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第69話 ケモズ共和国攻略編 罠

目を覚ます。天地が逆さまだった。


しばらく辺りを見回し、状況を把握する。


俺たちは全員、白い糸でグルグルに拘束され、天井から逆さにつるされていた。


近くにはベミー、リンギオ、ユウリナが見える。


その他、ルレ隊の兵士が奥の方まで大量にぶら下がっていた。


ここは女王アルウネアの巣か。


そこで気が付いた。フラレウムがない。


「あ……やばいやばい……」


焦った俺は千里眼を発動させた。


血の気が引く。いや逆さに吊るされてるから血は頭に溜まってるんだけどね。


ある意味これでバランスが取れた。よし、いいぞいいぞ。


ってそんなこと考えてる場合じゃない。


魔剣から発せられる魔素を探す。


結果としてフラレウムは少し離れた所に落ちていた。


「はあ……よかった」


フラレウムを持っていない俺なんかただの役立たずだ。


これまで肌身離さず持ち歩いていたから、


身体から離れたらこんなにも不安になるものなのかと痛感した。


何とか脱出して拾わなければ。


そしてアルウネアの姿も探す。


この区画の隣にいた。暗くてよく分からないが、どうも手足を丸めて眠っているようだ。


〈サーモ〉でも見てみる。輪郭が黄色と赤になった。確定だ。


討伐のチャンス。


アルウネアの足元に鎧や服の切れ端が落ちていた。ルレ隊の兵士だ……。


「このやろう……」


「起きたか、王子」


リンギオは先に起きていたようだ。


「この糸はかなりの強度だ。俺じゃどうすることも出来ない。


王子の魔剣で何とかならないか?」


「ごめん、魔剣落としちゃった」


「……ならユウリナ神頼みだな。クロエはここからじゃ確認できない」


俺とリンギオは身体をゆすってユウリナに体当たりをした。


何度目かでキュゥゥウウと音がして、ようやく目を覚ました。


「アラ、オスカー、オハヨウ」


……呑気な機械だな。


「チョットマッテ……ハイハイ、フムフム、ナルホドネ」


ユウリナを拘束している糸が内側から切れてゆく。


ほどなくしてユウリナは床に落ちた。


床までは1mほどあり、ユウリナは綺麗な着地を決めた。


「アルウネアハイナイヨウネ」


ユウリナに糸を切ってもらった俺たちは音を立てない様、静かに全員を解放した。


フラレウムも回収した。


「クロエ、いけるか?」


しかめっ面のクロエは「もちろん」とぶっきらぼうに答えた。


どうもやられたことが悔しいらしい。


「ベミー、〝狂戦士化〟は勘弁してくれよ?」


「……悪かった。もうやらない。さっきはごめんな」


ベミーは口を尖らせながらクロエに謝罪した。


「次やったら容赦しない」


クロエは掌に氷のナイフを出した。


「ま、魔人かよ……」


ベミーの顔は引き攣った。猫耳が後ろに下がって小さくなっている。


怯えているのか? 猫かよ。……猫か。


「あ、機械人。さっきは悪かったな」


ユウリナにも謝罪した。言い方は軽いけど。


「ベミーッテイウノネ。アナタトハイツカ本気デヤッテミタイワ。ウフフフフフフ」


こわいこわい、ユウリナが長く笑うのは頭にきている時だ。


「あ、あははは……」


ユウリナの無表情にベミーも引いている。尻尾が股の間に隠れていた。


怯えているのか? 猫かよ。……猫か。


キャディッシュとリンギオがきて、二人にも「さっきはごめんな」と言った。


リンギオは「あれくらいなんでもない」と人見知り全開で答えた。


コイツはほんと丈夫だな。


「君みたいなかわいい子にやられるなら、男は皆嬉しいものさ」


キャディッシュは天使スマイルをベミーに向けた。


うっざ。こいつだけには男代表で喋ってほしくない。


「うわ、有翼人だ! すげー初めて見た」


ベミーは尻尾を立ててゆらゆら動かしている。


有翼人の翼をまじまじみて興奮してるらしい。猫かよ。……猫か。




「全員無事か?」


声を殺して皆一ヵ所に集まった。


「敵はあの扉の向こうだ。油断している所を一気に襲うぞ」


兵士たちは無言で頷き、覚悟を決めた。


ユウリナがフルパワーで扉を蹴破り、俺たちは隣の区画になだれ込んだ。


寝ているアルウネアを発見。


「あそこだ!」


ルレ隊十数人の剣が一斉にアルウネアを襲った。


「ん?」


「おい……」


兵士たちに戸惑いが見られる。


「オスカー様、これ……抜け殻? ……かも」


振り返ったルレが言った。


千里眼で見てみる。生体反応はある。


「離レテ!」


ユウリナが珍しく焦った声を出した。


アルウネアの腹部分が割れ始めた。


なんだ?


「うお!」


「下がれ! 下がれ!」


中から大量の小さなアルウネアが湧いて出てきた。


き、気持ち悪い。


キャハハハハハハハハキャハハハハキャハハハハハハハキャハハハハハ……。


俺たちはあっという間に囲まれた。


すぐさま所々に火を放ち、牽制しつつ友軍のために視界を確保する。


よく見るとこの女王部屋の壁や天井は腐樹で覆われていた。


今まで見てきた木のものではなく、粘菌が広がっているような不気味な光景だ。


「肌を出すなよ! 兜をしっかりかぶれ」


ルレの声が響く。


その時カシャ、カシャと足音が響いた。


部屋の奥から女王のアルウネアが姿を現す。



ああ、俺たちは……子供の餌だったのか。


そう全員が悟った。


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