肉とかはいない。

だがまて、朝早い時間だったからな。夕方には交替して、いかにもな編成になるのかもしれない。


俺は気を取り直して、痩せたおばさんに話しかける。


「すいません。冒険者登録をしたいのですが?」


痩せたおばさん、胸に名札をつけていて、アンナ・マリアと書いてある。う~む……。


アンナ・マリアはつまらなさそうに小さく頷いて、足下をがさごそと探る。出てきた書類とナイフを一本、カウンターに置く。


「刺しな」


あ、え~っと、人おもいにとかそういうことか? 人生、生きていりゃ良いこともあるって。


「どのへん刺したら良いですかね? やはり苦しまないような急所が……」


「バカ言ってんじゃないよ! 指先刺して、血を垂らすんだよ。ほら、このカード」


うん、わかってた。よく見るとカウンターに置かれたテーブルには硬質のカードがくっついている。てか、プラスチック? 場違いなほど精巧な造りだ。俺はそれを手にとって、じっくりと観察する。

やはりプラスチックのような質感で、あるいは軽金属かもしれない。ダイカストか打ち抜きでつくられていて、端部に微かにバリがある。厚みは1.5ミリくらいだ。完全に真っ平らで、均質。

白色の冷たい質感をしている。表面には傷1つなく、ランプの光をゆがみなく照り返す。曲げようとしてみると案外固い。俺の力で両手に思い切り力を込めても、少し湾曲する程度だ。チタン合金か? それにしては白磁のような白さだ。


「さっさと血を垂らしな」


アンナ・マリアが急かしてくる。

俺はナイフを手にとって、切っ先で人差し指の腹を突く。にじみ出た血液をカードの上に垂らす……

と、血を受けた瞬間にカードがじわりとひかり、垂れた血が内部に沈み込んでいく。そして、俺のステータスってやつが、カードの表面に文字になってにじみ出た。


『カナエ・オオラギ 人族 AGE10-11 ジャスランの森』


なるほど。興味深い。年齢は数えとなる訳か。

ジャスランの森とは、たぶん俺が転生した場所のことだろう。森の中で生まれたから、そこが出身地というわけだ。


アンナ・マリアがカードを覗き込む。


「登録書を書きな」


無愛想に用紙をほっぽって、鉛筆を隣に置く。鉛筆はまぁ、文化レベル相当な雑な造りだ。

そこで俺は字を書いたことがないことに気がつき、アンナ・マリアに代筆を頼んでみる。


「字を書いたことがないんだけど、代わりに書いてもらえないかな?」


「貸しな」


そういってあっさりと引き受けてくれる。案外世話好きなのかもな。俺は内心でアンナ・マリアの評価を1つあげる。

よく見たら、痩せて血色が悪いだけで、もう少し肉をつけたら美人なのかもしれない。顔立ちは整ってる。髪だって、もっとこう、リンスとかつけてつやを出せば、なかなか捨てたもんじゃない。がんばろうぜ! アンナ・マリア!


「この身分証は冒険者ギルドでつくってるんですか?」


「まさか。ここでそんな高級なもの、つくれるとおもうのかい?」


「まぁ、そうだよな。そうすると、国が支給してくるとか?」


「ちがうよ。ライフストリーム教会が冒険者ギルドに配布してんのさ。そのかわり、あんたらが金を稼いだら、いくらかの分け前がギルドから教会にはいるって寸法さね。あいつらが管理してるから、そのカードはどこの街へ行っても同じように使えるよ」


「ライフストリーム教会か……。そのあたりは太陽神の神殿と対立とかしないの?」


「そりゃ、良くは思ってないだろうね。だが、あたしはギルドの受付なんだから、知りたきゃ、自分で訊いてきな。それが道理ってもんだよ」


「まぁ、そうだよな。ありがとう」


俺は代筆を済ませたアンナ・マリアに礼を言う。

アンナ・マリアは勢いを削がれたようで、なにかごにょごにょと文句を言ったが、それ以上いやみをいってこない。


取り合えず、これで登録終了ってことかな?


「それで、仕事をもらうときはどうしたらいいの?」


「ホールの壁に内容と雇い主を書いた紙が貼られているだろう? それをみてどれを引き受けるか、自分で決めるんだよ。仕事を達成したら達成条件の品物とか、立会人の確認とか、そういうものを用意してここへきな。報酬が出るから」


「なるほど。貼られている紙の報酬額は天引きされる前の金額?」


「当たり前だろ。引かれる金は都度違うからね。条件を良く確認するこった。はい、つぎ!」


俺は手先で追っ払われる。

だがまぁ必要な情報はだいたい聞けたし、登録も済んだ。


なにか思ったよりあっさりしているが、冒険者カナエ、爆誕です。


俺は登録カードを天に掲げる。

見知らぬ冒険者たちが胡散臭そうに見ている。



          to be continued !! ★★ →

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