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第250話 古代浮遊遺跡編 〝球史全書〟

「シボ!」


目的の階に着くと、


通路の向こうからアルトゥール達がやってきた。


「無事だったか」


「何とかね」


先行した機械蜂が送ってきた道順は、


少し先を示している。


ここまで来ると敵兵は皆無だった。


通路もあまり荒らされていない。


「ここか……」


指示された場所は、


巨大な黒い扉で塞がれていた。


両開きの扉の上部に機械蜂が入っていき、


数秒後、重たい音と共にゆっくりと扉が開いてゆく。


数匹の機械蜂が内部を照らす。


脅威となるものは見受けられなかった。


全員武器をしまい、中に入る。


『二人共、ご苦労様。


ヨく辿り着いたワ』


ユウリナから通信が入った。


『ユウリナ様、目的の物とは……』


内部は球体の部屋だった。


壁一面に取っ手のようなものがずらりと並び、


どうやら引き出せる仕様らしい。


『右から6番目の列、


下かラ8番目を引き出しテ』


アルトゥールは言われたとおりの場所まで行き、


簡易梯子を登る。


取っ手を引くと中には黒い板が大量に入っていた。


所々が赤や緑に光っている。


『そレは基盤と言うものヨ。


それがアれば浮遊遺跡ハ私たちの物。


全部回収して』


全員総出で回収にかかる。


『他のモノは?』


『持てルだけ持って帰ってキてくれると、


とっテもありがたいワ』


数分後にはその場にいる全兵が、


鎧の下に基盤をしまい込んだ。


部屋を出ようという時、


突然地面が揺れた。


大地震のような衝撃で、


一人残らず壁や床に投げ出される。


「うわああ!!」


「なんだこれは!」


揺れはさらに激しく、


部屋全体が傾きだした。


「シボ、危ない!」


落下物がシボに向かって来たところを、


アルトゥールが身を挺して庇った。


「うぐあああ!!」


鈍い衝突音がした。


やがて揺れが収まり、


各々無事か点呼を取り合う。


「アルトゥールさん!」


部隊長のヴァンダムが悲痛な声を上げ、


皆が集まってきた。


シボとアルトゥールは、


大きな鉄骨の下敷きになっていた。


アルトゥールがシボに、


覆いかぶさるようにして守っている。


「アルトゥール!」


血だらけのアルトゥールを見て、


シボは悲鳴を上げた。


部下たちが数人がかりで鉄骨をどかす。


「衛生兵!」


「全員で集まるな!」


「ここは敵地だ。何人かは見張っておけ」


シボに怪我はなかった。


しかし、アルトゥールは左腕が折れていた。


出血もひどい。


顔も青ざめて、


このまま死んでしまいそうな雰囲気に、


誰もが息を呑んだ。


アルトゥールはゆっくりとシボと視線を合わせた。


「……シボ、お前は強く美しい。


俺は以前、愛する人を失った。


お前もそうだ。だからかもしれない。


親近感なのか、俺はお前に惹かれていった。


ここで最後かもしれないから言っておく。


お前の事を……愛している」


「アルトゥール……」


シボの瞳から大粒の涙が落ちた。


機械蜂が傷口をせわしなく動き回る。


部下たちも涙目で見守る。


『命に別状はないワ。早く脱出ポイントへ』


ユウリナの冷たい声が機械蜂から響く。


一瞬空気が止まり、安堵の声が溢れるが、


アルトゥールは目をしぱしぱしながら天井を見つめていた。


「なんだ、大したことないのか……


そうかそうか。


……なんだか気まずいな」


「ぷっ!」


シボはたまらず噴き出した。


笑いは伝染し、全員が声を上げて笑った。


うんうん、そうだそうだ。


笑ってくれた方が助かる。


アルトゥールは心の中でそう呟いた。









「どこにいようと、逃れることは出来ぬぞ」


光の速さで避け、攪乱するネネルに、


カフカスは全方位に重力負荷をかけた。


地表の木々が音を立てて折れ、


川の魚が川底に押さえつけられ血を吐く。


「見つけた」


カフカスはにやりと笑う。


広範囲の重力に捕まったネネルは、


