第10話 有翼魔人ネネル
「うーん……いたたたた。はっ!! 何! 誰! どこ触ってんの!」
ばちん! と俺は天使から平手打ちを喰らった。
首がもげるかと思った。とんでもない馬鹿力だ。
「……とりあえず降りてくれるかな?」
「……はっ!」
馬乗りになっていた彼女は、慌てて俺から飛び降りた。あれ、顔が赤いぞ。
「オスカー様! お怪我はございませんか!」
バルバレスが身体を起こしてくれた。身体中が擦り切れて痛い。
「その魔剣……フラレウム? あんた王族?」
立ち上がった有翼人の女の子は目を見開いた。
「じゃあ、さっきの炎はもしかして、あんたが?」
「ああ、うん。そうだよ」
「おい、有翼人の小娘。気安くオスカー様に話しかけるな!
オスカー様はこの国のこくお……王子であられるぞ! わきまえよ!」
バルバレスの大声にビクッと肩をすくめたが、あまり怖がっていない。
しかめっ面でバルバレスを睨んでいる。
ていうか君は痛くないのかな? 服とか所々擦り切れてるし、
俺と同じだけ吹っ飛んで転がったじゃん。なんでピンピンしてるんだ。
ラムレスが話を聞くと、どうやら上空で先ほどの魔獣に襲われていた所、
俺が上げた火柱が魔獣を直撃、間一髪助かったが、
それ以前に片方の翼を負傷していたため、どうすることも出来ず落ちてきたそうだ。
「で、でも、別に助けてもらわなくても、自分で何とか出来たんだから!」
うわー、本当にいるんだ、ツンデレ娘って。
「何ジロジロ見てるのよ?」
「あ、いや。君、名前は?」
「ウルエストの……ネネルよ」
髪をいじりながら恥ずかしそうに答えた。無事だった方の翼がゆっくり畳まれる。
年は十代後半くらい、少し垂れ目でたぬきっぽい顔つき。いい、凄くいい。
ツンデレ娘には王子モードでいってみよう。
「そうか、私はオスカー。……先ほどは出過ぎた真似をした。
可憐なレディーが魔獣に襲われていたら、助けたくなるのが男というものだが……
ネネル、君の力を見誤った私の力不足だ。君なら、あんな魔獣一人で倒せたもんな。
ああ、心が痛い。許してくれ」
自分で言っといてなんだが、結構恥ずかしいな。やめようかな。
「べ、別に感謝してない訳じゃないわよ。
……一応お礼は言っとくわ。助けてくれて、あ、ありがとう」
なんだろう、ベタ過ぎてむず痒いぞ! まるで青春の一ページみたいだ。
それにしてもチョロい。耳まで真っ赤になっている。
おーいどこ見てる? 俺の顔を見てくれ。目を合わせてくれ。
「あ! ……え? もしかして」
今までぷるんとしたあごに手を当て、何やら考え込んでいたラムレスが声を上げた。
「ネネルさん。フルネームをお伺いしても?」
「……ネネル・ラピストリア」
「えええええ! オスカー様! このお方、ウルエスト王国の姫様ですぞ!」
「えええええ!」
あ、王子モード終わっちゃった。
「あ、いえ、私は姫じゃないの。三女だし、もう何があっても王位継承権ないし。
でもその分好き勝手出来るから、どうでもいいんだけど。あはは」
何やら複雑な事情があるようだ。笑顔を見せたがぎこちない。
「失礼します! オスカー様、バルバレス様、落ちてきた魔獣がまだ生きています!」
飛び込んできた兵士が肩で息をしながら報告した。
「私が行きましょう」
「気を付けろよ、バルバレス」
「は! お心遣い感謝致します!」
「まだ生きてんの、あれ……」
ネネルは唖然とした表情だ。
「とりあえずお二人とも、私の部屋へ。治療して差し上げましょう」
モルトに促されて俺たちはテラスを後にした。




