第11話 ベッドを見たらダイブしたくなる
カラドキアの入口を抜けると、そのまま大通りにつながる。この街で最も大きな通りであり、いわば幹線道路である。大通りの先には、カラドキアを治める領主が住むカラドキア城がある。そしてこの街は、オラーフ帝国の第3都市であると同時に、帝国東の防衛拠点でもある。
現在私たち一行は、この大通りを馬車で移動している。目指す先はカリフス伯爵の屋敷だ。この街は城を中心に「貴族街」と商業施設・一般人の住宅街である「一般街」に分かれ、円状に広がっている。当然、伯爵の屋敷も貴族街にあり、まもなく到着するようだ。
私にとっては、異世界初訪問の街になる。第3都市だけあって、その規模も大きいようだ。道路も石で舗装されており、地球で言う西洋式の建物が並んでいる。中世ヨーロッパという言葉で表現できる。なんかRPGゲームの世界に入り込んだみたいで、さっきから見るものすべてに感動している。まわりから見たら、初めて都会に来た田舎者と言われそうだな。
「そういえば、カリフス伯爵は私にとても丁寧な口調でお話しして下さいますね。さっきの警備兵…ミグロスさんでしたっけ?…彼とは結構違う感じで話をして下さいましたよね。?」
屋敷までの道中、そんなことをガルフに聞いてみる。
「まあそれは当然ですね。旦那様はカラドキアの運営貴族のひとりです。警備兵が在籍する警備局は、いわば部下にあたりますから。とはいっても担当部署は警備局ではありませんが…。また商人貴族でもあるので、自分に利益をもたらす者には敬意を忘れない方です。
今回の場合は、『命の恩人』という大恩があるので、そういう態度になるだと思います。しかも、ユウキ殿は自分がしたことを恩着せがましくすることもなく、謙虚に振る舞っていらっしゃいますから、そういう点も気に入られているのだと思います。」
「それは買い被り過ぎだと思いますけどね…」
冗談じゃなく、本当にそう思う。あの時は何の計算もなく、単純に「助けよう、助けるべきだ」という気持ちになっただけだ。それにあの状況下で、見て見ない振りをするのは、この上なく後味が悪い。私の性格上、たぶんそのことをずっと悔やんでしまうだろう。だから、結果的には助けたということになったが、結局は自分のためでもあったのだと思う。
「まもなく屋敷に到着します。」
ガルフがそう言ってきて、私たち一行は大通りを右折する。すでに貴族街には入っており、私は様々な屋敷がきれいに並んでいる風景を見て楽しんでいる。
「ガルフ隊長!ただいま戻りました!」
前方から一人の男性が走ってきて、そう言ってきた。この人は護衛のイワンという人だったな。背はあまり高くない、身体も細身だが、その分機敏に動けそうな印象を受ける。私よりも1つか2つ年上かな…?
一方、ガルフ対象の方は、背は私とあまり変わらないが、背負っている大剣が物語るように体格はいい。よほど鍛えているとみえる。年齢は私よりも一回りぐらい上のようだ。……そういえば、私は15歳なんだな。ガルフさん、イワンさんの呼び方を改めよう…。すみません…。
イワン…改めイワンさんはどうやら、伯爵達がまもなく到着することを、先行して屋敷へ伝えに行ったようだ。
「ガルフ隊長、何かありましたか?もう少し早く到着されるかと思ってましたが?」
「ああ、ミグロス隊長から、盗賊の件でいろいろ聞かれてな…。明日屋敷に来て、詳しい話をすることになった。」
「そうでしたか。確かに『ヴァン盗賊団』の賞金首を討ち取ったとあれば、ぜひ話は聞きたいのでしょうね。」
「何を暢気なことを言っているんだっ!ユウキ殿が来られなければ、今頃私たちは全滅していたかもしれないんだぞっ!もう少し護衛兵の自覚を持てっ!明日からまた鍛え直しだっ!」
「も、申し訳ありません!」
ガルフさんの叱咤に、イワンさんだけではなく、私もビビッてしまった…。
そうこうしている間に、右手側に大きな屋敷が見える。きれいな白色の壁に、緑色の屋根がある大きな屋敷だ。私たち一行は、屋敷の正面にある大きな門をくぐって、中に入った。The・屋敷という感じで、庭に噴水、その後ろに屋敷の玄関がある。カリフス伯爵は相当の資産家なんだな。一晩だけでも、こんな屋敷に住めるとはラッキーだな。