崩れた城の瓦礫に押さえつけられていた。


バチバチと放電が周囲を焦がす。


「おうおう、これじゃ近づけん」


更に重力を増す。


「グオオオオオ!!!!」


ギカク化しているネネルは、


獣のような声を上げる。


その瞬間、


眩い光を放ち上下にレーザーが走った。


「うおお!」


ネネルの姿は消えていた。


「……どこへ消えた?」


覗き込むと浮遊遺跡の下層まで穴が開き、


光が見えていた。


「重力に逆らわず下に逃げるとは……」


一時の間をおいて、


背後からレーザーの乱射がカフカスを襲う。


しかしレーザーは重力渦で曲げられた。


死角がない。ネネルは焦る。


「これならどうじゃ」


周囲の草木、石、水が一斉に浮き上がる。


一帯を無重力にした、と気づいた時には遅かった。


ネネルも浮かび上がったところで、


両手足を小型の重力渦で固定されてしまった。


輪っか状の重力渦は、


それぞれつま先からゆっくり身体に向かって動き出す。


同時にバキバキと骨が砕ける音が響く。


「グオオオオオ!!!」


強力な重力が手足を破壊してゆく。


「ここまでじゃネネル」


こうなったら奥の手を……。


ネネルは力を内側に入れ込むイメージで魔力を最大化した。


ネネルの全身が眩く発光し始めた。


あまりの光量にカフカスも目を開けていられない。


やがて光は収まり、


現れたのは全身が雷と化したネネルだった。


「なんと……」


黄金の光そのものになったネネルは、


カフカスの重力渦を消滅させた。


「さすが我が弟子じゃ。


こうでなくちゃ命の駆け引きは面白くないからの」


カフカスは自分の前方に大きな重力渦を発生させた。


周囲の木々や岩が突風と共に吸い込まれてゆく。


もはやブラックホールだ。


両者は向かい合い、


一拍の間の後、衝突した。


直視していたら視力を失うほどの光、


身体がちぎれるほどの爆風。


辺りの地面は抉れ、瓦礫や草木が宙を舞う。


その衝撃は実に浮遊遺跡の五分の一を吹き飛ばし、


高度を半分以下にまで下げさせた。











「カフカスさん。手加減していましたよね」


「……しとらんよ。そんな余裕なかったわい」


心地の良い風がネネルの頬を撫でた。


既に戦いは終わり、


戦場では負傷者の救助が行われている。


辛くも勝利したキトゥルセン軍だったが、


勝因はルガクトが仕込んでいた、


ガゴイル族5000の援軍だった。


アルトゥール達とユウリナの遠隔操作によって、


浮遊遺跡はミュンヘル王国の領空まで移動していた。


「カフカスさんの考えを変えたのは……


一体何だったのですか? 


……カフカスさんは何を知っているのですか?」


ネネルは戦場跡を見つめながら、


横のカフカスに呟くように訊いた。


「ここで全てを語ることは出来ん」


血まみれのカフカスはそっと目を閉じた。


「〝球史全書〟……調べてみる……ことじゃ」


カフカスは上半身しかなかった。


「弟子に敗れ、弟子に看取られる。


何とも贅沢な最後じゃ。


ネネルよ。


わしの魔石を受け取ってくれ」


その言葉を最後にカフカスは動かなくなった。


やがて灰のように、


残った上半身がさらさらと崩れ、舞い散ってゆく。


小鳥が舞う優しい風に乗り、上空へ。


灰となったカフカスは飛んでいく。


後には紫に光る魔石だけが残った。


ネネルは立ち上がり、


ぐっと翼を伸ばした。







「ありゃあ、これ生きてるか?」


黒い炭のような塊にしか見えないハイガーの近くで、


人の声がした。


しかし、辺りには誰もいない。


「生命反応あり……凄いな、これで生きてるのか」


地面の草に足跡だけがつき、


それが近づいてくる。


「君はまだまだ使えるってさ。


ウルバッハに感謝だな」


愉快そうな声と共に、


ハイガーの姿がその場からパッと消えた。


少し先にはキトゥルセン軍の兵達がいたが、


気が付いた者は一人もいなかった。



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