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act.16_王都のウィタ騎士

トールゲートに似た城門をくぐり、俺たちは王都アヴスに入った。


メインストリートの沿道はまっすぐに伸びていて、両脇には四階建てぐらいの建物が隙間なく並んでいる。ところどころ区画を分ける形で路地が整備されていて、そこにはロープが渡されて洗濯物が干してある。そしてそこを行き交う人々の多さたるや!

この世界に来て、これだけの人が集まって暮らしているのを見たのはもちろん初めてだ。王都と冠されている街がどのくらいあるのかわからないが、この世界でも有数の都市だろう。


驚くのは人族とは異なる容姿の住民が多いことだ。

まえにララに訊いたとき、人族の他にも、洞窟族、妖精族、小人族、巨人族などがいるといっていた。俺がいままでに会った人の中にはコリー族と妖精族がいた。往来する人の中にはあきらかにあれ巨人族だろ、という人がいる。赤髪で巨体の女性。簡単な鎧を着けて、背中には蛇矛を下げている。どこの張飛だよっていう。それからこびと族らしき人もいる。店先で謎の果実を並べて呼び込みをしている。洞窟族っていうのはちょっとわからないが、ぱっとみても人族以外がおおい。


それから、ララは言及していなかったが、肌の所々が鱗になっている男もいた。頭髪はなくて、頭部は特に鱗が覆っている。その鱗はエメラルドグリーンで、腕の辺りだけ黒く固そうだ。あれはトカゲ族? そういう直接的な言い方は差別になるかもしれんが、まぁ由来は爬虫類なんじゃないかな……。俺は再びこの星の生物種の進化が気になってしまう。


知的な生命体が同時に進化するなんてまぁないだろう。人類ですら、クロマニョン人とネアンデルタール人は互いに争い、その闘争は片方が絶滅するまで続いた。たとえば、巨人族と妖精族がどこかで出会ったら、たとえ平和主義な論調が起こる時代があったとしても、最終的にはジェノサイドにいきつくんじゃないか?

互恵的な関係を築くには、住民の教養というか教育レベルが低すぎる。いや、一部では学園都市もあるっていうくらいだから、そういう思想もあるんだろうが。

しかし、それが一般市民に膾炙していなければ、そんな思想そのものが迫害されて滅ぼされる。人の営みにはそういう傾向があることを俺は知っている。それは、なんていうか、アメーバが自身と異なる遺伝子を、食して吸収し、形質を取り込むのと似ている。自身と異なる者を食して取り込むというのは、生物の本質なのかもしれない。


そしてそれは人間の文化の面でも同じだ。


人間も自分たちと異なる文化には敏感に反応する。

平和的共存しようという気持ちがあっても、それはままならない。誰か一人、相手を気持ち悪い、卑劣だ、文化的に劣っている、という態度をとっていると、それはしだいに周囲に広がる。そうなるともはや一部の、融和を説く知識層には制御できなくなる。

お互いを非難中傷し、血を流し、殺し合いにエスカレートする。その戦いは片方が絶滅するまで続く。

そして、勝ちのこった側も、時間がたつにつれて内部に滅んだ側の文化が夢か幻のように沸き起こってくる。滅亡したものたちの記憶が、勝者の子孫の中に乗り移ったかのように……。


俺はトカゲ族を眺めながらそんなことを考える。


トカゲ族の男には手枷がはめられていて、そこから伸びる鎖は地面に打ち込まれた鉄製の杭に繋がれている。

彼は奴隷だ。それもたぶん、戦闘用の奴隷なんだろう。俺のように比較的自由が与えられていたりもしない。ぼろを着せられていて、足下には汚れた水の入った器が置かれている。まるで飼い犬のような扱いだ。

言葉はしゃべれるんだろうか……。


俺は彼とコンタクトをとりたくなるが、商隊は一顧だにせずに先へ進んでいく。


城壁をぬけてしばらく歩いたが、王城はまだまだ先に見えている。とてつもなくでかい都市だ。いったい何人の人が住んでいるのだろう。食料の調達もとんでもなくたいへんななはずだ。これだけの人たちが毎日、飯を食い水を飲み、便をするんだから、そのエネルギーたるや、すさまじいものがあるだろう。

食料を生産しない都市の住民が数万人いるとして、その人間を養うのに、農家はどれだけの余剰食物を生産することになるのか、想像するだけで、とてつもない生産能力が必要だとわかる。

食料だけではない。衣服や建材、文化的なあらゆる活動に伴う消費財、薪だってそうだ。通ってきた道はわりと植生に覆われていたが、そうなると、この人たちの炊事はどうなっているんだ?


