第305話 戦いの火蓋
「べリア! そっちに3体!」
「任せて!」
腐樹の間を足に付けた重力制御装置で飛び回りながら、
イリアとべリアは電装銃で次々にオークを倒してゆく。
「奴ら……なんでこっちにばっかり来るんだ?」
オークの首を飛ばしたラズリーは、
既に息が上がっていた。
それほどまでに戦いは熾烈を極めた。
「左右の戦線より少し出ているんだ。
だから三方から群がってくる」
手斧を二本自在に振り回し、
何体ものオークを仕留めながら、
ルッツはラズリーの横に並んだ。
ルッツもまた肩で息をしていた。
「少し下がった方が……
ルッツ、後ろだ!」
気付いた時には遅かった。
狼のような魔物が五匹、
飛び上がって二人に襲い掛かる。
だめだ、とラズリーが思った瞬間、
ドドドドッ!と魔物に矢が刺さり、
間一髪のところで二人は救われた。
矢は全て心臓に刺さっていた。
「男どもっ! 油断するなっ!」
遠くからルピの声が届いた。
姿は見えなかった。
リリーナの指揮する本軍は、
他の軍よりも頭一つ飛び出ていた。
腐樹の森の中で見通しが悪く、
視界に出てくるマップも、
時折通信状態が悪くなる。
結果、左右の軍との連携に、
遅れが生じたタイミングで、
周囲のオーク軍が集まってきてしまった。
リリーナはそれでも先頭に立って、
魔剣メロウウォッチの力を駆使し、
何百というオークと魔物を処理していった。
リリーナの右手20mほどには、
黒霊石を埋め込んだ、
魔獣ワルツが前線を守っていた。
大型のネコ科の姿をしたワルツは、
周囲にいる敵を狂暴化させて、
自分の手駒として操ることが出来る。
駒の一人が殺されても、
殺したオークを新たな駒にして、
迫りくる敵軍に対して鉄壁の防壁となっていた。
『リリーナ様! 出ました、ハイオークです!』
部下の声に、返り血で真っ赤になった顔を上げ、
マップの示す方を探す。
「こちらに来ます!」
部下の声に「探す手間が省けた」
とニヤリと口角を上げたリリーナは、
魔剣メロウウォッチを構えた。
「我は〝鱗の王〟ワーグル!!
お前か!〝ジュグ〟を感じるぞ!」
ワーグルと名乗った黒いオークは、
全身鱗で覆われ、
トカゲのような長い尾が生えていた。
四足で腐樹の間を高速で移動してくる。
リリーナはワーグルが、
メロウウォッチの能力圏に入った瞬間、
力を発動、動きを止めた。
空中で停止したワーグルの周囲が細かくブレている。
リリーナはワーグルの腹に魔剣を突き立てた。
しかし、鱗が硬すぎて刃が通らない。
「なんて硬さだ」
何度も試したが、力がつき、
リリーナは一旦能力を解除した。
案の定、解放された瞬間に、
ワーグルはリリーナに向かって来た。
兵達が一斉に攻撃するも、
獣のように素早い動きで躱してゆく。
誤算だ、そう思った時には遅かった。
向かって来たワーグルの尾を、
何とか魔剣で受けたリリーナは、
衝撃で後方に吹き飛ばされた。
ズサアアアァァッ!!と転がったリリーナは、
立ち上がった瞬間に、
なけなしの魔力を使って能力を発動させた。
顔を上げると、
目前にワーグルの鋭い爪先があった。
頬をつうっと冷や汗が流れる。
止めるだけでは能がない。
他の魔剣使いはいくつもの技を編み出している。
頭の隅で絶えず考えていたことだ。
リリーナはいつもと違う感覚で魔素を扱ってみた。
魔素を放出する前に身体の中で二つに分け、
左右それぞれで別に使うイメージだ。
カッと目を見開き、
リリーナは魔素を放出した。
……案外、上手いこといくもんだ。
ズッという音と共に、
止めた空間がワーグルを中心に左右にズレた。
汗だくで疲労困憊ながらも、
リリーナはふんっと鼻で嗤い、
縦半分に切れたワーグルの死体を一瞥した。
俺たちは大穴の淵の螺旋階段を下り、
深部へ到達した。
元々は古い神殿だったとポルデンシスは言う。
地下に降りたのは、
ユウリナ、ポルデンシス、ネネル、クガ、
そして【王の左手】の三人だ。
最深部は広い円形の広場で、
周りは何本もの装飾された柱があった。
奥には複数の通路が見えた。
「なにか飛んでる……」
通路から出てきているのか、
銀色に光る虫のようなものが頭上に集まり出した。
これは……機械トンボ! レゼルヴか!!
