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第169話 三回目の夢と帰還者

その後も冷静に駆除を続け、疲労感が体中に広がった頃、


動く【ワーマー】の姿が消えた。


『あらかた片付いたみたいだな』


秋人の声。


後方も片付いたらしい。


『上からも確認したけど、もう大丈夫みたい。下に降りる』


飛鳥だ。僕は手を挙げて返事した。


「ふー、なかなか楽しめた……」


僕は呆れて振り返った。


満足した様子のかぐやが弾倉を交換しながら歩いてくる。


その時、急にドクンと身体の内側が脈打ち、


後頭部に悪寒が走って、視界が赤くなった。


かぐやの正面にいたはずだったが、かぐやの後姿が見える。


かぐやの後ろに動く影。撃ち漏らした【ワーマー】だ。


僕は腰の日本刀を抜き、横一文字に一閃、【ワーマー】の首を飛ばした。


「かぐや、しっかり確認」


「……ちっ、悪い」


いい訳のしようもない状況だけに、かぐやはきまり悪そうに返事をした。


四人が装甲車脇に集まり、残弾数の確認をした。


その時、高周域のとても聞くに耐えない音が聞こえてきた。


【キケイ】の鳴き声に似ているが、これはリズムや抑揚を付けた、


どう聞いても音に意味を乗せたものだ。


声は二つ。


聞いたことのない種類。


そこには明確な〝知恵〟を感じた。


「これは……会話……?」


僕は半ば茫然とした状態で、しばらく奴らの声を聞いていた。


距離はおそらく半径五〇〇m以内。


飛鳥は無言で僕の肩に装着されているカメラの電源を入れた。


そうだ、これは録音すべき対象だ。


「どういうことだよ、これ? ……やべえだろ」


秋人は引き攣った笑みを浮かべた。


「こんな事初めてだ」


呟く飛鳥。


「ああ、意志の疎通が出来るとなると……厄介だ」


これまでの【ワーマー】の動きは単調だった。


【キケイ】も【四つ足】も人を見つけたら一直線に襲ってくるだけ。


しかし、今回は明らかな〝作戦〟を感じた。


僕たちを挟むように群れを配置し、同じタイミングで襲わせる。


【キケイ】が向かってきた間も計算だとしたら……。


この複雑な鳴き声。


人間に近い知能指数を持った【ワーマー】の可能性が非常に高い。


……もはや、絶望しかないのか。




僕たちが装甲車に乗り込んだ時、後方から一台の車が近づいてきた。


車体のナンバーは〝W1〟。


サイドミラーで確認した時には車内に〝ウィスキー1〟の隊長、函南雅哉の声が響いていた。


『遅れて悪かったな』


僕たちの横に装甲車を止めた雅哉は窓を開けて顔を出した。


長髪を後ろで一つにまとめた柔和な顔にはやや疲労の色が伺える。


「【ワーマー】いたの?」


「ああ、数体な。


密集してた【腐樹】焼いてたらめんどくせー事に素早い【キケイ】がいてさ、


仕留めるのに思いのほか時間喰っちまった。あ、飛鳥ちゃーん」


僕を通り越して、雅哉は助手席の飛鳥に手を振った。


疲れた顔はどこへやらだ。


飛鳥はちらっと見ただけでピクリとも表情を変えなかった。


いつもの事なので僕も反応しない。


「雅哉は今日確か山手エリアだよね? あっちは多い?」


「ああ。実を付けた【腐樹】ばっかだった。


ありゃ相当【キケイ】が生まれたぞ」


雅哉は苦い顔をした。


「それより昴、さっきの鳴き声はなんだ?」


「……考えたくないけど、会話としか思えない」


「……だよな、意思の疎通を取っているとしか思えなかったな」


「録音できたから、局長に報告しとく」


「そうか……そういえば〝マイク3〟は? まだ来てないのか」


 そろそろ到着してもいい頃だ。


「ちょっと待って」


『〝ロメオ1〟から〝マイク3〟応答せよ』


 沈黙が続く。


『〝ロメオ1〟より〝本部〟。〝マイク3〟と連絡がつかない。


こちらは生存者がいるため帰投したい。後を頼めるか』


『〝本部〟から〝ロメオ1〟了解した』


「行こう。先導して」


「無事だといいけどな〝マイク3〟。あそこの新入りの子可愛いんだ」


へらっと笑った雅哉はこれでいてモテるようだ。


線が細く体力があるようには見えないが、話術に自信があるらしく、


会うたび違う女性を連れていた。


人口管理法が出来る以前には、


