第17話 ランチ のち 急報
更新が滞り申し訳ありませんでした。
風邪をひいてしまい、寝込んでおりました。
やっと復活したので、今日からまた宜しくお願い致します。
フェネル商会の主人、カラブゾン・フェネルの屋敷に招待された私は、現在屋敷の客室にいる。フェネル家の屋敷は、貴族街ではなく一般街にある。まあ一般街の中でも高級住宅地に屋敷はあるようだが。
フェネル家は貴族ではないが、その昔フェネル家の初代当主が、カラドキアの発展に多大なる貢献をしたとかで、庶民の立場でありながら名字を名乗ることを許されたとのこと。そしてこのフェネル商会は、オラーフ帝国にある5大商会の一角らしい。
そんなことをケジュマンさんが誇らしそうに話してくれた。これから昼食をご馳走になるのだが、その準備が整うまでということで客室に通された。紅茶のもてなしを受けた時に、屋敷の使用人と一緒にケジュマンさんも来た。おそらく、私のことを値踏みというか探りに来たと思われる。まあ、初めて会ったばかりの人を屋敷に招くなんて…と思うのも無理ない。そう思うと、特に自分の機嫌が悪くなることはなかった。
使用人が出ていった後、部屋にいるのは私とケジュマンさん。会話もなく、重たい沈黙の時間が流れる。それに耐え切れなくなった私は、フェネル家のことを聞いてみたのだった。ケジュマンさんからは一通りのことを聞き終えた後は、また沈黙の時間が流れていた。今度は別の質問をしようと思った矢先、客室の扉がノックされる。
「失礼致します。フィリズです。食事の用意が整いましたので、ご案内致します。」
ナイスタイミングでフィリズさんが来てくれた。良かった…。あのまま沈黙が続いていたら、今度はこちらが根掘り葉掘り聞かれる番だったかもしれない。私にはやましいことはないが、いろいろ質問されるとボロが出るかもしれないからな。
「ありがとうございます。宜しくお願い致します。」
とりあえず、ソファーから立ち上がり、フィリズさんの後に続いた。
案内された食堂は、カリフス伯爵の屋敷と同じように広い作りだった。テレジアさんとそのご両親と思われる男女が座っている。私の席は彼らに向かい合っている形だ。
「失礼致します。この度はご招待ありがとうございます。」
「まあ、固い挨拶はしなくていい。くつろいでくれ。」
「そうですよ、娘を助けて頂いたのですから。」
私のことを気遣うように、その男女、テレジアさんのご両親は言ってくれる。
「はい、ありがとうございます。」
いい人そうで良かったなと思いながら、案内された席に座る。
「今回は娘が世話になった。感謝する。私はフェネル家第15代当主のカラブゾン・フェネルだ。隣は妻のシルティ。詳細は娘から聞いた。君が来てくれなければ危ないところだった。まったく、娘のお転婆にも困ったものだ…。」
「お父様、ご客人の前でそんな話をなされなくても…。それに私はお転婆ではありませんわ。」
テレジアさんが顔を赤くし、恥ずかしそうにしながら言う。そして彼女は立ち上がり自己紹介をする。
「改めまして自己紹介させて頂きます。私はテレジア・フェネル、カラドキア高等学院の1年生です。この度は危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。」
カラドキア高等学院と言えば、シルケット家のエリスさんと同じだな。1年生ということは、同級生ということか。
さて、私も自己紹介しておこう。
「私はユウキと申します。このカラドキアには昨日着いたばかりです。旅をしておりましたが、今後はこのカラドキアを拠点にして、冒険者として活動していこうと思っています。」
「冒険者か…。この街には冒険者が多くいるし、ウルダー山や森もあるから活動には向いているな。今後はということは、まだギルドへの登録はまだなのか?」
「はい。本日冒険者ギルドには行きましたが、明日ランク試験を受けることになりまして…。登録は明日以降になるでしょう。」
「なるほど、ランク試験ということは何かしらの紹介や実績があったということかな…?」
「ええ。一応カリフス…」
「旦那様!大変です!我が商団が『ヴァン盗賊団』に襲われたと連絡がありました!」
ケジュマンさんが血相を変えて、食堂に入ってきた。
「なんだとっ!商団がっ!詳しく話せ!」
「はっ。おいっ、早く団員をこちらに。」
ケジュマンさんがそう言うと、ボロボロになった疲労困憊の男性が、使用人に抱えられながら入ってくる。至るところに傷があり、やっとの思いでこちらにという感じが滲み出ている
「お前はリフスではないか!何があったのだ!詳しく話せ!」
カラブゾンさんは、声も大きく、そのリフスという男性に話しかけるが、彼も限界なのかうまく話すことができない。呼吸も荒く、意識も何とか保っている状態だ。
