第3話 クジでいいの?とりあえず1本引いてみる
昨日に引き続き更新します。
フローランが机の上に白い箱を置く。
「エネルギー転換は、本来であれば転属先の異世界の状況を考慮して、研修担当の職員が転換能力を決めています。しかし、今回はこの箱に入っているクジをランダムに選ぶことによって、その能力を決めることとします。」
えっ…運のみで決めるの!?
これから異世界で生きていくのは、この私なんですけど…。
フローランをジト目で見つめていると、
「しっ…しかし、これ自体が決して悪い結果を生むというわけではありません。」
「どういうことですか?…オーレットさんの話だと、ハズレがあるようですが…」
「先程も申し上げましたが、場合によっては圧倒的なリターンもあり得ます。この『圧倒的』ということが重要であり、この転換方法の特長です。エネルギー転換自体は、転属対象者の精神エネルギーを用いることは説明した通りですが、実はこの転換率は決して100%というわけではありません。転換される際に無駄に消費してしまうのが実情です。これは、転属先の異世界に対して、過度なといいますか、異常な影響を与えないようにするために、神々がセーブをかけているためです。
転属対象者は、職員による選別と本人の意志により決められますが、過去にはその優れた、この場合は優れ過ぎた能力が原因で、異世界を滅ぼしかけたこともありました。そのような経緯から、転属対象者に対して、最初から過ぎたる能力を与えることは望ましくないという見解になり、現在に至っています。ちなみに、精神エネルギーを100として場合、能力へ転換できるのは約30~40程度です。」
そうか…、確かに人間には「欲」があるからな。最初は世界を豊かにするとか、平和にするとか、崇高な決意があった人間も、自分に与えられた能力に傲り、結果的に崇高とは逆の結果を生むこともあるよな。どの世界でも人間の欲は一緒だな…。まあ欲自体がまったくなければ、世界の発展も生まれないのも事実だけど…。
「なるほど。ということは、その圧倒的なリターンというのは…。」
「お察しの通りです。圧倒的なリターンとは、精神エネルギーの転換制限を解除し、100%転換に使用できるということです。」
おおっ!すげー!んっ…?だけど、その場合、もしハズレを引いたら、逆に転換なしということか?背中にジトっと冷や汗を掻いているのがわかる。
「ご安心下さい。ハズレの場合は、従来の転換方法を採用し、研修期間中にその能力を強化していく予定ですから。」
何かもう、絶対、心を読まれてるよ…。でも、それならこちらはリスクを負わないか。つまり、「ノーリスク・ローリターン」か「ノーリスク・ハイリターン」というわけか。まあ、損しないのならいいんじゃないかな。とりあえず安心した…口元が若干緩む。
「わかりました。少し安心しました。では、その箱に入っているクジを引けばいいのですね?引く回数は1回だけですか?」
「少しお待ち下さい。念のために通達を確認します。」
フローランはそう言って、教卓の中から1枚の書類を取り出す。あれは家電とかに付いているトリセツみたいな感じだな。ちょうどA4サイズぐらいの大きさで両面印刷か…。何か元いた世界と変わらないな…。
「どうも最初にクジの引く回数を決める必要があるようですね。……なるほど。わかりました。」
その通達を読むためか、いつの間にか眼鏡をかけたフローランが言う。そっちで勝手に納得しないでほしいな…。説明求ム。
「クジが納められているこの白い箱は、特殊な素材で作られているようです。転属対象者の精神エネルギーに反応して、クジを引く回数と当たりクジの能力が決定されるようです。通常は1回のようですね。そしてこの回数と当たりクジの数は同じということらしいです。ちなみに当たりクジの能力は、転属先の異世界を考慮しているとのことです。」
つまり、1回だったら当たりクジも1つということかな。1つか…。当たる確率はどのぐらいなんだろう…。
「クジの総数は……えー…1000…ですね。」
「!!!!!!!!!!…1000!っ…」
思った以上の数に驚いて声が出ない。絶対外れるな。そりゃそうだよな…、そもそも転換制限には理由があるからで、そんな簡単に制限を解除できないよな。とりあえず、早くクジを引こう。にしても、どうせ外れるのがわかってるのに、なんでこんな方法があるのだろう?