俺はなんだか疑わしく感じてくる。本当に成り立ってんのか、この都市の生活は?

あ~紙が欲しいな、なんでも思ったことを書き留めて、あとからフィールドワークをして、データ化し、まとめたい!

俺はチキュウでさんざん取り組んだ仕事にここでも就きたくなる自分に気がついて苦笑する。


「なぁに、大人みたいな顔をして笑うのね」


それを見ていたララがおかしそうに笑う。


「いや、王都って、さすがに人がたくさんいて……、文化も多様だなって」


「文化が多様……、難しい考え方をするのね。以前の生活を少し思い出したんじゃない?」


「そうかもしれない。なんだか、歩いている人たちを見ていると、紙に何でも書き付けたくなるんだ」


「ふーん。あなたみたいな年齢の子が紙を大量に使っていただなんて、やっぱり貴族の生まれなんじゃないかしら」


俺は前から気になっていたことを訊いてみる。


「紙は手に入りにくいの? 材質はなんなんだろう。会計のハスドルバルさんがたまに抱えているのを見るけど、あの人、俺には見せてくれないから」


「商隊のお金のことが書いてあるからね……。紙はそれほど高価じゃないわよ。でも商隊はあまり持ち歩かないから、旅の間は手に入りにくいかも知らないわね。よく使われている紙は南方の熱帯にある農地で、木の繊維を漉してつくるのよ。ほかにもいろいろな繊維を使っているんだけど、ほとんどが熱帯産ね。王都では南方の街を属国化していて、そこで安価につくらせているらしいわね」


「南方の、属国か……」


なるほど、俺は頷く。王国が周囲に属国を造り、都市の維持に必要な物資を安価に、どんどん吸い取っているという構図か。それで農地にひかれた道ですら石畳なんだな。馬車が速い速度で移動できて、物資を大量に運べる。

なかなかの統治能力だ。

補給物資が遠方から運ばれるという点では、天災や戦災とかには弱そうだが……。


町並みをよくよく見ると、家屋に見えていたものもかなりの数が倉庫だとわかる。たぶん、メインストリートの裏に回れば、荷馬車を受け入れるコンテナヤードみたいなものが広がっているだろう。そこに物資を一時受け入れて、荷物を運び込む。そこから、問屋、商会を経て、市民、貴族へ物資を売る。まぁそんなところだろう。


俺は商会の建物で騒々しく声を掛ける男らを感心して眺める。

あ、やべ、何か睨まれた。奴隷がじろじろ見るもんじゃないかもしれんな。


そんこんなで俺たちはカトーの馴染みの商会へ向かっている。


堀を兼ねた小運河をわたり、再び検問を受け、やや開けた広場を曲がる。ライフストリーム教会や学校……寺子屋レベルだが、らしき建物を見かける。うむ、子供たちが元気にしてるね。それからどこか官衙って感じの区画を過ぎて……、目深にローブを着た二人に目をひかれる。


なぜその二人に目をひかれたのか、初めはわからなかった。

だが、自然とそれが何か探していて、やがて気がつく。彼らは身体に魔素を巡らせている。

魔素は魔術を使うときに身体の回路に巡らせるものだが、そいつらがやっているのは、魔術を行使するときとはちょっとちがう。なんていうか、自然と巡っているというか、周囲と調和しているというか、なんともわかりにくいのだ。


ムンド村でヨアンナがやってみせたものよりも、スムーズで、淡く、そして……美しい。

身体から水色の炎がうっすらと立ち上っている。そんな感じだ。

彼らが歩みを進めると、淡い光が火の粉のように背後へ散っていく。

あれ、他の人にも見えているんだろうか?