リンギオが「伏せろ!」と叫んだ瞬間、
各機械トンボが爆発した。
しかし、熱も爆風も降り注ぐことはなく、
俺たちの頭上に見えない壁があるかのように、
一定の距離で止まっていた。
気付けばポルデンシスは片手を上げていた。
空間を歪ませているのか?
安堵したのもつかの間、
爆発の衝撃で柱や、
それより上にある階段や壁が崩壊し始めた。
「まずい、みんな逃げて!」
ポルデンシスが警告した後、
辺りに瓦礫が降り注いだ。
そして粉塵で視界が奪われる。
「オスカー!!」
「ネネル!!」
俺は誰かに掴まれ、
一番近くの通路に投げ込まれた。
「懐かしい顔を見れたのに、
昔話の一つもせずに攻撃を仕掛けてくるなんて」
レゼルヴが奇襲を行い、
レーザーワイヤーでポルデンシスの腕が切断された。
「ふふふ、本当に久しいな、ポルデンシス。
何をしていたかと思えば、
地下に震えて隠れていたのか」
レーザー砲、小型ミサイル、重力波と、
猛攻を仕掛けるレゼルヴに、
ポルデンシスは防戦一方だ。
「そんなに焦って攻撃しなくもいいじゃない。
口数も多いし、焦っているのかしら」
「相変わらずの皮肉屋だな。
お前と話してると楽しいよ」
絶え間ない爆発と振動で、
大穴が全て埋まってしまうんじゃないかと思うほど、
瓦礫や土が降ってくる。
「あなたは……
もっと楽しいことをしようとしているんでしょ?
ただの一研究者だったあなたが、
この星を統べる神になろうとしてるのね。
長い間人々に神と言われ続けて、
勘違いしちゃったのかしら」
「私がそんな単純に見えるかね?」
後ろに回ったレゼルヴのヒートブレイドが、
ポルデンシスの肩を貫く。
「……ごめんなさい。そう見えるわ」
ギンッとポルデンシスの両目が光った。
その瞬間、見えない力でレゼルヴが吹っ飛び、
向かいの壁に押し付けられる。
「ぬぅ……反重力か」
ポルデンシスは手のひらから、
黒い弾を発射した。
それは小さなワームホールだった。
「うおっ!」
レゼルヴを含め、壁や瓦礫、
舞っている土埃などポルデンシスを除く全ての物が、
小さなワームホールに吸い込まれてゆく。
固い岩石が、
とてつもない力でバラバラと砕かれ、
小さな穴に消えてゆく。
レゼルヴの下半身が穴に入った。
バキバキと砕かれ吸い込まれてゆく。
「おのれ、ポルデンシス!!
いつの間にこんなものを!!」
「長年地下に籠って開発していたの。
ちなみにさっきの反重力波は、
ジャミングの効果もあるわ。
これであなたは予備のボディで復活しても、
記憶は引き継がれない。
最後にバックアップしたのは何時かしら?
復活しても、何度でもこれで葬ってあげるわ」
無表情のはずの髑髏顔が、
一瞬絶望に歪んだような気がした。
レゼルヴはバラバラのミンチ片となって、
ワームホールの向こう側へと消えていった。
「面白いかも」「続きが気になる」と思った方はブックマーク、評価頂けると大変ありがたいです。
執筆の励みにもなります。宜しくお願いします。




