第10話 初めての街
「第10話」となりました!
まだまだ投稿話は少ないですが、次は100話目指してがんばります!
今後とも宜しくお願い致します。
「旦那様、出発前に後処理をしませんといけませんので、お嬢様と一緒に馬車でお待ち下さい。」
護衛隊長のガルフがカリフスに言う。
「そうだな。旅人のマナーは守らなくてはならないしな。できるだけ早く出発しよう。血の匂いに誘われて、動物や魔物が来てはかなわん。」
旅人のマナー?そういえば研修で習ったような…。上を見上げながら、思い出してみる。
「ユウキ殿にもできればお手伝いして頂けますか?といっても、そのラドンの首を取ってくれるだけで結構です。それ以外はこちらでやります。ラドンは賞金首なので、カラドキアの警備隊に出せば賞金がもらえるはずです。」
なるほど。あいつは確か賞金首だとか言ってたな。異世界だとしても生活する上でお金は重要なので助かる。人を殺して金銭を得るというのは、元いた世界と比較すれば、大きなカルチャーショックに変わりないが、こういうものかと思って納得するしかないな。
ガルフはそう言うと、部下達にラドン以外の首を取るように命じた。こちらも早く済ませてしまおう。早速、魔剣で首を取ろうとするが、また血を払うのも面倒なので、風魔法で済ませることにした。
「エアカッター」
小声で言いながら、風属性の攻撃魔法エアカッターでラドンの首を取った。
ちなみに、普通の人がこのエアカッターを使用しても、人間の首なんてきれいに取れない。エアカッター自体は、風属性攻撃魔法でも下級魔法に属するのだが、自身の魔力の質が高いためにより高い威力を発揮することができる。
取った首をそのまま持ち歩くわけにはいかないので、特殊魔法「ストック」を使用する。これは自分の魔力で作った亜空間に、任意の物品を収納・取出を行うものだ。この亜空間は使用者の魔力に依存するため、収納できる容量等にに違いが出る。もちろん私は最高級の亜空間を作ることができ、収納だけではなくその時間までも停止することができる。つまり、出来立ての料理を収納して1ヵ月後に取り出しても、その出来立てを味わうことができる。生きている者は収納できないという難点はあるが、それを差し引いても便利な魔法だということに変わりはない。旅をする上で、荷物が制限なしというのは、この上なく便利だ。
さて、話題が魔法に偏ったが、私がそんなことをしている間に、護衛達は黙々と作業を進めている。もうすぐで終了という感じかな。
「そういえば、賞金首でもない者の首を取るのは何故でしょうか?」
結局思い出せなかったので、ガルフに聞いてみる。
「ええっと…それは死体がアンデッド化するのを防ぐためです。魔力を持つ生物が死んだ場合、時折ではありますがアンデッド化することがあり、人や動物を襲うことがあります。
彼らアンデッドモンスターはすでに『死』に至っているため、『殺す』ということができません。したがって光魔法等で『浄化』や『消滅』というかたちで処理する必要がありますが、その時に都合良く魔法使いがいるとは限りませんので、被害が拡大する可能性があります。
また、アンデッドモンスターに襲われた生物は高確率でアンデッド化すると言われています。」
あー……、思い出した。そういえばオーレットがそんなことを言っていた。実施研修の時に実際にやりました…。
「旅人の暗黙のルールとして知られていますが、ご存じありませんでしたか?」
ガルフが、大丈夫ですかという心配する目で聞いてくる。
「すいません…まだ旅自体に慣れていないもので…。」
忘れてましたっ!なんて、恥ずかしくて言えません。とりあえず愛想笑いしながら答えておく。
「いえいえ、実際に明文化されているルールでもありませんし…。」
なんとなく気まずい空気が流れるが、護衛達の作業完了が告げられると、そんな空気は消えた。助かった…。
「さあ、カラドキアまではあと少しだ。最後まで気を引き締めていくぞ!」
ガルフが大きな声で部下に命令する。
「旦那様、それでは出発します。」
そして、旦那様に出発の報告をしている。
「うむ、みんな疲れているところ悪いが、最後までよろしく頼む。」
「あの…私はどのようにすればいいでしょうか…?」
護衛を依頼されたものの、どうすればいいのだろう?そもそも誰かの護衛自体が初めてなんだが…。
「ユウキ殿には、主に旦那様の馬車周辺にいてもらい、周辺の警戒をお願いします。何かあった場合は、緊急時を除いて、私に言ってくれればいいです。」
ラルフが簡単に説明してくれる。なるほど警戒担当ね。それなら得意の「気配察知」で十分対応できるな。報酬もあるというし、異世界での初仕事、がんばりますかっ!
