第259話 十六回目の夢と城でディナー
目が覚めるとそこは病室だった。
傍らに看護師がいた。
点滴をいじっている。
管の先は私の腕に刺さっていた。
「あ、気が付きましたか?」
看護師はまず、
感染していないから安心して下さい、
と教えてくれた。
同い年くらいの女性だ。
あの後、どうなったんだっけ?
博士に応急処置してもらっている時から記憶がない。
「あの、昴……ウチの隊長は?」
「無事ですよ。
よくは知りませんけど大金星だったとか」
「……そうですか。よかった」
安堵の溜息をついた時、扉がノックされた。
「失礼」
そう言って部屋に入ってきたのは、
保安局の柳瀬局長と赤沢さんだった。
「生きていてよかった」
椅子に座るなり、
赤沢さんは安堵の表情で大きな息を吐いた。
「悪いが少し外してくれないか」
局長の一声に看護師は頷いて部屋を出た。
「だから言ったんだ、危険だと」
局長は不機嫌そうな顔で座った。
「しかし〝ロメオ1″でなければ、
生還出来ませんでした」
「まぁいい、過ぎたことだ。
だが、今回の事で我々も目が覚めた。
君も懲りただろう。そろそろ答えが出たか?」
局長は険しい顔で私に圧力をかけてくる。
「私は……」
言葉が出てこない。
「もう一度ここからこの国を立て直す。
それには君の力が必要だ。
何度も言ったが、政治には関わらなくていい。
必要な時に少し喋ればいい簡単な仕事だ」
「飛鳥、知ってると思うが、
俺も一ノ瀬も、
お前が保安局にいるのは良く思っていない。
毎日のように死者が出ている危険な仕事だ。
……だが、気付いた時には、
お前は既に保安局に入っていた。
あの頃はバタバタしていたしな。
だから、
せめてもと生存確率の一番高い部隊に編入させた。
一ノ瀬と二人で何度も説得したが、
お前は保安局を辞めなかったし、
自分の出自を公表しようとはしなかったな……。
俺たちはお前の意思を尊重し、
今まで言われた通り黙っていた。
……だが、それももう限界だ」
「君は自分の価値を分かっていないようだ。
二人は君に危機が迫った時に備えて、
〝玖須美飛鳥保護計画″なるものを作っていた。
有事の際は〝シエラ″中隊と
〝ジュリエット4″を動かし、
君を外部に逃がすプランだ。
発案者は一ノ瀬一曹らしい。
いいお友達を持って実にうらやましい」
二人の言葉が頭上に降り注ぐ。
息苦しくて敵わない。
「私の母は結婚して一般人になりました。
だから……正直、実感はありません」
「いいんだ。実感は後から湧いてくる」
「我々は元公僕だ。
こんな怖い顔してる局長も元は海自の二佐。
故に愛国心は人一倍強い。
正直今までよく生きていてくれたと、
二人共感謝しているんだ。
……もうこの国に〝天皇家″の血は飛鳥しかいない。
たとえ血が薄くても、
たとえ生まれた時から一般人でも。
お前の考えや望みもあるだろうが、
どうか、生き残った日本国民のために力を貸してくれ」
赤沢さんは私に頭を下げた。
両手には力が入っている。
「……そうなったら、
私は〝ロメオ1″から異動ですか」
「もちろんそうなる。
もう危険な現場には行かなくていい。
どの局にも属さない。
いや、その場合は新たな部署を作るかもしれんが……」
「君が宮家という事は、
自ら口を開かなければ誰にも分からないことだった。
しかし、昔、君の一家の警護についたことがあり、
君の素性を知っている、
警視庁警備部の赤沢君と共にこの地で再会したこと、
これは運命ではないのか?
一ノ瀬一曹がいくら君が天皇の血を引いてると言っても、
私は信じなかったしな」
沈黙が流れる。
「……私は、一般人とは言っても学校や近所で、
日常生活の細かい所で、
自分が気を使われているって気付いていました。
それが……とても嫌だった!
この世は平等じゃないの?っていつも思っていたし……
普通になりたかった!
