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『みんなのエンちゃん』、に、彼氏が出来た。
「やっぱ1番は上原だよな。」
「池下もよくね?」
「あー、いいね、いいねー。」
「なぁ、アツは?3組の小島からも告られたんだろ?」
「マジでっ!?で、振ったの?もったいねー!」
「あっちゃん、モッテモテ〜!」
「うひゃひゃっ、うるせぇっ!ひがむなっ!」
中学生、夏の終わり。
『みんなのエンちゃん』は、今より短い髪の毛で、バスケ部なんかに入っちゃって、灼けていた。
「そーいえば、伊沢ってさー、男バスの先輩に告られたらしぃぜ?」
「え?アツ、知ってた?」
「・・・知らね。」
「え、マジで?あれ?」
「伊沢って何気にモテるよなー。あっちゃん仲いいし。な、ショーカイしてよ、オレに。」
「あ、バカッ・・・!」
ヘラヘラとオレの肩に手をおいた友達を、ぶん殴った。
『みんなのエンちゃん』に告ったヤツらを片っ端から、ぶん殴っていた。
・・・当時のオレは、荒れた中学生でした。
『エンちゃん』が、『みんなの』ものになったのは、たぶん、オレのせいだろう。
「また、ケンカしたの?」
ケンカが強いかって言ったら、強いけど、無傷で済むケンカはそうない。
新しい傷に、『エンちゃん』が躊躇うこともなく、触れた。
「・・・ふっかけられたから、買っただけ。」
嘘です。自分から吹っかけてます。いままで、全部。
「買い過ぎだよ、あっちゃんは。」
売り過ぎ、しかも押しつけ過ぎ、なんだけど。
『エンちゃん』は、呆れた顔で笑って、「帰ろ。」って、いつものように言った。
帰る家は、違うのに。
ちっちゃい手。細い腕。
無防備に、笑う。
「あっちゃんと一緒に遊びたいんだって。」
「・・・誰が?」
「もう、聞いてないでしょ?バスケ部の後輩で・・・」
「オレが好きなのは、円だよ。」
ちっちゃい手が、オレの手の中からすり抜けた。
瞬き2回して、オレを見る。
「わたしもあっちゃんが好きだよ。」
「じゃ、両想いだ。付合う?」
「付合えない。兄妹だから。」
キョーダイ。って、オレがにぃちゃんだっけ?あれ?おとーと?
そんなこともわからないキョーダイって、何だよ。・・・笑える。
「一緒に住んだことねぇのに、キョーダイかよ。」
「兄妹だよ。」
「キョーダイじゃねぇよ。」
笑える、のに、笑えない。
出来たばかりの傷がヒリヒリと痛んだ。
「・・・わたしたちは、兄妹だよ。」
掠れた弱い声だった。
円は、泣いていた。
ふたりして鼻をすすって、手を繋ぐ。
「ピラフ、食べてく?」って、不細工な顔はオレだけに見せとけ、と思う。
「食う。チャーハンだろ、いつもの。」
「・・・ピラフ。」
失恋したふたりを、死にかけの蝉が、笑った。
ずっと、一生、仲のいいキョーダイでいる。
月のない夜に、星に誓ってみた。
守れるかどうかは、別。
とりあえずシスコン。
彼氏なんかできた日には、彼氏をぶっ飛ばしてやる。
結婚とかいった日には「どこぞの馬の骨に〜」ってちゃぶ台ひっくり返してやる。
でもやっぱり許しちゃって・・・泣くな。絶対、泣く。
終いには、昔の超有名映画のアレ、結婚式の最中に乗り込んで連れ出すヤツ、を、やってやる。
・・・それでも。
好きなオンナの幸せを願う、オトコになりたい。
だから、なぁ?
エンドーエン。って、茶園みたいな名前で幸せになれるのかよ?
「パパは元気?」
「元気も何も1回ぶっ倒れりゃいいんだよ。」
「・・・何かあった?」
「新しいカノジョ、出来たらしいぜ?かぁちゃん怒りまくり。」
「・・・弟か妹、出来るかも。」
「・・・笑えねぇ。」
ちっちゃな手からオレに、幸せを手渡されるのは、まだまだずっと、先の話。
ありがとうございました




