第27話 事件と生存者
皆さま、ご無沙汰しております。
いろいろありまして、全然続きを書けず更新できませんでした。
そんな中でも、ブクマが増えていたり、ちょっとずつ閲覧数が増えていたことは驚きです。
ありがとうございます。
またユウキの物語を書いていきたいと思いますので、暇な時にでもお付き合い下さい。
「そうだ、忘れてた!」
このエルセベ様のお屋敷に来てからもう1年。
今ではお屋敷のお仕事をたくさんできるようになったの。私の仕事は、エルセベ様が経営する衣服店じゃなくて、お店の裏側にあるお屋敷で皆様の身の回りのお世話をすること。
旦那様や奥様もほんとにいい人だし、レイルさんは怒ると怖いけど、よくしてくれるわ。リルお嬢様とは、年齢が近いから、私のことをまるで妹のように可愛がってくれる。レイルさんはあまりいい顔はしないけどね。
5日前にお嬢様が1匹の仔猫を拾ってきたの。茶色の毛がきれいな仔猫よ。お屋敷の裏庭に迷い込んだみたい。お嬢様は、旦那様と奥様にお願いして、お屋敷の飼い猫とされたんです。「ケディ」っていう名前も付けて、毎日一緒に遊んでるんです。
だけど昨日の夜から、お嬢様は風邪をひいてしまって、今日はお部屋でお休みになっています。とても心配です。レイルさんと私で看病をしていたんだけど、お嬢様と2人きりの時に、「ケディに餌をあげといて」と頼まれたの。だけど、寝る前に餌をあげてないことを思い出して、いまからあげに行くところなんです。
ケディはどこにいるんだろう?今日は見てないな…。裏庭かな?裏庭は薄暗いからイヤだな…。別にこわいわけじゃないよ。私はもう一人前の使用人なんだから。
裏庭には、お店の蔵と納屋があるの。蔵にはいつも鍵がかかっているから、ケディはいないと思う。だから納屋を探すわ。納屋には、お店の従業員やお屋敷の使用人が使う道具や備品が閉まってあって、普段からよく使われるから、鍵はかかってない。それに換気のために、扉が半分開いているの。だから、もしかしたら、ケディが迷い込んでいるかも。
半開きの扉をそっと開けると、猫の鳴き声が聞こえたわ。「やっぱり、わたしって冴えてる!」と思いながら辺りを見回すと、奥に置いてある椅子の下でケディが不安そうに鳴いているのを見つけたわ。
ケディを抱き上げ、椅子に座って、私の膝の上で、しばらくケディを撫でていたら、眠気が…ケディあったかい。
…はっ!つい寝てしまったわ。早く戻らないと。そう思って椅子から立ち上がったら、外から声が聞こえる。だれかいるのかしら。もしかして、レイルさん?どうしよう、怒られる。でも、レイルさんの声じゃない気がする。
「さすが、エルセベの店だな。カネと高値なモノがたくさんありやがる。」
「ああ。蔵と屋敷の分も含めて、持ち運ぶのが大変だ。始末班もそろそろ終わる頃だからな。早く運び出せ。」
私の知らない人だと思ったら、何か急に怖くなってきた。とりあえず隠れようとしたら、ガタっと、棚の物が落ちてしまった。
「ん?何かこの納屋から聞こえたな。おい!調べてこい!」
どうしようと思って、身体を小さくしていると、扉が開いた音がした。こっちに来ると思った瞬間ケディが飛び出したわ。そうしたら、「なんだ、ただの猫かよ」と言って出て行ったの。ありがとうケディ。
「頭領!始末班、運搬班完了しました!」
「よしっ!店と屋敷にいる人間は始末したな。さっさと退くぞ!」
「へいっ!」
そう聞こえた後、足音が遠ざかっていくのが聞こえたわ。
納屋の窓から空が見えた。少し白んできたみたい。ケディは私の腕の中で寝てるわ。納屋を出て、お屋敷に入ると、変なニオイがする。なんだろう、だれもいないみたい…。何だか急に怖くなって、だれかを呼ぼうとしたけど、声が震えて出ない。どうしよう…。そうだ!使用人室に行こう。あそこならレイルさんがいる。
だけど、使用人室に入ると、レイルさんと執事のトゥールさんが倒れていた。
「レイルさんっ!どうしたの!」
そうやって大声で叫んでも、2人ともピクリともしなかった。うつ伏せに倒れているレイルさんを起こそうとしたら、私の右手にどろりとしたものが…あっ!血!
その場でへたり込んでしまった。なんで?どうして?レイルさん…。そうだわ、リルお嬢様は?