三股がバレて腕を斬りつけられたことがあったらしい。


まあ、僕としては知った事じゃないが。


空は徐々に白み始めてきた。


やがて2台の装甲車はその場を後にした。




「……ありがとね」


しばらく走ってから、助手席の飛鳥は口を開いた。


「なにが?」


「何がって……助けてくれたでしょ。覚えてるくせに」


ふて腐れたように飛鳥は窓の外に顔を向けた。


「じゃあ僕も……ありがとう。最初の【キケイ】、仕留めてくれただろ」


後部座席では、かぐやは銃口を外に向け、周囲を警戒している。


秋人は救出した四人に水を飲ませていた。


「じゃあって……」


呆れたように僕の方を見た飛鳥は溜息をついて言葉を切った。


「ねえ、昴」


「どうした?」


「私、ホワイトタグにしようと思ってるんだけど」


「ほう」


「どう思う?」


「人類の増加に貢献するんだから立派なもんだ、と思う」


「それだけ?」


「後は……飛鳥に子供が出来れば、出産から復帰までに最短1年半かかるとして、


それまでウチのチームに変わりの狙撃手を入れなきゃいけないな」


「……それわざと言ってる?」


「飛鳥ならたくさん申請来るだろうから、男選び放題だ」


「話聞けよ」


飛鳥はクールだ。滅多に笑わない。感情が薄い。


口調も丁寧とは言い難い。


周りからは何を考えてるか分からないとよく言われている。


けど、僕にはよく話しかけてくる。


一応もう大人なのでその意味は分かる。


この話だって結構踏み込んだ内容だ。


この前可決された人口管理法案。


人口を増やすために、結婚と子育ての概念を大幅に変えた法律。


仮にホワイトタグを選択すれば、自分に申請してきた相手と自由に子供を作れる。


気に入った相手でなければ拒否出来るし、子育てはしなくていい。


専門の機関が成人するまで教育を代行する。


その代わり自分が親と名乗ることは出来ない。


出産した女性には報奨金が支払われる仕組みだ。


反対にブルータグを選択すると、前時代と同じルールで決まった相手と家族を作る。


〝タワー〟の国民はどちらかを自由に選択できる。


これはその話だ。


しかし、飛鳥とは一定の距離を取っておきたい。


決して隣に座るこの不器用な女の子を嫌いな訳ではない。……問題は僕自身にある。


「昴はなんでブルータグなの? 相手いないんでしょ?」


「いないよ。ていうか飛鳥」


「何?」


「ここから先はプライベートな話なので」


険悪にならないように僕は努めて明るく言ってみた。


「……ばか昴」


ぷいっと飛鳥はまた顔を窓の外に向けた。


小さな声で「明日死ぬかもしれないのに」と呟いた声は聞こえないふりをした。


『〝本部〟から〝ロメオ1〟〝ウィスキー1〟北ゲートに帰投せよ』


『〝ロメオ1〟了解』


『〝ウィスキー1〟了解』


正面にはいつの間にか顔を見せた、僕達の帰るべき家、


横浜スカイマークタワーが見えていた。









目を覚ましたのは早朝だった。


朝日はまだ差してこない。遠くの空がうっすら赤くなり始めた時間帯だ。


いつも通り、この夢を見た後は頭がぼんやりして、


意識が宙を舞っているような奇妙な浮遊感を覚える。


隣にはメイドのヒナカが裸で寝ていた。


反対側にはアーキャリーもいた。こちらも裸だった。


なんちゅー淫らなことしてんだ、俺は……


てか……うっわ、もったいねー。何にも覚えてないよ……。


タイミング悪すぎだろー。


その時、視界に通知が出てきた。


ソーンが帰ってきたようだ。


大けがをしたと聞いたが、命に別状はないらしい。


それでもガシャの樹の資料と重要人物を持って帰ってきたのはさすがだ。


しかし、何があったのか詳しくは分からないが、


まさかダリナが裏切るとは……。


もう一月ほど経つが、ラウラス工作員を使っても未だにダリナの行方は分からない。


脳内チップも機械蜂も持ってないからお手上げだ。


人選を間違えたか……でもネネルからの頼みだったからなー。


ていうかネネルが責任感じちゃって落ち込んでんだよなー。


何とかして見つけないと。


俺は眠い目を擦りながら、とりあえず夢の事は置いといて、


ソーンを出迎えるためにそっと部屋を出た。

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