第285話 首都ガルガンチュアにて
正規軍が出立し、
防備が手薄になった首都ガルガンチュアに、
各州から増援部隊が続々到着する。
メキア家の新当主、バウチャーが、
たった今到着した、
ラタニア家当主シャルナを迎え入れる。
「長旅ご苦労様です、シャルナ殿。
相変わらずお美しい。
あなたの前では他の女性が霞んで見えます」
金髪のおかっぱがさらりと揺れる。
「久しぶりね。
無理にお世辞言わなくていいわ、バウチャー。
最後に会ったのは子供の時以来ね」
メキア家より富も権力もあるラタニア家に、
今も昔もバウチャーは頭が上がらない。
「姉は空中要塞にて殉職しまして……
今は私が代表です」
20代半ば、シャルナより年上だが、
温室育ちだからか、
精神面の貧弱さが滲み出ていて、
放たれる貴族のオーラは、
シャルナの方が圧倒的だった。
バウチャーはシャルナが家族を毒殺して、
今の地位を獲得した事実を知らない。
親兄弟を亡くした、
可哀そうな女の子と認識しているのだろう。
「ジュールダンは残念ね。
まぁ私はそんなに好きじゃなかったから、
別にどうでもいいけど」
こんなはっきり棘のある言葉を使う子だったっけ、
とバウチャーは面食らった。
「は、ははっ……。
そ、そんなことより、
ラタニア軍は新たに有翼人兵を雇ったのですか?
中々人間の軍に入らないと有名なのに……
凄いですね、さすがです」
二人の脇を行進して進むラタニア兵の隊列には、
翼を折り畳んだ有翼人兵たちも歩いている。
「ああ、マクソミリア島の奴らよ。
あそこも内部でゴタゴタしていて、
食っていくためには仕方なくって感じでしょうね」
ガルガンチュアの街では現在、
一般国民向けの式典が始まっている。
表向き、国を統治していることになっている、
州知事たちが一堂に会して会議をする期間中である。
しかし、
裏で操るのは旧体制時代から各地を収めてきた、
強大な力を持つ12の名家、そしてテアトラ王室だ。
50年前、資本主義というものを導入するため、
王政を廃止、
民主的に代表者を決める政策に移行した。
確かに景気は良くなり文明は進んだ。
国自体も強く大きくなった。
だが新たな問題もたくさん生まれた。
貧富の差が激しくなり、
貧民街があちこちにでき、
その周辺の治安は悪化、
犯罪や、流行り病の巣窟になっている。
また防衛や医術の面では、
問題解決より権力者の体裁と金策が優先され、
愛国心は薄れていった。
誰もが国ではなく金を信じるようになった。
噴出した問題は、
王家や名家が裏から力で押さえつけるが、
それもだいぶ事が大きくならないと、
彼らの耳に報告が届かず、動くのが遅い。
それでも一度築いたシステムは、
そうそう壊れるものではなく、
膨大な数の欠陥や問題を飲み込みながら、
力尽くで国は大きくなっていった。
「将軍は今回で一気に決めるおつもりです。
なにせ全魔戦力を率いて出発しましたからね。
早くも占領後の分割統治を決めようと意気込んでいる者も……」
バウチャーはわざとらしく耳打ちして、
シャルナがとっくに知っている情報を、
もったいぶった言い方で教えてくれた。
「そう。なら私たちも早く席に着かないとね」
早歩きの棒読みでシャルナが返した時、
右側の城壁付近で爆発が起こった。
行軍中の兵達が武器を構える。
同時に数百の有翼人兵が上空へ舞い上がった。
「何が起こった!?」
「敵襲!」
「シャルナ様、バウチャー様、こちらへ」
護衛兵達が二人の周りを取り囲み、
城の入口へと促す。
煙の中から大勢の武装した兵士がなだれ込んできた。
「北側勢力の奇襲かっ!?」
バウチャーは護衛兵の後ろに身を隠しながら叫ぶ。
それは、城内で迎え撃つこちら側の兵達が、
陣形を整えた時だった。
バウチャーは驚いて目をひん剥いた。
上空を舞う有翼人兵達が、
城の兵やメキア家の兵士を、
弓で攻撃し始めたのだ。
「お、おい!違うぞっ!
同士討ちだ! 敵はあっちだ!
