第112話 対ラドー軍
前方にムルス大要塞が見える。とんでもなくでかい城だ。
今工事しているノーストリリア城の5倍はある。
ムルス大要塞までに川と街道、小さな村が1つ、
そして丘が2つ。
ラドー軍約5000人はその丘の間に布陣していた。
ここからでも巨大な投石器や戦闘牙象が確認できた。
ここは平らな草地で、合戦には最適な場所だ。
千里眼で地中を見る。とりあえず罠はなさそうだ。
俺は中央にバルバレス、ベミー、ミーズリー軍1500人、
右翼にボサップ、ネネル軍900人、
左翼にダルハン軍400人を配置した。
兵力差は二分の一強。だが向こうはほとんどが奴隷兵とのことだ。
士気はこっちの方が高い。
『アルトゥール。カカラルは隠してろよ。
合図したら手筈通りに』
『了解です』
『ダルハン軍、ボサップ軍、ベミー軍、突撃だ』
俺はまず三つの軍を進軍させた。
三方向からラドー軍に襲い掛かる。
俺の視界には上空の機械蜂から、
無駄に解像度のいい映像が映し出されている。
『よし、ネネル軍、進軍』
『任せて』
左翼に残っていたネネル軍500人が一斉に飛び上がる。
圧巻の光景だ。
千里眼で敵陣が騒がしくなった様子を確認し、
『アルトゥール、今だ』と指令を出した。
ラドー軍に近づいた三つの軍に弓と投石が襲い掛かる。
そのタイミングで横から敵前線をカカラルに襲わせた。
火を吐きながら弓兵を燃やし、
間髪入れずに上空からネネル軍が矢と油袋を落としてゆく。
ネネルは50以上ある投石器を雷撃で破壊する。
いいぞ、先手を取れたぞ。
ここから第二波だ。
『ミーズリー軍進軍せよ』
『了解しました』
俺の前に布陣していた兵が土煙を立ててごっそりといなくなった。
『【骸骨部隊】、作戦を開始』
『はっ!』
千里眼で丘の左手を見た。
敵軍のテントが左の丘の中腹にある。
程なくして裏手からルレ隊の騎竜兵部隊、
アルトゥールの騎馬部隊が敵陣の急所を突いた。
先頭で剣を振るうのはルレ、アルトゥール、シボの三人だ。
白毛竜の強さも相まって、驚異的な突破力で、分厚い敵陣をなぎ倒してゆく。
同時に上空からダカユキー隊を背中に乗せたキャディッシュ隊が弓の雨を降らせ、
あっという間に敵本陣のテントに到着した。
軍師や参謀、幹部、それに将軍のラドーもそこにいる。
ダカユキー隊がテントの中に突入した。
しばらくの後、通信が入る。
『オスカー様、ラドーはいません。ここにいるのは影武者でした』
『なに! 影武者?』
すぐに千里眼で周りを探す。
するとムルス大要塞の城門を今まさに通ろうとしている一団を発見した。
先頭はラドーだった。
くそ、兜をかぶっていたので思い込みで本人だと信じてしまった。
『……了解した。ネネル、【骸骨部隊】の撤退を手伝え』
『今向かってるわ』
「バルバレス、行くぞ」
「ようやくですな」
隣で馬に跨るバルバレスは心底嬉しそうに返事をした。
うーん、頼もしい。
自軍の本陣テントから煙が上がるのを見て、
敵兵の士気は落ちていた。
既に崩壊寸前だったところに、精鋭のバルバレス軍が突っ込み、
俺が火球を撃ち込みまくってとどめを刺した。
巨大な戦闘牙象もネネルの電撃を浴びて軒並み気絶し、
もはや脅威はなくなった。
二倍の戦力差ながら、魔人、魔剣、魔獣が揃っていれば、
こうも圧倒的なのかと自分事ながら驚きを隠せない。
いや、白毛竜、有翼人、獣人部隊の存在も大きいか。
キトゥルセンのほぼ全軍で戦ったのは初めてだったが、
今後に生かせるいいデータが取れた。
しかし惜しい。ミルコップ軍が健在で、
ギバが裏切らなければもっと楽勝だったはずだ。
残り1000人ほどになった時点で、敵軍は崩壊し、
後方に逃亡を始めた。
『オスカー、追う?』
ベミーから通信が入った。
『いや、いい。終わりだ』
各軍で勝ち鬨が上がる。
ふと上を見上げるとカカラルの様子が変だった。
鳴き声を上げながら何もないところに火を吐き、飛び方も不規則だ。
……なんだ?
その時、ぞわっと得体のしれない不安感が全身を駆け抜けた。
これは……魔素だ。
『オスカー、今の感じた?』
ネネルも感じたらしい。
おそらく発生源はムルス大要塞。クロエだ。
『なんか……嫌な感じじゃないか? これ……』
予感は的中した。
だがそれは予想を超えるものだった。
突然、ムルス大要塞が丸々凍ったのだ。
その場にいた全員が平原の向こうで起きた異変に気付き、言葉を失った。
クロエがギカク化したに違いない。
俺は千里眼を使った。
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