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第159話 乾杯

王都の街は飾り立てられ、たくさんの屋台が出てお祭り騒ぎだった。


目抜き通りは紙吹雪が舞い、


道には市民がたくさん溢れて手を振っている。


歓声の中を俺たちは進んだ。


時折馬車から顔を出して手を振る。


まるでどこぞのエレクトリカルなパレードだ。


しかし、軍の大半はまだザサウスニア領土内に残っているので、


戻ってきたのは負傷者などの一部のみ。


ユウリナ、カカラル、クロエは抑止力として残してきた。





「オスカー様!!」


新しく出来た城門にはラムレスたちが待っていた。


ああ……久しぶりのラムレス。


あれ、なんか更に腹が出てる気が……。


ギル、モルトたち大臣、それにマーハントなんかが後ろに並んで待っていた。


「ラムレス……ただいま」


「ああ……なんと……逞しくなって……」


泣いているラムレスを見てるとこっちまで泣けてくる。


「襲撃されたと聞いた。みんな無事でよかったよ」


「ええ、はい。マーハント殿がいてくれたおかげです」


ラムレスの言葉に後ろにいたマーハントが小さく頭を下げた。


俺も笑顔で頷く。


「しかし、我々よりオスカー様達の方が大変だったでしょう。


さあ、ゆっくりお休みになって下さい」


ラムレスは下あごをぷるるんと揺らし、目を赤くしながら先導した。


城門を潜ると改装して巨大になったノーストリリア城が現れる。


凄い、ちゃんとした城……。もう、想像通りの西洋の〝城〟って感じだ。


所々足場などが残っているが、もうほとんど出来ている。


中庭にはメミカなどのメイドが並ぶ。


マイヤー、ロミフミ、モリア、ベリカ……。


皆笑顔で迎えてくれた。


そして……マイマ。


腕には生まれたばかりの赤ん坊。


俺の子だ……。


「オスカー様。無事にお戻りになるのを待ちわびていました。


私たちの子です。どうぞ抱いてあげて下さい」


小さな命を手渡され、


緊張しながらも俺はガラス細工を扱うくらい慎重に抱き寄せた。


軟布にくるまれた赤ん坊はまだ生まれたばかりで、


心地よさそうに寝息を立てている。


性別は事前に聞いていた。女の子だ。


自然に涙が出る。なんてかわいいんだ。


「……名前を付けなきゃな」


「ええ、そうですね」


マイマは柔らかな笑顔を見せた。




夜。新しい食堂で戦勝会が開かれた。


俺はメミカ、マイマ、ベリカ、アーキャリーと座り、


対面には多くの者たちが、いくつもある長机に並ぶ。


楽団も呼び、陽気な音楽と共にどんちゃん騒ぎが始まった。


ちなみにアーキャリーはリアムが死んだ時点で容疑が晴れ、


自由の身となった。


でも、やっぱり気にしているようで以前に比べると元気がない。


まあこういうのは時間が解決してくれるだろう。



マイヤーが焼き立てのピザを持ってきてくれた。


焼き色の完璧なチーズがグツグツと動いていて、


香ばしいベーコンの香りは嗅いでいるだけで口の中に旨味が広がる。


うんまそー。


「オスカー様が好きな猪ベーコンとトマトのピザですよ」


「ありがとう、マイヤー。ずっとマイヤーの料理を楽しみにしてたんだ」


久しぶりなのでお互いなんだか気恥ずかしい。


そんなことを言ったらみんなそうなのだが。


マイヤーは照れて顔が赤い。


うーん、かわいい、そそる。


「やだー、ちょっとマイヤーなにを照れやがってんのよー。


オスカーちゃん、あんまり褒めないで。この子すぐ調子乗るから」


横からロミが入ってきた。


「そうよー。私たちだって城の危機を救ったんだからー」


フミも口をそろえる。


声がデカい。うるさい。もはやしゃべる筋肉。


「あ、ああ……話は聞いたよ。よくやってくれた」


「あー! 褒められたー! うーれーしーいー!!」


「やーだー! 私もかーんーげーきー!!」


すげーうるさい。


早くピザ食べたいんだけど。どっか行ってくんないかな。


「じゃあそろそろ、私たちも夜番に……」


「だめだ」


俺は食い気味に即答した。


「ドイヒーなんですけどー!!」


なんやかんや好きなことを喋って二人は帰っていった。



メミカのお腹はだいぶ大きくなっていた。


「メミカ、体調はどうだ?」


「あ、はい。特に問題なく……大丈夫です」


上目使い……あ、あざとい。


「そうか。モルトに診てもらってるのか?」


「モルトさんは最近、負傷兵の診察で忙しいみたいで、


今はモリアか、ボッシュさんに診てもらってます」


ボッシュは名医師で、モリアの父だ。


モリアだけだと心配だけど、ボッシュなら安心だな。


そのモリアは右端のテーブルで既に酔っぱらっていて、


隣のネネルに絡みついている。目の前はモルト。


はいはい、チームつまみ食いね。


あの三人とマイヤー達はよく厨房で夜な夜な宴会をしている。


アイツらだけで城の予算かなり食い潰してるんじゃなかろうか。



ラムレスに挨拶をと促されたので、俺はグラスを持って立ち上がった。


皆が静かになって一斉に俺を見る。


ちょっと緊張。


「戦争は終わった。


強大な敵に、俺たちは恐れず立ち向かった。


そして勝利した。


俺の手柄じゃない。戦場で戦った者、戦線を陰で支えてくれた者、


国を維持してくれた者、城を守ってくれた者……全員の手柄だ。


みんなありがとう。


