act.13_盗賊、来襲
両腕が意思に反してふるえはじめる。
何か制御の難しい塊が、両手のひらのあいだでうごめき出す。
熾れ! 熾れ! 熾れ!
炎よ!!
その瞬間、背中の産毛が逆立ち、身体からごそっと力が抜け、目のまえに科学を超えたエネルギーが燦めく!
炎よ!!!
そして俺は!
破裂音とともに、目のまえで炸裂した爆発に自分自身が吹き飛ばされた。
……。
な、なにが起きた……。
衝撃で体中がじんじんとしびれている。
指先でかんしゃく玉をつぶしたみたいな衝撃だ。
そして、強い疲労感で立ち上がるのも億劫だ。
このまま、眠りたい……。
俺は夜空に広がる見知らぬ星の並びを呆然と眺める。
商隊の人たちはいまの音で起き出したりはしなかったようだ。
それだけはよかった。
魔術の発動って、こんなに疲労するものなんだな。
それに制御を失敗すると自分自身がダメージを受ける。
なによりこの虚脱感。
……だがしかし。
俺は魔術をつかった。
このチキュウの科学に染まりきった魂で。
宇宙の理に干渉した。
ら・ら・ら~♪ ら・ら・ら~♪ らんらんぬ~♪
ぬまぬぱ~ぽっん♪
俺は知らぬ間に、昔はやった歌謡曲のイントロを口ずさんでいる。
俺はいまや魔法使いだ。
この爆発の力、なんとしても制御して、異世界ライフに役立てよう。
俺は夜空に浮かぶ、3つの月に誓う。
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そして……夜が明けた。
普段通りの朝だ。
マグノラさんが食事を用意し、俺はわずかな水で洗い物をしたり、配膳したり、鳥トカゲに餌をやったりする。
みな普通にしている。
俺が魔法使いになったことはだれも知らない。
だのになんだか、世界が輝いて見えるのはなぜだろうか?
それはひょっとして、ひょっとすると、俺がチキュウの人間を超えてしまったからかもしれない。
俺の存在はどこまで巨大になっていくんだろうな。
宇宙は果てしない。
俺とシャーリーで、宇宙を手に入れよう。
なんてな。
俺は寝起きで機嫌悪そうにしているオッスを見る。
考えてみればこいつも筋肉だけで、いままでよくがんばってきたよな。
たしかに剣術はすごいけど、それだけじゃ、古代のグラディエーターと変わらないものな。
コリーといえども。
オッスは昨夜のたき火のあとにかがみ込む。
炭に右手を近づけて、すこし、動きを止める。
そして、身体から魔素の輝きを……、あれ?
炎を熾し、炭に火を点けた。
あれ? え~っと……。
なんか、おかしくね?
たき火の前で足を組んで、用意された朝食にスプーンをいれる。
一口食べてから、五徳の上に器をのせる。
火が消えかかっているのに気がついて、再び魔素を練る。
火を熾す。
火がつく。
ほら、簡単でしょ?