「そういえば、理由があって転換制限が行われているのに、なんでこんな制限がかからない方法が存在するのですか?」
「当然の疑問ですよね。転換制限が実施されてからは、異世界転属者の暴走は滅多に発生しなくなったようですが、その代わり転属者の質が低下気味のようで、そこまで異世界に良い影響を及ぼしていない状況があるようです。これを打開するための苦肉の策ですね。」
「神々も、職員もいろいろ大変なんですね…。」
苦笑している私を見ながら、彼女は説明を続ける。
「さて説明と確認に時間がかかってしまいましたね。それでは、月白さん、この箱を両手でしっかり持って、精神エネルギーを流してみて下さい。そうですね、両手の力を入れて、エネルギーが箱に流れているのをイメージすれば大丈夫だと思います。」
言われた通りに、白い箱を両手で持つ。あまり重さを感じないな。それでエネルギーの流れをイメージするのか…、そうだな、人間の血流をイメージしてみるか。理科の授業とかでDVDを観たな。
そうすると、箱が白く光り出して、箱の正面に大きく赤い数字が出てきた。そうか、これがクジを引く回数であり、当たりクジの数だな。えっと………3?…。
箱の発光が終わり、赤文字で数字が書かれている。そう「3」の数字が。少しの間、そう本当に数秒間、無音の状態が教室内を包む。そして…
「がはははは!すごいなっ!3だぞ、3!普通は1じゃないのか?」
ああ、ビックリした。いきなり耳元で大声出さないで、心臓に悪いよ…。
「ええ、正直言って驚きました。それだけ月白さんの精神エネルギーの容量と質が優れていたということですね。」
それって、私のマイナスストレスが相当溜まっていて、しかも純度100%のストレスだったということだよな…全然喜べない。
「じゃあ、クジを引いてもいいですか?」
喜びの表情を一切顔に出さず、フローランに確認する。
「あっ…はい。よろしくお願いします。とりあえず先に3つ引いて下さい。当たりクジの場合は、そのクジに転換能力が記載されているとのことです。ハズレは空白です。」
とりあえず、さっさと引いた。いくら3つといっても1000分の3だからな。早く終わらせて、研修始めよう。
「じゃあ、この3つでお願いします。」
フローランに引いたクジを渡す。クジの色はこれまた白、形は三角クジの形をしていた。
「本当にそれでいいですか?もう少し時間をかけて引くと思っていました。」
フローランが不思議がって、というより疑いに近い視線を私に投げてくる。ええ、そうです。当たるわけないと思って引きましたよ。
「この3つでいいです。時間をかけたからといって当たるわけではないですし…。」
「そうですね。…わかりました。それでは、この3つということで。早速開封しましょう。せっかくなんで月白さんお願いします。」
フローランがクジを私に返してくる。
「じゃあ1つ目……『魔力無尽蔵』と書いてあります。」
そう私が言い、それを聞いたフローランが何かを言いかけた時、
「マジかっ!『魔力無尽蔵』って、すごい能力だぞ!」
オーレットが叫ぶ。まじか…当たったようだ。あまり実感ないけど。
「それってどういう能力ですか?」
「それはだな…いやっ…まずはすべてのクジを見てみようぜ。何かとてつもない予感がする」
オーレットが私の質問に答えず、開封を進める。
「わかりました。じゃあまとめていきます。………えっと、『身体能力極大』と『異世界情報取得』です…。」
これは当たりか…?もしかして、3つとも全部当たり…?
5秒後、フローランとオーレットの驚きの大声が、教室内に響き渡った。
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