第140話 ノーストリリア城の刺客
夜。
ラムレスは飛び起きた。
ノーストリリア城に敵襲を告げる鐘が鳴っている。
「この音は……て、敵襲!?」
慌てて廊下に出たラムレスは、
薄暗い廊下で新しくメイドになったソーンの孫娘、
モカル・ジルチアゼムと会った。
モカルは背は小さいながらもソーン譲りの剣術を持っているので、
メイド兼要人の護衛の役も担っている。
真夜中にも関わらず、くるりと大きな瞳は全く眠そうではない。
しかし、肩までの長さの髪は多少寝癖が付いていた。
「ああ、モカル。きき、君はベリカ様の護衛を! 他の者は?」
「えっと……部屋にいます」
「ならば鍵をかけて部屋から出ないようにと言いなさい」
「は、はい」
慌てて戻ったモカルと入れ違いに護衛兵が報告に来た。
「ラムレス様、中庭にて護衛兵団とマーハント軍が敵部隊と交戦中!
敵勢力はおよそ200名。正規軍ではないようです。
傭兵団もしくは暗殺部隊かと……
それと、数名が城内に侵入したかもしれないと報告がありました」
「な! なに!!」
一階、工事中の廊下に口笛が響く。
「あーもう、なんて寒いところなのかしら。ねえマグローブ姉様?」
「そうねカトゥース。わざわざ私たちが来る必要があったのかしら?
戻ったらシキ姉に文句言わなくちゃ。うふふん」
「ちょっと姉様方待ってよー、オーカがまだよ。
ほらオーカ、その子はもう死んでるんだから遊べないのよ」
巨漢のオーカは血まみれの護衛兵を放り投げた。
「マカン姉、女いないの女」
「捕獲目標が女よ。でも殺しちゃだめなのよ」
「なんでぇー」
「もう、何度も説明したでしょ」
マカンはオーカの背中を押して歩く。
「やだーもうヒゲ生えてきちゃったー」
「あーカトゥース、青いー」
「やめてよマカンったら大声でぇー」
「うふふ、仲いいわねぇーあなた達」
マグローブは妹たちを見て微笑む。
たくましい脚、たくましい腕、そしてヒゲ。
末のオーカ以外ゴリゴリのお姉である4兄弟は、
敵地にも関わらず、世間話しながらノーストリリア城を進んでいく。
王の間でラムレスはギルとモルトと合流した。
二人は夜遅くまで仕事をしていて暖炉の前で仮眠していたらしい。
戦中の事務仕事は平時よりも格段に忙しい。
「他の者は?」
「一旦帰りました。
いやしかし、オスカー様の居ぬ間に……まんまとやられましたな」
酒臭いモルトはフラフラだった。足元にワインの瓶が転がっている。
「敵は一体どうやってここまで?
建設中のコマザ城で交戦の報告は上がってなかったはず」
ギルは頭を捻っている。
その時、王の間の扉が勢いよく開いた。
「あーらおっさんが三人……ねえ、お腹の大きいメイドはどこかしら?」
長身のマグローブがにやつきながら入ってきた。
短刀と拳は血に濡れていた。
モカルは祖父ソーンから譲り受けた名剣ベルルッティを片手に、
ベリカの部屋に入った。
「ベリカ様、失礼します」
ランタンの光で照らされた部屋にベリカの姿はなく、
ベッドも戸棚も荒らされていた。
「遅かった……」
しかし、窓が開いていることに気が付いたモカルは、
そこから工事用の足場に飛び移り、外に出た。
すると一段下に大柄な男がベリカを肩に担いで降りていくのを発見した。
「待て!」
すぐにそこまで駆け下り、モカルはベルルッティを抜く。
その男、カトゥースはゆっくりと振り向き
「あら、小さなお嬢さん。こんばんわ」と満面の笑みを見せた。
マイヤーはその時浴場にいた。
湯の落ちる音で城の鐘は聞こえなかったようだ。
そこへいきなり巨漢の男が入ってきた。
「え! 誰!!」
体を洗っていたマイヤーはびっくりして固まってしまった。
「女……裸の女……」
呆けた顔でマイヤーを見ていた男は、
はっと気づくとひょいとマイヤーの身体を持ち上げて肩に担いだ。
「きゃあ!! ちょっといきなり何なのよ!!」
「お前持って帰る」
その時、湯船からロミとフミが勢いよく姿を現した。
「はい私の勝ちー」
「いいえ、ほぼ同時よ」
「あんた水中で変な顔して笑わしに来たでしょ、
卑怯ねー卑怯すぎて震えるわ」
「あんただって潜るのちょっと遅かった……」
「……ん? 誰? あんた」
筋骨隆々のロミ、フミ兄弟はオーカを見て首を捻る。
メイドのマイマ、メミカ、ヒナカの三人は、
メイド部屋から倉庫に身を移し、鍵をかけて籠城していた。
「あ……ほら聞いて下さい。私たちの部屋から音が……」
息を潜めてヒナカは人差し指を唇に当てた。
向かいの自分たちの部屋からは口笛と共に、
家具を派手に動かす音が聞こえてくる。
「やっぱり敵はお二人とお腹の赤ちゃんを狙ってるんですよ」
寝癖のついたヒナカはドアの前で二人に振り返る。
少しお腹が出てきたメミカは毛皮を着込んで不安そうな表情だった。
そしてもうかなりお腹の大きいマイマは静かに靴の紐を結びながら、
「メミカ、しっかりして。この子たちは私たちが守るのよ」と冷静だ。
その時、ドアノブがガチャガチャと鳴った。
三人は身構え部屋の奥へと移動する。
ヒナカが握る短刀の刃先は、小刻みに揺れていた。
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