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第212話 アーキャリーの戦い

アーキャリーは気が付くと見知らぬ部屋にいた。


赤い絨毯、豪華なランプ、金縁の鏡、


装飾された豪華な家具……。


目の前には見たことのない甲冑の兵士が二人いる。


白い装飾がなされていて豪華な印象だ。


真ん中に背の低い、青い服の貴族の男が立っている。


その後ろに召使の女たちがずらりと並ぶ。


アーキャリーは言葉を発する前に、


急な眩暈と吐き気でへたり込んだ。


「巻き角……ふむ、羊人族だな。


髪型は二つ結びで……瞳は灰色」


貴族の男は手元の紙を見ながらなにやら頷いている。


「あの、ここは……」


私はさっきまで自分の部屋にいたはず。


誰かに肩を叩かれた記憶があるが、


自分の他に誰もいなかった。


気がつけば知らない空間で、


知らない人たちに囲まれていた。


「おい、腹はどうなってる?」


貴族の男がそう言うと、


二人の兵士がいきなり両腕を抑え、


腹の部分の服を切り裂いた。


「きゃあ!」


「ふむ、腹も膨れている……妊娠しているな」


貴族の男は不敵な笑みを浮かべた。


「名前を言え」


「あ、あなたたちは一体何者なんですか!」


負けじとアーキャリーは睨みつける。


しかし、兵士に力尽くで角を引っ張られ、


首に剣を当てられた。


冷たい剣先を喉で感じ、恐怖で血の気が引く。


「……名前は?」


何の感情もない冷酷な声に、


この兵士は本気で喉を斬るつもりだと、


アーキャリーは瞬時に理解した。


「う……アーキャリー・レニブ……です」


「よし、本物のようだな」


貴族の男が指をパチンと鳴らすと兵士達は離れた。


自由になったアーキャリーは、


破れた腹を隠す。


怖くて涙が止まらなかった。


「悪かったアーキャリー。君が本物か確認しただけだよ。


俺はテアトラの十二名家、


ルークスウルグの次期当主、二コラだ。


君の世話役を命ぜられてる。


君はここに住むんだ。来なさい、城を案内しよう」


なにがなんだか分からない。


一行はぞろぞろ部屋を出ていく。


召使の女の一人に羽織るものを渡され、


兵士に連れられてアーキャリーも部屋を出る。


オスカー様……。


不安に圧し潰されぬよう、


オスカーから授かった金のブレスレットに触れた。


「アーキャリー、君は何が起こったのか分からないだろう?


一瞬だからな、無理もない。


ここはテアトラのバリストリング城さ。


瞬間移動できる魔人に連れてこられたんだ」


「二コラ様、魔人の能力は他国の者に喋ってはいけない決まりです」


兵士の一人が二コラに耳打ちする。


「知っている。馬鹿にするな。


こんな非力な女に知られたとてどうにもならんさ」


二コラは不敵に笑う。


「そのお腹の子は俺の息子になるのさ、君は俺の妻だ」


全てを理解できたわけではなかったが、


自分が敵に囲まれているというのは分かった。


だからこそ王家の誇りを忘れてはならない。


「この子はオスカー・キトゥルセンの子です! そして私は……」


バチンっと頬に平手打ちされ、言葉が途切れた。


「馬鹿か、もうお前は戻れないんだよ。


その子はいずれ魔剣フラレウムの使い手になる。


俺の子供が魔剣使いだ。


ふふふ、我がルークスウルグ家はこれで安泰さ……」


二コラはアーキャリーの胸ぐらをつかんで、


何発も頬をビンタした。


「二コラ様、そのあたりで……。


傷をつけるとお父上に叱られますぞ」


「……ふーそうだな。


アーキャリーよ、ビスクに救われたな。


わかったか?お前は俺の所有物だ」


顔がじんじんして痛い。


涙もとめどなく出てくる。


すごく怖い。


しかし、感情に反して口から出てくる言葉は王女のそれだった。


「私は誇り高きレニブ家の娘です! 


キトゥルセンの……」


顔を真っ赤にして二コラは怒り狂った。


「この野郎! 来い! お前を調教してやる」




二コラの部屋に連れてこられると、


アーキャリーは鎖で拘束された。


「妊婦じゃなければ裸にして犯してやるところなのに……


くそ! 妊婦じゃ興奮せん……」


アーキャリーはこの短い時間で、


二コラの性格がなんとなく分かってきた。


自分の思い通りにならないと癇癪を起す、


まるで子供だ。


けど父親の事になると冷静になる。


よほど恐れているのだろう。


「ふふふ、どうしてくれるかな……」


二コラは意地の悪い笑みを浮かべている。


お腹の子が目的なら……


生まれるまでは母体である自分を傷つけはしないだろうと


アーキャリーは予想した。


先ほどのビンタくらいなら耐えられる。


服従してしまえば脱出の機会は奪われてしまう。


反抗的なら牢に入れられるはずだ。


一か八か、アーキャリーは賭けに出た。


「一体何をするつもりですか。


私の愛するオスカー様はこんなことしませんよ。


オスカー様はあなたの百倍立派な人です。


あなたはオスカー様の足元にも及びませんね」


二コラの笑みが消え、目元がピクリと動く。


「……何だと?」


「私は絶対にあなたの思い通りにはならない」


「貴様……調子に乗るなよ!」


二コラは耳まで紅潮させ、短刀を鞘から抜いた。


「私を傷つけるのですか。


お父上に何と言うつもりですか?」


ピタリと二コラの動きが止まる。


「自分の思い通りになる人たちに囲まれていると


心が成熟していかないのですね」


毅然とした態度とは裏腹に、


アーキャリーの膝は恐怖でガクガクと震えていた。


いざという時は金のブレスレットがある。


これは機械蜂が変形したものだ。


それがアーキャリーの心を支えていた。


「私を傷つければこの子と共に自害します。


あなたの家名は落ちるでしょうね。


人質の女に子供を産ませることも出来なかったのだから」


二コラは憤怒の表情でアーキャリーを睨みつけた。


「ビスク!! この女を牢にぶち込んどけ!!


飯もやるな!」


二コラは怒り狂って部屋を出ていった。


ビスクと呼ばれた兵士がアーキャリーの鎖を外す。


「……お前、何を企んでいる?」


兜から覗く目は鋭かった。


「誇り高きキトゥルセンの血を宿す者として、


当然のことです」


この兵士は手強い。


アーキャリーは警戒した。


「……ふん、どうだかな……」


アーキャリーはビスクに連れられ部屋を出た。


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