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第163話 二回目の夢と蘇る記憶


こちらが銃口を向け叫んだ瞬間、


飛鳥の放った弾丸が【ワーマー】の頭部を割れたスイカに変えていた。


額から頬に冷や汗が垂れる。危なかった。


「後ろからも来たぞっ!」


秋人が叫ぶ。


振り向くと二〇体ほどの【ワーマー】がこちらに向かっていた。


ライトの明かりだけではうす暗くてはっきりはよく見えない。


「かぐやっ! 照明弾っ!」


 発射音と共に辺りに光が射す。


いつの間にか前方の群れも姿を現し、僕たちは前後に挟まれる形となった。


『飛鳥、秋人は後ろ、前方は僕とかぐやだ! 素早い個体に気を付けろ』


指示を出した途端、夜の通りに大音量の銃声が鳴り響いた。


一発ずつ丁寧に。


【ワーマー】の頭部目掛けて引き金を引く。


 一、二、三.四、五……。


仕留めた数を無意識に数え、撃った瞬間には次の標的を探す。


自分に一番近い個体から狙うのが生き残るポイントだ。


近寄ってくる【ワーマー】は次々と地面に倒れていく。


頭に一発、それで終わる。


いいぞ、冷静に。


集中を切らすな。


やがて音が無くなり、自分の呼吸音だけが聞こえる。


流れるように体を動かし、


軽やかなステップで敵との距離を調節する。


時折、小型の【四つ足】が【ワーマー】の足の隙間を縫って襲い掛かってくる。


元は猫か狸かハクビシンか……素早いので少しヒヤッとするが、冷静に対処する。


慣れてくると【ワーマー】のコンマ一秒先の動きが読めるようになる。


冷や汗も、緊張も消えた。


いい感じだ。ゾーンに入った。


ここで群れの後方に手榴弾。


派手な爆発。弾倉交換。


ここまでは計算通り。


足を進める。


かぐやはというと【ワーマー】を駆除するたびに、


「あーヤバい」だとか「はぁ気持ちい」などと呟きつつも、


完璧に仕事をこなしている。


彼女は【ワーマー】を殺すことに快楽を覚えるクレイジーな戦闘狂だ。


僕とは違うベクトルでゾーンに入っているかぐやは、


いかに周りから異常だのサイコパスだの病気だの言われようが、


この世界ではエリートという事になるだろう。


後方でも爆発が上がった。秋人がグレネードを放ったのだろう。


前も後ろも草木に燃え広がった炎のおかげで、だいぶ視界が良くなった。


群れの奥に一際大きな奴がいる。


【キケイ】だ。


蜘蛛のような下半身に人型が生えている。


両腕は長く、口はどう見ても肉食だ。


目は無いように見えるが、しっかりとこちらを認知しているようだ。


まるで神話のケンタウルスだが、残念ながらこちらはかなりグロテスク。


【キケイ】は不規則な動きで向かってきた。


図体の割に素早い動き。


動きを読んで。


引き金を引く。


外した。


もう一発。


肩にヒット。頭に当てないと意味がない。


徐々に距離が縮まる。


今度は連射だ。


深く息を吸い込んで、細く吐く。


撃った。


脇を締めて反動を抑える。


【キケイ】の胸から首が抉れた。まだ倒れない。


大丈夫、落ち着け。


目標は自分だ。目は無いが確実に向かってきている。


かぐやの射線が、腹に命中。動きが鈍る。


引き金を引く。


肩に反動。


命中。


【キケイ】の頭が吹き飛んで、落ちた。


弾倉を交換して、近くの【ワーマー】をポイント。


撃ち続ける。


不意に斜め前のビルから、ガラスやコンクリートの破片が落ちてきた。


見上げるとそこには、ビルの側面を移動する一匹の【キケイ】がいた。


全長3mほどのムカデのようなクリーチャー。


建物の壁面に足を突き刺しながら、一直線に飛鳥に向かっていた。


飛鳥は後方の群れに一定のリズムで引き金を引き続けている。


自分に脅威が迫っている事には気付いていない。距離は5mを切っていた。


まずい。


「飛鳥っ!」


銃口を向け、息を止めた。


落ち着け、焦るな。


唾を飲み込み、


フルオートで【キケイ】めがけて引き金を引いた。


着弾。


【キケイ】の動きが止まった。


間一髪。