俺は意図せずしてその様子をしばらく観察してしまう。


と、前を歩く人物が目を上げて、ローブの奥から俺を見る。あ、目が合っちまった。

瞬間的に俺は身震いする。

魂の奥底まで覗かれている、そんな気持ちになっている。まるで男の目に吸い込まれて行くみたいだ。


だが俺にはそういう影響を一方で冷静に観察している自分が意識できる。東南アジアフィールドワークで培った、現地人と酒飲んで肩組んで笑い合いながら、そいつらの生活習慣を分類したり細部を脳みそに記録したするという特殊能力のおかげだろう。

あ、いや、たぶん、だれでもそういうところはあるんだろうが……。


「まて」


と、そいつが手を挙げて言った。


馬車は止まらずに進むが、前を歩いていたサイネアと、隣を歩いていたララが立ち止まる。


「……ウィタ騎士殿、なに用ですかな」


サイネアが仰々しく返事をする。

あ、こいつらがウィタ騎士なのか。なるほど。俺はすごく納得する。

前を歩くのは教士で、後ろに従っているのは錬士なんんだろう。

2人組になって国々を移動し、ライフストリーム教会の布教と現地の治安維持などに活動する、まぁ、宣教師みたいな奴らだったな。そして、ライフストリーム教会の武力部門だと、尼僧ヨアンナは言っていた。


呼び止めた男はフードを脱ぐ。短い金髪の頭、茶色い目、壮年だが乾いた皺の深い顔。人族だな。


「その子供はどういった由来のものだ?」


男が訊いてきた。

サイネアが俺をチラ見しつつ、それに応対する。


「このものは旅の途中でひろった、身寄りのない人族。いまは商隊の長が奴隷として養っている」


「奴隷……?」


男は訝しんで俺を眺め回す。


「どのような生い立ちであるか?」


と、今度は俺に直接聞いてくる。

さて、どう答えるか。


なんだか魂のそこまで見抜く能力でもありそうだが、嘘を突き通せるか。嘘をついてそれとわかれば、ライフストリーム教会にかえって目をつけられる気もするな。

しかし、立ち止まっているサイネアもララも話を訊いている状況だ。ここで身の上をぺらぺらと話す選択肢は、まぁないだろう。

俺はいままで通りの話で押し通すことに決める。


「記憶を失っていて……」


と、商隊の皆に話したのと同じことを説明する。

2人の男は表情を変えないでそれを聞いている。てか、後ろの男は顔も見せない。失礼じゃないの、それ。


商隊に加えてもらってアヴスまでやってきた話が終わると、2人の男はなにやら打ち合わせする。錬士の方が反対しているみたいだが、なんの話かはわからない。


しばらくして話しかけてきた男が向き直る。話を終えて、なにか水色の揺らめきが、前よりも濃くなった気がする。


「そなた、我々が纏う魔素の揺らめきを見ているな?」


「え? はぁ」


俺はよくわからずに答える。


「そなたには素質がある。どうだ、ライフストリーム教会でウィタ騎士として修行してみないか?」


え? え?

わたし、勧誘されている!?


「ですが……。私は奴隷の身ですので」


とっさにネガティブな返事をしてしまう。


「ふむ。で、あれば私が買い受けようか」


そういって、男はサイネアに問うような視線を向ける。

サイネアは躊躇してから、先を行く馬車隊に目を向ける。カトーのいる集団だ。まぁカトーじゃなきゃ決められないよな。サイネアは雇われている傭兵なんだし。

だが、だ。


奴隷から解放されてライフストリーム教会で修行? するというのは興味深いが、その選択をした場合、俺、テニスちゃんに討伐されるんじゃないか?

テニスちゃんでなくても、糞女神の手駒たちが、支配を逃れようとする俺を放っておかない可能性は高い。つまり、カトーに剣の腕を認められるというミッションの途中で、カトーと別れるわけにはいかない。カトーは砂漠と王都を行き来する商隊の長だから、次にいつ会えるかなんてわからない。第一、ライフストリーム教会で修行するとなれば、どんな修行か知らないが、そうそう、町中で旅の商人を探すことなんてできないだろう。

残念だがいまは断るしかなさそうだ。


断るんならこのおっさんがカトーに交渉する前の方が良いよな。


「申し訳ございません。私にはこの商隊に命を救ってもらった恩があります。私のことを気に掛けてくださったお気持ちはありがたいのですが、どうか、このままでいさせてください。なにか商隊に恩返しをしたいと思っております故」


「ふむ……」


男が考えこむ。

そうそう、それが俺のいまのカルマなんだよ。俺はそのカルマを果たさないといけない。それはあなた方の基本的な教義なんだろ。だから、無視できないはずだ。


「で、あれば止められぬな。そなたのカルマが果たされんことを祈ろう」


よし。

男は再びフードをかぶり、眼前で祈りの身振りをしてみせる。


「では」


サイネアとララが馬車に追いつこうと早足で歩き始める。

俺もララに促されて、歩き始める。


ウィタ騎士はそれを目で追いながら、しばらく俺のことを眺めていた。



          to be continued !! ★★ →

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