素晴らしい国に生まれて、俺は幸せだ。


今日はとことん飲んでくれ。


まだ軍のほとんどはザサウスニアに残っている。


……たくさんの儀性も出た。


だが悲しんでばかりもいられない。


とにかく今は生きてることに感謝しよう。


……娘の名前を決めた。〝ルーナ〟だ。


勝利と、死者達と、新しい命に……乾杯」


拍手が起こった。


宴は夜遅くまで続いた。





次の日。


メイドのヒナカが部屋を掃除してるのを、


暖炉の前で眺めながらお茶を飲む。


昨夜は酔っぱらっていたから気が付かなかったが、


部屋がだいぶ拡張され、まったくの別物になっていた。


まあ特にこだわりはないから何でもいいんだが。


それにしても、これからやることはいっぱいなのにどうも頭が冴えない。


飲み過ぎたな。


「ん? ヒナカ、なにその箱」


「あ、これはマイヤーから頼まれたものです。


今夜使うからって……」


中身は手枷やら目隠しの布やらが入っていた。


ヒナカは凝視したまま動かない。


まったくマイヤー、お前ってやつは、ほんとどこまで……


いい加減にしろよ、もう、しょうがない奴だよ、ほんと……


……ってのは嘘! いいね! マイヤー、いいね!


「あの……今度私も……」


あれ、意外。おとなしそうに見えてヒナカったら……いいね!


目キラキラしてるし。


なんか頭冴えてきた。






だいぶ広くなった中庭では神官とバルバレスが模擬試合をしていた。


昨晩アホみたいに飲んでたくせにもう動いてるよ、この人。


「バルバレス、腕はどうだ?」


切断された左腕は金色の機械式アームとして復活していた。


「素晴らしいです。


ユウリナ様の計らいで特別仕様にしてもらったみたいで」


バルバレスが左腕を動かす度に小さな機械音が鳴る。


元は保守機械だった神官の頭部が、一瞬ガクンと落ちた。


『オスカー、無事に帰れたのね』


どうやらユウリナが入ったらしい。


向こうはガラドレスにいる。


ユウリナ曰く、バルバレスの左腕には周囲の空気を取り込み、


圧縮させて撃ち出す空気弾を取り付けたらしい。


見せてもらうと、重装甲兵の甲冑が大きくへこむくらいの威力があった。


だいぶ至近距離じゃないと殺傷力はないが、


2mほどの距離でも相手を吹っ飛ばせる威力があるみたいだ。


例えるなら巨大ハンマーで殴られるようなもんか。


しかも弾丸は必要ないからほぼ無限に撃ち出せるらしい。


いいなー俺も欲しい。


「いい武器を貰ったな。さすがバルバレス、ただでは転ばないな」


「はははっ、たなからぼたもちです」


筋骨隆々の大男は子供のように笑った。


「今は笑ってられるが、


発見があと少し遅かったら出血多量で死んでたらしいな」


バルバレスは真顔になった。


「……はい、お恥ずかしい限りです」


「俺の許可なく死ぬなと約束したよな? 


まったく……止血方法ぐらい覚えといてくれ」


「申し訳ございません。しかし、体の方は絶好調です。


命令さえ下されば今すぐにでも南に向けて出発できます」


どうせ早く実戦で使ってみたいんだろ、とは言わなかった。


「忙しくなる。頼んだぞ」






昼食は中庭のきれいな庭園でネネルと食べた。


二人きりだ。


野外暖炉の前に机を置き、ウッドテラスに観葉植物。


都内ならランチで2000円超えそうな優雅な空間……。


「ネネル覚えてるか?」


「……なにが?」


「戦争が終わったら……ってなんか言ってなかったか?」


「え? ……いいいい言ったっけ?」


シラを切ってるつもりらしい。動揺しすぎ。


声裏返ってるし。


「そう、まあいいんだけど……」


あれ、なんも言わないぞ。


沈黙が続く。


お? 口を開けて……


言うか?……言わない。


ネネルはポテトの刺さったフォークを口に運ぶのも忘れて、


固まっている。


お? 言うか? ……惜しい。


おーい、終わっちゃうぞランチタイム。


ほらラストオーダーのお時間ですよー。


折り畳まれた翼が小さく動いてる。


イヌのしっぽかよ。


ていうかどういう感情を表してるの、それ。


お? 言うか言うか?


「ご、ご馳走様! 私、先行くね!」


ネネルは慌ただしく羽ばたいて飛んで行った。


言わないんかーい。



夜。


風呂上がりに廊下で道に迷ってるネネルに会った。


「お、ネネル」


名前を呼ぶとビクッとなった。かわいい。


「………オスカー、もう寝るの?」


「いやまだ……」


今夜の夜番はマイヤーだ、るんるん。あ、るんるんしてた。


「……むう」


何かを察したのか、ネネルは少し不満そうな顔になった。


「ウルエスト帰るんだろ?」


「……うん」


「しばらく会えないな」


沈黙。


えーい、埒が明かねえやい。


俺はネネルの手を取って壁に押し付けた。


壁ドンだ。


「きゃ!」


そして流れるように素早くネネルの唇に自分の唇を重ねた。


そのまま3秒ほどキープしてから「お休み」と言ってその場を離れた。


廊下の角を曲がってから千里眼で見てみると、


ネネルはその場にへたり込んで呆然としていた。


ちょっとプレイボーイ過ぎたかな。


ていうかクサすぎてハズイ。


でも……いっか、王だし俺。


ただ、調子に乗り過ぎないようにはしよっと。


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