魔術、つかってるじゃん。
「ねぇ、ララ、実はみんな普通に魔術を使ってるとか?」
「え?」
俺は商隊が移動を始めてからララに訊いた。
ララは何のことかと目をしばたたかせる。
「今朝、オッスが炭に火を点けるときに魔素を練って火を点けたんだけど、あれってだれにでもできることなの?」
「ああ、魔術ね。まぁそうねぇ」
と、ララはしばし思案する。
「ウィタを保っている人とそうでない人に因るかな。ウィタを強く保っている人にすれば、魔素を練って火を点けた方が簡単なの。でも人族やコリー族はそれほどウィタを保っていないから、どちらかというと、火種で火を点ける。オースンはコリー族にしてはウィタが強いから、魔術で火を点けるわね」
「あ、そうなの……」
俺は猛烈にがっかりする。
つまりはやろうと思えばだれにでもできるんじゃん。
知らなかったの、俺だけか……。
「でもオースンも、あくまでコリー族にしては、っていう感じだから、戦いに魔術を使うとか、何かを操るとかは、すぐに疲れてしまうからできないはずよ」
「ふむ……」
「それに、この国では魔法使いを追い出した歴史があるから、あまり人に見せたりはしないわね」
「魔法使いを追い出した?」
「そうなの」
と、ララは難しい顔つきをする。
「この国は人族の国だから、ウィタの強い種族を嫌う傾向があるの。ウィタが強いと強力な魔術が使えて、その力は人の心を惑わしたり、もっと純粋な攻撃として利用できたりするわ。でも人族はウィタが弱い。弱いから、魔術による攻撃が苦手なのね。だから、魔法使いを、捕らえて殺した……」
「それはひどいね……」
ララは悲しげに首を振る。
「そうね。魔法使いのほとんどは、街に住んで癒やしの術で生活していたり、建物を補強したり守衛についたりして、みなと一緒に生活していた。それをあるとき一方的に捕まえるか、追い出すかしたの。たくさんの人が死んだわ」
「それでも魔術を使うこと自体が禁止されたわけじゃないの?」
「さすがにやり過ぎたという反省もあったから、魔術を使うだけで罰せられることはなくなった。ただ、そういう歴史があるから、魔術自体は卑しいものだとされている……」
「それで人前で使うべきではないってことだね」
「そうよ」
俺は納得した。
ヨアンナってば、よほど俺に関心を寄せてくれたんだな。
そんな土地柄であれほど強烈な魔素を練って見せたんだから。
それだけの意味をあの人は感じたと言うことだろうか。
ひょっとしたら、俺が使徒であることをどうにかして知っているのかもしれないな。
ライフストリーム教会に、あの糞女神を象った像などはなかった。
糞女神の伝令係であるテニスちゃんも、この世界で知られている存在だと言っていたが、まったく言及されなかった。
ホシとライフストリームという考え方も、世界をコントロールしている? 神がいるという事実にそぐわないものな。
そう言う意味ではライフストリームという考えは、間違っているのかもしれないが……
「私も少しなら魔素を練れるのよ」
ララが得意げに言った。
「身体にまとわせて、瞬間的に強い力を発揮する。筋肉がついていけずにダメージが残るけど、ここぞというような戦いでは、それができるのとできないのとでは、生き残れる確率がぜんぜん違うの」
「そんな技を使ってまで戦わなきゃいけない状況があるってことだね」
「そりゃあ、あるわよ。私もオースンも傭兵だもの。戦争にだって行くわ」
戦争……。この純真爛漫なララが?
想像ができないな。
吠え声を上げて敵に突進したりするのか。
……なんていうか、むちゃくちゃ怖そうだ。
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昼を過ぎたころに隊列の後方が騒がしくなった。
殿をしていたオッスが鳥トカゲで駆けてきて、カトーに何事か報告する。
俺は少し歩調を速めて、二人の声がぎりぎり聞こえるところまで近づく。
「――何人ぐらい来そうだ?」
カトーがオッスに訊く。
「砦の人数が40人。守備もいるだろうから、最大で30人だろう」
「腕の立つものは?」
「近くの街から来た冒険者のグループを返り討ちにしたらしい。百傑のたぐいはいないが、油断はできない」
