表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/276

act.21_戦いの後、日が暮れて

避けるしか能のない俺がそれでも苦戦した剣奴を一瞬で3人倒しやがった。さすがはライフストリーム教会の先兵といったところだ。それにザキチュナの動きにはまだまだ余裕がある感じで、やつが踊るように剣を振るった先に、剣奴が斬ってくれといわんばかりに身をさらしている、そんな印象すら受ける。相手の筋肉の微妙な動きをすべて見越して、自分の武器の軌道をそれにあわせ、逃げられず、防げない速度で振るう。それを立て続けに3人だ。

やばいな、ウィタ騎士。


4人目の剣奴が守りに徹して、ザキチュナが近づこうとすると、牽制し、距離をとるを繰り返す。あのままだとじり貧だが、剣奴リーダーが勝負を決めるのを待っているんだろうか……。

俺は教士メリィラとジューダスと名乗った剣奴リーダーの方を見る。


こっちは……わりと伯仲している? のか?


ジューダスは両手で持ったブロードソードを腰のあたりにひいて構え、突くタイミングを計っている。

メリィラは右手にミスリルソード、左手は盆をかざすように掌を天に向け、そのうえにまぶしい光球がぐるぐる舞っている。

なんだあれ?


何とも奇妙な光景だ。

メリィラの姿勢に構えたところはない。抜き身のミスリルソードで隙をうかがっている態はあるが、切迫したものはない。

光球は3つあり、1秒に1回ぐらいの早さで円を描いて回っている。


あたりからは人気が失せて、呻く剣奴、相対して動きの少ないザキチュナと生き残り。

ソーナは離れたところで、俺が逃げ出すのを待っている感じだ。はやく、こい、と身振りでせかしている。


しかし俺はメリィラとジューダスの戦いから目を逸らせない。


空が抜けていて、青い。

周囲に高い建物はない。


砂埃が舞う。


メリィラの操る光球に砂塵が降りかかるが……、見えない力場に阻まれて吹き散らされる。

砂塵の飛び散る瞬間、なにか弾けたような火花が散る、いや、あれは錯覚だろうか。


くる、と感じたときに、光球の1つがジューダスに向けて紡錘型に変形し……

針のような形になる……


あ、っと思った瞬間には、光の針がジューダスを襲う!


速い!!


ジューダスはソードの腹で素早く打ち払うが、あまりの早さに中途半端な角度でそれを受けてしまう。

腕の皮膚に赤い線が走り、たちまち血が滴ってくる。


よ、よく反応したな……。

しかし、軽傷とはいえダメージを受けている。


エネルギーニードル、といったところか。

しかし、ジューダスくらい鍛えた肉体をしていても、防がずにあたったら貫通してしまうな……


メリィラの術は脅威だが、ジューダスは怯まずに構えを崩さない。


「よくぞ防ぎましたな。さぞかし名の通った戦士殿と見受ける。しかし、こうして出会ったのは運命、いたしかたないが、みしるしをいただく」


そしてまた光球が変化する。

今度は3つの光球が同時に紡錘形に変形していく……。


「おおぉぉぉ!!」


ジューダスはたまらずに駆け出す。

そうだな、近づかないとどうにもならない。俺でもそうするだろう。それしか、ない。


光の針が長く細く練られ……奔る!

ジューダスは再びソードの腹で防ぐ。今度はうまく軌道を逸らした!


次は、2本同時に針の形になる。

どうする? おそらくはソードで受けきれない位置に奔らせるはずだ。


メリィラが風をうけて、マントが翻る。

何かをつかむかのように突き出された手から、エネルギーニードルの閃光が高速で打ち出される!


キンッ! キンッ!


と、空気を焼いて、その1本がジューダスの肩を貫く。

もう1本は脛のあたりを貫いている。


よ、避けなかったぜ!

ジューダスはわずかによろめきながら、メリィラを間合いにいれている!

