第141話 ノーストリリア城攻防戦
リユウは城の階段で槍を片手に大暴れしていた。
真夜中なので友軍はまだ全軍集まっていない。
劣勢だった。
ググルカ族の舞で大勢の敵兵を屠りながら味方を鼓舞する。
「ここだけは絶対に守り通せ!」
階段を上がってきた敵兵3人を横薙ぎに斬りつけ、
更に素早く2人を突く。
「前線では多くの兵が戦っている!残された我々が負けたら笑いものだぞ!」
「オオー!」
松明の明かりが頼りの夜中の戦い。
何とか侵攻を抑えていた時、
敵の後方が弾けた。
一瞬、その場にいた全員がそこを見る。
「神官様だ!」
誰かが叫ぶと同時に、灰色のローブをはためかせ、
神官は腰を落とし、近くにいた兵士に襲い掛かった。
とんでもない速さで次々と敵兵を無力化してゆく神官に味方は歓声を上げる。
リユウも負けてられないとばかりに、
自慢の槍術を披露しながら敵陣に飛び込んだ。
ノーストリリア城3階付近の工事用足場。
「あら、その構え……しっかりしてるじゃない。
あなた中々やりそうね」
カトゥースはモカルの構えを見て怪しい笑みを浮かべ、
足場の脇に担いでいたベリカを降ろした。
気を失っているベリカだが外傷はないようだった。
意外にもカトゥースはやさしい仕草でベリカを寝かせた。
「可愛い顔してるから殺したくないけど、
中途半端じゃこっちがやられそうだから、
本気で行くわよ?」
「こっちも生かして返す気はない」
二本の短刀を抜いたカトゥースは、
その巨体からは想像できない速さで向かってきた。
狭い足場の上では横に移動も出来ないので正面から戦うしかない。
名剣ベルルッティで受けたモカルは体重差で押され、
支柱に背中を強打した。
「いっ……うぅ……」
「あーら、結構いい剣じゃないの、これ。
あんたが死んでも私が使ってあげるわ」
「お前なんかに触ってほしくもない!」
にやけ顔の顎に肘を打ちこみ、
身体を回転させて脇をすり抜け、
素早く背後に回ったモカルはカトゥースの背中を斬った。
「あ、痛ったー!!! あんたやったわねー!」
初めての実戦。しかしモカルは緊張も恐怖もなかった。
何の石か分からないが、柄に埋め込まれた黒い石は、
ソーンによると霊石の一種らしく、
強力な精神安定の効果があると聞いている。
その効力のおかげで、
モカルはまるで風呂上がりのようにリラックス出来ていた。
激怒したカトゥースの猛攻を冷静に捌き、
モカルは足場から外に飛び出す。
そして柱を支点にぐるりと回り、
カトゥースのわき腹に勢いよく蹴りを入れた。
「うぐっ」
床に倒れたカトゥースが起き上がる前に、
ベルルッティが胸を貫いた。
オーカは肩に担いだマイヤーを床に降ろし、
ロミ、フミ兄弟に向かってきた。
「やだー、怖いー。何この人ー」
「誰ー!? あんた誰ー!?」
バシャバシャと湯船の中で追いかけっこしながら、
オーカは「俺は……殺し屋だ」と言った。
「どこのよー!? ザサウスニアのひとー!?」
「そうだー」
ロミとフミはピタッと立ち止まり、
振り向きざまオーカの顔面に息ぴったりのフックを見舞った。
鈍い音と共にオーカは湯船に沈んだ。
「なら容赦しないわよ、豚野郎」
「頭も弱いなら身体も弱いのね!」
オーカは湯に浮いたまま起き上がらない。
「さ、さすが元隊長たち……」
マイヤーは床にぺたりと座り込み、唖然として呟いた。
「まだまだあたしたちもイケるわね」
「だめよロミ、私たちの戦場は厨房よ」
「そうだった。うふふふふ」
「うふふふふふふふ」
マイマ達が隠れている倉庫の扉が蹴破られた。
口笛と共にマカンが入ってくる。
「どううせここにいるんでしょう?