おい! 止めさせろっ!!」
少し前
建築稼業が得意なジョナス商会の作業員が、
ガルガンチュア城内の城壁工事をしていた。
作業員の正体は、
キトゥルセンの【護国十二隊】の四番隊である。
隊長のギングは元イース軍の部隊長だった男だ。
この部隊が出来てからすぐにテアトラに潜入、
〝ラウラスの影〟が買収した商会に潜り込み、
長い期間準備してきた。
改修工事の名のもと、
脱出路の増設として偽の工事計画書も作り、
城壁下から城の地下倉庫まで秘密の通路を掘った。
石の間に爆薬を仕込み、武器を運び込んでおいた。
そして本日、商会の荷物に紛れて、
オスカー王子と【王の左手】が工事現場に入った。
「長い間、潜入ご苦労だった。
ここまでこれたのもお前のおかげだ」
ギングは王子に面と向かって褒められ、
感極まった。
「まさかこんな使い方になるとは、
思ってもみなかったが……。
この後も頼んだぞ」
「はっ! 必ずや成功させて見せます!」
おもむろに、
シャルナがバウチャーの首に剣を当てた。
同時にラタニア近衛兵が、
メキア近衛兵を拘束した。
「な、なにを……!?
……まさか、あなたがこれを?
こ、こんなことをして、
どうなるか分かっているのか?」
ヒステリックに近いバウチャーの金切り声を、
うるさそうに聞きながら、
シャルナは窓の外を覗き込んだ。
一行は城の2階の階段にいた。
「馬鹿ねあなた。
私は勝てる戦いしかしないのよ。
衝動的にやってると思ってるの?
綿密な計算と強力な味方がいるに決まってるじゃない」
窓の外では有翼人兵が火矢を放っている。
そして雷が一ヵ所に何個も落ちていた。
あの場所は軍の施設が……。
雷……? あれは雷魔ネネル……?
バウチャーは顔面蒼白だった。
「大きな名家は既に味方よ。
知らないのはあなた達だけ。
……ちょっと早かったかしら。
暇だから……そうね、全裸になりなさい」
「……は……?」
シャルナは剣を強く押し当てた。
「二度は言わないわよ」
数分後。
「あらオスカー遅いじゃない」
シャルナは階段の踊り場で裸の男を並べていた。
「……何やってるんだ?」
「ん? 暇つぶし」
めちゃくちゃ可愛い笑顔で返されて、
俺は言葉に詰まった。
……イカれてんな、この女。
俺とシャルナは城のテラスに出た。
ここからは城下町を一望できる。
デカい街だ。端が見えない。
上空はネネル率いる有翼人部隊が哨戒してくれている。
いったいここで何をするのか?
それはテアトラ全土に向けてスピーチをするのだ。
街中に散った機械蜂がスピーカーになり、
ほとんどの人々の耳に届くだろう。
『……ラタニア家当主、
シャルナ・ラタニアだ。
私は北のキトゥルセン連邦王国の王子、
オスカー・キトゥルセンと婚姻した!』
やっぱり話し方上手いなぁ、この子。
人の心揺さぶる間とか声量だよ、これ。
めっちゃ美人だし、こうして見ると、
家族を皆殺しにした、
クソイカレ女だなんてとても思えない。
『そして、たった今ガルガンチュア城を征服した。
ダスケス、ボシュロム、ルークスウルグ、
レイウォースの州は、すでに我らの味方である。
……そうだ、これは現政権に対する反乱だ。
主戦力はここよりはるか北にいる。
犠牲を最小限にするため、
居留守の今を狙ったのだ。
……そして成功した』
シャルナはちらりと俺を見た。
え、俺も喋んの?
言っといてよ……。
「あー……オスカー・キトゥルセンだ。
今の話は本当だ。
俺はここにいるシャルナ・ラタニアと婚姻した」
もう後には引けないな。
みんなびっくりしてんだろうな。
「この通りだ。
私は戦争を止める。
北の最大勢力と手を組み、
無意味な争いを止めて見せよう。
そしてこの国も変える。
まずは州制度の解体、王政の復活。
現王家は没落した。
今からは……私がこの国の王となる!」
シャルナ・ラタニア テアトラ合衆国ラタニア家の当主。二十歳の美女だが権力を得るため家族全員を毒殺した。初登場……第252話 親殺し
ギング……元イース軍の部隊長。当時は尖っていたが、今では経験を積んで大人になった。
初登場……第92話 イース公国攻略編 第六、第七、第八試合
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