そして分厚いブロードソードを軽々と振り下ろした。


きまった、と思った次の瞬間だった。


メリィラはジューダスの後方で、ミスリルソードを手に、膝をつき残心している。


ジューダスは……ソードを振り終わり、地面にめり込ませている。


見えなかった。

メリィラが動いたのはわかったが、どんな動作かわからなかった。

あれをやられたら、俺は死ぬ。


ジューダスの身体がゆっくりとバランスを失い地に伏せる。

糸が切れたように動かない。

目が開いたまま顔面を砂地にめり込ませ、血だまりが広がっていく。


どこを斬られたのかすらわからない。

あれだけの武芸に秀でた剣奴リーダーが、ほとんど手も足もでずに屠られた。


メリィラが倒れた剣奴に近づき、頭の近くに膝を突く。


「この者のカルマは果たされた。ホシのライフストリームよ、この者の魂を温かく迎えたまえ……」


片手で祈りの姿勢をとり、立ち上がる。

そのメリィラのもとにザキチュナが近づいてくる。残っていた剣奴はいつのまにか切り伏せられていて、地に横たわっている。


メリィラが向き直り俺のことを見る。

深く澄んだ目だ。狂気は感じられない。

ソーナが遠くから呼んでいる。はやく、なにやってるの! と、焦った声を投げている。

しかし、俺の身体は動かない。射すくめられたカエルみたいに、身体がいうことを聞かない。


「君は……、前に会ったキャラバンの少年か。少年のまとうウィタの輝きは独特だな。記憶に残る。我々は紐付いているところがあるようだ」


「なにやら胸騒ぎのするウィタです。危険な気もします」


ザキチュナがメリィラに警告する。


「強いカルマを感じさせる者にはよくあることだ。深く見極めて惑わされぬことだ」


「ですが、あきらかに異質な何かを秘めています。ホシの未来によからぬ影響を与えるのではないでしょうか?


なにこいつ、誰か殺し続けないと腕が震えるとかか? ともかく、いきなり殺し合いにならないようにしなければ……。


「拾ってくれた商隊に尽くしたいと、ただただ思っているだけの者です。どうかお見逃しください。何か気になるのであれば、何でもお答えします」


俺が下手に出ると、ザキチュナはさらに警戒を深めた様子で、じっと俺を見る。

まずかったか?


「歳の割に小賢しい言葉を使います。見た目通りの魂ではないやもしれません。気を許してはいけません」


す、鋭いな。だが、どちらにしろウィタ騎士に征伐されるようなことはなにもしていないし、する気もない。

そもそも、こいつらが治安維持いじょうになにをしたいかなんて、それすら知らないものな。

俺はザキチュナを無視して、メリィラと目を合わす。

メリィラの乾いた頬が影を増している気がする。茶色く透き通った虹彩が、まっすぐに俺を見ている。

表情は読み取れない。


「なにか大きなことに関わると、運命づけられているのだろう。それはこの者のカルマであるかもしれん。もしそれがホシに仇をなすものであれば、そのときは我々で止めればいい。ザキチュナ、おまえにはそれができないか」


「はぁ……」


ザキチュナは渋々引き下がる。

メリィラが俺に近づく。何か固く大きなものが接近するときの圧迫感がある。なぜだろうか、心が射すくめられる。


「あの剣奴、ウーナンダ義寧国といっていたな? なかなかの戦士であった。少年はあの戦士の最後をよく覚えておくとよい。カルマを果たすとはあのような姿をいう」


「あなたがたに彼らを殺す理由があったんですかね?」


「強いていえば、ない」


ない、だって。アホかと。


「教会に所属しているあなた方が、王都の往来で5人もの人族を殺すなんて、問題はないのか?」


「ない。それに、見ろ、皆が去った方を。売り手も買い手も何事もなかったかのように、競りの続きを始めようとしている。あれはあれでカルマなのだ。彼らがその役割を果たすことこそが、ライフストリーム教会の説くところだ。城の兵士にしても、この介入を歓迎することがあっても、非難など、ない」


ある種の治外法権みたいだな。エルイリカ王とやらは王権の強化のために太陽神を信仰しているのに、ウィタ騎士には手出しできないのか。それとも、王城のどこかでこの介入について、教会の奴らと交渉でもするのか。

いや、それだとこの2人の行為は教会にとって不利益でしかない。

やはり、武力の行使をある程度認められているとしか解釈できない。

なんとも奇妙な警察力だな……。


「それで、あなたの考えでは、俺は為すべき事を為すべきか?」


「おそらく」


メリィラの目が光る。表情に少し厳しさが宿ったように見える。

なぜか時間の流れが遅くなった気がする。

目のまえの騎士が、瞬きし、目を開ける。口ひげの端がぴくりと震える。フードが風に揺られる。

俺はゆっくりと息を吐く。


「あなたとはまた会う気がしますね。……では」


「うむ。少年のカルマが果たされんことを」


俺はゆっくりと後ろを向いて、メリィラに背を見せる。

背筋が寒くなり、なぜか額から汗が垂れる。


ソーナがずっと先の方で俺を見つめている。振っていた手を止めて、ゆっくりと身体の緊張を解いていく。

ぞくり、と、さむけがして、立ち止まる。


歩け、歩け、俺の脚よ、動け……


俺は無理矢理歩を進めて、ソーナのほうへ逃げる。ソーナが伸ばした手を、どうにか握る。あ、あったけぇ。

それからやっと勇気を振り絞って、後ろを振り向く。


2人の男が俺をじっと見ている。

その周りには5人の剣奴が倒れ伏して動かない。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「なぜ、すぐに逃げなかったの!? 呼んだときに走っていれば逃げ切れたのに」


