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第311話 終戦

ユウリナは口からレーザーを放ち、


アイリスと繋がっていた、


ガシャの根を砕いて繋がりを断った。


続けざまに背中から黄金に光るワイヤーを出し、


アイリスを拘束する。


「これでアナタは何も出来なイ」


そして魔剣キュリオスがカッと光る。


途端、空間が歪み、ワームホールが出現した。


「人間を生かしておくと、


この星に未来はない。


後悔するぞ」


アイリスはそう言い放った後、


漆黒の穴の中に消えた。


ワイヤーがワームホールの中に引きずられ、


ユウリナも半身をその中に沈める。


「オスカー、この世界はもう安全ヨ。


今回ハ残すことガ出来てよかった。


さようナラ。


これからノ世界と……


アイレンを……ヨロシク」


「ユウリナ……」


次元の裂け目が一文字に閉じ、


そこには初めから何もなかったように、


ユウリナは姿を消した。


理解するのに数秒を要した。


え?……帰ってこないのか?


全ての元凶のアイリスが消えたことはいいとして、


ユウリナ……


お前との別れが、


こんなにあっけないものなんて……。




ポルデンシスが戦闘形態を解いた。


ということは、もう危機はないということだ。


「魔剣キュリオスは……


時間を操る能力を有する。


リンギオはみんながここにたどり着くために、


〝一番成功した時間軸〟を選び続けてきたの。


それこそ何万通りもね」


ポルデンシスは静かに語り出した。


「彼はみんなが死ぬ光景を、


嫌というほどたくさん見てきた。


あなたが死ねば、


その前に戻って死なないように細工するか、


結果が違ってくるのを待つ。


何パターンも試し、


失敗したら何時間も、


何日も戻ってやり直す。


そもそも私たちが勝つ確率なんて、


1割にも満たない」


なんてことだ……。


リンギオ……お前は一人で戦っていたのか。


「ザサウスニア戦争後から、


今までずっとか?」


「そう。彼にとっては、


果てしなく長い時間だったでしょう」


「すべてはユウリナの計画か」


「ええ。


腐樹と融合したアイリスを、


物理的に倒すのは不可能だから」


遠い目をするポルデンシス。


彼女らにとっては、


今この時は、


気の遠くなるほど昔から待ち望んだ瞬間なのだ。


「ユウリナはどこへ行ったんだ?」


「約100万年前の昆明市」


俺は思わず頭を抱えた。


昆明ディストラクション!!


ガシャの夢の中で聞いた場所。


「最初の腐樹……


いや、ワーマー発生地点か。


どういうことだ?


隕石じゃなかったのか……?


ユウリナは……


途方もなく長い時間をループしている……?」


「あなたは〝最初の人類〟の転生者だからか、


話が分かるわね。


そう、いつからか彼女は、


〝時間の牢獄〟に囚われてしまった」


夢の最後にユウリナが出てきたのは……


そういうことか。


「時間を操ることは出来ない。


何度やっても、


同じ時間と場所に戻ってしまうと言っていたわ」


「じゃあユウリナは……


100万年の戦いを一人で何度も……」


「何万回も。


今また、別の時間軸を救いに行ったのよ」




クガやネネルたちがやってきた。


俺の身体に起こった事を、


聞かされる。


俺は増してくる痛みに、膝をついた。


身体に取り込んだ核爆弾が、


思ったよりも暴れている。


エネルギーを抑え込むのがやっとだ。


ネネルが心配そうな視線をよこす。


「抑え込めると思ったが無理みたいだ」


小さな太陽のようになった俺の身体は、


光りが増して、


見るものを不安にさせるばかりだ。


所々、身体から小さな炎が噴き出している。


このままだと爆発するだろう。


「カカラルを出して……


そこにその核エネルギーを移して……


遠くに持っていけない?」


ネネルの提案は、


既に俺が考えたものだった。


魔素を操る感覚が分かる、


魔人ならではの提言だ。


「ダメだ。


俺の身体から切り離した途端に爆発する。


感覚で分かるんだ」


「そんな……」


ネネルの瞳から大粒の涙が落ちた。


俺は皆を見回して、言った。


「俺はここに残る。


全軍撤退してくれ」



ネネルが俺の正面に来た。


これが、最後の別れになるだろう。


「ネネル、今までありがとう。


国を頼んだ」


身体の内側が破裂しそうになるのを何度も抑えた。


核のエネルギーとは凄まじいものだ。


「オスカー……あなたとは……


ここでお別れなの?」


回復したばかりのネネルは、


立っているのもやっとな状態だった。


血の気の無い顔は、悲しみに満ちている。


「ネネルのおかげで、


俺の人生はかけがえのないものになった」


本当なら一緒に暮らしていきたい。


だがこの状況でそれを言うのは、


あまりに酷だ。


「俺は精霊になって、お前を見守り続ける。


どうか……幸せになってくれ」






その時の事はあまり覚えていない。


私は両腕を抑えられ、


迎えに来てくれたホノア達の背中に乗せられた。


皆で急いで地上へ上がった。


ただ最後、


オスカーの困ったような笑顔だけが、


脳裏に焼き付いている。


灼熱の業火と化した、


その身体の内に渦巻く力。


それを暴発させないように、


魔素を練り続けながら、


彼は全てを背負って守ろうとしていた。


私は泣き叫んでいたらしい。


抑えるのが大変だったと後から聞いた。


その時の記憶はあいまいだ。


ただ断片的に、ぼんやりと頭の隅に残っている。


地上に出て、上空から見ると軍も撤退していた。


オーク軍の地鳴りのような勝ち鬨が、


うっすらと聞こえたのを覚えている。


そして……


強烈な光と地響き、その直後に地面が陥没。


広大な範囲が波打ち、崩れ、


黒樹もオーク軍も全てのみ込み、


巨大な炎が上がった。



上空には精霊の群れが集まっていた。


その群れがまるで糸のように、


炎の中に降下してゆくのを見たのが、


私の最後の記憶だった。




「幸せになってくれ」




オスカーの最後の言葉が、


いつまでも耳に残っている。

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