屋敷の玄関には、使用人と思われる男女がそれぞれ10人程度並んでいる。その中央には、その屋敷の家令らしき人が立っている。なぜ、家令とわかるかって?そりゃ、ドラマに見たまんまだし、逆に家令じゃなきゃ誰よ?って感じです。
「おかえりなさい、旦那様。無事のお戻り、使用人一同大変嬉しく思います。」
その言葉と同時に、家令と後ろに控えている男女が頭を下げる。
「「「旦那様、お嬢様、おかえりなさい!!!」」」
使用人の挨拶も見事にきまっている。私はその初めての光景に若干たじろんでしまう。
「うむ、クズライにも使用人にも心配をかけた。だがこの通り、娘2人、それにデニズとノーラ、ガルフ達もみんな無事に帰ってくることができた。それもこれも、ここにいるユウキ様のおかげだ。」
カリフス伯爵は私の方を見ながら、彼らにそう紹介した。
「あなたがユウキ様ですね。イワンから伺っております。まだお若いのに、賞金首を討ち取ったとか。この度は旦那様をお助け頂き、誠にありがとうございます。私はここで家令を務めております、クズライと申します。以後、お見知りおきのほどをお願い致します。」
「い、いえっ…私はユウキと申します。見ての通り、ただの旅人です。丁寧な挨拶を頂き恐縮です。本日はお世話になります。みなさん、無事で本当に良かったです。」
クズライさんの丁寧な挨拶に、しどろもどろで答える私。もっとフランクでいいです…。
「クズライ、私と娘達は部屋で少し休むことにする。ユウキ様のことをよろしく頼む。我が家にとって恩人だ。くれぐれも粗相のないように頼むぞ。それではユウキ様、お部屋にお休み下さい。また夕食の時に、ゆっくりお話ししましょう。」
カリフス伯爵はそう言って、後ろを振り向き、さらにこう続けた。
「みなの者もご苦労であった。今日はもう休んでもらって構わない。ガルフ、後で私の部屋に来てくれ。それからクズライも。」
「承知致しました。」
「承知致しました。馬車を片付け次第、お伺い致します。」
そこで、みんな解散となった。
私は、クズライさんに部屋へ案内された。中には大きなベッドと、高価そうな家具が置いてある。
「すぐにお茶をお持ちしますが、その前に体を拭かれますか?」
「いいえ、お気遣いありがとうございます。旅塵はこのように落とせますので、クリーニング。」
私がそう唱えると、体中を黄色の光が包み、そして消える。この魔法は簡単な特殊魔法で、体をきれいにし、清潔に保つ効果がある。
ちなみに、こちらに来る時も特殊魔法ストックを使用しているが、実は特殊魔法は誰もが自由に使用できるものではないらしく、一種の適性が必要だという。しかも適性があるといって、すべての人が自由に使えるというわけではなく、その仕組みはよくわかっていないらしい。だから特殊魔法を使用できる人は、結構重宝される傾向にあるようだ。もちろん、何ができるかによるが…。
「なるほど、賞金首を討ち取られたことといい、その特殊魔法といい、ユウキ様は優秀な方のようです。そのような方に旦那様が助られたことは、シルケット家にとって幸運だったようです。」
クズライは魔法を見て、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに家令の顔に戻っていた。この人の方こそ、相当優秀な人なんだろうな。もうプロオーラがすごい。
「いいえ。私としては当然のことをしただけだと思っていますので、気になさらないで下さい。反対にこのような屋敷に泊めて頂き、ありがとうございます。」
「やはり謙虚な方のようですね…。申し訳ございません、話が長くなりました。それではユウキ様、ごゆっくりお寛ぎ下さい。夕食時にお呼び致します。」
「はい、宜しくお願い致します。」
クズライが部屋を去った後、私はちゃんとベッドにダイブしたのであった。ちょっと寝よう…。
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