ふふ、楽しいわねえ~こういうの」
マカンの両こぶしには鉄のグローブが嵌められている。
倉庫の奥の隙間に隠れていたマイマ、メミカ、ヒナカの三人は、
覚悟を決め決死の抵抗をする気でいた。
その時、廊下で唸り声が聞こえた。
大狼のラウ、リンリア、ギーの3頭だ。
「ぎゃあ!! 何よあんたたち! 痛い! この離しなさい!」
マカンの野太い声、大狼達の唸り声、棚やモノが落ちる音などが響き、
数分の攻防が続く。
三人は顔を出して戦いを見守っていた。
やがて両者は距離を置き、睨み合う。
「だ、大丈夫でしょうか、ラウたち……」
ヒナカが心配そうに呟く。
「あんな大きな狼3頭とやりあえるなんて……」
そう返したマイマの胸元に光るブローチが不意に動いた。
それはメイド長の証としてオスカーに渡されたものだ。
円の中に鳥の羽があしらわれた金属は、形を変え蜂となって飛んだ。
驚いている3人をよそにその機械蜂は真っ直ぐマカンに向かい、
気付かれないうちに首筋に針を刺した。
マカンはあっけなく床に倒れた。
王の間。
「メイドの居場所が知りたいか?
教えてもいいが、無意味だ。
お前はこの部屋から出られないからな」
カラカラと剣先を引きずりながら、
腹に包帯を巻いたマーハントが入ってきた。
ラムレスたち、そして短剣を持つマグローブが扉の方に目をやる。
「あなたは確か……マーハント軍団長ね。
はいはい、資料にあったわ。
死にかけてるから前線に連れて行ってもらえなかったお荷物さんね」
「ふん、お前こそ、そんな戦力でこの城を落とせるとでも思っているのか?
どうせ捨て駒だろう」
マーハントとマグローブは向かい合い、目で威嚇し合う。
「いい度胸ね、半分死んでいるくせに」
マグローブは短剣を振りかぶり襲ってきた。
顔面を狙ってきた刃を何とか受け止め、
マーハントは手首を回転させ反撃する。
懐から出したもう一本の短剣でそれを防いだマグローブは、
二本の短剣で踊る様にマーハントの剣を捌いている。
「ああ、マーハント殿、傷が……」
「我々はもっと離れた方が……」
「なんか強敵っぽいですぞ」
ラムレスとギルとモルトは円卓の机の向こう側で慌てふためいていた。
ギィィィンとマーハントの剣が弾かれ、床に倒れる。
「う……くそっ!」
「あらあら、勝手に辛そうね。
お腹の傷が開いちゃったかしら?」
マグローブは余裕の笑みを浮かべた。
「……お前たちの目的はなんだ?」
「何って大体わかるでしょ?
王家の血を攫って我が帝国が有利に立つためよ。
あ、あと王女とか重要人物もね」
もう勝ったも同然だからか、マグローブは饒舌だ。
「……どうやってここまできたんだ?
防衛網に引っかからずに……」
「西の焼けた森の中を通ってきたのよ。
ロッペル山脈を抜けてね。
あそこは山を貫く洞窟があるのよ。
あなた達は知らないでしょうけど」
マグローブは二本の刃先をシャンシャンとこすり合わせ、
「そろそろ終わりよ」と言い放つ。
「そうだな、終わりにしようか」
マーハントは痛みを感じさせずスッと立ち上がると、
今までとはうって変わってキレキレの動きで剣を振るった。
「え? ちょっとまって! さっきと動きが……」
驚いたマグローブは防戦一方だ。
「傷はもうとっくに治ってるんだよ。
おかげでお前らの侵入経路が分かった。
ペラペラ喋りやがって……お前は戦士に向いてないな」
マーハントは軽々と短刀の一本を弾き落とし、
返す刀で反対の腕をぶった切った。
「ぎゃああああ! 私の腕が! なんてことを!」
マグローブの腕からはブシュっと鮮血が噴き出す。
「……喚くな。修行が足りんだけだ!」
マーハントの剣がマグローブの首を真一文字に斬り落とした。
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