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俺様!准教授の異世界フィールドワーク!基底文化は食人植物文化圏!?  作者: 山県としあき
ミスリルオーアロード編
108/276

act.106_不死者テニス

「ずいぶんと時間がかかりましたね」


テニスはうっすらと笑う。


兆行と戦ったときとは違う、時が止まったような感覚が俺を包む。なんだか不安になって石積みの家々から延びるウーナンダの国旗に目を走らすと、そこにはいつも通り風に棚引く帆布が見えている。

時は止まっていない。

しかし、不思議なものだな、テニスのようなこのホシの理を超越した存在は、相対する人間にそのように感じさせる能力があるんじゃないか?

この空間には邪魔が入らない、そう確信させる何かがあった。


ヨアンナ師がここにいたら、さぞかしさぞかしその知識欲を満足させられるのに。


だがここには俺しかいない。自分の人生を自分でつかみ取るしかないってわけだ。


「ほとんどなにも教えてもらえなかったからな。ほんとに苦労したよ」


俺は肩をすくめてみせる。


「言語能力を授かったではないですか。それだけでも命を繋ぐのに決定的に助けになったはずですよ?」


「へ、まぁねぇ……」


ちょっと怒りを覚えながら、平静を装って答える。

まぁ、アケネーに消えゆく魂をこうして荒ぶる世界に放り込んで、生を実感できるようにしてくれたんだからたいして文句もつけようがないか。


「それで、こうして俺の前にもう一度現れたってことは、最初のミッションが達成されたって考えていいのかな? なにしろ、カトー本人に俺の剣術を認めたかどうか訊くってのはなかなか難しくてね」


「カトーはその心の中で、あなたの剣術を認めましたよ。決定的な事象は、兆行と戦ったときに彼の武器を打ち払ったことでした。それは現地の、騎士2人にもできないことでしたから」


「まぁな……」


それ以上あいつらのことを口にしたら主義ではないが殴ってやろうかと怒気を高める。

そんな俺の心境を見越してか、テニスはそれ以上のことを口にしない。


「ご褒美とか何かあるんじゃないのか?」


「褒美? それはあなたにもう過分に与えられています。これといって価値のない魂であったあなたが、こうして息を吸い手足で自然に触れ、食べ物を食べ、ホシの雄大な景色を見ることができる。それ以上の褒美などあるでしょうか?」


「自由、とか?」


「自由?」


「そう。女神もそのお仕事も、これっきり。テニスちゃんもちょっと惜しいけど、これっきり。そんな褒美はどうだろうね」


「使徒を辞めるということですか?」


「まぁ、言い換えればそういうことだね」


「カトーに剣術を認められたという依頼をこなしたから、使徒をもう辞める? ……フ、クフフフ」


「おかしいかね」


テニスは自分でも意外だったようで、ちょっと戸惑いながら笑っている。その姿がなんだか病的で憐れなところがあった。ひょっとすると、テニスはテニスで逃れがたい何かを抱えて生きているのではないか、そんなことを思わせた。


しばらくして目をゆがませながらテニスが笑いの衝動から立ち直る。


「無理ですよ。まだなにもしていないのに、褒美として使徒を辞めるだなんて。あなたが為すべき事は、このさきの何十年かにあるのです。まだ、端緒にもつけていない」


「ま、そうなんだろうな。そんな気がしたよ。でもまぁ、考えてみてよ。俺とテニスとで、女神から逃げちゃうとかな」


「逃げる? パーシュパネー様から?」


女というのはじつに多彩な笑い方をする。俺の提案を訊いたテニスは、今度は侮蔑の交じった曖昧な笑い方をする。片方の眉を上げて、おとがいに力を込めて口を浅く開く。


「たとえそのように願っても、パーシュパネー様から逃れるなどとは、物理的にできないことです。不興を買うだけなので、口にすることも止めた方がいいですね。それで、次の指示ですが、」


「まま、待ちなよ。さっきのことはテニスの中で覚えておいてくれればいい。それとはべつにだ。おまえと別れてからも、こちとら実にいろいろなことを経験させていただいてね。そのなかで、あんた方の正体だとか、このホシの成り立ちだとかについて、自分なりに思いついたことなどもある。その辺りについて、答えを教えろとはいわないが、イエスノーくらいの返事をもらいたいんだが、それはできるかね?」


「我々の正体? あなたにはその情報を与えてあるはず」


「おそらくは嘘の情報をね。俺が訊きたいのは、俺のような手駒を納得させて仕事をさせるためのいいかげんな情報じゃないよ。客観的な、事実が知りたいんだ。これ、アカデミックな世界で生きてきたエーテル体の、自然なリビドーだぜ? 悪用しようとかそういうんじゃないの」


「困りましたね。事実とは恣意的なものです。あなたレベルのエーテル体には、我々は、いわゆる神としか認識できないといってもいいでしょう。それ以上の説明など意味をなしません」


「女神、パーシュパネーというのかね。俺はね、おまえらは人間にちかい、限定的な存在だと思ってるよ。ようするに、そういう同類にいいように使われるのが不快なのさ。掌の上とはいえ、せめて事実をつかみたいなんて思うのは驕りかねぇ」


