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第245話 カサスの将軍

山に開いた大きな洞窟にキャディッシュとエイブはいた。


後ろには2人の兵士。


皆無精ひげに汚れた姿で、


装備はボロボロだ。


岩陰から中を覗く。


広大な空間にはオークがたくさん蠢いていた。


「……ここがオークの巣か」


エイブは忌々しそうに睨む。


「なんて数なんだ……


これはもう一つの町って感じだな」


外壁に木材で作った通路とつり橋が、


至る所に設置してあり、


大勢のオークが資材を担いで歩き回っている。


何百という松明の明かりが、


細部までオークの町を照らしていた。


「キャディッシュ、下を見ろ」


「ん? あれは……」


「ありゃ鉄を掘り出してるな。


あれが炉だろ。あっちで製鉄。


ほら、鉄を叩く音がする」


「武器や鎧を作ってるのか……」


部下の二人が少し離れた場所から、


光が見えると報告してきた。


移動して確認すると確かに町の奥に、


外に繋がる通路があった。


何かを担ぐオークの列がその光に続いていた。


「そうか。あの先は港だ。


船があった場所に繋がってるんだ」


空から偵察していたキャディッシュは、


地形を思い出したようだ。


「なあキャディッシュ……


俺たちは、本当に船を奪って帰れると思うか?」


エイブは得も言われぬ不安を感じていた。


「君はいかつい顔をしているくせに、


意外と繊細なんだな。


……帰れるさ。


いや、帰らなくちゃいけないんだ」


迷いなく言い放つキャディッシュ。


「……そうだな」と返したエイブだったが、


心のもやは晴れなかった。





「気付いたか?


見た限り三種類のオークがいるな」


エイブは町の手前を指差した。


「あの緑の小さいのは奴隷のように使われているな。


鉄を掘ったり運搬したり、武器を作ったり……。


でかいのは兵士か?」


今度はキャディッシュが指を差す。


「ああ、多分そうだな。灰色の奴だろ?


あれは……あの黒いのは指揮官か?」


洞窟内のせり出した崖の上に、


他の二種とは似ても似つかないモノがいた。


「足が獣のようだ……尻尾もある」


人型だが、下半身は獣に見える。


そいつの周りには取り巻きの灰色の兵士が数人いた。


なにやら指示を出している。


「……見つからずに行けそうか?」


「森を抜けて迂回すれば港にたどり着けるだろう」





深夜


港にはずらりと大型船が並んでいた。


海にも明かりが複数浮かんでいる。


昼夜を問わず船が出港しているようだ。


音を立てずに数名の兵士が、


闇に紛れて桟橋を進んでゆく。


エイブ含めた20数名の精鋭たちだ。


見張りのオークは7人ほど。


資材の影に隠れながらゆっくり慎重に進む。


ふとオークは夜目が効くのだろうか、


という疑問が頭を掠めた。


しかし確認しようがない。


もう作戦は始まっているのだ。


全員が位置についた。


合図と共に剣、槍、弓などが一斉に振るわれる。


しばしの沈黙。


暗殺は成功だ。


エイブは胸を撫で下ろす。


近くで見ると船はかなりの大きさだった。


船底部分は丁寧な造りだが、


上部は加工していない木材類を束ねただけの荒い造りだ。


「オーク共の文明水準も馬鹿にできないですね……」


近くの部下が囁く。


「そうだな」


縄梯子を使って船に登る。


甲板の上に小さい緑のオークが数人いた。


部下を内部に行かせ、


エイブは緑オークを次々と真っ二つにした。


その時、船内のどこかから、


オークの断末魔が上がった。


まずい。


そう思い甲板から下を見る。


桟橋を移動する本隊の後方から、


不気味な叫び声が上がった。


続いてほら貝の合図。


ちっ、バレたか。


「リリーナ様! 後ろから来ま……」


なんだ? 


