真夜中のピラフ
雨は、止んでいた。
体は少し、汗ばんでた。
なのに、いつもよりベッドがふかふかしてる。
どこまでも体沈みそう。
ああ、また、眠たくなってきた。
だって遠藤が、気持ち良さそうに寝てるんだもん。
幸せそうな、寝顔。
ピルルルルル〜・・・
「ん・・・」
遠藤の眉がキュッと寄る。
ジィィィーと見てたわたしの視線では起きなかったのに、機械音には、起きるんだ。
「・・・あ、れ?」
でも、目をこする仕草が可愛いから、許す。
ピルルルルル〜・・・ピッ。
冷たい携帯。
人類最大の間違い発明、だと思う。
ね、遠藤?
『もしもし?円?』
「うん。」
『いまからさー、そっち行くけど・・・』
「あっ・・・」
遠藤が起き上がって、わたしの体は無情にも冷たい空気にさらされた。
あ、ゴメン。って。遠藤はすぐ気づいて、布団を掛け直す。
その顔がちょっと赤い。
わたしにも、伝染った。
『・・・円?誰か、いる?』
携帯は嫌い。
だから、遠藤に渡してしまった。
『おい?円?』
遠藤は、声の主を携帯越しに見つめてた。
・・・服、着ちゃお。
「・・・もしもし。えっと・・・遠藤、です。」
脱ぎ捨てたままの制服。
遠藤のシャツを、たたむ。
みんなも、こんな風に脱ぎ捨てたまま、なのかな?
わかんないや。
カオリちゃんには・・・聞けないね。
「アツ?・・・うん。えっ?あ、そんな時間?え、え、いや、えっと・・・」
午後11時48分。
そんな時間、ですね。
「ゴメン、あの、帰るから。えっと・・・、伊沢さん。」
「帰るの?お腹減ってない?ゴハン、作るから食べていって?」
そうは言っても、いまからだとピラフくらいしか作れないけど。
手の中に戻った携帯は不思議と温かかった。
「だけど、遅いから・・・」
「食べてって?・・・あっちゃんも、食べるでしょ?」
『・・・食う。行く。遠藤、帰らせるなよ。』
携帯は一方的に切れた。
いつものこと。
・・・あっちゃん、怒ってる?
ベッドの中、遠藤は困ったように笑ってた。
ウチには、パパとママもいない。
なんて、ちょっと嘘。
パパはいないけど、ママはいつも明け方までいないことが多い。
たまに、いる。
「好きなの?オレより?」
やっぱりあっちゃんは怒ってた。
砂糖5つの甘いあまーいコーヒーをいれてあげたのに、一口も、飲んでない。
遠藤は、砂糖は入れなくてミルクを入れるらしい。
わたしはコーヒー、飲めない。
「あっちゃんのことは、好き。」
「オレも円が好き。」
あっちゃん専用のマグカップは青。わたしは、白。
遠藤のマグカップは、花柄になった。しかも赤。
ホットミルクに砂糖5つ。
ミルクにうっすらと膜が張る。
「わたしたちは、結ばれないよ。結ばれることは、ないよ。」
一生、ない。
死んでもない。
生まれ変わっても・・・たら、わからない。
ただ。
生きている、今。
結ばれてはいけない。
いけないの、だ。
「オレより、エンドーが好きなの?」
あっちゃんは、泣きそうな顔で、怒る。
だから全然、怖くない。
なのに、わたしも泣きそうになる。
どうしてだろう。
どうして結ばれてはいけないのかと同じくらい、不思議。
この不思議が、遠藤には、わかればいいな。
「あっちゃんより好きになる人が、遠藤なの。」
ピラフは辛口で作った。
あっちゃんの好きなマッシュルームは、もちろん入れて。
「エンドーエンって、おかしくね?」
あっちゃんは、食べながら、まだ怒ってる。
何に怒ってるんだか。
わざと辛くしたのがバレたかな。
「マドカ、でしょ。」って、遠藤が言う。
ふっと顔が熱くなったのは、ピラフが辛いから。
「エンドーエン。変な名前だな。茶園みてぇ。」
「・・・かわいいよ。『エンドーエン』。うん、かわいい。」
そして遠藤は、「ふたりは食べ方が似てるね。」って、笑った。
あっちゃんもわたしも、顔を見合わせて、少し笑った。少しだけ、ね。
少しだけだったのは、あっちゃんが泣きそうだったから。
辛ぇんだよ。って、すぐ、拗ねたから。
「それにしてもホント、辛いねぇ。」
遠藤は、泣いてた。
また、わたしは笑った。やっぱり、少しだけ。
遠藤があっちゃんを越える日は、そう、遠くない。