「ケジュマン、まずは医者を呼べ。リフスを回復せねば話が見えん。それと誰か、警備兵も呼んできてくれ。」
カラブゾンさんはそう言うと、使用人の男性が走り去っていった。
また盗賊団か…。とりあえず緊急事態みたいだからな。それに警備兵が来たら協力を依頼させそうだし、どうせ協力するなら、今からしておくか。
「カラブゾンさん、回復なら私がやります。ヒーリングリカバリー」
リフスさんの傷が瞬く間に治っていき、意識もはっきりしたようだ。本当はヒーリングだけでも良かったが、念のため高位呪文にしておいた。
「おお!ユウキ殿は魔法使いだったか。」
「ええ、まあ。」
興奮するカラブゾンと、その興奮具合に若干引く私。とりあえず、状況確認だな。
「ええと、リフスさんでしたか?襲われた時の詳細を教えて下さい。」
今度は私が彼に質問する。
「おっそうだ!リフス詳しく話せ。」
「あっ旦那様。失礼しました。ギルークでの仕事を終え、こちらに戻る途中のことでした。途中の森でいきなり大声がしたかと思うと、『ヴァン盗賊団』がこちらを襲ってきたのです。こちらも警戒はしていましたが、あっという間の出来事で……」
リフスさんはそう言って、目に涙を浮かべている。
「それで、その後どうなったのだ?」
カラブゾンさんは、優しく声を掛けながらも、先を話すように促した。
「私は、兄さん…いえ、護衛のマクスさんから旦那様に至急知らせるようにと言われ、ここまで来た次第です。おそらく商団は盗賊団のアジトまで連れていかれたと思います。」
なるほど、おそらく商団は全滅覚悟でリフスさんに伝令を頼んだんだな…。状況と彼の話し方からすると、商団に被害が出ていると見た方がいいな。だけど…何だろう?ちょっと違和感というか疑問点もあるな…。ただ、私は部外者だからな…正直、この場にも居づらい…。
「そうか、とりあえず状況はわかった。さて2つ質問がある。1つ目は襲ってきた盗賊団がなぜ『ヴァン盗賊団』だとわかったのか。そして2つ目は、商団が殺されたのではなく、なぜ連れていかれたと思ったのか。どうだ?」
そう、それが疑問だった。「ヴァン盗賊団」には何か目印みたいなものがあったのだろうか。それとなぜ連れていかれたのだろう。品物だけを盗むなら、団員まで連れていく必要はないし、むしろ邪魔になるから殺すというのがセオリーだと思うけど。
「それは、盗賊団を率いていたのが、あのグリトフ・パーだったからです。それとグリトフ・パーが部下達に『こいつらは殺すなよ。盗賊団の奴隷として使ってやるからな。』と言っていたからです。」
「そうか…グリトフ・パーが率いていたのか…。よくわかった。ご苦労だったな。後のことはこちらに任せて、お前は少し休むといい。また呼ぶかもしれん。」
「はい…宜しくお願い致します。どうか…兄を、みんなを助けて下さいっ!」
リフスさんがそう言って、その場で土下座した。
「わかっている。お前も団員も、私にとって大事な家族だ。だからまずは休め。もしかすると、襲われた場所まで案内してもらうかもしれん。」
「はい、承知致しました。」
リフスさんは、使用人と一緒に部屋を出た。
「旦那様、いかがなさるおつもりで…?」
「正直、今すぐにでも護衛隊を引き連れて、盗賊団のアジトに行きたい。それで何とかして団員を連れ戻す。品物はまた買えばいいが、団員は金銭には代えられない。」
「そうですな。ただ護衛隊長のマクスは捕らわれていますし。他の護衛隊員も他の商団とともに出払っております。屋敷にいる護衛隊では、若干力不足かと…。それにこの屋敷から護衛隊を引き連れていくとなると、屋敷自体の護衛にも支障が…。」
「わかっている!だから警備兵に来てもらうように頼んでいる。それで、警備兵はまだか!」
「失礼致しました。警備兵はまもなく来るものと思われます。」
その時、部屋を扉が開いた。
「旦那様、警備兵のミグロス様がいらっしゃいました。」
「うむ、通せ。」
「失礼致します。商団が『ヴァン盗賊団』に襲われたということで、状況の確認に参りました。」
「うむ、急にすまん。まずは入ってくれ。詳細を話す。」
「はい。それでは…君はユウキ…殿。」
いま完全にタメ口でいこうとしたな(笑)。とりあえずいまはそれどころじゃない。
「どうも、ミグロスさん。先程はありがとうございました。」
「なんだ、ミグロス。彼を知っているのか?」
「はい、知っているもなにも、彼がカリフス伯爵様をヴァン盗賊団から救った張本人です。」
「なんとっ…。ということは、賞金首のラドン・パーを討ち取ったのはもしや…。」
「はい、彼です。」
ミグロスのその発言に、カラブゾンさんはじめ、その場にいたフェネル家の関係者に驚きの目を向けられた。
読んで下さり、ありがとうございます。
皆さま、風邪には気を付けて下さい。