リルお嬢様の部屋を開けると、中には誰もいなかった。ベッドにもいない。いったいどこに…。あれ?窓が開いてる。お嬢様は風邪を引かれているから、窓は閉めたはずなのに。窓から下を覗くと…あっ!
そこで、私の目の前は真っ暗になった。
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昨晩の巡回警備はお休みになった。
ライトニックさんに、巡回警備を依頼されてから、ミグロスをはじめとする警備兵たちと2日間巡回警備をした。すると3日目を迎えた昨晩は、「君は3日間に1~2回程度でいいよ。」と言われたので、休みにしたのだ。警備に入る時は、当日来てくれればいいらしい。そんな訳で、今朝は3日振りにギルドに行ってから、孤児院に顔を出そうかと思っていた。
「おはようございます、ケリーさん。」
「あらおはよう。昨日は巡回警備じゃなかったのね。」
「はい。おかげでゆっくり休めました。」
そう言って宿屋を出ようとすると、「そういえば聞いた?」とケリーさんに引き止められた。
「ユウキさん、ブティック・エルセベって知ってる?」
「ブティック・エルセベですか?すいません服にはあまり興味がないので…。」
「そうなの。そのお店は女性に人気がある衣服店なんだけどね…、昨晩強盗に襲われたらしいの。」
「えっ、そうなんですか?初めて聞きました。強盗って、もしかして『ヴァン盗賊団』ですか?」
「詳しいことはわからないんだけど、どうも違うみたい。噂だと『月食の刃』らしいの。」
「えっ…。それでお店の人は…。」
「…全員殺されていたらしいわ。」
「そんな…」と思っていると、バン!と宿屋の入口が勢いよく開く音がした。振り返ると、ミグロスだった。
「ユウキ、朝から悪い。今から一緒に来てくれるか?」
「ああ。『月食の刃』が現れたんだろ?」
ミグロスはその問いに答えなかった。とりあえず一緒に宿屋を出た。
ケリーさんが「いってらっしゃい…」と小さな声で言っていたのが聞こえた。
ミグロスと一緒に警備局に着くと、そこにはライトニックさんと、ひとりの見知らぬ男性がいた。年齢と格好はカリフス伯爵に似ている感じがする。
「局長、ユウキ殿をお連れしました。」
「ああ、ミグロス。ご苦労様。ユウキ殿、急に呼び出して悪いね。」
「いえ。それよりも『月食の刃』が現れたらしいですね。宿屋で聞きました。」
「ああ。ブティック・エルセベは人気店だからね。奴らのことも含めて、すぐに街中に広まってしまったようだ。さて、その件の前に、君に会いたいという方がいる。」
「ライトニック、あとは自分で話す。はじめまして、ユウキ殿。私はこのカラドキア運営貴族で『防衛』担当のハマール・クルシュという者だ。カリフス伯爵と同じように、私も伯爵に列せられている。君のことは、彼から聞ている、というより彼は私の娘婿だからね。『ヴァン盗賊団』のことでは世話になった。この場を借りて感謝する。」
そう言って、ハマール伯爵は頭を下げた。律義な人だな。
「やめて下さい、伯爵様。どうかお気になさらないで下さい。」
なるほど、カリフス伯爵の夫人、ユファ夫人のお父さんか。
「確かに、カリフス伯爵やライトニックが言うように、謙虚な方のようだ。さて、早速話を進めよう。ライトニック、頼む。」
「はい。すでにご存じの通り、ついにこの街にも『月食の刃』が現れました。襲われたのは『ブティック・エルセベ』の店と屋敷です。被害は店にあった品物をはじめ、蔵にあった金品を根こそぎ持っていかれたようです。そして、主人であるエルセベ氏や夫人、店の従業員、屋敷の使用人に至るまで、すべて殺されていました。特にエルセベ氏のご令室のリルお嬢様は、首を絞められた上に、窓から落とされていました…。」
「…奴らめ、許せんな。とても人間がやる所業じゃない。」
「その通りです、伯爵様。私も警備局のひとりとして、とても悔しい気持ちです。」
「ライトニック、一応確認だが『月食の刃』というのは間違いないな?」
「はい、今回も『月食の刃』と記された紙を残していきましたから、間違いないと思います。」
「そうか…。とりあえず、奴らのアジトを一刻も早く見つけなければ…。」
「はい。…ここだけの話なんですが、実は生き残りがいます。」
ライトニックさんがそう言うと、部屋を驚きと期待みたいな空気が包んだ。
読んで下さり、ありがとうございます。
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