すぐ近くで着弾の音が聞こえ、飛鳥が身を竦ませた。


【キケイ】はそのまま仰け反るように下に落ちる。


 薄暗い中で、多分僕たちは数秒見つめ合った。


不思議と目を離せなかった。生と死を分ける、戦いの中なのに。


銃声、無線、呼吸音、【ワーマー】の鳴き声。


臭気、火薬の臭い、煙、僅かな潮の香り。


腕の痺れ、全身の倦怠感、頭痛。


風になびく飛鳥の髪に見惚れながらも、


鋭くなった感覚が強制的に脳へと情報を送ってくる。


そして僕たちは何も言わず同時に目を逸らし、それぞれの戦いに戻った。







真夜中に目が覚めた。


思考の焦点が合うまでしばらく時間がかかった。


ここがどこで、自分が誰なのか。


ガシャの夢を見た後は頭が混乱して分からなくなる。


まるで〝胡蝶の夢〟だ。


果たしてあちらが夢なのか、こちらが夢なのか。


ベッドにはメイドのモカルが裸で寝ている。


今夜が初めての夜番だった。


けど、記憶があいまいだ。


くっそー、もったいない!


……まあいっか。それどころじゃない。


今の夢は前回の続きだ。


まるで一時停止された映像を再生させたような……。


音を立てないようにベッドから降りて、


暖炉脇のテーブルにある果実酒をグラスに注ぐ。


果実酒はモモやウメなどが混ざったような味で大変気に入っている。


ガラドレスからの戦利品だ。


ソファに座って気分を落ち着かせる。


気晴らしに千里眼でドアの向こうを見てみた。


城が拡張されたので、王の部屋の前には護衛兵の詰め所が設置されている。


そこには護衛兵が3人とリンギオが待機していた。


ご苦労様です。


階下にはマイマとルーナの部屋がある。


ベビーベッドで眠るルーナに焦点を合わせデレてから、


マイマの寝顔に癒される。


さらに下へ、厨房はまだランプの明かりに照らされていた。


マイヤー、ロミ、フミ、モルト、ラムレスが酒盛りしている。


あいつら……何時だと思ってんだ。早く寝ろ。


視点を戻す。同じ階の奥の方はベリカの部屋だ。


まだ起きてるな……。机に向かって何かを書いている。


うーん角度が悪くて机の上は見えないな。


多分、新聞に載せるイラストを描いているんだろう。


手の動きがそんな感じだ。


……あ、ごめん、気が付いたら服透視しちゃった。


たわわなの見ちゃった。


こわいこわい、自分が怖い。


くそ、楽しみは取っておこうと思ったのに……。


「オスカー様……?」


寝ぼけながらモカルが起きた。


「あ、ごめんモカル。起こしちゃったな」


身を起こしたモカルは寝癖をつけて目を擦っている。


「もう起きられるのですか?」


「いや、目が覚めちゃっただけだよ。


例の夢を見てね……」


モカルはシーツを体に巻いて俺の隣に座った。


「やはり眠れないのですね……


〝ガシャの根〟の事はおじいさまから聞きました。


心を壊すものだと……。モカルはオスカー様が心配です」


モカルは自分の事を名前で呼ぶのか……かわいいなぁ。


やっぱり肌を重ねると距離が縮まるよね。


「き、聞いてますか、オスカー様?」


「あ、ごめん聞いてなかった」


「えー目が合ってたのにですかー」


「ははは、まぁあるよね、そういうこと……」


その時、急に頭の中に映像が浮かんだ。


前世の記憶だ。地下鉄の駅、階段、大勢の人、


国道、高架線、車、居酒屋、銀行、ハンバーガーチェーン、


コンビニ、ネットカフェ……。


見覚えがあるぞ……そうだ、俺はここに住んでいた!


スーパーがあって、細い道を左に曲がってしばらく歩くと……


俺の家、ワンルームのアパート。


灰色の外観で……場所は……場所は……


そうだ、あの細い道は世田谷区と目黒区の丁度境目で……


駅は…………駒澤大学前だ!


俺はあそこに住んでたんだ! 思い出したぞ!


……〇〇君! 〇〇君!


声が聞こえる。


振り返ると女性がいた。……OLか?


あれ……どこかで見たことが……。



「……ㇲカー様……オスカー様!」


はっと我に返ると心配そうに覗き込むモカルの顔があった。



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