「そうか。気付かれないように、傭兵たちに知らせろ」
カトーが俺に気がついて、鋭い視線を投げる。
俺は目を伏せて、ララの隣へもどる。
ララの方では俺が盗み聞きしに行ったことを知っていて、どおかした? お腹空いた? と、首を傾げる。
「盗賊か何かが襲ってくる感じだね。みなに知らせるように、だって」
「盗賊ね……」
ララは表情を引き締めて、周囲にさり気なく注意を払う。
つられて灌木の茂みやらを注視してしまうが、人の気配はない。
ララに促されて、俺は視線を逸らす。
「何かいる気配はないね」
「そうね。でも油断しないでね」
ララは俺をかばうように馬車と自分との間に俺を導く。
それはうれしいけど、俺もこの先自立しようと思えば、自分でどうにかできるようじゃないとな。
そうおもって、ララに「心配しないで」と、短く声を掛けた。
ララは困ったような表情を浮かべるが、二の腕の辺りを軽く叩いて、大丈夫だと気持ちを伝えると、ようやく他の傭兵と等間隔に並び直す。
はるか上空を2羽の鳥が飛んでいる。
真昼の太陽がじりじりと肌を焼く。
傭兵のララ、カンナリス、サイネアがどことなく神経質そうに、平静を装っている。
がらがらと馬車の車輪が音を立てる。
傭兵の金属がこすれて、金属がカチャカチャと鳴る。
額から汗がひとしずく流れて、頬から口角へこぼれ、顎の先から地面へ落ちる。
マントからほつれる繊維が風に舞い上がり、睫毛の辺りをかすめてどこかへ消えていく。
水たまりに踏み込んだ足が、泥の粘着感とともに一歩また一歩と俺を前に運ぶ。
まだなにも起こらない。
さすがにこれが続くと辛いな。
俺はララの方を見るが、ララにも余裕はないらしく、静かに瞬きをして見返してくるだけだ。
上空の鳥がトンビみたいな声でなく。
俺はそいつを見ようと目を上げ……視界の端に何かが光る。
向き直り、森の中を見て……、もう一度、何かが燦めくのを見つける。
なにか、いるな。
「……ララ、右の林の後方転がっている岩とを繋ぐ線の先、小高い丘の手前にある、茂みの辺りで、何か光った」
俺は小声でララに伝える。
「わかったわ」
と、ララは微動だにせずに答える。
数歩そのまま歩いて、「たしかに何か隠れているわね」と、答えた。
その会話は他の傭兵にも伝わって、皆が何気なく防具の位置をずらしたりする。
「くるぞ」
警告の声を発したのはカンナリスだった。
光を反射した茂みの方を見ると、弓を構えた男たちが数名、空へ向けて矢を放つのが見えた。
矢は、もうこちらに飛んできている!
俺はそれを追うが、みるみるうちに、距離は半分まで近づいている!
「矢が来るぞ!」
俺は遠慮なく警告し、屈んで、馬車の車輪を盾にする。
ピュンッ!
と、音が鳴ると、ついさっきまでなにもなかった場所に、深々と矢が尽きたっていた。
これは、やばい。
周りの傭兵がどうにか防御態勢をとったすぐに、それとわかる煌めきを放ちながら、数本の矢が降ってくる!
ピュン! トス! トス! トス!
うわ、これは怖い。
だれかダメージを受けたかと見回すと、先ほどのカンナリスが呪いの言葉を吐きながら、腕に刺さった矢をつかんでいる。
さすがに無傷とは行かないか。だが、たいした傷ではなさそうだ。
ララとサイネアはもう駆けだしていて、弓兵のいた藪へ一直線に走る。
人族のサイネアよりもララの方が遙かに早く、みるみるうちに距離が離れる。
敵の弓兵が二人に気付くが、もう相当詰められている。
慌てて矢をつがえ、構え……、そこで、ララのハチェットが一閃する。
遠目でもわかる血しぶきを首元から噴いて、男が倒れる。
もう一人は弓を投げ捨て、剣を構え……、渾身のハチェットが男の頭部にめり込む。
糸が切れたように倒れ込み、勢いで、ララもその上に被さる。
残りの弓兵は必死で藪から逃げ出している。
そこへサイネアがようやく追いついて、倒れた男にとどめを刺している。
よし、ララは大丈夫だ。
弓兵はせいぜい10人だ。
さっき盗み聞いた話では、盗賊は30人ほど。
残りはどこだ……
俺は周囲を見回す。
右手に弓兵のいた藪。
いまは皆がこちらに意識をとられている。
この攻撃が待ち伏せなら、本命は反対側だ。
左手。
小高い丘の背後から鳥トカゲが数匹、疾走してくる。
騎兵か!
