第61話 ケモズ共和国攻略編 対アルウネア戦
天井に空いた穴から魔物が次々落ちてくる。
何体かはこの階層に空いた穴に落ち姿を消したが、
ほとんどは俺たちの前に溜まっていく。
千里眼で見てみると、いつの間に集まったのか上の層には十数体の魔物がいた。
クロエは手をかざし、何も喋らず氷で天井の穴を塞いだ。
落ちてきた魔物が一斉に襲ってくる。
しかし幸か不幸か通路はそんなに広くなかったので、
先頭はチグイとウデナガの二体が並んでいっぱいだった。
俺が魔剣を抜く前に、リンギオとキャディッシュが抜刀して前に出た。
「王子、下がってろ」
「リンギオ、だから様を付けろって。君ほど無礼な奴はいないぞ!」
リンギオはチグイに、キャディッシュはウデナガに対峙した。
「クロエ、大丈夫か? 君は僕が守る!」
「おい、守るのは王子だろ。お前の方が無礼だ。
それにあの女はこの中で一番強い。守らなくても大丈夫だ」
「馬鹿! オスカー様に聞こえたらどうする!
ここは嘘でもオスカー様が一番強いと言わなきゃダメだろう」
嘘でしょ、キャディッシュ。普通の声量で言う? その言葉。
丸聞こえもいい所なんですけど。もしかしてボケてるのかな? ツッコミ待ちかな?
しかしまあさすがと言うべきか、二人共喋りながら淡々と魔物の相手をしている。
リンギオはチグイの殻に剣を突き立て、ほぼ一撃で行動不能にさせたし、
キャディッシュはウデナガの素早い攻撃を二本の剣で華麗に受け流し、
あっという間に首を飛ばした。
ちなみに二人共対魔物用の鎧をつけているので、
返り血や体液などの心配はしなくても大丈夫だ。
まるで重装甲兵のようだが動きは機敏で、見ていて心配がない。
ちなみにクロエは無意識に氷の装甲で防御できるらしいからいつもの服装だ。
「おい、お前の羽が俺に当たるんだが?」
「仕方ないだろ、狭いんだから。
有翼人の翼に触れると幸せになれるって人間の間じゃ有名なんだからいいじゃないか」
「初めて聞いたぞ、そんなこと」
「多分そうだ。絶対そうだ。特に僕の翼ならなおさら」
「……たたっ斬るぞ」
ほんとは仲いいだろお前ら。
二人の間を小型のチグイが突破した。チグイから吸血口が伸び、クロエの左足に吸着する。
「うっ……気持悪……」
吸着した場所が氷の足だったので幸運だった。
生身なら感染してクロエはグールになっていたところだ。
暗くて視界が悪いことで、どうしても反射速度が鈍くなってしまうのだろう。
「えっ、ちょ……」
吸血口の戻す力で、ビキビキと氷の足に亀裂が入る。
そして派手な音と共にクロエの足が砕けた。
「クロエ! 大丈夫か?」
バランスを崩したクロエは尻もちをつきながらも「平気。すぐ元に戻す」と答えた。
小型のチグイはキャディッシュが「よくも僕のクロエを!」と叫びながら息の根を止めた。
「気持ち悪いから二度と言わないで」
クロエさん、目が怖いです。
『オスカー、ユウリナヨ。チョット気ニナル場所ガアルカラ合流スルノ遅クナルワ』
ユウリナから通信が入った。
『分かった。何かあればまた連絡をくれ』
『了解。……ア、コノダンジョン内ニイル魔物ハ【腐王】ヨ。名ヲ〝アルウネア〟』
『あの蜘蛛女か?』
『ソウ。子供達ハ強力ナ毒ノ糸ヲ口カラ出スワ。気ヲ付ケテ』
『了解。……ていうかなんでユウリナはそれを知ってんだ?』
『ダッテ神様ダモノ。ナンチャッテ』
足を元に戻したクロエが立ち上がる。
「リンギオ、キャディッシュ、どいて」
二人は素直に後ろへ下がった。
クロエは手を前方にかざし、掌に小さな吹雪を作った。
スゴイ勢いで氷の粒が回転している。
「ハッ!」
放たれた氷の吹雪は通路いっぱいをズタズタにしながらだいぶ先の暗闇に消えた。
残りの魔物はミキサーに入れられたみたいに、半分液体と化していた。
「新技……出来た」
ぼそりと呟いたクロエに俺たち男3人は若干引いていた。
え、えげつなさすぎる……。
その時、魔物の残骸の影から、小さな女の子が顔を出した。
「ん? なんでこんなところに女の子が?」
キャディッシュが不用意に近づこうとしたので、止めた。
出てきた少女の下半身は蜘蛛だった。アルウネアだ。
「がーん! こんな可愛い女の子が魔物だなんて」
キャディッシュは頭を抱えて、勝手にダメージを負っている。ほっとく。
「キャハハハ」
長い髪に隠れた灰色の顔は笑っていた。
「下がれ!」
俺が魔剣を抜いたのと、アルウネアが糸を吐いたのはほぼ同時だった。
飛んできた糸が目の前で蒸発し、煙となる。
最近は抜刀するだけで、半径1mに熱波が発生するようになっていた。
「あ、熱い熱い!」
キャディッシュは翼をばたつかせながらさらに下がる。
飛び掛かってきたアルウネアが熱波に足を踏み入れた瞬間、
タンパク質の焦げる臭いがして、慌てて身を引いた。
アルウネアは笑いながら壁や天井を素早く移動し、こちらの隙を伺っている。
火球を撃ってみた。当たらなかったが天井から落ちて、脚の一本が変な方向に曲がった。
しかし、アルウネアは「キャハハハ」と笑っている。
どんな状況でもあの笑いしかしないという事は、
笑うという感情表現を理解している訳ではなく、人間への擬態と見た方がいいだろう。
しかし、ここまで精巧に人を擬態するって……結構ヤバくない?
もっと厄介な魔物が出てくる日が来るかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は通路いっぱいに火球を放ち、アルウネアを焼き尽くした。
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