3日目その2
「じゃあローズ気を付けて。」
眼の前に青と白の水玉模様が広がっている。
「わかった。ナモミ達もウチが攻撃仕掛けるまでは見つからんようにな。」
「了解。」
赤髪の活発そうな少女がこそこそと草むらを歩いて一人遠ざかっていく。
ああ、あの子は勇者パーティのローズなのか。
視界が狭かったので、一歩後ずさって全体を見渡すと、俺は青と白の水玉模様が何なのかに気づいた。
パンツだ。マジか。
左右で髪を結った黄色い髪の毛の小柄な少女が草むらからお尻だけをこちらに向けて、
反対側をのぞき見しているようだ。
その横にもお尻が2つ、合計3つのお尻が俺の目の前に並んでいる。
この3つのお尻はローズ以外の勇者達か。
一体熱心に何を覗いているのだろう。
思うように動かない体を気合で動かして、俺自身も草むらから顔を出して覗いてみる。
眼の前では大きな黒色の爬虫類が体を丸くして眠っている。
ここがアオサでこの状況・・・ああ、嫌な予感しかしない。
俺の記憶が間違っていなければたぶんここはカチオン峠。
昔話では、ここでドラゴンと勇者パーティが戦闘を行うんだ、そして魔女の家に。
「月旋脚!」
先ほど遠ざかって行ったローズがドラゴンに蹴りを放っている。
それを見て3人が飛び出し、ドラゴンに向かって魔法を唱えている。
「フレイムステイ!サンダーストライクステイ!フレイムサンダーストライク!」
おいおい、マジかよ。戦闘用の魔法なんて、テレビドラマでしか見たことねえよ。
爆風によってよろける。いうことを聞かない体を何とか起こし、物陰に隠れた。
その間も勇者達はドラゴンと戦闘を続けている。
「焔の女神フレイアよ。我が身を依り代とし、その熱き心で悪しき魂を焼き尽くせ!セイントフレイムソード!」
勇者スミレであろう。炎の剣がドラゴンに突き刺さっている。
すごい。やっぱり勇者パーティ、世界を救うだけのことはある。
だがちょっと待てよ、昔話では確かドラゴンの討伐に失敗したような。
でないと後々の大戦でドラゴンに救ってもらうっていう流れが・・・。
「やるしか、・・・やるしかないんだあああああ!スラッシュサンダーストリーム!!」
苦しみながらドラゴンが暴れまわっている。
直後、ドラゴンが尻尾を地面に叩きつけたことによって瓦礫が発生し、勇者達が巻き込まれる。
おいおい、まずい。助けないと。
考えるよりも先に体が動いていた。
震えながらもドラゴンの前に立った。
こんな年端もいかない女の子達見捨てて逃げるわけにはいかない。
ドラゴンが尻尾を振り下ろしてくる。
死ぬ。
今まで22年間生きて死を覚悟したことなんて、
魔導車に轢かれそうになった時と、小学校の頃大好きだったメグミちゃんに振られた時ぐらいだった。
が、これはそれを5馬身ぐらいは抜けてトップだ。
競馬で単勝買いなら安心してみていられるくらいに。
「ぐうううう。」
衝撃がすごい。本当に死んでしまう。
なんだこれは。目の前にバリアの様なものが現れる。
俺が出しているのか?よくわからない。
ゴオオオオオオオ。
ドラゴンが火を吐いてくる。
「うああああああああああああああああああああああああああ。」
熱い。痛い。本当に勘弁してくれ。
俺が何したっていうんだよ。
ドラゴンなんて遊園地のアトラクションでしか見たことねーよ。
炎だって、近所で火事があった時ですらここまで燃えてなかったって。
再びドラゴンが尻尾を振り下ろしてくる。
「うわあああああああああああああああああああああああああ。」
「おい、大丈夫かよダイスケ。」
俺はホテルのベッドの上で寝ていた。
隣では俺の叫び声で起きたのであろう、リクが心配そうにこちらを見ていた。
「・・・ごめん、・・・起こしたな。悪かった。」
「そりゃ起きるよ、あんだけ苦しそうに叫んでたら。」
「リクここってどこだ?」
「どこってお前、寝ぼけてんのか。アオサのホテルだろう。
明日、っつってももう日は跨いでるから今日になるのか?からはスカイガーデンに行く予定だろ。」
「・・・そうだな。ありがとう。」
「なんか心配事あるんだったら言えよな。俺、馬鹿だけど話聞くぐらいはできるからさ。」
「ああ。リク、お前いい奴だな。」
「だろ?まあ明日も早いし寝ようぜ。」
「ああ、悪かったな起こして。おやすみ。」
どうやら巻き戻りは起こっていないらしい。
汗でびしょびしょになった握りこぶしをゆっくりとひらき、手のひらをじっと見つめた。
落ち着いてきた。俺は生きてる、よかった。
よかった、本当に、夢で。