今は生きるか死ぬかの血生臭くて厳しい毎日だけど、
皆以前の世界のしがらみを捨てて、
生きる事に必死で、
あんまり言っていい事か分からないけど、
この世界になって、
ようやく人々が平等になれたと思ってた!
何よりも、
タワーには私の素性を知っている人がほとんどいない。
……それがとても開放的だった。
家柄や肩書なんかで分けられた以前の社会は、
今振り返ると寒気がする。
私は普通でいたいのに……
特別扱いなんかされたくない……」
自然と涙が溢れてきた。
ぽたぽたとベッドに染みを作る。
「……やりたくないかもしれない。
一般人として普通の暮らしをしたいかもしれない。
しかし、人には生まれながらに役割がある。
飛鳥を待ち望んでいる人がいる。
救われる人がいる。
絶望の淵に射す希望の光、
飛鳥は日本人の誇りなんだ」
もう、どうしていいのか分からなかった。
「それでも嫌だというのなら、
来宮昴を保安局から追放、
夏目かぐやを拘束する」
私は勢いよく顔を上げた。
「何でっ!? 関係ないっ!」
「夏目二曹は物流管理局の局長補佐官に暴行。
またあのバカ息子かと半ば無視していたが、
ここに着地するとは。
君もその場にいたそうだな。
来宮は……そうか知らんのか。
まあいい、とにかく君の立場は特別なんだ。
もはや、君の人生は君一人で決定出来るものではない。
皆を裏切ることは出来ないだろう?
当分ここからの外出は禁ずる。
早く身体を治したまえ」
「すまない飛鳥、わかってくれ」
二人が席を立ち廊下に出る際、
武装した〝ビクター1〟の四人が見えた。
実力のある古株チームで、
何回も一緒に仕事をしている。
私の警備……いや監視だ。
首を縦に振るまで、
私をここから出さないつもりかもしれない。
そこで私は事の重大さに気が付いた。
もしかして、もう昴に会えないのではないかと。
ザサウスニア領、
ガラドレス城から望む夜景は圧巻だった。
ノーストリリアよりも圧倒的に多い、
人々の生活の灯が、
闇夜に力強く輝いている。
俺はクロエと、
城のテラスで食事をとっていた。
数カ月前からの約束だ。
たまにしか来ない場所だからか、
旅行に来たみたいで少し楽しい。
いや、しっかり仕事も絡めてるけどね。
出張先で同僚と落ち合ってディナーってとこだ。
ここのところやることが多くて、
気が張っていたから、
いい気分転換だ。
先日戻ったモカルは、
無事、シャガルムの機械人から、
治療法を持ち帰ってきた。
現在、ユウリナがデータを解析中だ。
分析しながらユウリナは、
多くは作れなさそうだと呟いた。
だがこれで腐樹になったアーシュを救えそうだ。
それと驚いたのはモカルが、
魔剣使いになっていたことだ。
もはやメイドには置いておけない。
とりあえずは【王の左手】に配置換えか。
そしてシャガルムでのことだが、
ベサワンとバステロは消息不明。
おそらくもう生きてはいまい。
ミュンヘルのルナーオ女王に追悼と感謝の手紙……
そう手紙だ。
こういう場合は通信より手紙の方がいい。
送らなければ。
それにしてもトーリンの能力だ。
調査と分析が必要だな。
シャガルムの地下の魔物も、
地上に出てきていると報告があった。
あの区画の機械蜂を増やすか。
ああ、頭痛がする。食後に薬飲んどくか。
ていうか昨日見たガシャの夢は新展開だった。
まさかそういう……
「オスカー、なんだか上の空だな」
はっと顔を上げると、
少し悲しそうなクロエの顔があった。
「ごめん。……考えることが多くて」
やっちまった。
クロエと食事中なのに。
「分かるけどさ……
いや、私も悪い。
皆のようにあまりうまく話せないし。
でも、今夜は私だけを見てほしい」
肩に掛けたショールと、
ショートボブの髪が、
夜風に揺れる。
そうだよな。
せっかく綺麗なドレスを着てくれたんだ。
ん? なんか含みのある言い方だな。
今夜はってのは……
なにその表情?
