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ストレスを溜めたら、異世界に転属させられた。  作者: dost-oyakata
第2章 異世界生活スタート、まずは生活力を付けます
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第25話 提案と密談

これにて第2章は終了です。

「失礼します。院長、ちょっとよろしいですか…。」

 昼食を準備していたモルナさんが、院長室に戻ってきた。昼食ができました、という感じではないな。表情が少し暗い。


「どうしたモルナ?何かあったのか?」

「はい…。ここではちょっと…。」

 彼女は院長と二人きりで話したいようだ。こちらの用件は済んだし、そろそろお暇しようかな。ズールには昼食をご馳走してもらうとは言ったものの、そんなつもりはなかった。


「あの~…。」

「ユウキさん、すぐに戻りますので、ちょっとお待ち下さい。」

 こちらが立ち上がって暇を告げる前に、待つように言われてしまったので、ソファーに座り直す。

 院長とモルナさんは部屋を出て、廊下でヒソヒソ話を始めた。「気配察知」なら会話を聞くこともできるが、盗み聞きは止めておこう。それにさっきの院長の会話と、いまの孤児院の状況、そして昼食の準備中に戻ってきた彼女を踏まえると、何となく予想はできる。おそらく食糧がもう枯渇寸前なのだろう…。


 実は院長の話を聞いていて気にはなっていた。せっかく魔法で病気を治療しても、いまの状態ではまた病気に逆戻りだろう。それはこちらとしても不本意だ。

 ここで会ったのも何かの縁だと思うし、こういう縁は大事にしたい。向こうの世界でも人との出会いは大事だったと思う。


「すみません、中座して失礼しました。」

 話が終わったのか、院長が部屋に戻ってきた。モルナさんも準備に戻ったようだ。

 さて、こちらから話を振っても、当然話せることではないだろうし、そもそも私の予想が外れている可能性だってある。ただ、もし予想が外れていたとしても、これから私がやろうとしていることは無意味にはならないだろう。

 あくまで自然に、恩着せがましくないように…。


「グラナさん、私からもいいですか?」

「はい、何でしょう?」

「今回は何かの縁で、孤児院の皆さんを治療させて頂きましたが、まだ彼らは病み上がりです。そこで差し出がましいとは思いますが、『お見舞いの品』として、これを受け取ってもらえませんか?」

 私はそう言って、「ストック」を唱えた。そして街で大量に購入しておいた米俵を出した。この世界では、お米が主食なのかはわからないが、栄養的には問題ないだろう。ただどのぐらいの量が必要なのかはわからなかったので、何となく2俵出した。


「これは…一体…。」

 グラナさんはその光景に驚いて、言葉が出ないみたいだが、「ストック」という魔法に驚いているのか、お米に驚いているのかわからない。


「これは受け取れません。無償で治療して頂いただけでも十分なのに、これ以上施しを受けるわけには…。」

「これは『施し』などと、大それたものではありません。先程も言いましたが、彼らはまだ病み上がりの状態です。もしいまの状態が続けば、また病気になってしまいます。私としてもそれを望んでいません。あくまで治療の一環ということで、お受け取り下さい。」

「……はい。そういうことでしたら、有難く頂戴致します。本当に、本当に…ありがとうございます。」

 グラナさんは少し震えていた。


「モルナ―!それからみんなちょっと来てくれー!」

 グラナさんはすぐにみんなを呼んだ。病み上がりのメンバー以外が、ぞろぞろとやってくる。

「何でしょうか、院長…。こ、これはっ!」

 モルナさんが米俵を見て驚きの声を発している。子供たちも興味津々と米俵を見ている。

「ユウキさんから、みんなのお見舞いということで頂いた。早速だがみんなで食べよう。モルナ、準備を頼む。治療してもらったみんなには、お粥を作ってくれ。」

「は、はい。わかりました。」

 院長の言葉を聞いて、子供たちも「コメだ―!」と言って騒いでいる。喜んでくれたようで何よりだ。

「ユウキさんから頂いたもので恐縮ですが、ユウキさんも食べていって下さい。」

「せっかくのお誘いです。ご相伴に預かります。」


「ユウキさんのおかげで、当分の食糧は何とかなりそうです。ありがとうございます。」

 昼食ができるまでの間、グラナさんと私は引き続き院長室で歓談している。白湯がおいしい。

「いえいえ。それにしても今後どうなさるのですか?グリトフ・パー一味の壊滅で、『ヴァン盗賊団』の影響は小さくなるかもしれませんが…。」

「はい…。正直言って、カラドキアの現状はすぐに好転するというものではないと思います。街の状況が良くなるまで、何とか食い繋いでいかなくはなりません。ただ稼ぐといっても…。モルナたちの稼ぎだけでは…。彼女たちもがんばってくれているのですが…。私も冒険者は引退していますし…。」

「そうですね…子供たちだけでお金を稼ぐには…。そういえば、グラナさんは冒険者だったのですか?」

「はい。Eランクの冒険者でしたが、猛獣との戦闘で大怪我をしてしまい、それを機に引退しました。しばらくは動物や魔物の解体で、生計を立てていましたが、この孤児院の前院長に誘われて、こうなった次第です。」

 そうか、もともと冒険者だったのか。んっ、ということは…。これはイケるか?


