第248話 古代浮遊遺跡編 名剣強奪
ネネル軍副将、ルガクト率いる有翼人兵たちが、
遺跡の平原に降り立った。
背中からアルトゥール軍副将ルゼル、
ベミー軍副将マーナが指揮する地上軍がすぐさま展開、
陣形を整える。
「来たぞ!」
前方から敵地上軍、
そして空からハイガー旅団の有翼人兵が見えた。
その後ろには竜翼人兵も見える。
「まず俺たちが弓で削ります!」
ルゼルたちが隊列を整える。
「任せたわ!」
獣人兵たちが一列に並ぶ。
その後ろから矢が乱れ飛んだ。
アルトゥール軍の半数は連弩を装備しているので、
従来の軍とは矢の総量と装填速度が桁違いだ。
空が矢で黒く覆われ、敵軍に突き刺さる。
十本の矢が入る矢倉を取り換え、
持ち手のレバーを引けば1秒で次の矢が発射できる。
一人の弓兵には矢倉6本が配備されていて、
弓兵は「剣を抜くのは矢がゼロになってから」
をモットーにしている。
他国の一般的な弓兵は、
矢が残っていても敵兵が近づけば剣を抜く。
しかしキトゥルセン軍の弓兵は、
敵が近づいてきたら距離を取り、
可能な限り連弩で対応するよう訓練されている。
当時軍部内の老将などから、
この戦術は「卑怯では」とか「誇りはないのか」
など批判が出ていたが、
自分たちよりも強大な敵に勝つためには、
兵士一人一人の生存率を上げる事が必須と、
王子自らが説いて回り、ようやく浸透したものだ。
「左翼、矢が尽きるぞ!」
「了解! 行くよ、みんな!!」
マーナを先頭に、獣人兵が突撃を開始する。
空ではネネル軍副将ルガクト率いる有翼人部隊が、
ハイガー旅団に突っ込んだ。
「ここでハイガー旅団を潰す!」
抜刀と同時にルガクトが吠える。
「一人も逃すな!」
「我らの恐ろしさを思い知らせよ!」
各部隊長たちも兵士を鼓舞する。
「うおおおーっ!!!」
至る所で剣と剣のぶつかる金属音が響く。
空の戦力では勝っている。
敵勢は大陸中で戦ってきた歴戦の猛者たちだ。
好んで死地に向かうような粗暴な奴が多い。
一人一人の力量では敵わない。
しかしウルエストの戦士たちも実戦で鍛えてきた。
奇襲の優位性が加わり、
戦いはほとんど五分と見て取れた。
両軍入り乱れる三次元の空中戦。
中でもルガクトは、
人一倍のスピードで乱戦の中を突き進む。
ルガクトが飛んだ後は、
敵兵が次々と落ちてゆく。
「ぐっ、こいつら強いぞ!!」
「ウルエストを舐めるな!」
「出たぞ、斧手だ!」
「団長!!」
声が背中に流れてゆく。
ふいに殺気を感じ、本能的に軌道を変えた。
その瞬間、頭上から影が降ってきた。
「よう久しぶりだな。まだ生きてたのか」
その影はハイガーだった。
躊躇なく一撃で仕留める気満々の動きだった。
気が付かなければ首をいかれていただろう。
ルガクトの額に冷や汗が流れた。
「お前との悪縁もここまでだ」
「そりゃこっちのセリフだ」
ハイガーはニタリと歯を見せる。
動いたのは両者同時だった。
ハイガーの剣とルガクトの斧が激しく衝突する。
凄まじい速さの剣戟が続き、
二人は錐もみ状態で落ちてゆく。
「浮かない顔をしているな、ネネル」
「……あなたは、どうなんですか」
ネネルとカフカスは城の上空にいた。
周りには一人の兵士も飛んでいない。
これから始まる魔人同士の戦いに、
巻き込まれては大変だと、誰も近づかない。
カフカス越しに自軍の戦いが見える。
「……あの日々は何だったのですか?
