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第281話 バハルバードのポルデンシス

リリーナ達は地下リニアに乗って、


バハルバードと呼ばれる聖都に向かっていた。


こちらの大陸は古代文明の遺物が多く残っているらしい。


腐樹で覆われた地表の下には、


広大な面積の機械都市遺跡が眠っている。


リニアもその遺跡の一つだった。


いくつか前の世代が修復したらしい。


これにより、各村どおしの交流が劇的に増えた。


出発前、ポルデンシスと名乗る者から呼ばれたというと、


村中が騒がしくなった。


聞けばポルデンシスとは、


この辺り一帯が信仰している機械神らしい。


すぐにイリアとべリア、


それにルッツが護衛に、と同行を願い出た。


バハルバードまではリニアで丸一日かかる。


ワルツは村に置いてきた。


リニアは動力をたくさん使うので、


30日に1回、


他の村と取引する時にしか動かさないらしいが、


リリーナがポルデンシスに教えられた文字の羅列を、


制御盤に打ち込んだら、


毎日使えるようになったらしい。


村人はリリーナ達を神の使いともてはやし始めた。


なんとも現金な奴らだ、とラズリーは苦笑した。




リニアから眺める景色はずっと白い壁だ。


時々大きな空間に出る時がある。


巨大な空間に巨大な橋が架かっていたり、


壁際で宙を浮かぶ機械が、


火花を散らして修理していたり、


巨大な穴を作っていたりしている。



べリアは車内の壁の一部に向かって話している。


どうやら村と繋がっているらしい。


「あの機械は何をしているんだ?」


ラズリーはおとなしいイリアに質問した。


「……あの機械は何千年も前から、


ずっと何かを作り続けている。


知ってる人は誰もいない」


「地上の魔物は入ってこないの?」


ルピも会話に入ってきた。


「何度かあったけど、


機械が自動で排除する。


ただし、私たち人間の村は、


機械が入ってこないところに作ってあるから、


自分たちで魔物退治をしないといけない」


イリアは両側から話しかけられて、


どうやら緊張しているらしかった。


「機械と共闘は出来ないのか?」


「機械は気まぐれなの。


守ってくれる時もあるし、殺される時もある」


「頼れないのね。


じゃあなぜ機械神などと言って崇めているの?」


「この地下空間を作ったから。


ここが無ければ人間や、


他の生き物は生き延びてなかった」


イリアは感情が薄いなりに、


頑張って説明してくれた。


べリアが戻ってくると、


小さく安堵のため息をついた。 




途中でルッツが食事を出してくれた。


携帯していた保存食料をカップに入れ、


お湯をかけるとどろりとしたスープになった。


味はイマイチだったが、


腹は膨れた。


リリーナ達がいたウルティア大陸とは違って、


随分と便利な道具が揃っている。


小さな火をいつでも起こせる道具を見てルピは


「すごーい!」


とまるで子供のようにはしゃいでいた。


残りの時間は寝るか窓の外を眺めて過ごした。


随分長い間放置されている膨大な量の機械兵の残骸、


いつからそこにあるのか、檻に入れられた魔物や、


数人の小さな旅の行商、


四つ足の獣の形をした精霊もいた。 


「どこから入ってきたんだ?」


ラズリーが頭上にいた小さな鳥に気がついた。


親指ほどの大きさで、翼を高速で動かし、


細かく空中停止しながら飛んでいる。


くちばしは長く、可愛らしい顔つきだ。


「凄いな。こんな鳥、見たこともない」


その鳥はラズリーの周りを、


チチチッと鳴きながら飛びまわった。


「気に入られてるな」


リリーナに言われてラズリーは頭を掻いた。


「その鳥はハチドリって種類よ。


リニアに閉じ込められたのね」


べリアは「おいで」と言って鳴きまねをした。


「珍しいのか?」


「結構どこにでもいるわ。


人懐っこくて、人間に愛されてる生き物の一つね」







リニアがバハルバードの停車駅に着いた。


降りると髪の長い女が、


こちらを向いて立っていた。


「お待ちしてました。


あなたがリリーナ、ですね」


べリア達と同じ人種だ。


銀色の艶やかな髪に、


宝石のような紫の瞳。


ラズリー達が前に出る。


素早くリリーナの周りに防御陣形を作った。


「お前は?」


「案内の者です。


あなたをポルデンシスの元へ連れてゆきます」


リリーナとべリア、ルッツは互いに目を合わせた。


べリアは小さく頷く。


信用してもいい、と判断し、


一行は彼女の後について移動した。


リニアの停車駅を出ると、


巨大な街が広がっていた。


「皆さん、はぐれないで下さいね」


天井まで繋がっている四角い建物が、


たくさん聳え立ち、


ゆっくり空中を移動する船が行き交っていた。


「地下なのに空がある」


ラズリーは目を丸くした。


「天候パネルです。


地上の天候とリンクしています。


雨も降りますよ」


人もたくさんいた。


リリーナ達はかなり目立つようで、


すれ違う人全員が振り返る。 


「ルピ、弓はしまえ」


警戒してか、弓に手を掛けているルピは、


緊張した面持ちである。


「あ、はい。すみません……」


リリーナは危機感を感じていなかった。


確かに町中至る所に、


大型の武器らしきものが置かれていたり、


明らかに戦闘訓練を積んだ者達が、


道を歩いていたりと物騒なのだが、


我々に構っている暇などないといった、


なにか戦時中の雰囲気を感じた。


「皆さんはウルティア大陸から来たと伺っています。


あちらの大陸はどうなっていますか?」


「……どこもかしこも戦争ばかりさ」


「でも地上で生きてゆけるのでしょう?


……こちらはもう何世代も、


地下での生活を余儀なくされています。


それに加え魔物やオーク軍との攻防……


我々も早く地上に出て、


太陽の光を全身に感じたいものです」


案内の女は街の広場で立ち止まった。


目の前に銅像がある。


「機械人か?」


銅像はユウリナの戦闘形態にそっくりだった。


「こちらがポルデンシス。


はるか昔にこの場所を作った我々の神です」


銅像の腕にハチドリが止まった。


「コイツか。で、どこにいるのだ?


私はコイツに呼ばれたのだが……」


リリーナは銅像を顎で指す。


「皆さんの宿にてお待ちです」


広場からすぐの建物に入ると、


そこは宿泊施設のようだった。


係の者数人がかしこまって、


通路脇に一列に並ぶ。


案内の女は一人の男と何やら話すと、


リリーナ達を奥の広間に通した。


応接室のようなその場所は、


リリーナ達のいた大陸では、


ついぞ見たことのないような内装だった。


「ここか? ポルデンシスはどこにいるのだ?」


……謀られたか? そう思いながら、


リリーナが案内の女に目を向けると、


彼女はゆっくりと両腕を広げた。


「ここにいます」


案内の女の服や肌が、


一瞬ぼやけたかと思うと、


どろりと銀色の液体に崩れ、


中から機械人が現れた。


「申し遅れました。


私がポルデンシスです」


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