え? 今夜って……ソーユーイミデスカ?
足元の簡易暖炉の薪がパチンと爆ぜる。
俺は赤ワインソースがかかった、
子羊のローストを持ったまま止まってしまった。
ガシャの夢の登場人物、設定
来宮昴〈キノミヤ スバル〉二尉〝ロメオ1〟隊長
発症していない感染者。
ワーマーと感覚を同期できるが副作用に苦しむ。
愛する人を殺した過去を持つ。冷静沈着で柔らかい物腰。
剣道経験者。回収した日本刀を装備している。
玖須美飛鳥〈クスミ アスカ〉三曹〝ロメオ1〟隊員
狙撃手
小柄で無口だが男性からの人気が高い。
〝ロメオ1〟には後から入った。
秋人〈アキト〉一曹〝ロメオ1〟隊員
少々怒りっぽく口も悪いが常識はある優秀な隊員。
副隊長。
昴、かぐやとは同級生。
夏目かぐや 二曹 〝ロメオ1〟隊員
本能に忠実で気に入らない奴を殴る癖がある。
命の駆け引きをすると性的興奮を感じる変態の戦闘狂。
過去に傷害事件を起こし、階級を一つ下げている。
昴、秋人とは同級生。
柳瀬和寿 保安局局長 一佐。海自出身。
冷静沈着で計算高く、時に無情とも思える判断を下すが、
純粋に人々を守りたいという想いも持ち合わせている。
赤沢智也 三佐〝シエラ1〟隊長
元警視庁警備部。管理職より現場を選ぶ。
理性的だが胸の内に熱いものを秘める。
二瓶龍臣 三佐。保安局局長補佐官
長澤塔子 医療局の医師。
ワーマー研究室の室長でもある。
明るくてあっけらかんとした性格。
男の筋肉が好き。やや変態。
吉岡智春 三佐 鬼の訓練教官
中田雄太郎 物流管理局 局長補佐官。
典型的なお坊ちゃん。世間知らずで利己的な性格。
飛鳥のストーカー。
函南雅哉〈カンナミ マサヤ〉〝ウィスキー1〟隊長
昴たちと旧知の中。柔和な顔つきだがモテるらしい。
木崎ウルナ 〝ビクター2〟隊員
二等陸士。容姿端麗で水着写真集も出している有名人。
松川 ”シエラ1〟隊員
赤沢の部下。
元警官。
江口 〝エクスレイ3〟隊長
20歳。松川と仲がいい。
飛鳥のファン。
小森巌 二尉〝シエラ2〟隊長
一ノ瀬小夜……一曹 〝ジュリエット4〟の隊長 弓を装備している
飛鳥の親友で共に横浜まで逃げてきた
基地のシステム
医療局……人々の健康管理や医療面を担当する。
ワーマー研究室もこちらの管轄。
農水局……農業、畜産、養殖、それらの加工と、
回収してきた食料品等を管理。
物流管理局……回収してきた生活用品、
機材等の物資の保管及びマーケットの運営。
総合開発局……車両、船舶、電子機器、
システム保全、インフラ管理、その他修理開発を行う。
保安局……【ワーマー】から人々を守るための、
軍と警察を担う武装組織。
保安局の戦闘チームは四人一組で一小隊。
AからZまでの小隊を
「NATOフォネティックコード」で呼称している。
数字コードは1~4まであり、
4隊の合計16名で中隊となる。
例 アルファ1~アルファ4=アルファ中隊
第1チームの隊長が中隊指揮官となる
数字の若い方がベテランが多い。
ほとんどの隊長が尉官クラスだが、第4チームには曹官クラスの隊長もいる。
〝シエラ中隊〟は自衛隊や警察の生き残りで結成される、いわばアグレッサー部隊。
〝ロメオ1〟は昴の能力のおかげで生存率、任務達成率が全チーム中トップを誇る。
別名〝インビシブルチーム〟(無敵部隊)と呼ばれることもある。
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