と、ソーナは競り市を離れるとたちまち文句を言った。口を尖らせて、目を細めてつり上げる。


そう、なんでだろうな。なぜだかわからないけど、それはできなかった。

メリィラとザキチュナ。ウィタ騎士。

そいつらは俺のこれからと深く結びついているのかもしれない。糞女神とテニスちゃんに何か訊いてみたほうが良さそうだな。女神側があいつらと敵対していて、そのうち戦わなきゃならないんだとしたら、わりと無理ゲーだしな。

だいたい、まえにムンド村のヨアンナに聞いた話では、メリィラとおなじ教士の位にあるウィタ騎士は200人ぐらいいるんだろ。圧倒的な戦力じゃん。


俺以外の使徒がこの世界にいるかどうか、糞女神は教えてくれなかった。しかし、テニスちゃんは、俺が女神を無視したら女神サイドの戦力が討伐に行くんだといった。ということは、必然的に、俺以外の使徒がこの世界にはいる。問題はその数だな。2,3人じゃ、ライフストリーム教会のやっていることに介入なんてできない。問題にもならない。100人いても、それが俺とたいして変わらない能力なら、だめだな。


あいつらについては今度も注意しないとな。だだでさえ、存在を知られてしまったんだから……。


「ちょっと、あんた、聞いてんの?」


ソーナは俺の腕を小突いて、さらに文句を重ねる。


「あ、はい。まぁなんだろう、あの教士メリィラっていうひとの迫力に気圧されて、動けなかったっていうか」


「あんなのが来る前に、剣奴が暴れたらすぐに逃げればよかったんじゃない。なんでわざわざ刃向かうのよ」


「そりゃあ、だって、ソーナちゃんが安全に逃げられるようにしたいからだよ」


ソーナは疑わしそうに睨んできて納得しない。ぷりぷりとしている様子がかわいいが、ここは本気で答えなきゃだめか?


「実は自分でもよくわからないんだよ。はじめ剣奴が暴れ出したときは、ソーナを逃がそうとしか思わなかった。たしかに、あの時点では逃げることだけを考えれば逃げ切れたかもしれない。それからウィタ騎士が現れたとき、僕はなんていうか、戦いを見届けないではいられなかった。戦いの後、教士のウィタ騎士もいっていた、僕らに紐付いているところがあるって。俺もそれを感じていたんだと思う」


「……なにを話していたの? 剣奴が倒されたあと」


「うん。錬士のほうが僕を殺したがっていて、教士がそれを止めた。理由は、僕の為すべきカルマを見届けるのが先だっていう、感じだった」


「ウィタ騎士に殺されそうになるなんて……。迂闊にもほどがある」


まぁ、そうだよな。


「でも、こうやって2人とも無事だし、一流の剣士の戦いも見られた。収穫は大きかったと思おうぜ!」


「私は別に剣士の戦いなんて見たくないんだけど……」


まだ不満そうにするソーナだが、2人とも無事に済んだというワードにはそれなりに感じるところがあったみたいだ。そうそう、一応、助けたしね。思い出して! 重要な部分だから!

俺たちはいつの間にか例の木賃宿に近づいている。そろそろ日も暮れてきて、今日のイベントも終了だ。


ソーナが立ち止まり、俺の方を向く。

なにか言おうとして躊躇している。もじもじと身体をねじらせ、何とも言いにくそうだ。


「まぁ、その、一応、助けてもらったから、あまり文句は言えないけど……。その、ありがとう……」


俺は満面の笑顔を浮かべて、恥ずかしがるソーナちゃんをハグする。例によって身体を硬直させたが、すこし間を置いて、力を抜き、俺に身体を預ける。

フヒヒ! デートの最後はこうでなくちゃな。


王都アヴス、いろいろな人間がいて、息をつく暇もないね!



          to be continued !! ★★ →

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