隣の船の桟橋から、


小舟や海に浮かばせている建材の丸太の上を、


ぴょんぴょんと渡ってくる影がいる。


「……っ!魔物だ!」


犬のような魔物の群れがこちらの桟橋に飛び移る。


後ろからもオークの塊が迫ってきた。


本隊は挟まれる形でオークと激突した。


「矢をつがえろ!」


エイブと部下たちは上から魔物を狙う。


リリーナが魔獣ワルツを使い、


第一波を止めるのを見て少し安心したが、


その後ろからオークが次々と押し寄せてきていた。


「錨を上げろ!出港準備!!」


上空からキャディッシュが魔物目掛けて急降下、


エイブの目前を横切る。


「このまま矢を撃ち続けろ!」


エイブは桟橋に降りる。


「エイブ!どこへ行く?」


ミーズリーとすれ違ったが、答えている暇はない。


俺の任務はリリーナ様を守ること。


襲い掛かってきた魔物の頭を剣で割り、


火を放ち資材を燃やす。


「行けー!早く乗るんだ!」


混戦の中を進み、


ようやくリリーナの元へたどり着いたエイブは、


松明に照らされた〝何か〟が飛んでくるのを確かに見た。


それはすぐ近くに着地、


味方の兵を瞬時に肉塊へと変えた。


エイブは歴戦の猛者だ。


実力は七将帝にも引けを取らない。


リリーナから絶大な信頼を得ている将軍……。


だが膝が震えた。


それは黒い皮膚のオークだった。


長く太い尾、獣人のような足、鋭い爪。


そいつはゆっくりと立ち上がり、エイブを見た。


「この大陸の者ではないな……?」


人とは違う、低くざらついた声。


ぞくりと背筋に鳥肌が立つ。


「うおおおおっ!」


恐怖を打ち消すように剣を振りかぶった。


一瞬、世界が揺れた。


なんだ?


首が熱い。


身体が動かない。


なんで俺の身体があそこにあるんだ…?


そこでカサス王国、エイブ・ラバムズ将軍の意識は途絶えた。








「エイブーーッ!!」


エイブの首が飛ぶのを目撃したリリーナは、


魔剣メロウウォッチの力を解放、


敵味方関係なくその一帯の空間を停止させた。


憤怒の表情で黒オークに向かって歩くリリーナは、


途中数名の部下を動かせるようにした。


「あああぁっっ!!!」


リリーナは何度も黒オークに剣を突き立てた。


動ける部下たちも魔物に槍を突き立てる。


だが能力圏外ではまだ激しい戦いが続いていた。


「ミーズリー! 船を出せ!」


甲板のミーズリーは一瞬止まった。


「何を言っている!早く来い!」


能力を解いたリリーナは、


桟橋や通路から来るオーク軍に向き直った。


「お前たち、早く船に乗るんだ」


「リリーナ様はどうするんですか!?」


兵達は狼狽していた。


「私はこの醜いオーク共を殲滅する」


「無茶です!どのくらいの軍勢か分からないんですよ!」


後方では魔獣ワルツが敵のオークを操って、


何とか侵攻を食い止めているが、


長くは持たなそうだった。


「承知だ。だからお前たちは国に帰れと言っている!」


小舟を渡ってくる魔物を魔剣で止めて、


処理してゆくが数が多く徐々に押されてゆく。


ついには船との間が多くの魔物で塞がってしまった。


「……その命令には従えません!!」


「なんだと!?」


兵が自分に歯向かうなど初めての事だった。


「貴様ら死にたいのか!!」


「我々はここを離れません!!


あなたのいる場所が〝カサス〟だからです!」


周りの兵士たちの鬼気迫る眼差しに、


リリーナは言葉が詰まった。


込み上げてくるものに目頭が熱くなる。


兵達を大切に扱ったことなどなかった。


どちらかと言えば恐怖で支配しているのだ。


しかし、いつだったかエイブが言ってくれた。


「あなたは基本的に厳しいお方だ。


だが成果を上げれば身分に関係なく評価する。


それは国に尽くす者にとって、一番信頼できる事です」


船が桟橋からゆっくり離れる。


魔物が数匹乗り移ったが大丈夫だろうか。


さらばだ、キャディッシュ。


さらばだ、ミーズリー。


お前たちなら必ず国に帰れるだろう。


「馬鹿者共め……勝手にしろ。押し返すぞ!」




ミーズリー・グランツ 

キトゥルセン軍の七将帝。元イース公国の将軍。大柄な女剣士。


キャディッシュ 

オスカーの護衛【王の左手】。有翼人で二刀流の剣士


魔獣ワルツ 

ガスレ―王国から奪い、黒霊石を体内に入れて死獣化。

大きな猫型魔獣で、目が合った者十人前後を操ることが出来る



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