「驕りですね。事実を曲解し完全なものに爪を立てようとしても、それは無益で甲斐のないことですよ」


「だが、俺の召還された空間には、床面に傷があったんだけどね。完全な存在が作り出すものに、瑕疵ってあるのかね」


「床面に傷」


テニスの笑顔が固まって、意図を探るように俺の目の色を窺っている。銀糸のような白髪がウィタのオーラに包まれながら、不自然に穏やかに靡いている。


「完全な存在である女神様には、存在を特定させるための名前がついてるんだな」


「そうですね、あの方はある次元においてはパーシュパネー様と呼ばれることもある。そのように承知するといいでしょう。それはパーシュパネー様によるものではなく、あの方を認識しようと望む、人間たちによる名付けです。不遜なことではありますが、音声や文字で意思疎通をする人間たちには必要なことでしょうね」


「で、パーシュパネーのいる空間には、床面に傷があるってことか」


「床面に傷。それはあなたの願望ではないですか?」


うむ。そういう言い方をしてくるだろうな。

それで、あの空間に戻ることのできない俺には、このクレームを論破することができない。現地で床を指さして「ほらここ、間違いないだろ」と、いうことができない。

お前の夢だとか、目の錯覚だとか、あ、エーテル体に目があるのか俺にはわからないが、ともかく、そういうクレームをつけられると、それ以上攻め込んでいくことができない。たとえ、俺の中でそんなクレームが嘘だとわかっていてもだ。


「まぁ、いいよ。話を戻そうぜ」


と、いうしかない。


「いくつか訊きたいことがあるんだが、答えられる範囲で、笑ったり怒ったり、場合によってはその鈴音のような声で返事をくれたらいいよ」


「言ってごらんなさい?」


ふむ。ちょっとあたまの中を整理して、先々で考えてきたことをまとめる。全部返事をもらえるかはわからないが、あるいは糸口くらいはつかめるかも知れない。


「まず、君は不死者なのか?」


直球。さすが俺。俺様。


「このホシの乏しい知識で言えば、イエス」


うむ。だよな。


「つぎ。俺はなぜ放置された? 不死者と使徒はコンビで仕事するもんじゃないのか?」


テニスは笑いを潜めて、つかれたように俯き加減になる。


「そこは私個人の面倒を省くためです。仕事に耐えない使徒が多すぎますからね。そのすべての世話を任されていたら、よい成果をだすいとまがなくなってしまいます。リソースは有限なのです。このホシに割かれたそれは僅かであり、つねに効率を考えなければなりません」


「パーシュパネーは万能ではないのか? 万能だったら、リソースでも何でもじゃんじゃん割けるはずだろう」


「あの方はなにごとも不備なくこなすでしょうが、ホシの行く末はまだだれにも見定められないのです」


ん……。

妙な物言いをしたな。まぁ、いまはいい。


「つぎ。不死者兆行の目的は何だ? 晴守ハルカミとかいうやつのことでもいい」


「兆行はインミンスルを絶滅させたいんでしょう。彼らがなにを意図しているか、どのような啓示を受けているのかは、私にはわかりかねます」


「でもあんた方は仲間なんだろ? みんなパーシュパネーの指示をうけて行動している?」


「さぁ? 私はパーシュパネー様に使えている身ですが、ほかの不死者のことなど気にする理由がありません」


これは……嘘なんじゃないか? 女の嘘を見抜くことにかけては百戦錬磨の俺様が、その感覚器のすべてをテニスちゃんに向けた結果、そのように感じられた。それは目つきがどうとか、口調がどうとか、指先の仕草がどうとか、なかなか具体的にいえるもんじゃないが、たしかにそう感じたのである。


「つぎ。ホシの知識層である宗教団体は不死者を目の敵にしている。あんた方は彼らについてどう思ってる?」


「邪魔者、ですかね」


「へぇ……わりと明確な認識だね」


「彼らは私たちを特定し、知識を伝え、意思の達成を阻害しています。それを邪魔者といわずしてなんといえばいいのですか? 我々の、パーシュパネー様の意志に、現地社会が従う必要があります。それがこの地の繁栄であるし、生命の幸福でもあります。ライフストリーム教会はおおきな間違いを犯しているのです」


間違い、か。

すべては間違いというのか。ライフストリーム教会のすべての教義、すべての歴史、すべての戦い、すべての信者、騎士の生涯。それらは間違いなのか……。


「……それで、これからどうなる?」


「もちろん、第2の指令です。この隊商においてあなたの地位は高まりました。言葉にはされていませんが、傭兵の、カトーの心理に、兆行と渡り合ったあなたの姿が刻み込まれたからです。当初、我々の予知に寄れば、この交易の成功率は、数字でいうならば8%でした。それがいまや52%にまで高まっています。パーシュパネー様は交易の成功を望んでいます。そこで……」


「交易の成功を見届けるって感じか」


「はい。王都アヴスに帰還し、政争に影響を及ぼせるだけのミスリルインゴットを持ち帰るのです」


ずいぶん具体的な、浮き世じみた指示だな。

このギャップ、なにかいろいろなことを物語ってないか? 俺はにこにこ頷きながら話を促したりする。



          to be continued !! ★★ →

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