「グラナさんは今でも解体作業はできるのですか?」

「ええ、まあ…。それが何か?」

「もし良かったら、解体屋として働いてくれませんか?」

「解体屋…ですか?話が見えないのですが…。」

「いえ、そんな大した話ではないのですが、私はCランク冒険者とは言っても、冒険者稼業自体は初心者です。動物を狩ることはできても、それを解体することはできません。

 ギルドで聞きましたが、依頼じゃなくても、動物や魔物を狩れば相場で買い取ってくれると言っていました。そして解体後の方が、買取料金は割増になるとも…。」

「つまり…ユウキさんが狩ってくる動物を、私の方で解体してほしいということですか?」

「そういうことです。報酬は買取料金の3割でどうでしょうか?」

「こちらとしては願ったり叶ったりですが、本当によろしいのでしょうか?解体しなくても、おひとりで解体前の物を売った方が利益になるのでは?」

「私としてはお金を稼ぐというより、冒険者として経験を積む方を優先したいのです。だから気になさらず…それに解体も見てみたいですし。」

 私はいまウソを言っている。解体作業は知っているし、その方法も転属前研修で実践済だ。だけど、これも人助けの一環としてやってみようと思う。そもそもお互いに利点はあるのだから。それにみんなで協力した方が楽しそうだしね。


「わかりました。せっかくの申し出、ありがたくお受け致します。」

 その日から、孤児院との共同ビジネスが始まった。


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 窓がひとつもない部屋で、2人の男が向かい合って座っている。電球のような光を灯す魔道具が、その部屋を照らしているが、お互いの顔はよく見えない。

 ここはオラーフ帝国にある「スミフト」という街。オラーフ帝国の最東端にある中規模の街だ。カラドキアからは徒歩で2週間程度の距離に位置する。


「やれやれ、『ヴァン盗賊団』も落ちぶれたものだな。たったひとりの冒険者に好き勝手にやられるとは。」

「…返す言葉もありません。グリトフの奴には、あれほど調子に乗るなとクギを刺しておいたのですが…。面目ありません。」


「せっかくカラドキアの経済が滞ってきたところなのだ。今回の件で、息を吹き返されても困る。それはわかっているな?」

「はい。ただ、ここは慎重に動くべきかと。今回のことで作戦を練り直す必要があると思います…。」

「うむ。お前のその盗賊らしからぬ冷静さは評価しているがな…。普通の盗賊風情であれば、すぐに報復に動くだろうからな…。『氷血』の二つ名を持っているだけはあるな。」

「その名前は好きになれませんがね…。」


「フッ、まあいい。しばらくカラドキアは捨て置いていい。正直もったいないが、ここで焦るわけにはいかんからな。今後のことは追って沙汰を出す。」

「わかりました。まあ盗賊団として最低限度で稼ぐ程度にしておきます。その方が不自然にならずに済みます。」

「ああ、くれぐれも慎重にな。これ以上の失態は許さん。俺を失望させるなよ、ヴァン盗賊団総頭領シムール・ヴァン。」


 シムール・ヴァンはその言葉に頷き、部屋を出た。部屋には男がひとり残っているだけだ。


「ヘイリス様、盗賊団をあのままにしておいて宜しかったので?」

「カインか?まあ、盗賊団はまだ使えるからな。作戦のこともあるし、もうしばらくの間は利用させてもらう。それよりもお前は、例の冒険者…たしかユウキと言ったか?奴のことを調べておけ。」

「たかが一介の冒険者をですか…?ある程度の戦闘力は持っているようですが…。」

「一応念のためだ。逐一報告しろ。」

「はっ!」

 カインと呼ばれた男は、そのまま闇に消えた。毎度のことながら、どうすればいきなり現れ、消えることができるのか…。ヘイリスは、そんなことを思いながら、葉巻を取り出し、口にくわえる。


「焦りは禁物か…ままならないものだな…。」


「サバフラールに栄光あれ。」


~第2章 完~


読んで下さり、ありがとうございます。


次話より、「第3章 学院とカラドキア防衛戦」が始まります。

今後とも宜しくお願い致します。

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