私には、嘘をついていたのですか?」
声が震える。
目の前の男……カフカスさんは、
私を裏切ったわけではない。
何があったのかは知らないが、
多分途中で思想が変わってしまったのだろう。
もう子供ではない。
そんなことは分かっている。
だがこうして顔を合わせると、
どうしても感情が先走る。
肉親とも思える間柄だった人と、
戦わないといけないなんて。
「運命が変わる日は、
いつだって急に来るものだ。
己の思惑通りに事が運ぶと思っているのは、
まだまだ小娘の証拠じゃ、ネネル。
予期せぬ出来事を楽しむことこそ、
人生の醍醐味よ」
カフカスはゆらりと両手を前に出した。
老体ながら隙の無い構え。
理解している。
ただ私の感情が現実に追い付いていないだけと。
私には守らなければならない数千の部下がいる。
国民がいる。
オスカーがいる。
簡単だ。
現実に対応するためには心を殺せばいい。
静寂。
小鳥が二人の間を飛んで行く。
バチリと電気が爆ぜた。
瞬間、ネネルがその場から消えた。
同時に小鳥がつぶれる。
「ふむ、速いのう。年寄りには追い切れん」
カフカスの〝重力圧縮〟は不発に終わった。
自身を雷で包んで移動するネネルは、
常人には感知できない速さでカフカスの裏を取った。
手には雷剣。
一気に距離を詰め、背後から一突き。
雷剣は、カフカスの背中を貫いた。
「ほっほっほ。なんて奴じゃ。反応できん。
じゃが、わしもやるときはやるでな。
前の時と同じと思うなよ」
カフカスの身体には黒い穴が開いていた。
「なっ……!」
重力で空間を曲げたのだ。
雷剣は黒い穴の中に入っている。
「さて、覚悟はいいか、ネネル」
「シボ・アッシュハフ……
この戦争を始めた奴か」
シボ達の前に立ち塞がったのは、
敵の大将、ジュールダン将軍だった。
「責任は取るんだろうな?」
高圧的な笑みで見下してくる。
「……死んで償えと?」
「そのとおりだ。案外頭がいいじゃないか」
愉快そうに剣を抜く。
だがそこで、お互い目を見張る。
「……名剣ブロッキス」
「……名剣レイシス」
「これは面白そうだ」
「私がソレをもらうよ」
シボは舌なめずりした。
「見た目通り、強欲だな」
ジュールダンは赤い髪を揺らしながら、
斬りかかってきた。
周りの兵達も衝突する。
しばらく斬り合いを続けたが、
シボの剣は当たらない。
とんでもなく力量があるわけではない。
もっと剣術に長けた敵はいた。
なによ、この感覚……。
「どうした? 腑に落ちない顔をしているな。
ふふふ、この剣には霊石が埋め込まれている。
なんの効力があるか知りたいか?」
そういうことか、とシボは納得した。
「眉間に指を近づけるとぞわっとするだろう?
あの感覚が自身を攻撃しようとしてくる方向に現れるんだ。
お前が右上から剣を振り下ろすなら、
そのほんの少し前に私の左側、
特に頭部や首、肩なんかがぞわっとして教えてくれる」
ジュールダンは優越感に満ちた顔で語る。
「ペラペラお喋りしちゃって。
自ら弱点をさらけ出して、
とっても頭がいいことね」
「ははは、違うな。
絶対にお前なんかに負けない自信があるからさ。
何ともかわいそうに見えてね。
ハンデを与えてやったのさ」
「そう」
シボは笑顔を見せ、猛攻を仕掛けた。
「話を聞いていなかったのか?
お前の攻撃は予測できる。
私は隙を突けばいいだけだ、こんなふうに」
ジュールダンの剣先が鎧を砕き、
シボの肩にめり込んだ。
シボは苦痛に顔を歪めたが、
ジュールダンの鎧の首を掴んだ。
「じゃあ教えてよ。
こういう場合はどう対処するの?」
シボは鼻頭に渾身の頭突きを当てた。
「ぐふぅっ!」
その隙にジュールダンの手から、
名剣レイシスを奪い取った。
「あっ」
「まいどあり」
「待っ……」
シボは二本の名剣でジュールダンを斬り伏せた。
「剣に頼り過ぎよ。
安心して。コレは大切に使ってあげる」
鞘に納めた音が鳴ると同時に、
ジュールダンは床に崩れ落ちた。
ルゼル アルトゥール軍副将。酒好きで飄々としている。
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