そんな決意溢れる状態で出発はしたものの、それからは特にイベントもなく、約2時間で目的の街「カラドキア」に到着した。カラドキアはオラーフ帝国の第3都市だけあって、結構にぎやかな様子だ。まわりからの襲撃にも備えているのだろうか、10m程度の城壁に囲まれている。中国史に登場する「城郭都市」のような感じだな。
もう夕方近くとあって、街に戻る人々が多いようだ。街の出入口が混雑している。もしかして、「身分を証明するものを…」的なことがあるのだろうか。当たり前だが、「身分証明書」なんて持ってない。少し不安になるが…、私たち一行はその混雑している場所には行かず、少し離れた所にある出入口に向かう。後で知ったことだが、これは「貴族専門」の出入口で、街へ入る場合の身分確認はあくまで形式的らしい。助かった…。あのまま一人で向かわずに正解だった。
出入口には兵隊らしき人が複数いた。たぶん街の警備兵みたいなもんだろう。
「これはカリフス伯爵、無事のお戻り、嬉しく思います。此度の商談も問題なく取り纏められと伺っております。おめでとうございます。」
警備兵の一人がカリフス…カリフス伯爵に丁寧に挨拶する。
「おお、ミグロスか。ちょうど良いとこに。少しいいかな。」
カリフス伯爵はそう答えながら、クーペに似た馬車からドアを開けた。
「実はな、ここへ戻る途中に盗賊に襲われた。しかもその盗賊は、最近ウルダー山を中心に街々で暴れている『ヴァン盗賊団』でな。しかも、つい先日、賞金首として手配されたラドン・パーが率いていたのだ。」
「……なっ、なんと、それは本当ですかっ。……よくご無事で。ラドン・パーといえば、白金貨3枚の賞金首、しかも『ヴァン盗賊団』四天王の一人、グリトフ・パーの弟ではありませんかっ。被害はなかったのですかっ?」
「林道で奇襲を受けてな…護衛兵の何人かは瀕死の重傷を負い、危うく我等も命を落とすとこであった。……そこをある旅人に助けられてな。ちょうど馬車のそばに立っているあの青年だ。彼が危ういところを助けてくれ、あまつさえ、ラドン・パー率いる盗賊団を全滅させたのだ。そして魔法で怪我も治療してもらい、このように全員無事で戻ることができたのだ。そこで彼の技量を見込んで、このように護衛として一緒に来てもらったというわけだ。」
「……それは事実…ということですね。まさか伯爵がウソを言うはずもありませんし。これは失礼致しました。それでラドン・パーを討ち取ったということですが…、彼と話をしてもよろしいでしょうか。可能であれば詳細を聞きたいと思うのですが…。」
ミグロスが申し訳なさそうに言う。
「まあ、それは警備兵隊長としては当然の話だな。ライトニックも知りたいだろうしな。」
「はい…。警備兵はもちろんのこと、警備局としても『ヴァン盗賊団』は喫緊の問題ですので…。ひとつでも多くの情報がほしいところではあります。ライトニック局長も話を聞きたいと思います。」
「わかった。私もカラドキアを司る貴族の一人だ。当然協力しよう。だが、もし可能であれば、もう少し後でもいいかな?彼自身、ここに来るのは初めてのようでな。命を救ってくれた恩人でもあるし、護衛の報酬も含めて、少し話をしたいと思うのだが…。」
「はい、承知致しました。それでは明朝にでも屋敷までお伺い致します。」
ミグロスは、カリフス伯爵の頼みを承諾し敬礼した。話は以上です、ということなんだろう。明日は事情聴取で予定決定だな。
「警備兵諸君、任務ご苦労。それでは我等も屋敷に戻ろう。ユウキ様、話は聞こえていたと思いますが、今晩は我が屋敷にてお泊まり下さい。もしすでに宿泊先が決めっていれば、無理強いはしませんが。今日の御礼もさせて頂きたいと思いますので、ご迷惑でなければ。」
カリフス伯爵が畏まって言う。向こうは貴族なのに、私みたいな平民?一般人にそのような丁寧な態度で接してくる。いくら命の恩人とはいっても、丁寧すぎると思った。おそらく私が想像している威張り散らしているイメージの「貴族」とは違うんだろうな。
「いえ、こちらこそ、気を遣って頂き感謝致します。しかし、私は単なる旅人です。伯爵様とはつい知らず、御無礼をして申し訳ありませんでした。」
「何を言いますか。こちらこそ、命の恩人をこのまま帰しては、シルケット家の恥になります。どうか、今晩は我が屋敷に御滞在下さい。」
「わかりました。本日はお世話になります。」
お互いの畏まった会話を終えて、私たち一行は、シルケット家の屋敷に向かった。
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