第252話 親殺し
目の前に空中投射されたディスプレイには、
白いドレス姿の美人が映っている。
まだ幼さの残る顔立ちだが、
ふと見せる表情は、
二十歳過ぎの大人の女性そのもの。
テアトラ最大、南部のラタニア州を収める、
ラタニア家当主、シャルナ・ラタニアだ。
金の長髪を綺麗にセットして、
絵に描いたようなお姫様だ。
テーブルにはキトゥルセン傘下、
ジェリー商会の面々が座り、
俺がノーストリリア城からリモートで参加している。
「オスカー様、先ほど頂いた名剣2本、
素晴らしいお品で……
それと先日魔物を率いた軍を襲撃されたとか……。
オスカー様自らが空から火の雨を降らせたと……
おかげさまで武器も食料もたくさん売れましたわ」
シャルナはしおらしく口元に手をやり上品に笑った。
ラタニアはテアトラ内でも有数の農産物収穫高を誇る。
畜産業も盛んで、更に複数の鉱山も所有している。
「いいんだ。こちらもあなたと話が出来て嬉しい。
その気持ちとして受け取ってくれ」
ここで王子スマイル。……決まった。
なぜ俺が敵側と会合しているのか。
それはラタニアと取引しているジェリー商会に、
俺と会いたいとの要望が届いたからだ。
どうやらクガが紹介したらしい。
「そうですか……キトゥルセン様々です」
「さすがシャルナ殿、
ご自身の国が傾いても動じないとは……
見かけによらず豪胆な方だ」
「見かけによらないのはオスカー様の方ですわ。
十代で大陸の半分を実質支配下に治めているんですもの。
実は中身は老賢者だとか、
本当は年を取らない魔人で、
何百年も前から生きているとか噂があるほどです」
何百年も前から生きてる……
そりゃクガの事だろ。
「……優秀な部下が数多くいた、それだけです」
俺は一旦言葉を止めた。
そろそろ本題に入るか。
「そちらも……
テアトラを乗っ取るには十分な歴史、家名、力がある」
シャルナは一瞬止まる。
「あら、本題に入るのが早いですわ」
「それ以外何がある?
両親と兄二人を毒殺しておいて、
権力に興味ないわけないからな」
シャルナは嬉しそうに笑った。
めちゃくちゃ可愛いな、おい。
「そこまで調べているか。
ならば説明は不要だな」
声のトーンが変わった。
ちょっと鳥肌。中々な胆力だ。
「私は何も権力が欲しかったわけではない。
この国の未来を誰よりも憂いていた。
人々が豊かに安全に暮らしていける国を作りたいと思っている。
結果としてそれが我が一族の繁栄に繋がるからな。
……だがあの馬鹿どもは恐ろしいほどの低能だった。
頭の中は私利私欲だけだ。
あのままなら間違いなく我らは滅ぶ。
私は救ったのだ。由緒あるラタニア家を」
流暢に、そして自信たっぷりに話す様は、
まるで舞台役者のようだった。
演説も上手そうだ。
「……あんたがどんな奴でも構わないよ。
一刻も早くテアトラを倒せればそれでいい」
シャルナはワインをゆっくり飲むと、
鋭い目つきで俺を見た。
「キトゥルセンと我らが協力すれば難しい話ではない」
シャルナの持つ真っ赤なワインは、
なぜだか本物の血のように思えた。
「おや、ライベック。
自慢の息子が会いに来てくれたのか」
大統領は執務室から出て、
ロビーで待っていたライベックの元に向かった。
三兄弟の長男、豪華な黒と銀の甲冑姿は、
攻撃的な人相を更に際立たせる。
周りには護衛や大臣、補佐官など十数名ほどがいたが、
ザリアム大統領は一人残らず退出させた。
誰もいなくなるとライベックはため息交じりに
「冗談はやめろ。あとその顔もやめてくれ」
と言った。
「なんだ、良心が痛むのか?
お前らしくもない。
共に親を殺した仲じゃないか」
ザリアム大統領の顔がぐにゃりと変形し、
やがて別人に変わる。
金髪の若者。現れたのはウルバッハだ。
「そういや、例の有翼人兵はどうした?」
「ああ、ハイガーか。奴は中々見所がある。
修理して前線に送るつもりだ」
ウルバッハはライベックの正面に腰掛けた。
「ふん、魔剣を持たせてか?」
「そのために魔剣狩りをしてきた。
魔人は生まれつきだが、
魔剣は然るべき者に持たせりゃいいだけだからな。
俺は誰でも魔剣使いにすることが出来る。
お前ら兄弟みたいにな」
ライベックは苦笑する。
「じゃあ魔人は用済みか?
千夜の騎士団はあと何人残っている?
だいぶ減ったようだが」
「……数は問題ではない。
例え全滅しても私が一人いれば十分だ」
ウルバッハの顔は自信に満ち溢れていた。
「……戦線は押し返しているが、
虎の子の魔物部隊がやられたそうだ。
バルロックが前線に出て支えているが……」
「〝大黒腐〟が始まるのだから些細な問題だ。
それに……すでにこちらの仕込みは済んでいる。
物事をうまく進めるコツは、
何重にも保険をかけておくことだ。
お前も得意だろ?」
妖しく笑うライベック。
「頼もしいよ。
お前にとっちゃこの戦争はお遊びか……」
ウルバッハは背もたれに身体を預けた。
「すべては俺の計画通りに進んでいく」
ザリアム……テアトラの大統領
既に死亡しているがウルバッハが成りすましている
ウルバッハ……【千夜の騎士団】団長 四本の魔剣を持つ
顔を変えられる
ライベック……テアトラの将軍 魔剣使い
ウルバッハと共謀して父を殺した
バルロック……ライベックの弟
塩を操る魔剣ゾルティアートの使い手
現在は前線にいる
ハイガー 有翼人の傭兵団団長 機械化している
ルガクトに負け瀕死状態で回収された
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