いや、その後ろから歩兵も続いている!
「左手が本命だ!」
俺はシャーリーを握って、泥炭と岩とで挟まれた守りやすそうな場所に陣取る。
鳥トカゲはこの場所を抜けなければ、大きく迂回することになるだろう。
その場合は、こちらの人数が揃っているから、そうそう不利な戦闘にならない。
と思って、深く考えずに走り込んだが、さて、俺にどこまでできるだろうな。
ともかく、ソーナやマグノラおばさんに危険が及ばないように、やるしかないか。
かなりの早さで鳥トカゲが殺到する。
俺は覚悟を決めて、シャーリーを強く握る。
4頭の鳥トカゲが、地面を強く蹴り、騎手は槍をまっすぐに向ける。
地響きが伝わってくる。
盗賊が気合いの雄叫びを上げる。
1騎目!
まだ若い騎手が俺を見つける!
槍をまっすぐに突き出して、しゃにむに突撃してくる。
なんていうエネルギー感だ! 岩の塊が飛んでくるみたいな迫力だ!
身をちぢこませていたら、ずぶりとやられて死ぬだけだ。
俺はとっさの判断で、陣地から上半身をはみ出させる。
騎手が槍を上げて重心が変わったとき、鳥トカゲはその重心移動に耐えようと、足を思い切り踏ん張らせた。
騎手もまたバランスをとろうと、一瞬の隙が生まれる!
俺は相手の足下に飛び込んで、鳥トカゲの脚にシャーリーをたたき込んだ。
うまくいくかどうかなんて、考えている余裕がない!
ガシンッ! と、重い手応えがして、鳥トカゲの悲鳴が上がる。
飛び跳ねて、着地もできずに泥をまき散らして横倒しになる。
もがきながら立ち上がろうとする鳥トカゲの周りで、地面にたたきつけられた騎手が動かないでいる。
よし、こいつはもう脅威じゃない。
俺は次の相手に意識を移すが……
次は3頭同時かよ!
やばいな、と思った瞬間に、俺の両脇になにか重量のある塊が飛び込んできた。
誰かと思って見ると、カトーとオッスが全身に力をみなぎらせて、武器を構えている!
うは! めちゃくちゃ頼もしいな!
オッスはうなり声を上げながら、窪地から躍り出る。
攻めるのかよ! すげぇな!
でるなり、騎兵が身をさらしたオッスに槍を振るう!
ボッ!!
うおう! 矢とは違う、いかにも重い音だ!
オッスは身を翻してそれをよけ、槍の穂先をたたき切る。
長剣が魚影のように閃き、騎兵の肩へ振り落とされる。
騎兵は長剣と自身との間にどうにか盾を滑り込ませるが……、盾ごと粉砕され、落馬する。
だよな。あれじゃだめだ。
もう1騎。
槍を短くもち、オッスへ肉薄する。
虫をつぶすように、つんつんと鋭く突くのを、オッスは武器を打ち合わせて逸らす。
そこへカトーが走りより、騎馬の頭上へ跳躍する。
うぉ……
てか、3メートルは跳んだぞ!
騎手をのせた鳥トカゲは背伸びし棒立ちになるが、カトーはそのさらに上で丸くした身体を回転させる。
背後へ抜けざまに、騎手の背にサーベルの一撃を見舞う。
騎兵は身をのけぞらせて、背後へ倒れ込んでいく。
バランスが崩れて、鳥トカゲはもがいて騎手をふりほどき、あらぬほうへ駆けだしていく。
カトーの足元に、傷ついた男の腕が弱々しく持ち上がるが、カトーは再度それを凪ぐ。
腕が視界から消えて、また、血しぶきがあがる。
カトーは身を屈め、サーベルを突き立てる。
残り1頭の騎兵は馬首を翻して歩兵のほうへ逃げ去る。
俺は一連の動きをまざまざと見届け、2人の技のキレを目に焼き付ける。
これが、この世界の戦闘か……。
to be continued !! ★★ →




